14 / 21
第14話 空隙の盾、略奪の剣
降りしきる雨が、ヴァルガスの掲げた聖剣の熱量で蒸発し、白い霧となって周囲を包んでいた。
カイトはリィネを背負ったまま、激しく地面を蹴って横へと飛んだ。
直後、彼がいた場所を純白の閃光が貫き、岩盤を溶岩のようにドロドロに溶かし去る。
「ほう。泥棒猫の分際で、勘だけは良いらしい」
ヴァルガスの声には、強者特有の退屈さと、冷徹な蔑みが混ざっていた。
彼は剣を振るうことさえせず、ただ指先を向けるだけで、常人なら一生をかけて習得するレベルの極大魔法を無造作に連射してくる。
カイトの右腕は、限界に近い悲鳴を上げていた。
先ほど国境の門を破壊するために使いすぎたエネルギーの残滓が、皮膚の下で暴れ回り、血管を内側から引き裂こうとしている。
(……クソ。近づけない……!)
カイトの「略奪」は、対象に触れることで初めて真価を発揮する。
しかしヴァルガスは、カイトの力を熟知しているかのように、常に一定の距離を保ち、圧倒的な魔力の質量で一方的に押し潰そうとしていた。
「どうした、鼠。その不浄な手で我が魔力を喰らってみせぬのか? ……もっとも、触れる前に貴様の肉体が光の塵と化すのが先だろうがな」
再び放たれる光の奔流。
カイトは逃げ切れないと直感した。
死の白光が視界を埋め尽くそうとしたその時、背中のリィネが、カイトの肩を強く叩いた。
「カイトさん、逃げないで! ……私が、道を造ります!」
リィネがカイトの背から身を乗り出し、その細い両手を前方に突き出した。
何の意味もない、魔力を持たぬ少女の抵抗。
ヴァルガスが嘲笑を浮かべようとした瞬間、不可解な現象が起きた。
カイトに向かって放たれた絶大な光の魔法が、リィネが広げた「見えない壁」に触れた途端、まるで最初から存在しなかったかのように、音もなく消失したのだ。
「――なっ!? 私の術式が、消滅しただと!?」
ヴァルガスの驚愕を、カイトは見逃さなかった。
リィネの体質。
注いでも溜まらない「空っぽの器」は、向かってくる魔法というエネルギーさえも、その虚無の中に飲み込んで無効化してしまったのだ。
「……リィネ!」
「今です、カイトさん!」
リィネの顔からは血気が失われ、その白い肌を黒い紋様がより深く蝕んでいく。
無理やり魔法を飲み込んだ代償は、彼女の肉体を確実に壊そうとしていた。
カイトは奥歯が砕けるほど噛み締め、爆発的な踏み込みを見せた。
リィネが切り開いた一瞬の「無魔の空白」。
カイトはそこを最短距離で駆け抜け、驚愕に目を見開くヴァルガスの懐へと飛び込む。
「不浄が……増長するな!!」
ヴァルガスが反射的に聖剣を振り下ろす。
カイトは避けない。
左肩で剣撃を受け止め、肉が断たれる衝撃を無視して、その右手をヴァルガスの胸部――心臓がある位置へと叩きつけた。
「――奪え!!」
カイトの右腕の紋様が、かつてないほど真っ赤に激昂した。
ヴァルガスの体内に蓄積されていた、教国最強を支える至高の魔力。
それが巨大な滝が逆流するように、カイトの手のひらへと吸い込まれていく。
「が、はっ……あ、あああああああ!!」
ヴァルガスの端正な顔が、恐怖で歪んだ。
自分が積み上げてきたすべて、魂の根源とも言える魔力が、底知れぬ深淵へと引きずり込まれていく感覚。
カイトの体には、ヴァルガスの膨大な魔力が濁流となって流れ込む。器が壊れる。意識が白濁する。
だが、その瞬間。
「……あ、ぐ……っ、大丈夫、です……流して……私に……!」
カイトの首筋に触れているリィネの指先から、溢れんばかりの「猛毒」が彼女の方へと吸い出されていく。
カイトが奪い、リィネが受け止める。
二人の肉体を繋ぐように魔力が循環し、かつてない規模のエネルギーが二人の間で渦を巻いた。
光と闇が混ざり合った衝撃が爆発し、国境の検問所を吹き飛ばした。
爆煙が晴れた後、そこには膝をつき、生気を失って呆然とするヴァルガスの姿があった。
教国最強の騎士は、もはや指一本動かす魔力さえ残されていなかった。
カイトは血に汚れた手でリィネを抱き上げ、よろめきながらも崩壊した門の先へと歩み出す。
背負った彼女の体は驚くほど重く、そして熱い。
「……リィネ、よくやった。……もう、大丈夫だ」
カイトの視線の先。
雨雲が切れ、そこには大陸の狭間に横たわる、静まり返った「中央海域」が広がっていた。
自分たちは、一線を越えた。
もう、後戻りはできない。
二人は傷だらけのまま、未知なる深淵へと足を踏み入れた。
カイトはリィネを背負ったまま、激しく地面を蹴って横へと飛んだ。
直後、彼がいた場所を純白の閃光が貫き、岩盤を溶岩のようにドロドロに溶かし去る。
「ほう。泥棒猫の分際で、勘だけは良いらしい」
ヴァルガスの声には、強者特有の退屈さと、冷徹な蔑みが混ざっていた。
彼は剣を振るうことさえせず、ただ指先を向けるだけで、常人なら一生をかけて習得するレベルの極大魔法を無造作に連射してくる。
カイトの右腕は、限界に近い悲鳴を上げていた。
先ほど国境の門を破壊するために使いすぎたエネルギーの残滓が、皮膚の下で暴れ回り、血管を内側から引き裂こうとしている。
(……クソ。近づけない……!)
