猫好きの俺が、クラス一の美少女と猫友になった話

白い彗星

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第13話 私が保護したんです

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 ――――――


「あ、立宮くんに猪崎いのさきくん」

「え、猫屋敷さん?」

 昼休み……今日もいつもと同じく、新太と中庭で昼食を取っていた奏。
 そこへ現れたのは、猫屋敷 星音ねこやしき しおんだ。

 それは昨日と同じ構図……しかし昨日と違うのは、新太もこの場にいるということ。
 そして……

「あ……お、俺ちょっと用事思い出したわ。じゃ」

 星音の登場に、昼食を終えていた新太はベンチから立ち上がる。
 そしてそそくさと、去っていった。

 あからさまに嘘だが……なぜ、こんなことをしたのか。思い当たるのは、今朝のことだ。

「猪崎くん、私を避けてませんか?」

「あはは……」

 新太の発言で、星音と月音を怒らせてしまった。
 だから、二人と顔を合わせるのが気まずいのだろう。

 本来なら、美少女と同じ空間だと喜びそうな新太が逃げ出してしまうほど、二人の圧はすごかった。

「まあ、今朝の猫屋敷さん、迫力あったから」

「そうでしょうか? もう怒ってないのに」

 軽くため息を漏らしつつ、星音は当たり前のようにベンチに……新太が去ったことで空いた、奏の隣へと座る。
 隣に座られドキリとするが、それよりも気になるものがあった。

「もう、ってことはやっぱり怒ってたんだ。
 ……それより、その子……」

 奏は、星音の胸元に抱かれた子に、注意を向ける。
 すると星音は、待ってましたと言わんばかりに、腕の中に抱きかかえていたその子を見せつけた。

「はい、先ほど発見しました! 見てくださいこの愛くるしい姿を!」

 星音が抱いているのは、猫だった。
 白く、小さい猫……黒模様の斑点がある、子猫だ。

 その目を輝かせ、子猫を見せつける星音は実にかわいらしい。
 しかし、だ。

「だめでしょう、学校に猫を連れてきちゃあ」

 奏は冷静に、対応した。
 それを聞いて、星音はぷくっと頬をふくらませる。

「失礼ですよ、立宮くん。この子は先ほど校内で見つけたのを、私が保護したんです」

「え、そうなの?」

 不服を申し立てる星音。
 彼女の話によれば、昼食のお弁当を食べ終えた星音は校内を散歩していた。その際、窓の向こう側でこの子猫が歩いているのを、発見したのだ。

 星音は即座に回収に向かい、無事保護……現在ここに至ると言うわけだ。

「そっか、ごめん。俺早とちりしちゃって」

「いくら私でも、飼い猫を学校に連れてくるようなことはしません。
 それに、私が飼っているのはシロ一匹です」

 子猫の頭を撫でながら、星音は微笑む。
 なにも言われなければ、もう二、三匹くらい飼っていそうに見える。

 よくよく子猫を見れば、首輪もしていない。

「野良猫か」

「そのようです」

 最近は、野良猫もあまり見かけない。
 それが、学校にまで入り込んできたとは、珍しい。

「まさか、その子……」

「さすがに、連れ帰りませんよ。先生に渡して、以降の判断は任せます」

 子猫への愛でようから、家に連れ帰るなんて言い出しかねないと思っていたが、星音にも考えはあったようだ。
 確かに、先生に渡すのが合理的だろう。

 飼い主を探すなり、野良として野生に帰すなり……
 そこは、奏の口を出すところではない。

(それにしても、猫屋敷さん……アパートで一人暮らし、って言ってたような)

 以前の会話で、星音はアパートに一人暮らしだと言っていた。
 ということは、シロを一匹家に残してきていることになる。星音の猫好き具合を見るに、今でも心配ではなかろうか。
 シロのお世話をしてくれる人がいるなら、話は別だが。

 そもそも、なんで一人暮らし……いや、高校生でも一人暮らしは、ありえなくはない。
 人には人の事情があるし、下手に踏み込まないほうが良い。

「あ、そうだ」

 猫の話になったことで、奏は思い出した。
 ポケットから、スマホを取り出し……ケースに挟んであった、紙を取り出す。

「これ、猫屋敷さんに」

「? 私に?」

 長方形の紙を、クリアファイルに挟んで傷がつかないようにしている。
 まさか自分になにかを渡されると思わなかったのか、星音は驚きながらも、それを受け取る。

 それは、なにかのチケットだった。

「猫カフェの……む、無料チケット!?」

「あぁ」

「な、なな、こ、こんな高価なものを、どうして私に!?」

 それが猫カフェの無料チケットだと認識した星音は、わかりやすく慌てる。
 猫カフェの無料チケットを高価、と表現するあたり、かなり困惑しているのがわかる。

「高価って大げさな」

「いえ、猫好きにとってこれほど高価なものはありません!」

「はは、確かに。
 ほら、猫屋敷さん俺に、シロの写真送ってくれてるだろ? そのお返しを考えとくって話したの、覚えてる?」

「え、えぇ……って、まさかお返しって……」

 奏と星音は"にゃいん"で連絡を取り合い、星音からのシロ写真集を奏が受け取る形になっている。
 すでにシロ専用のアルバムを作り、送られてくる写真をかたっぱしから保存している。

 しかし、もらってばかりでは悪い。なにかお返しができないかと考えた結果……

「こないだ、通ってる猫カフェのスタンプが溜まった引き換えにもらったんだ。
 ま、正確には友達が貰ったものを俺が貰ったんだけど」

「そうだったんですか……でも……」

「タダでもらったようなものだし、それなら気兼ねしないでいいでしょ」

 なにかお返しをするのにも、送られてきたのは写真だ。それに対してお金をかけてお返ししては、逆に気を遣わせる。
 その点、無料チケットならば問題はない。

 猫カフェ通いの来店スタンプが溜まったからもらったものなら、実質タダだ。のはずだ。

「……あれ?」

 もらって嬉しいには嬉しいが、見返りがあまりにも大きすぎる。それに、チケットをくれたという友達にも悪くないだろうか。
 頭を悩ませていた星音は、ふとなにかに気づく。チケットを、クリアファイルから取り出した。

 無料チケットは、二枚が重なっていた。

「え、これってもしかして……」

「うん、二枚もらったんだ。だから……」

 その瞬間、星音は察した。
 お返しだと言って、二枚の無料チケットを渡してきた奏の、その意図を。

 そして奏もまた、二枚のチケットを見つめて……

「猫屋敷さん、そのチケットで……」

「はい……」


 ドキドキ……


「友達と、猫カフェ行ってきなよ」

「……」

 スン、と星音の身にまとう空気が、冷たくなる。
 奏はおそらく、善意から言っている。だからこそ、なんとも言えない気持ちになる。

 奏は、二枚あるチケットをどちらも星音に渡し、彼女が友達とでも過ごせればいいと思っているのだ。

「……はぁ」

 星音は、軽くため息を漏らした。
 その心遣いはありがたい部分もあるが、今の胸の高鳴りを返して欲しい。

 星音のため息の理由が、奏には理解できなかった。

「あの、もしかして嫌だった?」

「いいえ、とても嬉しいです。けれど……」

「けれど?」

「……立宮くん、私を誘ってはくれないのですか?」

「……え?」

 少し頬を染め、頬を膨らませた星音の言葉を理解するのに、奏はしばらく固まっていた。
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