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【第一章】悪役令息は行動する
(4)ゲームの主人公リズ・グラフィット
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保健室。
BLゲームに限らず、保健室とはイベントの宝庫だ。
貧血の生徒を担ぎ込んだり、気を失った生徒を担ぎ込んだり、体育で怪我をした生徒を担ぎ込んだり、ここで授業をサボる生徒との遭遇などなど…思い出すだけでもきりがない。
学園が舞台の物語ではかかせない場所の一つである。
そんな場所で、可愛い主人公のリズと悪役令息ベリルは二人っきり。
保健室の担当医はいない。
しばらく帰ってこないという直感が俺の中で囁いている。
そういうところは本当にこの世界がBLゲームの世界だな…と思う。
ここに来るまでの廊下で、すでに俺の手を借りなくても一人で立てるようになったリズは怯えたまま腕の中にいる。
もう支え無しで立てるようだが、それを告げるとベリルである俺を拒絶する形で反感を買うかもしれないことから、どうしようかと悩んでいるようだった。
その気持わかるぞ…前世の記憶にある。
ありがた迷惑というやつだ。
(なんというか…その場の空気で相手に「ありがとう」といわざるおえない雰囲気が漂っているが、本人からしてみればひたすらに迷惑なのでこの状態を我慢するしかない状況ってやつか?)
本当に申し訳ないと思う。
どちらかというと、俺はリズに共感するタイプの人間(前世はモブ顔だけれど)なので、俺の迷惑が全て俺自身の首を絞めているような感覚に陥る。
保健室の中は入口付近に内科の診察室のごとく向き合った椅子が一つずつ置かれており、壁際にあるデスク横の棚には簡易的な薬剤や包帯などが収納されている。
その他のスペースはベットが等間隔で配置され、カーテンで区切れるようになっている場所だ。
今はカーテンも全て開放されており、部屋の全体が見える。
ここの部屋には誰もいない。
奥に繋がる二つの扉にはシャワー室や備品保管庫に繋がっている。
どこの部屋にも人の気配はなかった。
俺は一つのベッドに近づくと、リズをそこに下ろす。
「!?」
そして、カーテンに手をかけると引っ張り、二人がいるベットだけを四角に区切る。
彼に警戒された気配を感じながら俺は振り返った。
ベッドに座り、両手を膝の上に乗せて俺を見上げるリズを見つめる。
「リズ、君と話がしたい」
ゲームのイベント外だからこそ、俺はこのゲームの主人公であるリズに声をかけた。
「な、なんのお話でしょうか…?」
震えながらリズは問いかける。
…そりゃそうだ…
二日続けて手コキを行った後だ。
一日目はその後に輪姦、二日目はこうして保健室に連れ込んで二人きりだもんな…
だがフランツがいる場所で話すわけにもいかなかったので、こうして彼と一対一で話す必要があった。
許してくれ。
…いや、許さなくてもいい。
俺は自分の保身のために本編のルートをたどろうと決めたのだから。
「これからの学園生活の中で、君には様々が困難が待っている。大体俺のせいだけれども…」
「???」
リズは小首をかしげている。
何を言っているのか、わけがわからなくてもいいよ。うん。
俺はそのまま話しを続ける。
「なにか困ったことがあればフランツを頼ってくれ。あいつは何かと根が真面目だから君の相談や悩みとも紳士に向き合ってくれるはずだ」
実際、ゲームの中のフランツは一番真面目で頼りがいのある良いやつだった。
リズの助けになってくれる。
「詳しくは言えないが、俺は君に対して害を及ぼす存在だ。これからの蛮行を許してくれとは言わない…許されなくて当然の事だから」
「ベリル様…」
「これからの俺は本気で君を貶めるから、だから」
そこまで俺が言ったところで、リズは膝に乗せた手を解くと俺の手をとった。
その動作も恐る恐るという表現がふさわしく、震えながら俺の手を両手で包み込む。
「…ベリル様の手…震えています」
そこで俺はハッとする。
自分の手が震えており血の気が引いていた事を。
リズの手も震えていたが、俺の手を包む両手は暖かかった。
「こんな僕が言葉を口にするのはおこがましいかもしれません…それでも、今のベリル様は見ていられません」
「…。」
「僕は大丈夫です」
大丈夫なわけがあるか。
君の方が全面的な被害者だぞ?
たぶん今、俺にほだされそうになっているその感情は、ストックホルムなんとかというやつじゃないのか?
考え直してくれ。
そんな内心の突っ込みなんてリズに聞こえるはずもない。
「ベリル様の事情は平民である僕には知ることも許されません…それでも、貴方が困り悩んでいるのは伝わりました」
「…。」
まずい。
伝わっちゃったか…
俺としては、なんかそれっぽい警告をミステリアスに成し遂げておきたかったのだが…
リズが見ていられないと思うほどに俺は頼りない悪役らしい。
「もし、その困り事がどうにもならなかったら…その時にベリル様のお話を聞く方がいなければ…僕にお話してください…すみません。こんなことを僕が喋ってしまい…ごめんなさい」
最後の方はしりすぼみになってしまい、声も小さくなっていた。
だが、俺の心には救いの手のように感じていた。
(主人公であるリズに全てを話す…その手もあるのか…)
だが、それこそゲームとはかけ離れた展開へと向かい、俺の未来はどうしようもなくなるかもしれない。
(覚悟が必要だ…)
だがここまで切実に俺と向かい合ってくれたリズに感謝したかった。
「ありがとうリズ」
「!」
「…もし、その時がきたら君に話そう」
「べ、ベリル様…!」
リズはぱぁっと表情を明るくする。
「ぜひ、その時をお待ちしております!」
…それこそ、なんでこんなにいい子を犠牲にしなければこのゲームは成立しないんだ。
俺は自分の保身のためにこんな子を奴隷扱いして、性的にいじめ抜くという道を選んだ最低な人間だ。
「…だが、ここを出たら俺はリズを今まで通りに扱うからな?」
「そ、それは…わかりました」
健気にこくこく頷くリズを眺めながら、俺は罪悪感で一杯になる。
この子、抱きしめてもいいですか…?
それこそ変態の所業になってしまう。
だが、言葉では表現できないこの感情のやり場に困った俺は、リズの手を振り払って彼を両手で抱きしめていた。
「ふぇっ!?」
動揺したリズの声が腕の中から聞こえる。
背中に手を伸ばして抱きしめた。
リズは体を強張らせて固まっていたが、しばらくすると緊張を解いて、ゆっくりと俺の背中を抱きしめ返してくれた。
体の震えはもうない。
俺を包み込む両手はとても暖かかった。
その時だった。
バタンと出入り口のドアが開く。
BLゲームに限らず、保健室とはイベントの宝庫だ。
貧血の生徒を担ぎ込んだり、気を失った生徒を担ぎ込んだり、体育で怪我をした生徒を担ぎ込んだり、ここで授業をサボる生徒との遭遇などなど…思い出すだけでもきりがない。
学園が舞台の物語ではかかせない場所の一つである。
そんな場所で、可愛い主人公のリズと悪役令息ベリルは二人っきり。
保健室の担当医はいない。
しばらく帰ってこないという直感が俺の中で囁いている。
そういうところは本当にこの世界がBLゲームの世界だな…と思う。
ここに来るまでの廊下で、すでに俺の手を借りなくても一人で立てるようになったリズは怯えたまま腕の中にいる。
もう支え無しで立てるようだが、それを告げるとベリルである俺を拒絶する形で反感を買うかもしれないことから、どうしようかと悩んでいるようだった。
その気持わかるぞ…前世の記憶にある。
ありがた迷惑というやつだ。
(なんというか…その場の空気で相手に「ありがとう」といわざるおえない雰囲気が漂っているが、本人からしてみればひたすらに迷惑なのでこの状態を我慢するしかない状況ってやつか?)
