【カントボーイ】生き残りの元勇者

猫丸

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 灼熱の太陽が西へと傾き始めた頃、時を告げる鐘が鳴り響いた。
「今日の練習終了!」
 俺の声に皆はあっと一息つき整列した。そしていつもの挨拶が練習場に響く。
「「「ありがとうございました!」」」
 挨拶が終わるやいなや、汗を拭きながら皆、井戸の方へと向かう。
 そんな練習生達を横目に見ながら、俺は一人違う方向へと歩き始めた。
 すれ違う生徒達が俺に頭を下げていく。
 俺は魔王を倒した元勇者だ。今は引退して街で冒険者を目指す若者の指導をしている。
 まだ引退するほど年でもないのだが、魔王との戦いはそれはそれは熾烈だったのだ。パーティのメンバーは全員死んだ。
 俺だけなんとか生き残った。命からがら魔王には勝ったものの、それでも一生癒えぬ傷、いや呪いを負った。
 その身体的、精神的ダメージ故、俺はこのようなだらだらと余生を過ごすだけのような生き方をしている。
 国から報酬は十分にもらった。生活には困っていない。指導と言ってもたいしたことはしていない。ただ一人でいるのが怖いだけだ。
 一人でいるとあの一戦のことを思い出し、気が狂いそうになる。戦う度に仲間が一人ずつ消えていく。
 逃げ場を失い、必死で戦い、勝ったと思ったあの瞬間。ほんのわずかな気の緩みでがらりと変わってしまった俺の人生。
 その一瞬の油断のせいで俺は一生誰かと添い遂げることはできなくなった。
 
「師匠、すぐに片付けしてくるんで、一緒に帰りましょうよ!」
 ジェナが帰ろうとする俺を呼び止めた。
「いや、俺は先に帰っているから、お前達は汗流してから帰ってこい。片付けもさぼるなよ?」
「えー、相変わらず師匠つめてー。じゃぁ今日の俺、どうでした?」
 ジェナは少しむくれながら言った。
「ジェナは瞬発力がいいよ。相手が構える前に相手の懐に飛び込んで攻撃するのが上手い」
「かっこよかった?」
 褒めてあげればジェナがにんまり笑って聞いた。結局褒めてほしいのだ。
「ジェナばかりずるい! 師匠、俺は? 俺は?」
「カイはパワーがあるから、一撃で相手にダメージを与えている」
「師匠、俺も良かったでしょ?」
「リオは相手の弱点を見抜いて、そこを的確に攻撃するのが上手い」
 ジェナを押しのけて聞いてきたカイとリオにも答える。
「お前達三人すごく良くなってる。試しに今度の騎士試験を受けてみたらどうだ? お前達なら受かると思うが」
 俺は素直に思ったことを口にする。騎士になれれば儲けもの。冒険者よりよっぽど憧れの職業だ。
「えー、でも騎士試験対策だったら別の人に教わらないといけないんでしょ?」
 リオが頬を膨らませて言った。
「まぁ俺は騎士にはなったことないからなぁ……冒険者の指導って言っても真似事というか……本来は自分で依頼の難易度を上げながら学んでくものだし」
「俺達は師匠に教わりたいんです! あ、でも騎士になればずっと師匠と一緒に暮らせる? それなら受けてやってもいいな」
 上から目線でカイが言った。受かる自信があるのだろう。
「ばーか、地方へ異動があるだろ? そんなのだめだ!」
 ジェナが言った。
「いや、だがお前達だっていつか独り立ちするだろ? 冒険者より給料も安定していて、待遇もいいぞ?」
「そういう問題じゃないし、騎士になったら師匠といる時間が減るじゃないですか! 冒険者だったら師匠を連れていけばいい話だけど」
「お、俺を?」
「そうそう。師匠はただ付いてきてくれればそれでいいんで。俺らが守ります。それに俺ら王様に忠誠とか誓えませんよ? 師匠と王様が危ない目に遭ってあっていたら、俺ら間違いなく師匠を助けるし、なぁ?」
 ジェナの言葉に二人もうんうんと頷いた。
「い、いや、お前達今はそう言っているけど、そのうち好きなやつの一人くらい現れるかもしれないし、家庭を作るとか……俺だって……そのうち……け、結婚するかもしれないし……」
 最後のほうは声が小さくなった。
「「「え? 誰とですか? そんな相手がいるんですか!?」」」
 三人が前のめりに聞いてくる。
「い、いや……ほら今は、お前達がいるから作っていないけど、意外と紹介なんかもあったりして……それにお前達だってもうすっかり大人だ。独り立ちする日も近いだろ?……まぁお前達が独立したら、また親のいない子を引き取ってもいいし、な……」
 三人の表情がとても険しくなって、俺は口をつぐみ、「先に家に帰る」と言ってその場を後にした。
 
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