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1. 留年の危機⁈ サンタクロースになりたい!
しおりを挟む「リタ。お前、次赤点取ったら留年だからな」
「えぇっ!」
クリスマス本番まであと約一週間という時に、担任から告げられた余命宣告に近いそれ。
ここは某国某地方に人知れず設立されたサンタ養成学校だ。
この国に住まう者は老若男女問わず、皆サンタクロースになる宿命を背負って生まれる。それ以外の道は存在しないし、そもそも考えたことも無かった。なによりみんな「サンタクロース」という職業に、夢と希望、誇りとやりがいを持っているのだ。
かくいう僕も、両親や周りの人々の喜びに満ち溢れた働きぶりを見て、早くサンタクロースになりたいと思っている一人であるのだが……冒頭の通り、どうやら留年の危機らしい。
はじめて生徒指導室に呼び出された僕は、それだけでも緊張と恐怖のあまり死にそうだったというのに、まさかの展開に頭が追い付いていなかった。
「な、な、なんでですかっ」
「なんでって……お前、サンタ学の筆記試験、毎回赤点だろ?」
「…………。はい……」
サンタ養成学校では、通常教育の他に『サンタ学』という唯一無二の科目が特設されている。サンタクロースになるための教育に何よりも力を入れているこの学校では、普通科目は試験が免除されるのだが、サンタ学に限っては実技と筆記の試験が毎学期末に実施されるのだ。
絶対にサンタクロースになりたい僕は、絵にかいたような優等生として日々過ごしているのだが……なぜかいつも試験の結果が付いてこない。
(普段の授業はちゃんと聞いているし、試験勉強だって絶対誰よりも頑張っているはずなのに……!)
級友たちとの遊びに現を抜かすこともなく、また、寝る間も惜しんで勉学に励んでいるというのに何故なのか。
「さすがにどんなに真面目に授業を受けていて、生活態度が良かったとしても、試験の結果があれじゃあな……残念だけど進級はさせられないよ」
「そ、そんなぁ……っ」
留年=サンタクロースになれるのが、更に遅くなるってことじゃないか!
そもそも、うちはそんなに裕福でもないから、一年余分に授業料を払わないといけないことになったら、学校を辞めろと言われるかもしれない。そうしたら僕はどうやってサンタクロースになればいいんだ?もしかして国外追放?そんなの嫌だ!!
「なんとかならないんですかっ?」
「こればっかりは自分で頑張ってもらうしかないからなぁ。……しかし、だ。今回は特別に助っ人を用意したぞ」
「……助っ人……?」
涙目で縋りつく僕に対して、担任は鷹揚に頷きながら、室内の奥に設置された本棚の方へと視線を向けた。今まで全く気付いていなかったけど、僕の位置からは本棚の陰になった場所に、一人の男子生徒がいるのが見える。僕の他にも誰か呼び出されていたのか?
「ちょっとセンセ~。俺、やるなんて言ってないけど?」
「サイ……お前は試験の点数は良くても、普段の生活態度が悪すぎる。断ってもいいが、内申バツでお前も留年するぞ」
ふぁぁ、と欠伸をしながら現れたのは、同じクラスのサイだった。
普段級友と会話すらしない僕でも名前を知っている、校内きってのヤリチンチャラ男。とっかえひっかえ相手を替えては、たまに教室内でも痴情の縺れと思わしき喧嘩を勃発させている。学校では勉強に集中したい僕にとっては、非常に邪魔になる相手だったから嫌でも覚えてしまった。
(まさか、こいつが助っ人……?)
僕は相当訝しげな表情をしていたのだろう。担任はサイの形のいい頭を小突きながら、軽く咳ばらいをした。
「あー、信じられないかもしれないがな、こいつはサンタ学の成績だけは優秀なんだよ。毎回最低でも上位五位までには入っている」
「えっ……!?」
こいつが!?
なんで!?
驚きのあまり、サイの顔を仰ぎ見ると、ニヤリと笑った男が前期の成績表を見せてきた。
「センセーに持ってこいって言われたから準備したけどさ……もしかして、この為? はい、これ。この間の試験は学年三位でーす♡」
「う、うそ……」
そこにはたしかに『筆記試験九十六点、実技試験A+、順位三』の文字が並んでいた。どれも普段見ている自分の成績からは想像もできないような高得点だった。
「どうだ、信じたか? 悪いが先生は一人の生徒だけに付きっきりで個別指導をすることは出来ないんだ」
「それは……仕方がないと思います……」
昨今いろいろな問題も取り沙汰されているし、依怙贔屓だ!なんて言われたら、先生も僕も堪ったものではない。でも、だからといって、どうして助っ人として選ばれたのがサイなんだ!
「リタにサンタ学を教えて成績を向上させれば、サイのこれまでの素行不良に関しては目を瞑る。リタは試験結果以外に問題となる点はないので、今回の試験が乗り切れれば何とかなるからな」
名案、名案。と相好を崩している担任は、肩の荷が下りたような清々しい表情をしていた。いや、まだ何も始まってすらいないんですが!?
「真面目なリタのことだ。何かコツさえ掴めれば、一週間もあればどうにかなるだろう。二人とも、絶対留年するなよ」
「仕方ないかぁ。ま、頑張ろうねぇ、リタちゃん♡」
「……うぅぅ……」
どうやら僕がサンタクロースになる為には、これ以外の道は残されていないようだ。
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