28 / 266
蒼と白妙
しおりを挟む
蒼を伴い、彼呼迷軌にある館を訪れた私は、神殿を襲った穢れ落ちと妖鬼ショクについて、白妙に話して聞かせた。
もちろん、蒼と私との関係は伏せてである。
話を聞き、白妙は眉根をよせた。
妖艶なまでの美しさは色褪せはしないが、自信に満ちた普段の様子は影をひそめ、めずらしく考え込んでいる。
「それは・・・・・。」
「穏やかな話じゃありませんね。」
一緒に話を聞いていた彼呼迷軌の守護者である久遠と翡翠も、表情を険しくした。
「海神。お前・・・・よく無事でいてくれた。・・・・ケガは?」
しばらく考えにふけっていた白妙だったが、一つ息をつくと、そう言って小さな美しい顔に苦悶の表情を浮かべ、私に触れようとした。
蒼が私と白妙の間に入り、やんわりとその手を遮る。
「失礼・・・・。幸い、海様に大きなケガはありませんでしたので。ご安心ください。」
蒼は笑顔で白妙にそう言うと、冷たい瞳で白妙を見つめた。
どこで調べたのか、私の二つ名で呼び、しっかり従者の体を保っている。
自分より頭半分ほど背の高い蒼を、白妙は睨みつけた。
「海神。さっきから気になっていた。・・・・・お前、みずははどうしたのだ。この男は一体何者だ。」
「これはこれは。ご挨拶が遅れ、大変失礼いたしました。」
放たれた白妙の鋭い殺気に全く臆することなくそう言うと、蒼は極上の笑みで優雅に膝を折り、礼の形をとった。
「水様は、事後処理でお忙しいのです。私は蒼と申します。仕官したばかりではございますが、海様の身の回りのお世話と護衛を仰せつかっております。以後、お見知りおきを。」
蒼の流れるように美しいその所作に、ドキリと鼓動が高鳴る。
飄々とした今までの様子とは、あまりにかけ離れている雅な姿に思わず見とれてしまいそうになり、慌てて表情を硬くする。
「名を訪ねているのではない。・・・・・・海神、わかっているのか。こいつは並みの神妖ではないぞ。」
自分を心から心配してくれている白妙の様子が素直に嬉しくて、私は艶やかなその髪を優しくなでた。
「蒼は、私の大切な友だ。白妙・・・お前の恐れるようなことなど何もありはしない。穢れ落ちから私を救ってくれたのも、妖鬼を滅したのも、この蒼なのだ。案じてくれるな。」
その時、私の耳元が熱を帯びた。
「海様・・・・・。」
蒼が名を呼んだ瞬間、私は目を見開いた。
蒼が、私にかけた淫呪の縛りを解いたのだと、撃ち込まれた強烈な快感と同時に私は知った。
なぜ・・・・。
私は上がりそうになる息を必死で押し殺しながら、目を細め切なく蒼を見つめた。
蒼は幼さの残る美しい顔に笑顔を浮かべてはいるが、その目は全く笑っていない。
「大丈夫ですか。大分お疲れのご様子だ。この辺でお暇いたしましょう。」
蒼の言葉からドクリと注ぎ込まれる快楽の毒に、一瞬のうちに膝から力が抜け落ちていく。
「おっと。」
よろめいた私を、すかさず蒼が抱き上げた。
「これは大変だ。では・・・・・。」
「待て。」
そう言って去ろうとした蒼を、久遠が呼び止めた。
蒼が殺気のこもった冷たい瞳で、久遠を射抜くように見つめる。
「あなたは怪しすぎる。このまま海神を連れて行かせるわけにはいかない。」
「お言葉ですが、我が主である海様がこのようにお辛そうにしているのです。今は一刻も早く戻り、休ませて差し上げたい。」
蒼が話す度に撃ち込まれる甘い毒で、呼吸が高鳴り甘い声が溢れそうになる。
私は蒼の首に腕を回し、白く滑らかな首くじに顔をうずめ声を抑えた。
久遠と蒼はしばらく無言でにらみ合っていた。
重い沈黙が続く中、それを破ったのは久遠のため息だった。
「何を・・・・信じればいい。あなたが信用に値する者だという証なしに、あなたに海神を託すことはできない。・・・・・大切な、友なのだ。」
綺麗な顔を辛そうに歪め言い募る久遠に、蒼は薄く微笑んだ。
「証はない。だが、私にとって、この方は世界の全てだ。私の命が続く限り、害をなす者があれば例えどんなものであろうと、全て私が祓うと誓おう。」
暴力的なまでの快感が撃ち込まれ続け、ゾクリゾクリと甘い痺れが下腹部を突き抜けるように上がってくる。
私は自我を失わないよう必死で耐えながら、意識の遠いところで蒼の言葉を聞いていた。
「・・・・・・全く。光弘の癒といい、お前といい・・・・一体何が起こっているのだ。今までどこに潜んでいたのか知らぬが・・・お前の力は強力だ。界の位を持つ神妖であろう。」
白妙が半ばあきれた様子で言い放った。
「現在に至るまで、妖鬼の力は上位の者といえど、界の位である神妖の域には及ばなかった。双凶の二体のみが我らの脅威と成り得る存在だったのだ・・・・・・。それが上位の妖鬼の1体でさえが海神をしのぐほどの力を持っているとなると・・・・・。二千年前の悪夢を思い出さざるを得ん。」
白妙は暗い表情でため息をつくと、真剣な眼差しで蒼に向き合った。
「今は深いことは問うまい。海神を・・・頼む。」
蒼はただうなずくと、そのまま海の神殿へと転移した。
