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第二章
16 赤い糸くずのような精霊の正体
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鉄道橋の上を、一列になって歩く。
先頭をサリアが、そのあとに俺が続く。
ときどき吹く突風が体重の軽いサリアをぐらつかせるので、後ろから見ていてひやひやする。
「乗客の人たち、置いてきたけど大丈夫かな」
「大丈夫だよ。きっとみんなも歩けばいいんだってことに気がついて歩き出すよ。橋の上だからって、特に何が変わるわけでもないし」
「いや、この高さを怖がる人は多いだろ」
落ちたら死ぬ。
きっと死ぬ。
遥か下方できらきらと光る水面を見下ろし、俺はごくりと唾を呑んだ。
「でもクルスは平気じゃない」
『こいつは小さいころから塔をうろうろしてたからな。高い場所には慣れてるんだ』
「え? ツァルってクルスの小さいころを知ってるの?」
『ああ、まあな』
「三年前に知り合ったんじゃなくて?」
サリアが俺を振り向き、俺に詰め寄る。
「いや、俺もよくわからないんだけどさ」
「けど?」
何をどう話せばいいんだ?
『全て話したのですか?』
後ろで声がする。
アスィは人間の姿に変化し、俺の後ろを歩いている。
『いや、全く。止むを得ず、知られたって言うのが正しい』
「どういうこと? アスィまで何か知ってるの?」
『ええ、まあ。しかしツァルに口止めされていますから』
『その言い方は卑怯だろうが』
『事実ですよ。でも、状況が少し変わったようですね。もう話してもよいのですか?』
『ああいいぜ。もう、おまえが知ってることは全部話してくれ。リファルディア王家が関わ
ってきて、クルスを追うヤツまで現れて、もう隠してる意味なんてなさそうだからな』
ツァルが投げやりに答える。
『クルストラ様も王家の血を引いているのですよ』
「え? どういうこと? まさか……まさか、わたしと家族だとか?」
サリアが驚きに目を丸くした。
その思い付きに、思わず苦笑する。
「そうじゃない。俺はどうやらヴァヴァロナの元、王子らしい」
「王子? クルスが?」
「って言われた。本当なのかはわからないけどな。でもそれなら精霊が見えるのは納得できる」
『本当だって言ってるだろ。ちなみに、精霊を感じることに関しては、おまえがヴァヴァロナ王族の中で一番だった』
『わたしがリフシャティーヌ付きであるように、ツァルはヴァルヴェリアス付きの精霊です。ヴァルヴェリアスのいない今、ツァルが王家の血をひく者の傍にいることは至極当然のことなのです。わたしは昔、ヴァヴァロナの第三王子とお会いしたことがありますよ。黒髪に深い藍色の瞳。幼いころの面影が残っていらっしゃいますね、クルストラ王子』
アスィが線路に片膝をつき、俺と目線を合わせて言った。
「俺は……」
そんな風に言われても、何も覚えていない。
ツァルが守護者ヴァルヴェリアス付きの精霊だなんて、何かの冗談じゃないのか?
この世界の頂点に立つ精霊はもちろん創造主シュテフォーラ。
続いて守護者のヴァルヴェリアスとリフシャティーヌ。
その次に偉大な精霊は誰かと問われたら、おそらく守護者付きの精霊の名前が上がるだろう。
つまり、アスィとツァル、このふたりの名前が。
この、赤い糸くずのような姿をしたツァルが。
「クルスが、王子……」
サリアが俺の顔を見上げる。
すぐ近くで、視線がぶつかる。
サリアの澄んだ深緑色の瞳に吸い込まれてしまいそうだ。
俺はなんと言えばいいのかわからず、口を開けたまま思いあぐねていた。
先頭をサリアが、そのあとに俺が続く。
ときどき吹く突風が体重の軽いサリアをぐらつかせるので、後ろから見ていてひやひやする。
「乗客の人たち、置いてきたけど大丈夫かな」
「大丈夫だよ。きっとみんなも歩けばいいんだってことに気がついて歩き出すよ。橋の上だからって、特に何が変わるわけでもないし」
「いや、この高さを怖がる人は多いだろ」
落ちたら死ぬ。
きっと死ぬ。
遥か下方できらきらと光る水面を見下ろし、俺はごくりと唾を呑んだ。
「でもクルスは平気じゃない」
『こいつは小さいころから塔をうろうろしてたからな。高い場所には慣れてるんだ』
「え? ツァルってクルスの小さいころを知ってるの?」
『ああ、まあな』
「三年前に知り合ったんじゃなくて?」
サリアが俺を振り向き、俺に詰め寄る。
「いや、俺もよくわからないんだけどさ」
「けど?」
何をどう話せばいいんだ?
『全て話したのですか?』
後ろで声がする。
アスィは人間の姿に変化し、俺の後ろを歩いている。
『いや、全く。止むを得ず、知られたって言うのが正しい』
「どういうこと? アスィまで何か知ってるの?」
『ええ、まあ。しかしツァルに口止めされていますから』
『その言い方は卑怯だろうが』
『事実ですよ。でも、状況が少し変わったようですね。もう話してもよいのですか?』
『ああいいぜ。もう、おまえが知ってることは全部話してくれ。リファルディア王家が関わ
ってきて、クルスを追うヤツまで現れて、もう隠してる意味なんてなさそうだからな』
ツァルが投げやりに答える。
『クルストラ様も王家の血を引いているのですよ』
「え? どういうこと? まさか……まさか、わたしと家族だとか?」
サリアが驚きに目を丸くした。
その思い付きに、思わず苦笑する。
「そうじゃない。俺はどうやらヴァヴァロナの元、王子らしい」
「王子? クルスが?」
「って言われた。本当なのかはわからないけどな。でもそれなら精霊が見えるのは納得できる」
『本当だって言ってるだろ。ちなみに、精霊を感じることに関しては、おまえがヴァヴァロナ王族の中で一番だった』
『わたしがリフシャティーヌ付きであるように、ツァルはヴァルヴェリアス付きの精霊です。ヴァルヴェリアスのいない今、ツァルが王家の血をひく者の傍にいることは至極当然のことなのです。わたしは昔、ヴァヴァロナの第三王子とお会いしたことがありますよ。黒髪に深い藍色の瞳。幼いころの面影が残っていらっしゃいますね、クルストラ王子』
アスィが線路に片膝をつき、俺と目線を合わせて言った。
「俺は……」
そんな風に言われても、何も覚えていない。
ツァルが守護者ヴァルヴェリアス付きの精霊だなんて、何かの冗談じゃないのか?
この世界の頂点に立つ精霊はもちろん創造主シュテフォーラ。
続いて守護者のヴァルヴェリアスとリフシャティーヌ。
その次に偉大な精霊は誰かと問われたら、おそらく守護者付きの精霊の名前が上がるだろう。
つまり、アスィとツァル、このふたりの名前が。
この、赤い糸くずのような姿をしたツァルが。
「クルスが、王子……」
サリアが俺の顔を見上げる。
すぐ近くで、視線がぶつかる。
サリアの澄んだ深緑色の瞳に吸い込まれてしまいそうだ。
俺はなんと言えばいいのかわからず、口を開けたまま思いあぐねていた。
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