この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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16.敵陣視察です。

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 別に透明人間になれるわけではない。

 気配が消えるだけで、普通に見える。
 喋れば、声も勿論聞こえる。
 遠くから、息を凝らして、その辺りを監視している‥に過ぎない。
 それだって、普通にしていたら「敵が来る可能性がある」って用心している連中に「気配」がバレる。
 コリンの魔法‥気配操作はそこら辺をサポートしているに過ぎない。

 羽音がしない蚊を想像してもらいたい。羽音がするから蚊がいるんだなって分かりやすいけど、羽音がしなかったら、分かりにくいよね。でも、‥いるのはいるわけで‥いないわけじゃないよね。
 それだ。
 姿が見えなくなるわけじゃないんだ。
 音もなく近寄れたとして、いざ蚊が目的を果たそう‥血を吸おうとしたら‥やっぱり打たれるよね。
 蚊かどうか‥敵かどうか分かんなくても‥打つよね。

 見つかった時は、全面戦争覚悟で。

 ってこと。
「その時はその時です。どうせ負けませんよ。僕があのポンコツ魔術士さえ押さえれば、後はシークさんが何とかしてくれますよね! 」
 ポンコツって‥。
 俺のこと立ててくれてるけど‥どうせ、コリン一人で「後」も何とかできるんでしょうね。
 なんて、ちょっと腐りそうになる。
 コリンは、攻撃魔法も一流だから。
 だけど、勿論そんなこと、言わない。
 そんなこと言うの、鬱陶しいしね。
 で、シークは無言で頷く。
 コリンはシークが頷いたのを確認すると、
「だから、まあ気付かれない間に、出来るだけの事が調べたいんです。敵の人数ですとか、できれば何を隠しているのか、だとか、目的だとか‥は調べようがないですかね‥話が聞こえる距離まで近寄ったら、気付かれますからね」
 話を続けた。
 そりゃ、まあね。
 シークがやっぱり無言で頷く。
「ああ、あの木だな。あの木のうろを空間魔法で広げてるってわけか‥ますますあの魔術士たちじゃ出来なさそうだな‥。誰か別の人物がつくったんだろうけど‥その人物がそこにいるか、‥この魔法をつくる依頼をされただけで、そこにはいないか、が問題だな。‥いない方が、勿論いいんだけど」
 こそ、とコリンが声のボリュームを落とす。
 ここから話しても聞こえないだろう。
 ‥緊張感から、自然と声が小さくなったのだ。
 ごくん。
 シークも唾を飲む。
「‥コリンでも「イヤな敵」なのか? 」
「イヤですね。魔法って性格が表れるんです。やっぱり性格の悪い奴の魔法は性格が悪そうな魔法って感じになりますよ。この魔法は‥結界と、空間魔法だけだのに‥かなり性格が悪そうです。
 それどころか、この魔法がつくった空間にいたら、性格が悪くなりそうな気すらしますね」
 はあ、‥とコリンが小声で呟き、
 嫌そうな顔をする。
 そんな横顔を眺めながら、
「‥もしかして、その魔法使いが黒幕で、そいつがつくった空間にいる奴らが性格が悪くなって‥洗脳されて、この騒動を巻き起こしてるとか? 」
 シークは頭に思いついた「可能性」というものをコリンに聞いてみた。
 前を向いたまま、コリンが首を振る。
 そして木から目を離さない様に‥木を見つめながら、コリンが木に向かってゆっくりと移動し始める。
「そこまでの影響力は無いと思いますよ。ちょっと、悪いことがし易くなる‥しても悪いと思わない‥程度です
よ。
例えばですね。シークさんなら、ニコニコしてて、いい人の前で、ごみとか道にポイ捨てとかしにくいでしょ? でも、それって「ポイ捨てはダメだ」って意識が元からある人ですよ。いい人の前だから捨てにくいどころか、ポイ捨てなんかしませんよね。それを、「ポイ捨てしてもイイ」って道徳感情を捻じ曲げるのって、それこそ洗脳レベルの大仕事ですよね。
だけどね。
元から「ポイ捨てするのを別に悪いことだと思ってない」人だと? いい人の前ではちょっとは捨てにくいかもしれないけど、元からゴミが落ちまくってて、周りにいるのは自分と同じ感じが悪い奴らばかり「そんなゴミ、そこら辺に捨てとけよ」って言われたら‥」
 歩きながら、コリンが「性格の悪い魔法の作った性格の悪くなりそうな空間」について説明をしてくれた。
「捨てやすい? 」
 シークは首を傾げて、答える。その間も、コリンの後を注意深く追う。
 音を立てない様に、
 なるだけ小声で‥。
「だと思いますよ? つまり、その程度の「悪い感じ」なんです。犯罪者を助長する様な悪い雰囲気を出してる空間。きっと、性格が正常な人が入ったら、「なんかここ、感じ悪いわ~」って感じがすると思います」
「見ただけでそれは分かるものなのか? 」
「直感ですよ。僕はオーラが見えるタイプじゃないんですけど、勘がすごくいいんです。直感で「ここはヤバいな」とか大体わかりますよ」
 ‥さすが‥「誓約士」。
 そういえば、誓約士は「一瞬のスペシャリスト」って呼ばれてるんだったな。
 一瞬で、対象者の動きを止めるから、「一瞬のスペシャリスト」
 居合の達人みたい‥。
「犯罪を楽しんでいるタイプ‥そういうタイプがこういう雰囲気の魔法を使いますね。魔術の網を張ったり、‥ああ、そこら辺触らないでください。あります」
「魔術の網? 」
 聞きなれない単語にシークが聞き返すと、コリンが頷く。
「範囲内に入った敵を自動的に駆除するんです」
 ‥あ、その魔法‥つい最近聞いた覚えがある‥。
 しかも、「この場所」にかけてるんじゃなくって、動く個人にかけてる人、俺‥知ってる。
 ってか、横で「性格悪い魔法だよな」って(自分のこと棚に上げて)言ってる。