もちろん、蒼と私との関係は伏せてである。
話を聞き、白妙は眉根をよせた。
妖艶なまでの美しさは色褪せはしないが、自信に満ちた普段の様子は影をひそめ、めずらしく考え込んでいる。
「それは・・・・・。」
「穏やかな話じゃありませんね。」
一緒に話を聞いていた彼呼迷軌の守護者である久遠と翡翠も、表情を険しくした。
「海神。お前・・・・よく無事でいてくれた。・・・・ケガは?」
しばらく考えにふけっていた白妙だったが、一つ息をつくと、そう言って小さな美しい顔に苦悶の表情を浮かべ、私に触れようとした。
蒼が私と白妙の間に入り、やんわりとその手を遮る。
「失礼・・・・。幸い、海様に大きなケガはありませんでしたので。ご安心ください。」
蒼は笑顔で白妙にそう言うと、冷たい瞳で白妙を見つめた。
どこで調べたのか、私の二つ名で呼び、しっかり従者の体を保っている。
自分より頭半分ほど背の高い蒼を、白妙は睨みつけた。
「海神。さっきから気になっていた。・・・・・お前、みずははどうしたのだ。この男は一体何者だ。」
「これはこれは。ご挨拶が遅れ、大変失礼いたしました。」
放たれた白妙の鋭い殺気に全く臆することなくそう言うと、蒼は極上の笑みで優雅に膝を折り、礼の形をとった。
「水様は、事後処理でお忙しいのです。私は蒼と申します。仕官したばかりではございますが、海様の身の回りのお世話と護衛を仰せつかっております。以後、お見知りおきを。」
蒼の流れるように美しいその所作に、ドキリと鼓動が高鳴る。
飄々とした今までの様子とは、あまりにかけ離れている雅な姿に思わず見とれてしまいそうになり、慌てて表情を硬くする。
「名を訪ねているのではない。・・・・・・海神、わかっているのか。こいつは並みの神妖ではないぞ。」
自分を心から心配してくれている白妙の様子が素直に嬉しくて、私は艶やかなその髪を優しくなでた。
「蒼は、私の大切な友だ。白妙・・・お前の恐れるようなことなど何もありはしない。穢れ落ちから私を救ってくれたのも、妖鬼を滅したのも、この蒼なのだ。案じてくれるな。」
その時、私の耳元が熱を帯びた。
「海様・・・・・。」
蒼が名を呼んだ瞬間、私は目を見開いた。
蒼が、私にかけた淫呪の縛りを解いたのだと、撃ち込まれた強烈な快感と同時に私は知った。
なぜ・・・・。
私は上がりそうになる息を必死で押し殺しながら、目を細め切なく蒼を見つめた。
蒼は幼さの残る美しい顔に笑顔を浮かべてはいるが、その目は全く笑っていない。
「大丈夫ですか。大分お疲れのご様子だ。この辺でお暇いたしましょう。」
蒼の言葉からドクリと注ぎ込まれる快楽の毒に、一瞬のうちに膝から力が抜け落ちていく。
「おっと。」
よろめいた私を、すかさず蒼が抱き上げた。
「これは大変だ。では・・・・・。」
「待て。」
そう言って去ろうとした蒼を、久遠が呼び止めた。
蒼が殺気のこもった冷たい瞳で、久遠を射抜くように見つめる。
「あなたは怪しすぎる。このまま海神を連れて行かせるわけにはいかない。」
「お言葉ですが、我が主である海様がこのようにお辛そうにしているのです。今は一刻も早く戻り、休ませて差し上げたい。」
蒼が話す度に撃ち込まれる甘い毒で、呼吸が高鳴り甘い声が溢れそうになる。
私は蒼の首に腕を回し、白く滑らかな首くじに顔をうずめ声を抑えた。
久遠と蒼はしばらく無言でにらみ合っていた。
重い沈黙が続く中、それを破ったのは久遠のため息だった。
「何を・・・・信じればいい。あなたが信用に値する者だという証なしに、あなたに海神を託すことはできない。・・・・・大切な、友なのだ。」
綺麗な顔を辛そうに歪め言い募る久遠に、蒼は薄く微笑んだ。
「証はない。だが、私にとって、この方は世界の全てだ。私の命が続く限り、害をなす者があれば例えどんなものであろうと、全て私が祓うと誓おう。」
暴力的なまでの快感が撃ち込まれ続け、ゾクリゾクリと甘い痺れが下腹部を突き抜けるように上がってくる。
私は自我を失わないよう必死で耐えながら、意識の遠いところで蒼の言葉を聞いていた。
「・・・・・・全く。光弘の癒といい、お前といい・・・・一体何が起こっているのだ。今までどこに潜んでいたのか知らぬが・・・お前の力は強力だ。界の位を持つ神妖であろう。」
白妙が半ばあきれた様子で言い放った。
「現在に至るまで、妖鬼の力は上位の者といえど、界の位である神妖の域には及ばなかった。双凶の二体のみが我らの脅威と成り得る存在だったのだ・・・・・・。それが上位の妖鬼の1体でさえが海神をしのぐほどの力を持っているとなると・・・・・。二千年前の悪夢を思い出さざるを得ん。」
白妙は暗い表情でため息をつくと、真剣な眼差しで蒼に向き合った。
「今は深いことは問うまい。海神を・・・頼む。」
蒼はただうなずくと、そのまま海の神殿へと転移した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる