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第38話 幼き記憶
しおりを挟む「髪の色が、紫色の……幼なじみ」
背中に聞こえた、ガルロの話。
私は足を止め、振り向き……その単語を復唱するように、口にしていた。
ガルロが語ったのは、彼の過去。
「あぁ。要は、"忌み人"ってやつだな。そいつは、村でまあ……いじめられてたんだな。小さな村だ、村人全員が敵みたいなもんだった」
「……」
私と同じ、紫色の髪の、女の子。小さな村に暮らしていた。だけど、私とは違う点がある。
私の場合は、村のみんなはいい人だった。私がこんな髪の色でも、差別すること無く、笑顔で接してくれた。
だけど、ガルロの幼なじみは……そうではなかった。
小さな村ゆえに、村人全員からの差別の目にさらされてしまった。
それは……考えただけで、恐ろしいことだ。
「けど、俺はまだガキだったから……村の連中が、あいつを避ける……いや、悪意を向ける理由がわかってなかった。
あいつも、俺の前じゃ気丈に振る舞ってたしな」
「……」
知らなかった、という点があったとしても、自分に別け隔てなく接してくれる人の存在は、どれだけありがたいだろう。
私にとっての、シーミャンみたいなものだ。
その子も、ガルロの存在が救いになっていたはず。
……そう、なんの心配なく信じられれば、よかったんだけど。
「とはいえ、まだ十にも満たないガキが、村人からの悪意に耐えられるはずもねぇ。直接的な被害はなかったろうが、助けてくれる人間がいねぇんだ。
俺ぁ、なんにも気づいてなかった、馬鹿だしな」
ガルロが、自嘲気味に笑う。
「そんで、ある日……あいつは、逝っちまった」
「え……」
「誰も使ってない小屋で、一人……首を吊ってな。自殺か……今となっちゃ、殺されたのかもわからねぇ」
悪意に耐えかねて、自ら命を絶った……もしくは、自殺に見せかけて、殺された?
どっちにしても……原因が、"忌み人"だと中傷されたことにあるのなら。殺したのは村の人間も同じことだ。
それを目にしてしまったときのガルロの気持ちは……とても、計り知れるものではない。
「だが、当時の俺は……髪の色がどうだの、それであいつが悩んでいたことだの、これっぽっちも知らなかった。知らずに、ただ悲しんで……あいつを殺した村の連中と、のうのう暮らしてた」
「……」
「それから、しばらくして……ある国に、移り住むことになった。そこでようやく"忌み人"の存在と、それに対する扱いを知った。
……心底、ムカついたのを覚えてる」
ガルロの表情は、変わらない。
それでも、なにかを耐えているだろうというのは……わかった。
「その頃俺の家は、貴族に成り上がってな。どんな手を使ったか知らねぇが……ま、金でも収めたんだろうよ」
話の流れから、ちょっとおかしいなと呼ばれていたけど……ガルロは元々、平民だったのか。
それが、貴族に成り上がるまでに至った。
平民から貴族に成り上がる方法は、いくつかある。王族に大金を納める、なにかしらの武勲を上げる、貴族相手に嫁入りもしくは婿入りする。
ガルロの家の場合は、お金だったってわけだ。
ただ……平民からの成り上がりという経緯から、純粋な貴族から嫌われているというのが、成り上がり貴族だ。
平民からしたら、平民でも貴族になれる可能性があるというのは、素敵なことだと思うけど。
そのガルロの家は今では、没落貴族と呼ばれているらしい。それは、どうしてだろう。
「貴族生活も、悪くはなかった。金にものを言わせて、贅沢三昧。逆らうやつぁ誰もいやしねぇ。
結局金さえちらつかせときゃ、大抵の奴ぁおとなしくなる」
……嫌な貴族だな。
だけど、ガルロの表情は次第に、暗くなっていった。
不敵な笑みなのは変わらないのに、表情が変わったと、わかった。
「それから、何年後か……ある日のことだ。
親父が、人に暴力を振るっているのを見た。紫色の髪の女にな」
「……!」
「この国じゃどうか知らねえが、その国じゃ"忌み人"は人として扱われることはない。金をむしろうが殴ろうが……殺そうが、罪には問われねぇ。
クソ親父と、それからそのお仲間の貴族が、よってたかって女をなぶりものにしてた。
それを見た瞬間……俺の中で、なにかが切れた」
彼の口調は、終始穏やかで……だけど、感情を抑え込んでいる。
そういうのが、私にもわかった。
「気付きゃ、クソ親父や仲間の貴族を俺は、殴り倒してた。顔が腫れ上がるくらいにな。
女は、どっかに逃げて……俺が殴り倒した貴族は、その国でも結構な上流貴族でな。その後の流れは、まあわかんだろ」
……上流貴族を、殴り倒す。それも、成り上がりの貴族がだ。
そんなことをすれば、どうなるか……私にだって、わかる。
その一件が原因で、貴族としての地位を取り上げられたってわけだ。
「没落貴族は、立場としては平民と同じだ。
だが、こいつは没落貴族だってわかりやすくするために、家名はいただいたままってわけだ」
「……」
「おかげで俺は勘当……されてたんだが、あのクソども。俺が神紋の勇者に選ばれたと知った瞬間、手のひらを返して、家の名前を背負って戦ってこいだのと抜かしやがった」
ガルロの話を聞いていると、まるで他人事のようには思えなかった。
彼は、"忌み人"をかばう形で他の上流貴族に暴力をふるい……そのせいで、家の立場は悪くなった。
その上、身内からも勘当された。
にも関わらず、世界の危機を救えばまた貴族の地位に返り咲けると思ったのか。彼の親は、息子を戦場に行かせた。
神紋が出た以上、拒否権がないとはいえ……それは、あまりにも勝手な言い分だった。
"忌み人"をかばい、彼自身もいろいろ言われたはずだ。
でも、私はそんな彼に……ガルロに、人として好感を、抱いていた。
見た目も、言葉遣いも乱暴だけど……この人は、とても優しいんだ。
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