おしゃべりオウムに ようこそ

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17 憂鬱なインコ

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 喫茶室パロットに明るい笑い声が響いている。今日はアランが貸し切って、『おしゃべりオウムの会』のメンバーだけの会合だ。いつもは遠慮なく割り込んでくる、アラン言うところの『小雀こすずめちゃん』たちも今日は締め出されていない。

 インコのおしゃべりに加わりたがるスズメたち、普段の会合ならば参加自由のおしゃべりオウムも、今日は重要な『議題』のために集められ、正式メンバーのみ、欠席厳禁とされた。

 アラン・グリン・カトリス・デリス・サウズ・エンディー・カーラの、卒業年次生七名に加え、シャーンをはじめ下級生たちも全員顔を見せている。

 いつもは自由に飛び回る鳴き真似インコたちも、今日は天井のはりまって温和おとなしく、集まった若者たちを静かに見守っている。

 ただ一羽、どうしてもアランから離れようとしないインコ――あのマメルリハインコだ――がいて、とうとう根負けしたアランはみなにことわってから、肩に留まる事を許していた。

 マメルリハはアランの首筋に体を寄せて、ときどき耳を甘噛みして甘え、『アイシテルヨ』とささやいては失笑を買っている。真っ赤になったアランに誰かが『そのインコの種類はなんていうの?』とたずねたが、『なんだったっけかな?』とアランはとぼけていた。

 全員が集まったのを確認し、議長役のカーラが全員を見渡せる席に着けば、私語が止んで部屋が静まり返る。それでも、喫茶室パロットの外では、明るい笑い声が中から聞こえている。グリンとカトリスが掛けた惑聴術がいているのだ。

 カーラがコホンと軽く咳払せきばらいした。

「おしゃべりオウムの会の総会を始める――まずはこの一年の総括から……デリトーネデシルジブ」
名を呼ばれたデリスが立ち上がり、挨拶のあと本題に入った。

「本年は変化の多い年となった……」

 特筆すべきは地上の月『神秘王』ジゼェールシラの覚醒かくせいだろう。覚醒は星見魔導士の予測通り夏至げしの日に起きているものの、詳細は不明のままである。

 臨場していたアラネルトレーネの証言によると、膨大な『力』の放出と同時に神秘契約の発動があったという事だが、その際、アラネルトレーネは落命の危機にひんしており、詳細まではつかめなかった。

 幸い、アラネルトレーネは神秘王成立により、地上の月となったジゼェールシラによる『月の加護』を得、一命をとりとめる。それに伴いアラネルトレーネは『月影の魔導士』として地上の月ジゼェールシラの影としての神秘契約が発動され、これは南ギルド長ビルセゼルトが追認するところとなっている。

「ここまで何か質問は?」
デリスが会場を見渡した。すると、一斉に手が上がる。
「そもそもジゼェールシラとは、誰なのですか?」
どうやら手をあげた面々の疑問はそこにあるらしい。

 カトリスがそれに答える。
「ジゼェールシラは南統括魔女ジョゼシレーラシラ様と南ギルド長ビルセゼルト様のご息女だ。生まれる前から星見魔導士が神秘王と予言していた。存在を隠す必要を感じたビルセゼルトが長くかくまっていて、どこで育てられたかなどの情報は明らかにされていない。一説では我が王家の森魔導士学校とも言われるが確証もない。学生も教職員も我が校で神秘王成立前のジゼェールシラを目撃した者がいないからだ。いずれ地上に降りた太陽『げん王』と手を取り、きたるべき災厄をしずめると言われている」

「示顕王についての情報は?」
赤金あかがね寮の三年次生ヒフテスカネルがカトリスに問う。

「残念ながら今のところさっぱりだ」
そう言ったのはグリンだ。
「伝説の魔導士サリオネルトと当時の西統括魔女マルテミア様の間に誕生した男子が示顕王だと言われているが、九日間戦争の折りに所在不明になったままだ。名も判っていない。星見魔導士が予測する覚醒まで残り四年。南ギルドも北ギルドも躍起になって探しているが手掛かりを得たとの情報はどちらにもない」

