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【第五章】サイラス・フォン・ウォレンス
(1)悪役令息と護衛騎士
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目の前にはニコニコと微笑む男が一人。
彼は俺の正面のテーブルで焼き菓子をつまみながら口を開いた。
「お招きくださりありがとうございます。いやぁ、フェリスト公爵家の方とこうして一対一でお茶を飲む機会が訪れるとは思いませんでした~」
呑気に弾んだ声音でそんな事を言っている。
柔らかいウエーブが流れる赤毛の前髪は目元で切りそろえられ、エメラルドグリーンの瞳の目尻は垂れている。
右目の泣きぼくろが印象的。
鼻筋は男らしいがゴツすぎず、薄い唇も相まってどこか甘ったるい雰囲気を醸し出していた。
彼の名はサイラス・フォン・ウォレンス。
このゲームの攻略対象の一人である。
レブラス王国の王族を守る騎士団に所属する団長の息子だ。
ウォレンス家とは昔から王族を守る騎士の家系であり、サイラスも例外ではなかった。
彼はゲーム内のフランツが連れて歩く護衛騎士その人である。
フランツの幼馴染であり、昔から交流もある。
入学から一ヶ月以上たった今頃になって、なぜ学園に現れたのかというと彼の事情によるものだ。
…厳密に言えば、サイラスは元々フランツの兄であるフランベルク王子の騎士なのだが、なぜこのゲームではフランツの護衛になっているのかというと…
(戦いの腕は良いが、勤務先で女を抱きまくって問題を起こした罰で男子校に放り込まれたんだっけ?)
サイラスはお決まりのキャラ属性として『女好き』の設定だった。
いわゆるヤリチンである。
勤務先で女性を口説き回り痴情のもつれで問題を起こしていた。
それにうんざりした騎士団長がフランベルク王子と交渉し、男子校に通うフランツの騎士に任命した。
それが突然決まったため、サイラスは入学式には出席していない。
女性のいない環境に放り込む事によって荒治療を狙ったお家の事情のそれである。
本来のゲームに登場するサイラスは女性がいない男子校に絶望しながら学園生活を過ごし、それでも男を抱く気にはなれなかった。
だが、奴隷のリズと出会った事によりお試し感覚で可愛い男を抱いてみるとハマってしまい、そこから交流を重ねるうちにリズへ好意を寄せはじめる。
そんなリズを助けるために奮闘するというサイラスルートの物語だ。
無論その過程でサイラスはリズを何度も抱くことになるので主人公を守る立場にいるフランツに咎められたり、サイラスルートはエンディングまで何かと立場だったり身分だったり障害が発生する。
だが、正直に言うと俺はサイラスに対してそこまで警戒していなかった。
この男、元々悪役令息のベリルには興味がないのである。
俺は眼中にない。
いくらベリルが美少年だといってもリズとベリルの性格は間逆であり、恋愛対象には入らないのである。
それにサイラスがリズと会うためには秘密倶楽部を利用しているため、ベリルが行う多少の事には目をつぶるという柔軟な対応をする。
そして警戒しないもう一つの理由は、サイラスはベリルの前に立ちはだかることはないのである。
サイラスとフランツがベリルと敵対する場合、決まってフランツがベリルの相手をする。
理由としては、魔法を扱うベリルの相手ならフランツの方が有効だからだろう。
俺の視点からサイラスに対して不安に思う要素は少ない。
とはいえ、なんでそんな攻略対象相手に中庭のテラス席で昼にお茶をしばいているのかというと、彼にリズを紹介するためである。
原作のサイラスはベリルの紹介により秘密倶楽部を知り、向かった先で奴隷のリズと出会う。
俺は悪役令息らしく原作ゲームをなぞるためにこうしてサイラスを呼び出していた。
「わぁ~、良い茶葉ですね!俺、この紅茶大好きですよ~」
彼はへにゃりと破顔してティーカップに口をつけた。
そのセリフがお世辞だったとしても好感触である。
サイラスに関しては、フランツと食の好みが似ているという情報だったはず…そんなゲームプレイ中の記憶が残っている。
フランツが子供の頃に飲んでいた茶葉を指定して正解だった。
「それで、本題は何でしょうか?わざわざ俺を呼び出した事には理由がありますよね?」
柔らかく話題を切り替えるとサイラスは問う。
俺としては話が早くて助かる。
「サイラス。お前もこの学園に入学した貴族なら人を従える権利がある」
「人を従える権利、ですか?」
「丁度うちのクラスに良い生徒がいる。どうだ、夜の相手をしてみては?」
「ですが…その生徒って男ですよね?」
「まぁそうだが、彼は事情があってフェリスト公爵家に借りを作った生徒なんだ。彼を助けると思って一度会ってみてくれ。きっと気に入るはずだよ」
