夏雲 女子高生売春強要事件

あめの みかな

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第二部 秋雨(あきさめ)

第5話 ②

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 ナオの彼女のなごみちゃんは、18禁アダルトゲームのキャラクター(※)だった。



>椰子なごみ(やし なごみ)
>
>強気属性:孤高 デレタイプ:完全デレ(依存)
>
>声優:海原エレナ/小林ゆう
>
>レオの後輩でクラスは1-B。成績はそこそこで運動神経も優秀。きつめの美人で背も高い。実は視力が悪く(遺伝)細かい作業の時はメガネをかけるが、コンプレックスがあるため普段はしていない(ゲーム中ではもうひとつコンプレックスが判明する)。ある理由でレオに借りを作り、生徒会執行部に入る事になる。代わりが見つかるまでという条件だが、エリカにその気は全くない。
>
>礼儀を重んじる性格なのでレオたち上級生には敬語で話すが、まったく誠意がこもってない。エリカからは「なごみん」と呼ばれているが本人は嫌がっている。きぬとは犬猿の仲で何かといがみ合っており、きぬにだけは一切敬語を使わない。きぬには「ココナッツ」と呼ばれ、きぬを「カニ」又は「甲殻類」と呼ぶ。きぬがアルバイトをしている店「オアシス」の常連客で、完食すればタダになる超激辛カレーを普通に食べる事ができ、「辛口キング」の異名で恐れられている。
>
>孤独を好み、友達を作らずにいつも一人で行動している。学校では人気のない屋上にいる事が多い。ある事情で家に居着かず、夜になると駅の近くを出回ることが多い。「ウザイ」「キモイ」が口癖で、目障りな相手には「潰すぞ」と脅しをかける攻撃的な性格。だがそれは未成熟で依存心の高い彼女の心を守る壁であり、不器用さの現れでもある。幼い頃に父親を亡くしており、実はかなり重度のファザコン。趣味、特技である「料理」に強い思い入れがあり、食材を粗末にされたり適当な事を言われると激怒する。将来は家業を継ぐつもりらしいが、時折思い悩む場面もある。
>
>公式ページで3回行われた人気投票では第1回と第3回で1位になっている。更に、きゃんでぃそふと全ヒロインキャラの人気投票でも1位に輝いている。ツンデレという言葉を体現するようなストーリーや人気の高さからフィギュアの宣伝文句では「最強のツンデレクイーン」と称されている。
>
>(つよきす - Wikipedia  より)



 あたしは、ナオがどうしてバツイチなのか、少しだけわかった気がした。

 ナオの突然の告白から数時間、アリスカフェを後にしたあたしたちはその後、ゲーマーズというお店へと向かった。

 そこは1階にコミック、2階にアニメ関連のCDやDVDがあり、3階ではコスプレ衣装を扱っていて、4階ではガチャガチャとカードゲームが楽しめるスペースがあるお店だった。