本当に申し訳ないと思う。
どちらかというと、俺はリズに共感するタイプの人間(前世はモブ顔だけれど)なので、俺の迷惑が全て俺自身の首を絞めているような感覚に陥る。
保健室の中は入口付近に内科の診察室のごとく向き合った椅子が一つずつ置かれており、壁際にあるデスク横の棚には簡易的な薬剤や包帯などが収納されている。
その他のスペースはベットが等間隔で配置され、カーテンで区切れるようになっている場所だ。
今はカーテンも全て開放されており、部屋の全体が見える。
ここの部屋には誰もいない。
奥に繋がる二つの扉にはシャワー室や備品保管庫に繋がっている。
どこの部屋にも人の気配はなかった。
俺は一つのベッドに近づくと、リズをそこに下ろす。
「!?」
そして、カーテンに手をかけると引っ張り、二人がいるベットだけを四角に区切る。
彼に警戒された気配を感じながら俺は振り返った。
ベッドに座り、両手を膝の上に乗せて俺を見上げるリズを見つめる。
「リズ、君と話がしたい」
ゲームのイベント外だからこそ、俺はこのゲームの主人公であるリズに声をかけた。
「な、なんのお話でしょうか…?」
震えながらリズは問いかける。
…そりゃそうだ…
二日続けて手コキを行った後だ。
一日目はその後に輪姦、二日目はこうして保健室に連れ込んで二人きりだもんな…
だがフランツがいる場所で話すわけにもいかなかったので、こうして彼と一対一で話す必要があった。
許してくれ。
…いや、許さなくてもいい。
俺は自分の保身のために本編のルートをたどろうと決めたのだから。
「これからの学園生活の中で、君には様々が困難が待っている。大体俺のせいだけれども…」
「???」
リズは小首をかしげている。
何を言っているのか、わけがわからなくてもいいよ。うん。
俺はそのまま話しを続ける。
「なにか困ったことがあればフランツを頼ってくれ。あいつは何かと根が真面目だから君の相談や悩みとも紳士に向き合ってくれるはずだ」
実際、ゲームの中のフランツは一番真面目で頼りがいのある良いやつだった。
リズの助けになってくれる。
「詳しくは言えないが、俺は君に対して害を及ぼす存在だ。これからの蛮行を許してくれとは言わない…許されなくて当然の事だから」
「ベリル様…」
「これからの俺は本気で君を貶めるから、だから」
そこまで俺が言ったところで、リズは膝に乗せた手を解くと俺の手をとった。
その動作も恐る恐るという表現がふさわしく、震えながら俺の手を両手で包み込む。
「…ベリル様の手…震えています」
そこで俺はハッとする。
自分の手が震えており血の気が引いていた事を。
リズの手も震えていたが、俺の手を包む両手は暖かかった。
「こんな僕が言葉を口にするのはおこがましいかもしれません…それでも、今のベリル様は見ていられません」
「…。」
「僕は大丈夫です」
大丈夫なわけがあるか。
君の方が全面的な被害者だぞ?
たぶん今、俺にほだされそうになっているその感情は、ストックホルムなんとかというやつじゃないのか?
考え直してくれ。
そんな内心の突っ込みなんてリズに聞こえるはずもない。
「ベリル様の事情は平民である僕には知ることも許されません…それでも、貴方が困り悩んでいるのは伝わりました」
「…。」
まずい。
伝わっちゃったか…
俺としては、なんかそれっぽい警告をミステリアスに成し遂げておきたかったのだが…
リズが見ていられないと思うほどに俺は頼りない悪役らしい。
「もし、その困り事がどうにもならなかったら…その時にベリル様のお話を聞く方がいなければ…僕にお話してください…すみません。こんなことを僕が喋ってしまい…ごめんなさい」
最後の方はしりすぼみになってしまい、声も小さくなっていた。
だが、俺の心には救いの手のように感じていた。
(主人公であるリズに全てを話す…その手もあるのか…)
だが、それこそゲームとはかけ離れた展開へと向かい、俺の未来はどうしようもなくなるかもしれない。
(覚悟が必要だ…)
だがここまで切実に俺と向かい合ってくれたリズに感謝したかった。
「ありがとうリズ」
「!」
「…もし、その時がきたら君に話そう」
「べ、ベリル様…!」
リズはぱぁっと表情を明るくする。
「ぜひ、その時をお待ちしております!」
…それこそ、なんでこんなにいい子を犠牲にしなければこのゲームは成立しないんだ。
俺は自分の保身のためにこんな子を奴隷扱いして、性的にいじめ抜くという道を選んだ最低な人間だ。
「…だが、ここを出たら俺はリズを今まで通りに扱うからな?」
「そ、それは…わかりました」
健気にこくこく頷くリズを眺めながら、俺は罪悪感で一杯になる。
この子、抱きしめてもいいですか…?
それこそ変態の所業になってしまう。
だが、言葉では表現できないこの感情のやり場に困った俺は、リズの手を振り払って彼を両手で抱きしめていた。
「ふぇっ!?」
動揺したリズの声が腕の中から聞こえる。
背中に手を伸ばして抱きしめた。
リズは体を強張らせて固まっていたが、しばらくすると緊張を解いて、ゆっくりと俺の背中を抱きしめ返してくれた。
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