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2.儀式の間
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「負けるだけ。楽勝だ……!!」
……そう思っていた時期もありました。
「だ、騙された……!!」
儀式の間に悠紀と二人で閉じ込められて一週間。
今日も俺は左門の代表・悠紀と、儀式の間で手合わせをしている。
「もう、お前の勝ちは決まったのになんでだよっ!!」
俺は悠紀から繰り出される鋭い蹴りを防御しつつ、後ろに下がってダメージを軽減する。気を抜けば、ヒザから崩れ落ちそうな鋭い蹴り。それに堪えたと気を緩めれば、すぐに後ろ回し蹴りが飛んできた。必死に腕で防御して、更に後ろへと後ずさればあっという間に壁際に追い込まれる。
てか、マジであんな蹴り、まともに食らったら死ぬって!!
しかもこいつ、俺が壁際から逃げて、良いポジションとったらすぐ楽しそうに次の攻撃を仕掛けて追い詰めてくるし!!全く息つく間がねぇっ!!若者っ!おっさん舐めんな!!休ませろっ!!
「主基さんがちゃんと戦わないから、扉があかないんじゃないですか?」
悠紀が楽しそうに言った。そーいや、こいつ昔から遠慮のないやつだった!!
「待てっ! 待てって! 俺、ちゃんと戦ってるし、それにもう息続かねぇ!! 俺を殺す気かっ!?」
そう叫べば、悠紀が攻撃の手を止めた。息があがって座り込む俺に水を持ってきて、悠紀も隣りに座る。ブランクの長い俺にとってみれば毎回命がけだが、悠紀にとってみりゃただのトレーニングなんだろう。呼吸も全然乱れていねぇ。
てか、親父が言ってた『登録抹消』って、死んだから消されたってことじゃねぇの?と、一抹の不安すら感じる。大丈夫か、俺?生きてこの部屋から出られる?
それでも久しぶりの感覚を俺は楽しんでいた。
◇
あの後、ミギの代表になると返事をするとすぐ、俺が儀式に臨むための準備が始まった。
ふんどしに白い浴衣。毎日身体を清め、冷たい水に打たれたり、酒も煙草も与えられず、精進料理ばかり食わせられたり、儀式のために小さい頃やっていた左右流の空手の練習をさせられたり。
そして寝る時は狭い部屋に押し込まれた。布団の四隅には竹が立てられていて、紙垂のついた綱が張り巡らされていた。その部屋の前には睡眠時もかわるがわる祈祷に来る奴らがいて、オナニーもできやしなかった。まぁはじめは耳障りだったそんな祈祷の唱え言葉も、さすがに最後は子守唄のように聴こえてきて熟睡してたけど。
こんな儀式終わらせて、さっさと自由になろう。異能がなくなれば、すべてから開放される。
儀式の日は迫っていたし、それだけがモチベーションだった。
儀式の日。
国生みの言い伝えるある島。その島から少し離れた地図にない島。うっそうと木ばかりが生い茂る人の住んでいない小さな島の鳥居の前に俺は立っていた。
明かりは庭燎舎(各神門を照らす庭火を炊いた建物)の火と、儀式の参加者が持つ松明の明かりのみ。
時間は午後6時半だったが、街の灯りに慣れた目にはもっと夜遅くに感じた。
西の鳥居から入り、儀式を司る神主の元まで歩いてゆく。反対側からは俺とおそろいの白い御祭服を着た悠紀が現れた。背後には左右門の代表や関係者、皇族、テレビで見たことのある政治家なんかも儀式を見守っていた。
祭壇の前で悠紀と二人で並んでいれば(なんだか結婚式のようだな)とふざけた感想を持った。
隣に立つ悠紀は俺より大きかった。久しぶりだったが言葉を発するような雰囲気でもなく、互いに目を合わせ軽く会釈をしただけだった。
長い祈祷の後、神主と俺達二人、神饌(神様に供える食酒)を持つ神官、松明を持つ神官達数名とともに、最奥の儀式の間へと向かう。
