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4月
side 黒瀬
しおりを挟む翌日転入した高校で挨拶を終えると、案の定、クラスの女に群がられる。
オリエンテーションや授業で拘束されている間はいいのだが、全ての休憩時間で逃げるように他所で時間を潰していたら、放課後になって帰るところを複数人に取り囲まれてしまった。少しはこちらの気持ちも察してくれよ。
うんざりして窓の外を見ながら、時間が過ぎるのを待っていると、俺の聴きたかった声がした気がする。
「……あれ? 黒瀬、くん……?」
「乙成」
考えすぎて聞こえた空耳かと思ったが、どうやらそうでは無いようだ。まさか、乙成もこの学校の生徒だったなんて。先ほどまでは何もかも面倒だとイライラしていたくせに、そこに乙成がいるというだけで自然と笑顔が浮かんでくる自分は、随分現金なものだなぁと思った。
「同じ学校だったんだな」
「ほ、ほんとだね。僕も驚いちゃった」
同じ制服を着ているはずなのに、なんでこいつはこんなに可愛く見えるんだろうな。
初めは突然の再会に戸惑っているようにも見えたのだが、すぐにそんなことも忘れたように、「これからよろしくね」と微笑みかけてきた。頬を赤らめて笑う乙成、可愛い……。昨日の出会いを考えると、挨拶もそこそこに逃げられてもおかしくないはずなのに。こんなに喜んでくれるなんて、もしかして乙成も俺に会いたいと思ってくれていたのだろうか。
にこにこと嬉しそうな乙成につられるように、俺も柄にもなく頬が緩む。そのまま目の前の可愛い生き物を眺めていると、さすがにこちらの視線に気付いたようだ。じっとこちらを窺うような瞳。色素の薄いそれは見つめていると引き寄せられるようで、思わず手を伸ばし……――
「何なに~優ちゃん知り合い?」
突然聞こえた無駄に明るい声色に、動きかけていた右手がぴたりと止まる。そう声を発するまで全く視界に入っていなかった、赤髪のチャラついた男が乙成に背後から抱きついた。それを見ただけで、俺の胸の内にはどろりとした感情が渦巻く。
昨日の出会いについて当たり障りのないように説明をした乙成の話を聞くと、含みのある言葉と目線で牽制してきた。なんだこいつは。もしかして付き合ってたりすんのか? これまで男同士で恋愛関係にあるような人が身近にいたわけでもないし、自分自身がそういう志向をしているわけではないのだが、自然とそういった考えが浮かんできた。自分の思考回路に驚くが、乙成くらい可愛ければあり得るだろう。
「えっと黒瀬くん、この人は浅黄くんだよ。僕のクラスメイトなんだけど、知り合いがとっても多くて、困った時にはいつも助けてくれるんだ」
頭の中で邪推していたことを否定するように、乙成が男を紹介してくれた。なんだ、クラスメイトね。思わせぶりな態度を取ってきた浅黄とやらに視線が冷たくなるのを自覚する。言葉にとげが出るのも仕方ないだろう。
「ただのクラスメイトか……」
「どぉ~も~。優ちゃんをいつも助けてる、クラスメイトの浅黄でーす♡」
乙成にそんな気が無いことは態度で明白だが、こいつはダメだ。
チャラついた雰囲気も気に食わないが、明らかに俺を敵対視するこの視線は、こいつが乙成を特別に思っていることを如実に物語っていた。しばらくの間無言で睨み合っていると、ふと口元に不敵な笑みを浮かべた浅黄が、近くにいた乙成を引き寄せる。他の男に抱きつく姿を目の当たりにして、俺に生まれるのは完全な独占欲。そいつは俺の物だと叫びたくなるのを抑え、ギリッと歯ぎしりをする。
「悪いけど、俺たちこれから放課後デートだから♡」
「……デート…………?」
一気に低くなる声色。それが言葉のあやだと分かっていても、苛々がつのる。
俺の剣呑な空気を察してか慌てて仲裁に入ろうとした乙成の口を塞ぎ、何事かを吹き込むと、浅黄は半ば無理やりに乙成の背中を押して連れて行く。
「……それじゃあ黒瀬くん、またねっ」
「サヨナラ~♡」
勝ち誇ったようにこちらを振り向く浅黄。……ムカつく。
でも、俺よりも一年先に出会ってたところで、お前は乙成にとって「ただのクラスメイト」なんだろ? 大事に大事に守っていてくれたことは感謝するぜ。
俺はお前と違う。
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