〈完結〉真実の愛だと言うのなら、乗り越えられますわよね?

ごろごろみかん。

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「したくなかったと言ってるだろ!」

もはや、今更どうしようもない問題だ。
彼もそう思ったようで、顔を真っ赤にして怒った。

「離縁……期限を決めます?」

「どういう意味だ?」

「一年。今から一年後に、離縁しましょう」

私の言葉に、アルベルト様がぽかんとする。
人差し指を立てて、私は彼に提案する。

「一年の間に、旦那様は根回しを済ませてください。その日のために、私も父を説得しておきます」

「何を企んでいる?」

「酷いですわね。私も、あなたのような方とは結婚したくなかった、と言っているのです」

それに、話が食い違っていた。
父からは、アルベルト様の家……伯爵家から縁談が来ていると聞いていたのだ。
良縁だし、恋人もいないと報告を受けていた。それなのに蓋を開けたらこれなんて……。

恨みますわよ、お父様。

私はにっこり笑って、アルベルト様に言った。

「試練だと思ってくださいまし」

「……試練?」

「真実の愛だと言うのなら、乗り越えられますわよね?……ということです」

そう言って、私は席を立った。
この結婚は最悪だ。
だけど、食事だけは良かった。
これなら一年、耐えられる。




そう思って── 一年が経過した、のだけど。

「契約の破棄なんて認められませんわ」

あの日のように朝食の席で、切り出したのだ。
今日は期限の日ですね、と。
そう口にすると、アルベルト様は盛大にうろたえ、フォークを落とした。
絨毯に落ちたので、音は吸収された。

すぐにメイドが新しいフォークを持ってくるが、アルベルト様は受け取らない。それどころでは無いと言った様子で私を見ていた。

「どういう意味だ!?だって、マリアは……」

「そうですわね。マリアさんは、つい半年くらい前に私に毒を盛った罪で、今も牢獄ですね」

「なら!!」

「だとしても、契約は契約ですもの」

私は首を傾げた。
この人は何を言っているのかしら?と思ったのだ。

後日確認すると、嘘を吐いているのは伯爵──つまり、アルベルト様のお父様だった。
伯爵は、公爵家と縁続きになりたいがために、アルベルト様に嘘を吐いて婚約を呑ませた。

お父様は、伯爵の熱心な説得で婚約を承諾したというのに、こんなことになって、お怒りだ。
離縁は決定事項である。

私が説明すると、アルベルト様はわなわなと震えた。

「……嫌だ」

「はい?」

「俺はマリアを失った。きみまで失うなんて耐えられない!」

そして、ぐるっとテーブルを回って、私の前に跪く。

「…………なんの真似ですか?」

「やり直させてくれないか。頼む。俺にチャンスをくれ」

「チャンスならありましたわ。ほら、結婚したじゃないですか」

「あの時は……!!違う。エリーゼ。今の俺はきみを愛しているんだ。だから……」

そして、冒頭に戻るのである。

「それは……ちょっと、都合がよすぎるよではありませんか?」

そして、アルベルト様の手を振り払った。
確かに、マリアさん事件の前後から、彼の態度は変わった。
今まで排除してやる!!と言わんばかりの敵対心が消えたのだ。
だから、この半年間はとても穏やかだった。

これなら、離縁しても、今後険悪になることはないかも……と期待していたのだ。

だけどまさか、契約の破棄を求められるとは思わなかった。

「『お前を愛することは無い』……と言ったのは、旦那様ですし、離縁する、と言ったのも旦那様です」

「それは…。だが、あの時は」

「署名、いただけますわよね?」

私が離縁届を差し出すと、アルベルト様は黙ってしまった。
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