たくさん連なる鳥居が、うっそうとした森の奥へと続いている。周りから聞こえてくるのは衣擦れの音と足音、そして動物や虫の音のみ。しばらく歩き続けると、その自然界の音も聞こえなくなった。
暗闇にぼんやりと浮かび上がる朱塗りの鳥居だけが目印となって俺達は歩き続けた。松明の灯りしかない闇の中。時間の感覚がなくなるような、同じ所をぐるぐる回っているだけなのでは、と思うほど変わらぬ視界の中を歩いてたどり着いた最後の鳥居。
その先もやはり闇だった。神主がなにかに触れるような仕草をすると、観音開きに空間が開いた。目が眩む様な真っ白な世界。その空間の中にはぽつんと一軒の茅葺きの建物があった。
神饌と松明を渡され、その空間に俺達二人だけが並んで入り、明かりを灯す。唱え言葉を言い終わったところで扉が閉まった。
今まであったはずの扉が他の面と同じ様に真っ白に変わり、そして空間は夜の闇に変化した。
俺は少し動揺したが、一回り年下の悠紀が落ち着いているので俺もじっとだまっていた。
事前に教えられていた通り、指定の部屋へ移動し、悠紀と二人で調理された穀物や海産、野菜などのお供え物を神座に捧げ、世の中の安寧を願う御告文を読んだ。
そして、二人で直来(神と同じものを食べる)をし、その部屋に敷かれている寝座で寝る。
初日はそれで終わり。
終わりだったんだが……
「はっ? 一緒に寝るの?」
あまりのことに初めて交わした会話がそれだった。
「……僕も『寝座で寝ろ』としか聞いていなくて……」
「てか1枚しかないじゃん!」
そこに敷かれている1枚の布団。いくらダブルベッドぐらいの大きさがあると言っても、おっさんと二人で寝なきゃいけないだなんて悠紀が可哀想過ぎる。
「ですよねぇ……」
「しょうがねぇ。お前がそこで寝ろ」
「え、でも、主基さんは?」
「一晩くらい寝なくたってなんとかなるし、俺は座ったままでも寝られる」
『神を下ろす』とか儀式の意味は打ち合わせで聞いた気がするんだけど、だからって同じ布団はさすがにないだろ?
「で、でも、僕も主基さんもここで寝ろって言われているんですよね? もしそれで儀式が上手くいかなかったら?」
そう言われれば、拒否することもできない。俺達は覚悟を決めて同じ布団に入った。
てか、しばらく抜いてないから、若いイケメンの体温を隣から感じれば、俺のちんこは無条件に反応しちゃうし。悠紀、ほんっとごめん。一晩だけのことだから許して。あと、バレませんように……。と必死に祈りながら俺は悠紀とは反対側に寝返りを打った。
◇
あまり眠れぬまま、俺達は目覚めて戦いの間へと移動した。儀式の進行通り、唱え言葉を合唱した後、悠紀と左右流の空手で勝負。
どちらが次の王かなんてあっという間に決まった。もともと勝つ気もない。
そもそも、こちらは男に抱かれるためだけに身体の見目を整えているだけのしがない風俗ライター。片や空手で全国優勝までした文武両道の大学生。即降参して終わり。別に悔しくもなんともない。
俺が親父達から聞いていたのはそれだけ。
本当にただ、それだけ。
さぁ、さっさとこんな所をでて、異能を失って生まれ変わった自分で、好みの男でも漁りにでも行くかな。もうあんな罪悪感を感じなくて良くなる。
なんて思っていたのに、扉が開きやしねぇ。
「次の王は悠紀くんですよー」
なんて空間の中で大声だしてみたけど、なんの変化もない。
「なにこれ。最低何日いなきゃいけないとかあんの?」と悠紀に聞いたが、悠紀も首を傾げている。
「その時によるみたいです。数日で出られる時もあれば、何年も扉があかなかったケースもあるらしくて……」
「はぁ? 何年ってそんなに!? てか、悠紀くん大学生だったよね? 学校大丈夫なの?」
「一応、長くなったら休学届を出すことにはなっているんですけど……」
そんなに長丁場になる儀式なのか、これは。国のためとか、卜占とか関係ねぇ。みんな断るわけだ。つか、こんなん時代遅れじゃね?
