【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)

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第2章 新天地編

第71話 十のセフィラ

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 新天地からマルクト王国に帰還して数日後。すっかり日常を取り戻していた。

 俺は今、鎧兵を神樹セフィロトの枝に乗せて火山灰の除去作業をさせている。

 枝には聖職者しか登れない。理由は、単純に危険なのと、枝に乗ると天罰が降るという宗教的なものだ。鎧兵達は一応、“聖”騎士団なのでギリギリ許されている。

 他の聖職者達も手伝いたいと言っていたが転落死されたら怖いので断った。ということでワンオペで一人寂しく作業をしている……わけではない。

「こっちは終わったさね」
「こちらも終わりましたわ」

 トマティナとイチクジ、二人の彼女が手伝ってくれている。二人に魔法ワンオペのことを話して試しにキーボードを触らせてみたら操作できたのだ。

 ただ、今は俺から離れるとキーボードや画面は消えてしまうので近くで操作するしかない。ということで横並びでソファに座り、イチャイチャしながら頑張っている。

「おっと、そろそろ時間だ。俺はゼロとポテトを操作して人に会ってくるから後は任せた」

 二人は笑って頷いた。

 まぁ会ってくると言っても俺本体は行かないけどね。

 ただ、声が入らないようにしないといけないので少し離れて一人用のイスに座った。

 さて、まずはキャロブゥだな。ポテトを操作して貧民街へ向かった。

 貧民街のボスである豚鼻の中年キャロブゥは開けた場所にいた。

「おい、キャロブゥ」

「ぽ、ぽてぽて、ポティトゥさん!?」

 ネイティブ風発音やめろ。

「オレンジャに手紙を渡しておいたぞ」

「あ、ありがとうございやす! それでアイツは何か言ってやしたか?」

「余計なお世話だバカ親父、と伝えてくれと満足そうな顔で言われたよ」

「そうでしたか。へへっ、生意気なヤツですいやせん」

 ニマニマしている。

「ポテトさん、アイツを無事に新天地へ送ってくれてありがとうございやした」

 キャロブゥは深く頭を下げた。

「気にするな。巨獣退治のついでだ」

「このお礼は必ずさせていただきやす……そうだ! 聖教ポテトを拡大してセフィロト教を潰しやしょう! そしてポテトさんを本当の神にするんでさぁ!」

「それはやめろ」

 あーうぜぇ。これからもコイツらの暴走に付き合わされることを考えると頭が痛くなるわ。

 キャロブゥに馬鹿なことをするなと釘を刺した後、次は女王マルメロの元へ向かった。

 王都の中心にある王城に着いた。謁見えっけんの間に入ると、マルメロは主人公に話し掛けられる前のRPGの王様のようにボッーとしていた。まぁ正直こんなところにジッと座っとくなんてダルいよな。

「む、ゼロか」

 マルメロは眉根を寄せてキリッとした表情をしている。かわいい。

此度こたびの活躍見事であった。功績をたたえ勲章を授ける」

 神樹と十字が描かれた勲章を貰った。これでミノタウロスを倒した時に貰ったのと合わせて二つだ。こういう実績を形としてくれるのっていいな。嬉しさも一入ひとしおだ。

「ありがとうございます。これにおごらず、国を守るため日々剣を鍛え、邁進まいしんして行く所存です」

「しかし本当に式典をもよおさなくてよかったのかの?」

 本当は叙勲じょくん式を大々的に開いてくれることになっていたが俺が断った。面倒だし、堅苦しいのは疲れるからだ。

「いいんですよ。我々の活躍は式がなくとも皆知ってくれているでしょうから」

 狭い国だし、話が伝わるのも早い。

「優等生すぎてつまらんのぅ。たまには床に唾でも吐いて金よこせ金、とでも言って構わんのじゃぞ?」

 どこのやからやねん。近くにいる近衛兵シトローンの方を見るとしかめっ面をしていた。あーあ、後で怒られるぞー。

「辞めておきます。まだ追放されたくないですからね」

「残念じゃ。ところで暇ならわらわと遊んでいかんか?」

「はぁ……何をするのでしょう?」

「ジャンケンじゃ!」

 はぁ? せめてチェスとかにしろよ。十六歳のガキとはいえもっとマシな遊びあるだろ。

「つまんなさそうなので遠慮しておきます」

「嫌じゃ嫌じゃ! 暇なんじゃ!」

 ヤバいだろこの女王。この国もろとも滅びろよ。というライン越えの発言は心にしまっておいた。

 荒れた心を鎮めつつ、この場はシトローンに任せて王城を後にした。

 最後に大司教ビーチに呼び出されていたので大聖堂に向かう。

 祈りの部屋には居なかったので地下に降りる。

 螺旋階段を下り終えると、突然。

「ギェェ!」

 ビックリしたぁぁ! 籠の中に入っているトカゲみたいな生物が叫んだようだ。そういやこんなのいたなぁ。大司教ちょっと趣味悪いぞ。

「おや、ゼロや。来てくれたんだねぇ」

 奥にいた白髪の老女ビーチ大司教が声を掛けてきた。

「こんにちは、ビーチ大司教猊下げいか。何か用事があると聞いてお伺いに来ました」

「ふむ、これを見てごらん」

 大司教の背後を見ると、彼女と同じくらいの大きさの宝玉があった。前回見た時はエメラルド色とサファイア色が半分ずつ占めていたが、今はルビー色と琥珀色が足されて四色の縞模様で彩られている。

 俺の持ち帰ったサラマンダーとスフィンクスの体内から出た宝玉を合わせたのだろう。宝玉同士は近付けると融合するという特殊な性質があるのだ。

「確か十の宝玉を集めると世界が平定する、でしたよね」

「そうだねぇ。宝玉の名はセフィラ。後六つ、集めてくれるかい?」

 やだ! と言いたい。正直、本当に世界が平和になるか謎だし、毎回あんな強力な巨獣を倒さないといけないなんて割に合わないよな。

「暇だったら集めます」

「絶対集めないやつだねぇ」

 そう言われてもしばらくは休みたい。

「きっとお主達は集めることになるだろうねぇ。なぜなら英雄なのだからね」

 なんか意味深な発言だな。まぁいいか。

 それからビーチ大司教に挨拶を済ませてゼロを自動操作で帰還させた。

「ふー……」

 人と会う予定は全て終わり、自宅のソファに身を沈めて一息つく。

「お疲れ様。後は私達がやっておくからゆっくり休んで」

 二人の彼女が気を遣ってくれる。ワンオペじゃないって本当助かるなぁ。

 目蓋が重くなってきた俺は、このまま末永く平和が続くよう願いながらゆっくりと目を閉じた。


【第2章 新天地編】 —終—
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