 誰かが『サリオネルトと言えよ』とボソッと言ったのを『グリンにとっては叔父だぞ』と別の誰かがたしなめた。サリオネルトとビルセゼルトが双子だという事は、魔導界で知らない者はいないと言ってよかった。

「ほかには何か?」
デリスが確認すると、サリオネルトはグリンの叔父と言った黄金こがね寮の三年次生モーグリネッツが声をあげた。

「神秘王の覚醒時期と、校長の休講が相次いだ時期、それにグリンの長期休暇が重なっているけれど、何か関係は?」

 すかさず答えたのはグリン本人だ。
「僕が休んだのは病気によるものだ。癒術魔導士より、自宅での休養を勧められた」
「へぇ、どんな病気?」

 ここでアランが発言する。
「個人的な興味は会合が終わってからに願いたい……グリン、神秘王の出現とは無関係だとはっきりさせろ。質問の真意はそこだ」
「うん、神秘王成立には関係ない」

「ほかになければ……」
会合を先に進めたいデリスの発言を
「校長のほうはどうなの?」
と誰かがさえぎる。

 デリスが黙り、カトリスとサウズが目を見交わし、グリンがアランを見詰める。しばし沈黙の後、アランが言った。
「……誰も知らないようだ。校長の行動を把握するのは我々学生には難題だ。よって校長の関与は不明――でもまぁ、自分の娘だ、何かしらの関与はあると考えたほうが正解だろう。でもそれを、休講と結び付けていいかは判らない。これで納得してもらえるかな?」

 他の発言を待ったが、ないと判るとアランがデリスにうなずく。デリスも頷き返し、話を先に進めた。
「では、神秘王成立後の動きだが――」

 神秘王の成立とアラネルトレーネが神秘王の影であることの発表は、アラネルトレーネの魔導士学校卒業まで先送りすることを南ギルドは決定した。アラネルトレーネが、既に卒業に向けて必修科目を取得済みである事を考えれば、この決定が動くことはない。

 が、大きく神秘力が動いたこの二つの事柄は、既に南のみならず北、魔導界全般に知れ渡っていると考えたほうがいい。

 北ギルドからの反応は今のところ何もないが、神秘王及びその影を、きたるべき災厄まで守るべき存在と南ギルドが考えていることは間違いないと推量する。

 ここでまた質疑応答を挟んだが、発言する者はいなかった。アランの立場の深刻さに黙らざるを得なかった、そんなところだろう。

「神秘王についてはここまで。次に三ヶ月前に起きた『悪戯いたずら事件』について――」

 白金しろがね寮から赤金あかがね寮にかけての植栽が根こそぎ取り払われたあと、代わりに花々で埋め尽くされた。翌日には幻術によるシャボンの出現、それに続く花火の襲来は記憶に新しい事だろう。

 後日、魔導樹を含む植栽が元に戻されたことから、事件が解決を見たと察しているとは思うが、ダガンネジブ様より、サロンメンバーには周知するようたっしが出た。よって詳細を伝える事とする。

 三件の騒動は、すべて一人の、当魔導士学校には無関係な魔女によるものである。

 当該魔女はちょうに変身して当校の結界を通過している。ご存知の通り、当学校を守る結界は、小動物・鳥類・虫・風・光などには無効である。その盲点を突かれたわけだが、南ギルドも学校当局も、結界の見直しを見送っている。校内の自然環境をかんがみての措置との説明だ。この件については、即日、保護者を招集し理解を得ていることからも変更されることはないだろう。

 つまり、当魔導士学校結界が無効としている生き物に変身しての内部侵入が、今もって可能だということだ。変身術を取得している魔導士数が少ないとはいえ、警戒を怠ることのないようにとダガンネジブ様からの指示が出された。

 なお、当該魔女は、北統括魔女ジャグジニアと北ギルド長ホヴァセンシルの一粒ひとつぶだねジュライモニアであると、ホヴァセンシルからのび状で明らかになっている。

 引き抜かれた魔導樹の引き渡しはドラゴンの長ヴァオヴァブの立会いのもと、ドラゴンのコロニーでり行われ、手打ちも済んでいることから、ジュライモニア及び北ギルドに悪戯の責任を問わないことを南ギルドも認めている。

「悪戯事件については以上。何か質問は?」

 またも一斉に手が上がった――
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