「でも、もう王も決まったし、終わってんのに、なんであかねぇの?」
「神託が下りてないからじゃないですかねぇ? それが下りないと扉はあかないって聞きましたけど……」
「は? 神託って?」
「すみません。僕もそれ以上は知らなくて。朝拝、夕拝だけちゃんとやっていたら後は自由にここで生活してろって言われました。神託が下りれば扉は開くって」
「あんのくっそ親父! ポンコツ秘書! ちゃんとそういう事は言っとけよな!」
俺はここにいない人物を思い出して悪態をつく。
「あ……主基さんは、外に待っている方とかいるんですか? その……恋人とか……」
「んなヤツいねーけど、ここじゃなんもできねーだろ?」
「なにも……?」
「酒とか煙草とかセッ……いや、えっと洗濯とか?」
「あぁ、煙草はさすがにダメだと思いますが、お酒は御神酒が届くから大丈夫ですよ? 飲みすぎないように、って当主様から言われました。洗濯とかは、普通に食事といっしょに新しいものが届くみたいですけど、あ、でも僕の異能『浄化』なんで、なにか気になるようなら僕に言ってください」
そうにっこり微笑まれれば、その男前っぷりに年甲斐もなく照れる。年齢が近ければ一発お願いするのになぁ、なんて思った。
てか、悠紀くんの異能は『浄化』なんだ。ホント今回の儀式は全く戦いに向いてない二人が選ばれたってことなのね。てか、手合わせのあれ、そうか。異能使ってなくてあんなに強いんだ。へー……。
とりあえず扉があくまで、二人の生活が始まった。その社の中は生活するには困らない作りになっていた。キッチンも風呂もトイレもちゃんとある。
どんなトリックなのか、食材も料理もいつの間にか冷蔵庫に入っていたし、白い空間が明るくなったり、闇に包まれたりして、なんとなく日の変化もわかった。
そもそも、この空間自体が不可思議なのだ。何が起きても不思議ではない。
段々二人の距離感も近づいてきて、夕食の時、俺は酒を飲みながら、悠紀の顔をまじまじと見た。
若さと実力に加えて、身長も俺より高い。顔だって良い。暇だから酒に酔って絡みはじめる。
「何だお前は、神に選ばれし子か。神の愛し子か」
そう言ってみりゃ、俺が読んでいた古い本を眺めていた悠紀が嬉しそうに顔を上げてはにかんだ。
褒めてねーよ。嫌味だよ。
こんな閉鎖空間うんざりだった。俺はいいかげんケツにちんこを入れてぇ。せめてオナニーさせろ。
悠紀め。いつでも涼し気な顔しやがって、おめーには性欲はねぇのか。お前のちんこよこせ。……って、もちろん言えるわけないけど。
てかね、ほんっっと暇なの。昼間は悠紀の稽古に付き合って組み手とかトレーニングする位しかやることねぇ。
幸いなのは、書庫みたいなもんがあることかな。最近流行りの本なんてもんはないけど、国生みだとか日本古来の民俗学的な本はあったりして、普段読まない分野だからなんとなく暇つぶしにはなった。まぁ大体読んでたら寝ちゃってるけど。
まぁ、俺だけじゃなくこんなおっさんと二人で生活させられている悠紀だって、ある意味被害者だしな。
「神に選ばれし……っていうのは主基さんもじゃないですか。この儀式の代表になるくらいだから」
「ミギは暇人が俺しかいなかっただけなの。こーんな、いつ出られるかわからない儀式に付き合ってらんねーの。お前だって大学忙しいんだろ? はー、さっさと開かねぇかな。どうやったら開くのかな、扉」
親父が言っていた、異能が消えるのはいつなのか。王が決まったときなのか、この空間から出るときなのかはわからない。ただ後者ならずっと俺と一緒にいるのは悠紀にとってもあまり宜しくないだろう。俺の異能を知っていたら、ヒダリは俺が代表になることを許さなかったんじゃないかな。だって俺の異能は……。