カイトの「略奪」は、対象に触れることで初めて真価を発揮する。
しかしヴァルガスは、カイトの力を熟知しているかのように、常に一定の距離を保ち、圧倒的な魔力の質量で一方的に押し潰そうとしていた。
「どうした、鼠。その不浄な手で我が魔力を喰らってみせぬのか? ……もっとも、触れる前に貴様の肉体が光の塵と化すのが先だろうがな」
再び放たれる光の奔流。
カイトは逃げ切れないと直感した。
死の白光が視界を埋め尽くそうとしたその時、背中のリィネが、カイトの肩を強く叩いた。
「カイトさん、逃げないで! ……私が、道を造ります!」
リィネがカイトの背から身を乗り出し、その細い両手を前方に突き出した。
何の意味もない、魔力を持たぬ少女の抵抗。
ヴァルガスが嘲笑を浮かべようとした瞬間、不可解な現象が起きた。
カイトに向かって放たれた絶大な光の魔法が、リィネが広げた「見えない壁」に触れた途端、まるで最初から存在しなかったかのように、音もなく消失したのだ。
「――なっ!? 私の術式が、消滅しただと!?」
ヴァルガスの驚愕を、カイトは見逃さなかった。
リィネの体質。
注いでも溜まらない「空っぽの器」は、向かってくる魔法というエネルギーさえも、その虚無の中に飲み込んで無効化してしまったのだ。
「……リィネ!」
「今です、カイトさん!」
リィネの顔からは血気が失われ、その白い肌を黒い紋様がより深く蝕んでいく。
無理やり魔法を飲み込んだ代償は、彼女の肉体を確実に壊そうとしていた。
カイトは奥歯が砕けるほど噛み締め、爆発的な踏み込みを見せた。
リィネが切り開いた一瞬の「無魔の空白」。
カイトはそこを最短距離で駆け抜け、驚愕に目を見開くヴァルガスの懐へと飛び込む。
「不浄が……増長するな!!」
ヴァルガスが反射的に聖剣を振り下ろす。
カイトは避けない。
左肩で剣撃を受け止め、肉が断たれる衝撃を無視して、その右手をヴァルガスの胸部――心臓がある位置へと叩きつけた。
「――奪え!!」
カイトの右腕の紋様が、かつてないほど真っ赤に激昂した。
ヴァルガスの体内に蓄積されていた、教国最強を支える至高の魔力。
それが巨大な滝が逆流するように、カイトの手のひらへと吸い込まれていく。
「が、はっ……あ、あああああああ!!」
ヴァルガスの端正な顔が、恐怖で歪んだ。
自分が積み上げてきたすべて、魂の根源とも言える魔力が、底知れぬ深淵へと引きずり込まれていく感覚。
カイトの体には、ヴァルガスの膨大な魔力が濁流となって流れ込む。器が壊れる。意識が白濁する。
だが、その瞬間。
「……あ、ぐ……っ、大丈夫、です……流して……私に……!」
カイトの首筋に触れているリィネの指先から、溢れんばかりの「猛毒」が彼女の方へと吸い出されていく。
カイトが奪い、リィネが受け止める。
二人の肉体を繋ぐように魔力が循環し、かつてない規模のエネルギーが二人の間で渦を巻いた。
光と闇が混ざり合った衝撃が爆発し、国境の検問所を吹き飛ばした。
爆煙が晴れた後、そこには膝をつき、生気を失って呆然とするヴァルガスの姿があった。
教国最強の騎士は、もはや指一本動かす魔力さえ残されていなかった。
カイトは血に汚れた手でリィネを抱き上げ、よろめきながらも崩壊した門の先へと歩み出す。
背負った彼女の体は驚くほど重く、そして熱い。
「……リィネ、よくやった。……もう、大丈夫だ」
カイトの視線の先。
雨雲が切れ、そこには大陸の狭間に横たわる、静まり返った「中央海域」が広がっていた。
自分たちは、一線を越えた。
もう、後戻りはできない。
二人は傷だらけのまま、未知なる深淵へと足を踏み入れた。
あなたにおすすめの小説
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
神様の手違いで異世界転生した俺の魅了チートが、勇者のハーレムを根こそぎ奪って溺愛ハーレム作りました!
