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犯人
しおりを挟む「……酷い」
姫乃ちゃんは僕の話を聞いて、今までの興奮を少し落としていた。
どこか、冷静な部分が見えている。
「酷い? 姫乃ちゃんがやってるこれは、酷くないの?」
「…………」
「ちなみに、その時撮影した映像は後日、ブルーレイに焼いて送りつけたんだ。彼女がそれをどうやって見たのか、あるいは見なかったのか知らないけど、僕がそれを送りつけた数日後に、彼女は……」
死んだ。
自殺した。
家に誰も居ない時に手首を切って、お風呂場で死んでいたという噂だ。
本当にそういう死因だったのか知らないけれど、彼女が死んだということ自体は事実だった。
家からブルーレイディスクが発見されたという話は聞かなかったから、彼女はそれを家に置いておかなかったのだろう。
処分していたと見て良いと思う。
それが見つかってたら、それを手掛かりにして僕は捕まっていたかもしれないけれど、彼女は死んでもそれを見られるのを嫌がった。
そう考えると、彼女はあの中身を確認していたに違いない。
「僕は彼女を殺したわけじゃないけど、殺したと言われても言い逃れは出来ないことをしたと思ってるよ。今では名前も覚えてないけれど、若気の至りだね」
今ならばそんな事はしないけれど。
後悔しているわけでも無い。
キョウちゃんは多分、あの時から僕の事を好いていてくれた。
それが確認できただけでも、やって良かったと思う。
「あなた、いかれてる」
「姫乃ちゃんも、いかれてるよ」
「…………」
「ほら、拷問を続けないと。僕はもう、痛みを忘れてきてる。ねえ、姫乃ちゃん。もっと僕を痛めつけてよ。じゃないとさあ、後悔も、出来ないでしょ?」
拷問をしているのは姫乃ちゃんなのに、姫乃ちゃんの方が拷問をされているような顔だった。
僕から必死で逃れようと、首を左右に振っている。
そのまま姫乃ちゃんが逃げ出しそうになったところで、ヒーローは到着した。
「キョウちゃん!」
まさかの展開。
キョウちゃんが、扉をぶち壊してこの場所に現れた。
ヒーローにしても、凄すぎる。
「ひ、響!」
姫乃ちゃんはキョウちゃんに寄ろうとするが、キョウちゃんはそれを無視して僕の方に歩み寄ってきた。
「どうして分かったの?」
僕は聞く。
というか、無事だったのか。
しかし、よく見るとかなり傷がある。
「運良く俺の仲間が通りかかってな、命を拾ったよ。その後お前を捜してたら、お前が女に攫われるのを見たって奴がいて、色々と捜して、最後に行き着いたのが、姫乃だろうって事だった」
そして、助けに来た。
僕はここがいまだにどこなのか分からないのだが、姫乃ちゃんと無関係だというわけでもないのだろう。
もしかすると、彼女の家なのかもしれない。
「歩けるか?」
僕を縛っている縄を解いてから、キョウちゃんは聞く。
僕は頷いて、キョウちゃんの肩を借りる。
そのまま扉の無くなった入り口から出て行こうとするのだけれど、「待って! 響!」と姫乃ちゃんが喚いている。
それでも止まらないキョウちゃんを見て、姫乃ちゃんはついに、キョウちゃんの足を止める一言を発する。
「あなたの母親を殺したのも私よ!」
ピタリと。
キョウちゃんの足が止まった。
がくんと衝撃があって、僕の足が崩れそうになる。
何とかキョウちゃんの肩に掴まって、転倒を避ける。
「あ、悪い」
「痛いんだから、優しく扱ってくれないと」
「……ああ」
左足と、肩がズキズキと痛むのだ。
「ちょっと、待っててくれ」
「うん」
キョウちゃんがゆっくりと、僕をしゃがませる。
僕を置いたキョウちゃんは、姫乃ちゃんに向かって歩いて行く。
「ひ、響!」
喜色満面の姫乃ちゃんだったけれど、その顔面をキョウちゃんは殴りつけた。
姫乃ちゃんが倒れる。
顔を上げたところを見ると、鼻から血が流れていた。
せっかく、綺麗な顔をしているのに。
「…………っ!」
キョウちゃんが再び、姫乃ちゃんを殴る。
「お前が! お前が比奈を殺したのか!」
バキバキと、姫乃ちゃんの顔が変形しそうなくらい、キョウちゃんは強打する。
「そ、そうよ! 私が、殺したのよ!」
顔面が腫れ上がり、前歯まで折れているのに、姫乃ちゃんは嬉しそうだ。
「ああ、もっと、私を愛して!」
うわ、あの人変態だ。
殴られて、悦んでいる。
僕だって変態だけど、殴られて悦んだりはしない。
僕は立ち上がり、足が痛んだけれど無理をして歩く。
キョウちゃんは姫乃ちゃんを殴り続けているが、姫乃ちゃんはやはり嬉しそうだ。
「殺してやる! 殺してやる!」
「ああ、響!」
僕は殺してやると叫ぶキョウちゃんに渡そうと、僕の血で塗れたナイフを拾い上げる。
それをキョウちゃんの元まで持っていって、差し出す。
「…………」
「言ったでしょ? 僕は、比奈ちゃんを殺した奴を殺すのに協力するって」
僕の差し出したナイフを、キョウちゃんは受け取った。
途端、姫乃ちゃんに恐怖の色が浮かぶ。
「ま、待って響。わ、私は……」
キョウちゃんに構って貰えれば、殴られることさえ悦んでいた彼女が、死というものに直面し、顔面を蒼白にする。
そんな姫乃ちゃんにも構わずに、キョウちゃんはナイフを振り上げる。
そして……。
「どうして邪魔する?」
僕はキョウちゃんの腕を掴んで止めた。
「協力するんだろ? ナイフを渡したのだってお前じゃないか」
「僕が協力するって言ったのは、比奈ちゃんを殺した奴を殺す時だけだよ。それ以外で、キョウちゃんが手を汚すのを見過ごせない」
僕の手が汚れるのは、いくらでも見過ごすけど。
キョウちゃんの手が汚れてしまったら、僕はキョウちゃんを汚せなくなってしまう。
僕が姫乃ちゃんを指差すと、姫乃ちゃんは「私じゃない。私は、やってない」と首を振りながら涙を流した。
「今更……!」
「本当じゃないかな?」
姫乃ちゃんの言葉を否定しようとしたキョウちゃんだけれど、僕は姫乃ちゃんの言葉を肯定した。
彼女の言葉は、キョウちゃんに構ってもらいたくて吐いた嘘だ。
「何で……!」
「だって……」
キョウちゃんの質問に僕が答えようとした時に、姫乃ちゃんがキョウちゃんにしがみついて「お願い、響! 戻ってきて!」とヒステリックに叫ぶから、面倒臭くなったのか、キョウちゃんは姫乃ちゃんの顔面を蹴り上げた。
それで、姫乃ちゃんは意識を失う。
「だって……」
気を取り直して、僕は言う。
「比奈ちゃんを殺したのは、僕だから」
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