時間が経っても悠紀の態度はずっと変わらなかった。少々遠慮のないところもあるが、基本的には礼儀正しい良い子。
もしかしたら俺の異能は、悠紀が王になった時点で消えたのかもしれない。少しほっとしたが、それでも俺はできる限り一緒にいることを避けて、書庫のような部屋で過ごすようにした。
最初は面白いかもなんて思っていた内容にもすぐに飽きて、もっぱら俺の昼寝部屋になっていた。俺がここにいる時は、悠紀も気を使ってあまり現れなかった。
俺はふと思った。(もしかしてここでオナニーとかできちゃう?)日が経つごとに油断も生まれてくる。きっと悠紀も俺の姿が見えないところでしているのだろう。
浴衣の合わせから手を差し込んで、乳首を軽くこすこす円を描くようになぞれば、すぐにちんこが反応した。悠紀にバレないようにさっさとイってしまおうと急いでちんこを扱く。
「あぁ、クソっ! ケツに挿れてぇ!」
乳首をいじっていた指を後ろに回し、穴を出し入れする。こんなんじゃ足りない。もっと太くて硬いものを突っ込みたい。
◇
一度してしまえば、油断が生まれる。
午前中は悠紀に付き合ってトレーニングをするが、午後は別行動。俺は書庫の隅へと隠れオナニーをするのが日課になっていた。
指では物足りなくなった俺は、大麻、いわゆるお祓いの時に使う棒をケツに突っ込んでオナる。
なんて罰当たりな、だと?あんなものは、先端の白い紙、紙垂がついてなきゃただの棒。そもそも俺にとってはこの生活が罰みたいなもんだから関係ねぇ。
体内の少しぷっくり膨らんだ所へごりごりと当てれば、気持ちよさに腰が跳ねる。
俺と悠紀しかいない静かな儀式の空間。この空間に、俺の喘ぎ声が漏れないよう、必死に歯を食いしばって声を堪える。
やばい。このスリルに興奮する。
声を出してはいけないなら、誰のでも良いからちんこで口を塞いで欲しい。後ろの穴もちんこで埋めて、ガスガスと俺の体内を突いて、ケツを叩いて欲しい。ただひたすら快楽に溺れたい。何も考えないで済むように乱暴に犯されたい。
「んぅぅ……くぅ……んんっ……こんなんじゃ、足りないっ……もっと、ちんこ……欲しいっ……」
妄想に合わせて乱暴に棒を出し入れする。火照った身体は少々の痛みすら快楽となって脳に伝える。
自分で出し入れするのも腕がつかれてきた頃、俺は穴に突っ込んだ棒を絞り上げて中イキをキメる。睾丸がきゅんっと縮み、ぎゅっと体内と下腹が締まる。
「んんっ……いっ、くぅ……」
俺はちんこに触れずに射精した。久しぶりの感覚。あまりに気持ちのよい射精感に、ケツに棒を突っ込んだまま床に突っ伏し、ぴくんぴくんと痙攣する体内の余韻を楽しんだ。
……そう思っていた時期もありました。
「だ、騙された……!!」
儀式の間に悠紀と二人で閉じ込められて一週間。
今日も俺は左門の代表・悠紀と、儀式の間で手合わせをしている。
「もう、お前の勝ちは決まったのになんでだよっ!!」
俺は悠紀から繰り出される鋭い蹴りを防御しつつ、後ろに下がってダメージを軽減する。気を抜けば、ヒザから崩れ落ちそうな鋭い蹴り。それに堪えたと気を緩めれば、すぐに後ろ回し蹴りが飛んできた。必死に腕で防御して、更に後ろへと後ずさればあっという間に壁際に追い込まれる。
てか、マジであんな蹴り、まともに食らったら死ぬって!!
しかもこいつ、俺が壁際から逃げて、良いポジションとったらすぐ楽しそうに次の攻撃を仕掛けて追い詰めてくるし!!全く息つく間がねぇっ!!若者っ!おっさん舐めんな!!休ませろっ!!
「主基さんがちゃんと戦わないから、扉があかないんじゃないですか?」
悠紀が楽しそうに言った。そーいや、こいつ昔から遠慮のないやつだった!!