 4階はイベントスペースに代わることもあり、今日は新谷良子という人のサイン会が行われていた。

「声優さん?」

 とあたしが訊くと、

「何を言ってるんですか、お嬢様!」

 ナオに叱られてしまった。

「何を言ってるんですか! 新谷良子を知らないんですか?」

 もう一度叱られた上に、新谷良子を知らなかったことを咎められてしまった。

「ひだまりスケッチの沙英ちゃんですよ!」

 知りません。

「風のスティグマの魔法少女しーちゃんですよ!」

 わかりません。

「さよなら絶望先生の日塔奈美ですよ!」

 ごめんなさい。

「ケンコー全裸系水泳部ウミショーの黄瀬早苗ですよ!」

 まず、ケンコー全裸系水泳部の説明から頼む。

 イベントに参加するには整理券が必要らしく、その整理券を手に入れるためにはCDを購入しなければいけないようだった。

 4階へと続く階段には整理券を回収する店員さんがいて、整理券がなければ、新谷良子さんを一目見ることさえままならない様子だった。

 しかし、1階の出入り口すぐそばに平積みにされたCDの上には、

「整理券の配布は終了しました」

 という、残念なおしらせがあった。

 だけど、まだイベントはまだ始まっていない様子で、

「新谷良子さんのサイン会の受付はこちらでーす」

 新谷良子さんを一目見られるかもしれない、と諦めきれないナオとハルは4階へと続く階段のそばで、階段を凝視していた。


「新谷良子さんのサイン会、まもなくはじまります」


「新谷良子さんのサイン会、はじまりました!」


 どうやら新谷良子さんはすでに4階にスタンバイしていたのか、あるいは従業員専用の階段かエレベーターか何かで4階へと上ってしまったようだった。


「じんだにりょうござぁぁぁん」

 新谷良子さんを一目見ることすら叶わず男泣きをするナオの肩を、ハルはそっと抱いた。


 そこは3階でコスプレ衣装の階だった。

 扱っているのはコスプレ衣装だけじゃなくて、あたしたちのすぐ後ろには抱き枕のコーナーがあった。

 そこには無数の抱き枕カバーが所狭しと並んでいた。

「新谷良子さんには会えなかったのは残念でしたけど、ナオさん、この抱き枕を見てください」

 ハルは一枚の抱き枕カバーを手にとった。

 あたしはそれの説明を読みあげた。

「全国のお兄ちゃん待望の抱き枕カバーがついに登場!
 ちょっとHな制服姿の由夢と甘えた表情が可愛いパジャマ姿の由夢の両面仕様だよ!
 もちろんイラストは原画家・たにはらなつき氏の描きおろし!
 当然買ってくれますよね、お兄ちゃん?」


 あたしにはそこに書かれていた一単語も理解できなかった。

「こんないやらしい抱き枕が、9,450円で買えるんですよ。万札を一枚出せば550円もお釣りがくるんですよ」

「うぅぅ、せ、先生……」

 またナオがハルを先生と呼んだ。

「新谷良子さんにはいつかまたきっと会える機会があります。今はこの空間を楽しみましょう。抱き枕を楽しみましょう」

「は、はい、先生の言う通りですよね。ありがとうございます。ぼく、今は抱き枕を楽しみます!」

 あたしには、このときのハルの励まし方が正しかったのか否か、明らかに間違っている気がした。



「……あれ、そういえば、ナオさんは?」

 2時を過ぎる頃、いつの間にかナオの姿が見当たらなくなっていた。

「え? さっき下の階見てくるとか言ってたけど……」

 あたしがそう答えると、ハルはそろそろメイドカフェの予約を済ませておきたい時間なのだと言った。

 ふたりが足しげく通うメイドカフェは、今の時間なら大体十数組のご主人様やお嬢様がお待ちになっているそうだ。

 まんだらけというお店や、ハルがあとでナオを連れて行くと言っていたフィギュアショップで一時間ほど時間を潰せば、3時過ぎにはメイドカフェでアフターヌーンティーを楽しめるらしい。

 しかし、2階にも1階にもナオの姿は見当たらなかった。

「まさか、ひとり抜け駆けして新谷良子さんのサイン会に参加してるんじゃ……」

 ハルは驚愕の表情でそんな言葉を口にした。

 そんな、まさか、いや、あるいは、いやいや、そんなことはないはず……。

 あたしもなぜだかそんな気がしていた。

 ハルがナオの携帯に「今どこですか?」とメールを入れた。

 返事はすぐに返ってきた。


>メイドカフェのあるグッドウィルビルの5階にいる。


「ちょw ナオさんフリーダムすぎるんですけどww」

 行方不明のナオを探しに、あたしとハルはそのグッドウィルビルを訪ねていた。

 ナオを迎えに行く前に、ハルが地下にあるメイドカフェで慣れた様子で予約を済ませていた。

 ハルが言っていた通り、十数組のご主人様お嬢様がお待ちだとメイドさんから告げられたあたしたちは、

「いってらっしゃいませご主人様、お嬢様」

 店を一時後にして、5階で無事ナオを発見した。


 そこは18禁アダルトソフトの階だった。

 フロアの半分にところ狭しとアダルトゲームが並び、残りの半分はアダルトビデオソフトが並んでいた。

 ハル曰くとんでもないAVを作ることで有名な宇宙企画の新作や、元モー娘の辻ちゃんにそっくりのAV女優の新作が平然と垂れ流しになっている、そこはカオスと呼ぶにふさわしい階だった。

 あたしたちはナオを無事発見したものの、彼に声をかけることができなかった。

 なぜならナオは、手に取った一本のアダルトゲームを真剣に吟味していたからだ。

 柔和で、温和で、いつも優しそうな微笑を浮かべていた彼の、野獣のような性欲がむき出しになったらんらんと輝く両の眼を前にして、あたしは言葉を失ってしまった。

 しかし、言葉を失っていたのはあたしだけだった。

「あー、それ、『学食のおばさん~母さんの汁の味~』じゃないですか!!」

 あ、わかっちゃうんだ、ハル……、それ。

 ナオが手に持ってるゲーム、わかちゃうんだ、ハル……。

 あたしはナオにも、ハルにも、それからそのアダルトゲームのどうしようもないタイトルにも、呆れて何も言えなかった。


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