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繭 1
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「おはよう・・・・海神。」
私は、慣れ親しんだ心地よい静寂と、なによりも愛おしい蒼の腕の中で・・・ゆっくりと、目を開いた。
美しい笑みを淡く口元に称えた白銀の妖鬼の、澄んだ海色の瞳に目を細め、その薄い唇に軽く口づける。
私の髪を優しく撫でる彼の身体に顔をうずめてきつく引き寄せると、私は胸をくすぐる甘やかな蒼の香りを、ゆっくりと胸の奥深くまで吸い、ため息をつくようにそっと吐き出した・・・・・。
つま先から頭の芯まで、全身を痺れるような幸福感に満たされた私は、ふいに怖くなり小さく身を震わせた。
「ん・・・・?寒かった?・・・風呂に入るかい?」
「・・・大丈夫。・・・もう少し、こうしていたい。」
私の身体が冷えてしまったと思った蒼は、厚めの上布団をフワリと浮かせ、2人の上からかぶせると、私をしっかりくるみながら心配そうに瞳をのぞいてくる。
「疲れたんだろう。・・・・今日は色々あったからね。・・・腹が減ってないなら、君はこのまま眠ってしまっていいよ。少し落ち着いたら、ボクが湯あみさせておくから。」
「・・・・うん。ありがとう。でも・・・湯あみの時は起こして欲しい。」
蒼の温もりにまどろみながら、私は彼の顔の横に流れた一束の美しい銀の髪を耳にかけ、柔らかな蒼の耳たぶを優しくもんだ。
「繭の中は、お前に包まれているようで心地よかったが、直接触れ合い、感じていられることが、私には一番嬉しい。・・・・蒼、まだ足りない・・・。だから湯あみは」
言い終わる前に、蒼は私を強く抱きしめて頬に口づけてきた。
蒼の身体が一瞬で灼熱を帯び、のぼせそうな熱で包んでくる。
蒼の熱に焼かれて、このまま彼の腕の中で最期を終えられるならそれもまた、本望なのに・・・。
そんなことをとりとめもなく、ぼんやりとした頭の片隅で考えている私の耳に、蒼は小声でささやいた。
「・・・もう、寝て。・・・大丈夫、ちゃんと起こすから。」
「・・・うん。」
幸せな熱に包み込まれ、切ない思いを抱きしめたまま、私の意識は再び温もりの中へと沈み込んでいった。
**************************
黄色の妖鬼を捕らえる計画を立てた時。
・・・・・・碧の店で、ショクの囮とするための複製を作成し終えた私は、繭に納められ、蒼の首に下げられた小さな袋の中にしまわれた。
蒼は私を繭に納めただけで、出入りを封じたりすることはなかったため、彼の懐の中で私は自由に振舞えていた。
繭の納められた小さな袋は、ひずみの能力を引用した術式が組まれており、かなりの広さがある。
黄色の妖鬼と蒼が接触して暫く、気をもみつつ成り行きを見守っていた私だったが、ショクが私の複製を抱き始めたところで見るに堪えなくなり、一緒に納められている大量の繭に目を移した。
袋に納められた繭には、全て文字が記されていた。
蒼は多くを覚えていたがらない質で、大概の事はすぐに忘れてしまう。
そのため、繭に何を納めたか分からなくならないよう、表面に全て細かく書き込んでいるのだ。
滑らかに走る細くしなやかな字はとても美しく、それでいて型にはまらない蒼の奔放さをハッキリと感じさせた。
少しいい加減な姿勢のまま筆を走らせている蒼の様子を思い浮かべ、私は思わず微笑んだ。
くすぐったいような気持ちで、文字だらけの繭を眺めていると、中に一つだけ、まっさらで何も書かれていない繭があるのをみつけた。
恐らく、蒼が間違えて空の繭をしまいこんでしまったのだろう。
後で渡してやろう。
そう思って自分の繭の中に引き込むと、手にしたそれは、以外にも他のどの繭よりも一層つるりと滑らかで古びている。
何かを書こうとしたのか、筆の先端がわずかに触れたような墨の点が一つ、穴のように残されていた。