「待てっ! 待てって! 俺、ちゃんと戦ってるし、それにもう息続かねぇ!! 俺を殺す気かっ!?」
そう叫べば、悠紀が攻撃の手を止めた。息があがって座り込む俺に水を持ってきて、悠紀も隣りに座る。ブランクの長い俺にとってみれば毎回命がけだが、悠紀にとってみりゃただのトレーニングなんだろう。呼吸も全然乱れていねぇ。
てか、親父が言ってた『登録抹消』って、死んだから消されたってことじゃねぇの?と、一抹の不安すら感じる。大丈夫か、俺?生きてこの部屋から出られる?
それでも久しぶりの感覚を俺は楽しんでいた。
◇
あの後、ミギの代表になると返事をするとすぐ、俺が儀式に臨むための準備が始まった。
ふんどしに白い浴衣。毎日身体を清め、冷たい水に打たれたり、酒も煙草も与えられず、精進料理ばかり食わせられたり、儀式のために小さい頃やっていた左右流の空手の練習をさせられたり。
そして寝る時は狭い部屋に押し込まれた。布団の四隅には竹が立てられていて、紙垂のついた綱が張り巡らされていた。その部屋の前には睡眠時もかわるがわる祈祷に来る奴らがいて、オナニーもできやしなかった。まぁはじめは耳障りだったそんな祈祷の唱え言葉も、さすがに最後は子守唄のように聴こえてきて熟睡してたけど。
こんな儀式終わらせて、さっさと自由になろう。異能がなくなれば、すべてから開放される。
儀式の日は迫っていたし、それだけがモチベーションだった。
儀式の日。
国生みの言い伝えるある島。その島から少し離れた地図にない島。うっそうと木ばかりが生い茂る人の住んでいない小さな島の鳥居の前に俺は立っていた。
明かりは庭燎舎(各神門を照らす庭火を炊いた建物)の火と、儀式の参加者が持つ松明の明かりのみ。
時間は午後6時半だったが、街の灯りに慣れた目にはもっと夜遅くに感じた。
西の鳥居から入り、儀式を司る神主の元まで歩いてゆく。反対側からは俺とおそろいの白い御祭服を着た悠紀が現れた。背後には左右門の代表や関係者、皇族、テレビで見たことのある政治家なんかも儀式を見守っていた。
祭壇の前で悠紀と二人で並んでいれば(なんだか結婚式のようだな)とふざけた感想を持った。
隣に立つ悠紀は俺より大きかった。久しぶりだったが言葉を発するような雰囲気でもなく、互いに目を合わせ軽く会釈をしただけだった。
長い祈祷の後、神主と俺達二人、神饌(神様に供える食酒)を持つ神官、松明を持つ神官達数名とともに、最奥の儀式の間へと向かう。
たくさん連なる鳥居が、うっそうとした森の奥へと続いている。周りから聞こえてくるのは衣擦れの音と足音、そして動物や虫の音のみ。しばらく歩き続けると、その自然界の音も聞こえなくなった。
暗闇にぼんやりと浮かび上がる朱塗りの鳥居だけが目印となって俺達は歩き続けた。松明の灯りしかない闇の中。時間の感覚がなくなるような、同じ所をぐるぐる回っているだけなのでは、と思うほど変わらぬ視界の中を歩いてたどり着いた最後の鳥居。
その先もやはり闇だった。神主がなにかに触れるような仕草をすると、観音開きに空間が開いた。目が眩む様な真っ白な世界。その空間の中にはぽつんと一軒の茅葺きの建物があった。
神饌と松明を渡され、その空間に俺達二人だけが並んで入り、明かりを灯す。唱え言葉を言い終わったところで扉が閉まった。
今まであったはずの扉が他の面と同じ様に真っ白に変わり、そして空間は夜の闇に変化した。
俺は少し動揺したが、一回り年下の悠紀が落ち着いているので俺もじっとだまっていた。
事前に教えられていた通り、指定の部屋へ移動し、悠紀と二人で調理された穀物や海産、野菜などのお供え物を神座に捧げ、世の中の安寧を願う御告文を読んだ。
そして、二人で直来(神と同じものを食べる)をし、その部屋に敷かれている寝座で寝る。
初日はそれで終わり。
終わりだったんだが……
「はっ? 一緒に寝るの?」
あまりのことに初めて交わした会話がそれだった。
「……僕も『寝座で寝ろ』としか聞いていなくて……」
「てか1枚しかないじゃん!」
そこに敷かれている1枚の布団。いくらダブルベッドぐらいの大きさがあると言っても、おっさんと二人で寝なきゃいけないだなんて悠紀が可哀想過ぎる。
「ですよねぇ……」
「しょうがねぇ。お前がそこで寝ろ」
「え、でも、主基さんは?」
「一晩くらい寝なくたってなんとかなるし、俺は座ったままでも寝られる」
『神を下ろす』とか儀式の意味は打ち合わせで聞いた気がするんだけど、だからって同じ布団はさすがにないだろ?