俺はもったいぶった言い方をすると、ゲームのシナリオをなぞるべく秘密倶楽部を説明して目の前の男にリズを紹介した。
彼は俺の正面のテーブルで焼き菓子をつまみながら口を開いた。
「お招きくださりありがとうございます。いやぁ、フェリスト公爵家の方とこうして一対一でお茶を飲む機会が訪れるとは思いませんでした~」
呑気に弾んだ声音でそんな事を言っている。
柔らかいウエーブが流れる赤毛の前髪は目元で切りそろえられ、エメラルドグリーンの瞳の目尻は垂れている。
右目の泣きぼくろが印象的。
鼻筋は男らしいがゴツすぎず、薄い唇も相まってどこか甘ったるい雰囲気を醸し出していた。
彼の名はサイラス・フォン・ウォレンス。
このゲームの攻略対象の一人である。
レブラス王国の王族を守る騎士団に所属する団長の息子だ。
ウォレンス家とは昔から王族を守る騎士の家系であり、サイラスも例外ではなかった。
彼はゲーム内のフランツが連れて歩く護衛騎士その人である。
フランツの幼馴染であり、昔から交流もある。
入学から一ヶ月以上たった今頃になって、なぜ学園に現れたのかというと彼の事情によるものだ。
…厳密に言えば、サイラスは元々フランツの兄であるフランベルク王子の騎士なのだが、なぜこのゲームではフランツの護衛になっているのかというと…
(戦いの腕は良いが、勤務先で女を抱きまくって問題を起こした罰で男子校に放り込まれたんだっけ?)
サイラスはお決まりのキャラ属性として『女好き』の設定だった。
いわゆるヤリチンである。
勤務先で女性を口説き回り痴情のもつれで問題を起こしていた。
それにうんざりした騎士団長がフランベルク王子と交渉し、男子校に通うフランツの騎士に任命した。
それが突然決まったため、サイラスは入学式には出席していない。
女性のいない環境に放り込む事によって荒治療を狙ったお家の事情のそれである。
本来のゲームに登場するサイラスは女性がいない男子校に絶望しながら学園生活を過ごし、それでも男を抱く気にはなれなかった。
だが、奴隷のリズと出会った事によりお試し感覚で可愛い男を抱いてみるとハマってしまい、そこから交流を重ねるうちにリズへ好意を寄せはじめる。
そんなリズを助けるために奮闘するというサイラスルートの物語だ。
無論その過程でサイラスはリズを何度も抱くことになるので主人公を守る立場にいるフランツに咎められたり、サイラスルートはエンディングまで何かと立場だったり身分だったり障害が発生する。
だが、正直に言うと俺はサイラスに対してそこまで警戒していなかった。
この男、元々悪役令息のベリルには興味がないのである。
俺は眼中にない。
いくらベリルが美少年だといってもリズとベリルの性格は間逆であり、恋愛対象には入らないのである。
それにサイラスがリズと会うためには秘密倶楽部を利用しているため、ベリルが行う多少の事には目をつぶるという柔軟な対応をする。
そして警戒しないもう一つの理由は、サイラスはベリルの前に立ちはだかることはないのである。
サイラスとフランツがベリルと敵対する場合、決まってフランツがベリルの相手をする。
理由としては、魔法を扱うベリルの相手ならフランツの方が有効だからだろう。
俺の視点からサイラスに対して不安に思う要素は少ない。
とはいえ、なんでそんな攻略対象相手に中庭のテラス席で昼にお茶をしばいているのかというと、彼にリズを紹介するためである。
原作のサイラスはベリルの紹介により秘密倶楽部を知り、向かった先で奴隷のリズと出会う。
俺は悪役令息らしく原作ゲームをなぞるためにこうしてサイラスを呼び出していた。
「わぁ~、良い茶葉ですね!俺、この紅茶大好きですよ~」
彼はへにゃりと破顔してティーカップに口をつけた。
そのセリフがお世辞だったとしても好感触である。
サイラスに関しては、フランツと食の好みが似ているという情報だったはず…そんなゲームプレイ中の記憶が残っている。
フランツが子供の頃に飲んでいた茶葉を指定して正解だった。
「それで、本題は何でしょうか?わざわざ俺を呼び出した事には理由がありますよね?」
柔らかく話題を切り替えるとサイラスは問う。
俺としては話が早くて助かる。
「サイラス。お前もこの学園に入学した貴族なら人を従える権利がある」
「人を従える権利、ですか?」
「丁度うちのクラスに良い生徒がいる。どうだ、夜の相手をしてみては?」
「ですが…その生徒って男ですよね?」
「まぁそうだが、彼は事情があってフェリスト公爵家に借りを作った生徒なんだ。彼を助けると思って一度会ってみてくれ。きっと気に入るはずだよ」
俺はもったいぶった言い方をすると、ゲームのシナリオをなぞるべく秘密倶楽部を説明して目の前の男にリズを紹介した。
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