いぶかしく思いながら、私はその白い繭の封を解く言葉を紡いだ・・・・・。
私は、慣れ親しんだ心地よい静寂と、なによりも愛おしい蒼の腕の中で・・・ゆっくりと、目を開いた。
美しい笑みを淡く口元に称えた白銀の妖鬼の、澄んだ海色の瞳に目を細め、その薄い唇に軽く口づける。
私の髪を優しく撫でる彼の身体に顔をうずめてきつく引き寄せると、私は胸をくすぐる甘やかな蒼の香りを、ゆっくりと胸の奥深くまで吸い、ため息をつくようにそっと吐き出した・・・・・。
つま先から頭の芯まで、全身を痺れるような幸福感に満たされた私は、ふいに怖くなり小さく身を震わせた。
「ん・・・・?寒かった?・・・風呂に入るかい?」
「・・・大丈夫。・・・もう少し、こうしていたい。」
私の身体が冷えてしまったと思った蒼は、厚めの上布団をフワリと浮かせ、2人の上からかぶせると、私をしっかりくるみながら心配そうに瞳をのぞいてくる。
「疲れたんだろう。・・・・今日は色々あったからね。・・・腹が減ってないなら、君はこのまま眠ってしまっていいよ。少し落ち着いたら、ボクが湯あみさせておくから。」
「・・・・うん。ありがとう。でも・・・湯あみの時は起こして欲しい。」
蒼の温もりにまどろみながら、私は彼の顔の横に流れた一束の美しい銀の髪を耳にかけ、柔らかな蒼の耳たぶを優しくもんだ。
「繭の中は、お前に包まれているようで心地よかったが、直接触れ合い、感じていられることが、私には一番嬉しい。・・・・蒼、まだ足りない・・・。だから湯あみは」
言い終わる前に、蒼は私を強く抱きしめて頬に口づけてきた。
蒼の身体が一瞬で灼熱を帯び、のぼせそうな熱で包んでくる。
蒼の熱に焼かれて、このまま彼の腕の中で最期を終えられるならそれもまた、本望なのに・・・。
そんなことをとりとめもなく、ぼんやりとした頭の片隅で考えている私の耳に、蒼は小声でささやいた。
「・・・もう、寝て。・・・大丈夫、ちゃんと起こすから。」
「・・・うん。」
幸せな熱に包み込まれ、切ない思いを抱きしめたまま、私の意識は再び温もりの中へと沈み込んでいった。
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黄色の妖鬼を捕らえる計画を立てた時。
・・・・・・碧の店で、ショクの囮とするための複製を作成し終えた私は、繭に納められ、蒼の首に下げられた小さな袋の中にしまわれた。
蒼は私を繭に納めただけで、出入りを封じたりすることはなかったため、彼の懐の中で私は自由に振舞えていた。
繭の納められた小さな袋は、ひずみの能力を引用した術式が組まれており、かなりの広さがある。
黄色の妖鬼と蒼が接触して暫く、気をもみつつ成り行きを見守っていた私だったが、ショクが私の複製を抱き始めたところで見るに堪えなくなり、一緒に納められている大量の繭に目を移した。
袋に納められた繭には、全て文字が記されていた。
蒼は多くを覚えていたがらない質で、大概の事はすぐに忘れてしまう。
そのため、繭に何を納めたか分からなくならないよう、表面に全て細かく書き込んでいるのだ。
滑らかに走る細くしなやかな字はとても美しく、それでいて型にはまらない蒼の奔放さをハッキリと感じさせた。
少しいい加減な姿勢のまま筆を走らせている蒼の様子を思い浮かべ、私は思わず微笑んだ。
くすぐったいような気持ちで、文字だらけの繭を眺めていると、中に一つだけ、まっさらで何も書かれていない繭があるのをみつけた。
恐らく、蒼が間違えて空の繭をしまいこんでしまったのだろう。
後で渡してやろう。
そう思って自分の繭の中に引き込むと、手にしたそれは、以外にも他のどの繭よりも一層つるりと滑らかで古びている。
何かを書こうとしたのか、筆の先端がわずかに触れたような墨の点が一つ、穴のように残されていた。
いぶかしく思いながら、私はその白い繭の封を解く言葉を紡いだ・・・・・。
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