「で、でも、僕も主基さんもここで寝ろって言われているんですよね? もしそれで儀式が上手くいかなかったら?」
そう言われれば、拒否することもできない。俺達は覚悟を決めて同じ布団に入った。
てか、しばらく抜いてないから、若いイケメンの体温を隣から感じれば、俺のちんこは無条件に反応しちゃうし。悠紀、ほんっとごめん。一晩だけのことだから許して。あと、バレませんように……。と必死に祈りながら俺は悠紀とは反対側に寝返りを打った。
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「その時によるみたいです。数日で出られる時もあれば、何年も扉があかなかったケースもあるらしくて……」
「はぁ? 何年ってそんなに!? てか、悠紀くん大学生だったよね? 学校大丈夫なの?」
「一応、長くなったら休学届を出すことにはなっているんですけど……」
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「でも、もう王も決まったし、終わってんのに、なんであかねぇの?」
「神託が下りてないからじゃないですかねぇ? それが下りないと扉はあかないって聞きましたけど……」
「は? 神託って?」
「すみません。僕もそれ以上は知らなくて。朝拝、夕拝だけちゃんとやっていたら後は自由にここで生活してろって言われました。神託が下りれば扉は開くって」
「あんのくっそ親父! ポンコツ秘書! ちゃんとそういう事は言っとけよな!」
俺はここにいない人物を思い出して悪態をつく。
「あ……主基さんは、外に待っている方とかいるんですか? その……恋人とか……」
「んなヤツいねーけど、ここじゃなんもできねーだろ?」
「なにも……?」
「酒とか煙草とかセッ……いや、えっと洗濯とか?」
「あぁ、煙草はさすがにダメだと思いますが、お酒は御神酒が届くから大丈夫ですよ? 飲みすぎないように、って当主様から言われました。洗濯とかは、普通に食事といっしょに新しいものが届くみたいですけど、あ、でも僕の異能『浄化』なんで、なにか気になるようなら僕に言ってください」
そうにっこり微笑まれれば、その男前っぷりに年甲斐もなく照れる。年齢が近ければ一発お願いするのになぁ、なんて思った。
てか、悠紀くんの異能は『浄化』なんだ。ホント今回の儀式は全く戦いに向いてない二人が選ばれたってことなのね。てか、手合わせのあれ、そうか。異能使ってなくてあんなに強いんだ。へー……。
とりあえず扉があくまで、二人の生活が始まった。その社の中は生活するには困らない作りになっていた。キッチンも風呂もトイレもちゃんとある。
どんなトリックなのか、食材も料理もいつの間にか冷蔵庫に入っていたし、白い空間が明るくなったり、闇に包まれたりして、なんとなく日の変化もわかった。
そもそも、この空間自体が不可思議なのだ。何が起きても不思議ではない。
段々二人の距離感も近づいてきて、夕食の時、俺は酒を飲みながら、悠紀の顔をまじまじと見た。
若さと実力に加えて、身長も俺より高い。顔だって良い。暇だから酒に酔って絡みはじめる。
「何だお前は、神に選ばれし子か。神の愛し子か」
そう言ってみりゃ、俺が読んでいた古い本を眺めていた悠紀が嬉しそうに顔を上げてはにかんだ。
褒めてねーよ。嫌味だよ。
こんな閉鎖空間うんざりだった。俺はいいかげんケツにちんこを入れてぇ。せめてオナニーさせろ。
悠紀め。いつでも涼し気な顔しやがって、おめーには性欲はねぇのか。お前のちんこよこせ。……って、もちろん言えるわけないけど。
てかね、ほんっっと暇なの。昼間は悠紀の稽古に付き合って組み手とかトレーニングする位しかやることねぇ。
幸いなのは、書庫みたいなもんがあることかな。最近流行りの本なんてもんはないけど、国生みだとか日本古来の民俗学的な本はあったりして、普段読まない分野だからなんとなく暇つぶしにはなった。まぁ大体読んでたら寝ちゃってるけど。
