〈完結〉真実の愛だと言うのなら、乗り越えられますわよね?

ごろごろみかん。

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「エリーゼ、僕は今もあなたのことが好きだよ。……大事なんだ。大事だから、不安だ」

「何が不安?私みたいな女を妻にすることが?」

不安に思って顔を上げる。
エドガーは苦笑していた。

それから、ジャケットのポケットから、ハンカチを取りだしてくれた。
それを見て、思い出す。
エドガーも同じことを思い出したようだ。

「初めて会った時を思い出すね。あなたはここで泣いてた」

「……迷子になったの」

「知ってる」

エドガーとの出会いは、もうずっと前だった。
今から十年くらい前、私は勝手に馬車をおりて市井を歩いて……迷子になった。
そこで、彼と出会った。

『あなたは、エリーゼ嬢だよね?パーティーで見た事がある。一人?護衛は?』

そう言って、彼は公爵家まで送り届けてくれた。

あの時も今も、エドガーの目の優しさは変わらない。ずっと、私の好きな人。

エドガーは私の目元をハンカチで拭うと、笑って言った。

「僕でいいの?本当に」

「あなたじゃなきゃだめ。ねえ、エドガー。私と結婚することで、きっと、あることないこと言われるわ。でも……」

「構わない。あなたと結婚できるなんて、夢みたいだ」

エドガーが、私を抱き上げた。
通行人がこちらを見るのがわかったけど、構わなかった。
私はエドガーにしがみついて、言った。

「真実の愛だと言うのなら、乗り越えられるわよね?真実の愛なら、きっと……」

私は出戻り娘だし、それでなくとも、公爵令嬢と子爵令息の結婚だ。
なにかと言われることが多いだろう。

だから、尋ねた。
乗り越えられる、と言って欲しかった。
私とエドガーなら大丈夫だ、と。

アルベルト様とマリアさんはあんなことになった。
それなら、私たちは……。


「真実の愛?」

彼がキョトンと私を見る。
そして、「ああ」と思い出すように言った。

「最近よく聞くフレーズのやつか。有名な演劇に出てくるセリフだっけ」

頷いて答える。
エドガーは笑って答えた。

「気持ちは流動体だ。同じ形ではいられない」

「っ……」

「エリーゼ、知ってる?愛はたくさんの種類があるんだよ。慈愛、親愛、敬愛……。形が変わっても、きっと、僕の想いはあなたにある。この恋も、いつか愛に変わるだろうけど、そういう変化もいいでしょう?」

「エドガー……。ええ、そうね。私も……私もあなたが好き!大好きなの。ずっと。初めて会った時から!」

叫ぶように言って、彼に抱きついた。

もしかしたら、私は怖かったのかもしれなかった。

あんなに愛し合っていたアルベルト様とマリアさんの愛は、呆気なく壊れた。

マリアさんの愛は憎悪に変わり、アルベルト様は心変わりした。

だけど──いや、だからこそ、エドガーの言葉にはホッとした。

気がつけば、私たちは随分注目を集めていた。

エドガーと顔を見合せて、二人で笑う。

信じようと思った。今の、この気持ちを。
初めて会った時のように、向日葵がキラキラと咲いていた。








fin.

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みんなの感想(3件)

八
2025.09.06
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与三振王
2025.09.06 与三振王
ネタバレ含む
解除
ねず
2025.09.05 ねず
ネタバレ含む
解除

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