冬霜春風 〜Winter frost Spring wind〜

かの

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序ノ章 秋が終わる。

序ノ三 尻を見る。

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 天から降ってきた男はハルカと名乗った。……春の風。やはり神が春の風帝を遣わしたと考えるべきではないだろうか。

「……リバイ。何でこんなピンク色なんだよ。こんな女っぽい色じゃなくて、他の色がいいんだけど」

 スナリに用意させた衣に、ハルカは不満があるようだ。

「春の風帝かもしれないんだ。だが違うかもしれない。だから青は着せてやれないんだ。花の色に何が不満がある? お前によく似合う色じゃないか」
「春の風帝って何だよ。とりあえずこのピンク色は嫌だ。リバイの黒なら我慢できるかな。でも一番はスナリさんみたいな青っぽいのがいい」
「黒ではない。これは玄色だ。これは霜帝の証。ハルカには着せてやれない色だ」
「よく分からないけど早くしてよね。いつまでも裸は嫌なんだけど」
「分かったから騒ぐな。……スナリよ。お前の衣のような色で、ハルカに似合う物を用意してやれ」
「御意!」

 スナリが部屋を出ていく。追い払った訳ではないが、都合良くもある。

「ハルカ一つ聞きたいんだが」
「何?」
「どうして俺はリバイと呼び捨てで、スナリには付けなんだ?」
「えっ? 何でだろ? 別に意味はないけど」

 ハルカの体を引き寄せ背中に回した手に力を入れる。意味はないなどと軽々と口にするのは、許されるべき行為ではない。天から降ってきたんだ。春の風帝であるならこの世を把握していて当然の話。

「俺は四帝でスナリは宰相だ。どちらが偉い?」
「四帝って何? どっちが偉いかは知らないけど、スナリさんに命令をしてるんだから、リバイの方が偉そうだよね。……それより何で俺を抱いてんの? まあ、別にいいけど、とりあえずホテルに帰るために協力してよ」

 まただ。まあ、別にいいけど。なんて言葉は、四帝に軽々しく放てる言葉ではない。

「……分かっていないようだから教えてやるが。俺は四帝の一人、冬の霜帝リバイだ。この国で一番力を持つのは四帝。俺が望めば何でも手に入る。俺に不可能などないんだ」
「不可能がないなら尚更だよ。俺がホテルに帰れるように協力してよ」

 腕の中でハルカが笑う。何故だかは分からないが、ついさっき初めて会ったとは思えない不思議な感覚に陥る。懐かしいと言う感情だろうか。どんな感情であれ、鼓動が早くなっている事に変わりはない。

「協力はしてやりたいが、お前が言う西安と言う町を俺は知らない」
「んー、じゃあ中国は? それか日本は?」
「中国? 日本?」
「そう。俺は日本の高校生で、U-18の親善試合のために中国の……西安に来たんだ。試合の途中で雨が降ってきて、それで気が付いたらここ——リバイの屋敷に居たんだ。空から降ってきた俺を受け留めてくれたって事で感謝はしてるよ。……だから、ついでに俺に協力してほしい」

 全く意味が分からない。ハルカが話す言葉の、たったの一つも理解が出来ない。日本の高校生ってどう言う意味だ? 神からの遣いじゃないのか?

「さっきも言ったけど、ここはシーナガル帝国の帝都だ。西安なんて町も、中国なんて国も、日本なんて国も存在していない」

 その時だ。大きな咳払いが聞こえ、振り返るとスナリが戻っていた。ハルカを腕に抱いていたから、気を利かせての咳払いだったのだろう。その手には青紫の衣を持っている。

「あの色ならどうだ?」
「そうそう。ああ言う色の事を言ってたの。ピンクなんて男が着る色じゃないし」
「そうなのか?」

 ハルカとは随分と感覚が違うようだ。明るい花の色は春の色だ。染料の価値を考えれば誰でも袖を通せる物ではない。だが青紫の染料など価値はしれている。それなのに青紫に満足するなんて、ハルカの感覚はどうなっているんだろう。

「……早く着なきゃね」

 するりと腕を抜け、ハルカがスナリの前に両腕を広げ立つ。その後ろ姿に思わず見入ってしまう。小麦色の肌だが小さく引き締まった尻だけが異様に白い。

い尻だな」
「えっ? 尻って俺のお尻を見てんの?」
「ああ、そうだ。他に誰の尻がある。良い尻だ。それにそれはあざか? 白い尻に花色の花弁のような痣が可愛いじゃないか」
「痣? よく分かんないけど。……それよりスナリさん。自分じゃ着方が分からないから早く着せてよ。リバイにお尻を見られないように早目にお願いします!」
「御意!」

 スナリの奴め。ハルカの言う事など聞く必要はないのに何が御意だ。それにハルカの奴もだ。まだ四帝の事を分かっていないらしい。俺に尻を見られないようにだなんて、とんでもなく生意気な奴だ。
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