まさき
恋愛
ブラック企業で働き続けた俺、佐藤誠が過労で倒れ、気づけば異界の地。
「手違いで死なせちゃってごめん!」という神様から、お詫びに貰ったのは規格外の【魅了】スキル——。
だが、元社畜の俺にはその自覚が微塵もない!
ただ誠実に、普通に生きようとしているだけなのに、エルフの賢者、獣人の少女、最強の聖女、さらには魔王の娘までもが、俺の「社畜仕込みの優しさ」に絆されて居座り始める。
一方で、10年かけて仲間を集めたはずの「勇者・勝利」は、自身の傲慢さゆえに、誠へとなびく仲間たちを一人、また一人と失っていく。
「俺は勇者だぞ! なぜ手違い転生者に負けるんだあああ!?」
人界から天界、そして宇宙の創造へ——。
無自覚な誠実さで世界を塗り替えてしまう、元社畜の究極溺愛ハーレムファンタジー、ここに開幕!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった……。
この物語は、「竹取物語の月の世界へ帰った後の話」(男版)をコンセプトに展開していきます。
注1:ファンタジーというにはSFチックな展開もあります。
注2:この作品は、小説家になろう、カクヨム、テイルズでも公開していますが、構成が違う場合もあります。
異世界では地味職だった鍛冶師ですが、なぜか俺だけ伝説級装備を量産していた件
しほん
ファンタジー
鍛冶師──戦えない職業。だが、異世界に召喚された高校生・榊悠真の作る武具だけは、どんな魔王軍でも歯が立たなかった。
本人は「地味にコツコツやってるだけ」と思っているが、周囲から見れば人智を超えたチート性能。そんな無自覚最強の鍛冶師が、女勇者や王女、エルフ、美剣士たちに囲まれ、気づけばハーレム状態に!?
裏切り・ざまぁ・成り上がり──鍛冶師の火花が、世界を照らす異世界成長譚!
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
異世界転移しても何も変わらない? 〜実は出会うたびに最強の力を「吸い取る」チート持ちだった〜
みきもと
ファンタジー
主人公「風間章」{かざまあきら}
ある日当然意識を失い、気がつくと森の中で見たこともない景気
異世界に引き込まれたような・・・詳細は不明
しかし定番とも言えるスキルや魔法も使えない
森を彷徨う。古びた家を見つけ誰も住んでいないのでそこに住みだす。
しかし彼はまだ自分の能力に気づいていない。
人の能力を吸収して成長するその力に・・・・
【異世界でも「おじさん」は、マイペースに掃除から始める】
ブラック企業を辞め、異世界の森にある古民家へ転移したアキラ。
誰もいない静かな場所で、彼が始めたのは「自分らしく生きるためのお掃除」だった。
しかし、その何気ない動作一つ一つが、実はこの世界のシステムに干渉していた。
静寂の中に秘められた、真の力の目覚めを描くプロローグ。
主人公「風間章」{かざまあきら}
ある日当然意識を失い、気がつくと森の中で見たこともない景気
異世界に引き込まれたような・・・詳細は不明
しかし定番とも言えるスキルや魔法も使えない
森を彷徨う。古びた家を見つけ誰も住んでいないのでそこに住みだす。
しかし彼はまだ自分の能力に気づいていない。
人の能力を吸収して成長するその力に・・・・
なんとか生き延びて入るが他に人影もない
動物?のようなものを狩ってはその日を過ごす毎日
月日は流れ数カ月、なんとか生活は出来ているある日
人の声が聞こえてくる?耳を澄ませるとなにかと争っているような声と叫び!?
それは人?エルフのような不忘だ
獣と暖かっているようだったが、そのエルフは怪我をしている。
彼の能力は未知数で未だに彼自身もきづいてない能力。
そしてそれは広大な能力であり100年に1人といない珍しい能力である。
わくわくドキドキ、そしてラブストーリもありの物語。成長していく彼の物語
この作品は1話毎が短めになっています。
おおよそ2000文字前後ほどですので、話ごとにバラツキがあります。
「本作品はカクヨムにも掲載しています。」
おじさんが異世界転移してしまった。
お茶飲み人の愛自好吾(あいじこうご)
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。