 ‥マジか‥。
 可愛い顔してるけど、‥もしかしておつりがくる程性格悪い‥とか?

「どうしたんですか? 」
 コリンが首を傾げる。
 うん、いつも通り可愛い。純粋無垢の‥天使かって程、可愛い。
 悪いこととか全然しなさそう‥って程可愛いんだけど、疑った目で見たら、あざといように見える気もする。
「いいえ‥」
 ‥ヤバいのに目をつけられたのかもしれない‥。
 コリンが今度は無言で傾げた首を元に戻す。
 くりくりの目が、キラキラしてる。
 不思議そうな顔してるだけだのに、もう信じられない位可愛い。
 だけど、これは、羊の皮をかぶった、狼じゃないな‥ええと、あざとい何か、かもしれない。
 牙をむく前の‥クリオネかもしれない‥。
 可愛い顔は、相手を欺くための武器なのかもしれない‥。
「??? 変なシークさん。行きますよ? 」
 黙り込むシークを訝しそうな顔で一瞥して、コリンが再び歩き始める。
「はい‥」
 シークもしぶしぶそれに従う‥。

 と、その目の前を歩いていたコリンが、突如目の前から消えた。

「え!? 」
 慌てて辺りを見回すシークに
「シークさん動かないで!! 」
 下の方から‥コリンの声がする。
 うわわ!
「そこに落とし穴があります! 」
 ‥え、それは分かった。よ? 結構、普通にあったよね??
 まさか、気付いてなかったんですか??
 えええ~!? あんなに気配を読むのも、魔力を察知するのも上手い人が、‥典型的な落とし穴にはまるとかって‥!? 

 ‥「他」に気を配っていたから‥か?

 ‥コリンは言うならば、本を読みながら道を歩いていた状態だったんだ。
 だから、道にある水たまり程、「ちょっと気を付けてれば分かる」様なものを見落とした‥。

 俺のせいだ‥
 本来なら、俺がそこまで考えて、当たり前に気をつけてサポートするべきだったんだ‥!

「ぐ‥っ」
 深めの穴の底から、何かを殴る様な鈍い音と、コリンの短いうめき声が聞こえ、
 辺りは静まりかえった‥元の状態に戻ったのだった。

「‥! コリン!? 」
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