まぁ、俺だけじゃなくこんなおっさんと二人で生活させられている悠紀だって、ある意味被害者だしな。
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「ミギは暇人が俺しかいなかっただけなの。こーんな、いつ出られるかわからない儀式に付き合ってらんねーの。お前だって大学忙しいんだろ? はー、さっさと開かねぇかな。どうやったら開くのかな、扉」
親父が言っていた、異能が消えるのはいつなのか。王が決まったときなのか、この空間から出るときなのかはわからない。ただ後者ならずっと俺と一緒にいるのは悠紀にとってもあまり宜しくないだろう。俺の異能を知っていたら、ヒダリは俺が代表になることを許さなかったんじゃないかな。だって俺の異能は……。
時間が経っても悠紀の態度はずっと変わらなかった。少々遠慮のないところもあるが、基本的には礼儀正しい良い子。
もしかしたら俺の異能は、悠紀が王になった時点で消えたのかもしれない。少しほっとしたが、それでも俺はできる限り一緒にいることを避けて、書庫のような部屋で過ごすようにした。
最初は面白いかもなんて思っていた内容にもすぐに飽きて、もっぱら俺の昼寝部屋になっていた。俺がここにいる時は、悠紀も気を使ってあまり現れなかった。
俺はふと思った。(もしかしてここでオナニーとかできちゃう?)日が経つごとに油断も生まれてくる。きっと悠紀も俺の姿が見えないところでしているのだろう。
浴衣の合わせから手を差し込んで、乳首を軽くこすこす円を描くようになぞれば、すぐにちんこが反応した。悠紀にバレないようにさっさとイってしまおうと急いでちんこを扱く。
「あぁ、クソっ! ケツに挿れてぇ!」
乳首をいじっていた指を後ろに回し、穴を出し入れする。こんなんじゃ足りない。もっと太くて硬いものを突っ込みたい。
◇
一度してしまえば、油断が生まれる。
午前中は悠紀に付き合ってトレーニングをするが、午後は別行動。俺は書庫の隅へと隠れオナニーをするのが日課になっていた。
指では物足りなくなった俺は、大麻、いわゆるお祓いの時に使う棒をケツに突っ込んでオナる。
なんて罰当たりな、だと?あんなものは、先端の白い紙、紙垂がついてなきゃただの棒。そもそも俺にとってはこの生活が罰みたいなもんだから関係ねぇ。
体内の少しぷっくり膨らんだ所へごりごりと当てれば、気持ちよさに腰が跳ねる。
俺と悠紀しかいない静かな儀式の空間。この空間に、俺の喘ぎ声が漏れないよう、必死に歯を食いしばって声を堪える。
やばい。このスリルに興奮する。
声を出してはいけないなら、誰のでも良いからちんこで口を塞いで欲しい。後ろの穴もちんこで埋めて、ガスガスと俺の体内を突いて、ケツを叩いて欲しい。ただひたすら快楽に溺れたい。何も考えないで済むように乱暴に犯されたい。
「んぅぅ……くぅ……んんっ……こんなんじゃ、足りないっ……もっと、ちんこ……欲しいっ……」
妄想に合わせて乱暴に棒を出し入れする。火照った身体は少々の痛みすら快楽となって脳に伝える。
自分で出し入れするのも腕がつかれてきた頃、俺は穴に突っ込んだ棒を絞り上げて中イキをキメる。睾丸がきゅんっと縮み、ぎゅっと体内と下腹が締まる。
「んんっ……いっ、くぅ……」
俺はちんこに触れずに射精した。久しぶりの感覚。あまりに気持ちのよい射精感に、ケツに棒を突っ込んだまま床に突っ伏し、ぴくんぴくんと痙攣する体内の余韻を楽しんだ。
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「ま、まさか!?」
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弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
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