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しおりを挟む昼食を終えた後、僕は一人、あるところに向かっていた。
目的の場所に到着すると、重厚な造りの扉を控えめにノックした。すると、中から「どうぞ」という涼やかな声がして、扉がゆっくりと開かれる。
「失礼します」
「ユーリ、待っていたよ」
扉を開けてくれた黒髪眼鏡のイケメン。こちらも果てしなく美味しそうなイケメンであるのだが、今の目的は違う人物だ。
感情が読み取ることできない、冷静な仮面を被った男に、にこりと極上の微笑みを向ける。そのまま僕は室内に視線を巡らせると、豪華なソファに腰掛けた、これまたとんでもないイケメンを目にして、ふにゃりと相好を崩した。完璧な姿をして目の前に座っている、まるで王子様のような金髪碧眼のイケメンは、何を隠そう正真正銘この国の王子様なのだ。
今僕がいるこの部屋は、我が国の王太子殿下であらせられる、アドルフ殿下が使用されている特別な個室。王家の子女が通う時にだけ解放されるという特別な部屋で、彼はここで毎日王宮が手配した食事を召し上がっている。
それは暗殺などの危険を防ぐために、はるか昔に王宮と学園で取り決めたルールなのだという。まぁ学園が用意した食事に毒などを混ぜられていたとしたら、とんでもない責任問題になってしまうし、王族が不特定多数の人間がいる食堂で毎日姿を晒して食事をするのはリスクだもんね。
この学園でアドルフ殿下と出会い、僕に興味を持った殿下に熱烈なアプローチを受けていた当初、はじめはここで一緒に食事をしようと誘われていたのだけど、生憎それはお断りした。だって、食堂でどんな素敵な出会いがあるか分からないし、自分で選んだ好きなものを好きなだけ食べたいんだもん。王宮のお食事は美味しいけど、僕にはちょっと重いんだよね。
アドルフ様と一緒に食事をするわけでもないのに、それでも毎日僕がここに来るのは……つまり、そういうこと。
ーーー ちゅっ、ちゅくん、ぐちゅ……っ、くちゅ……ちゅっ、
「っあ、♡ アドルフさまぁ……♡」
広い室内に、僕とアドルフ様の唇が奏でる水音が響く。
僕は恐れ多くも王太子殿下の膝に跨るようにして座っていた。その首に腕を回して、見た目よりも逞しい身体に抱き付きながら、濃厚なキスを堪能する。
「ユーリは本当に可愛いな。いつもキスだけで、そんな蕩けた顔になって」
頭脳明晰、容姿端麗なアドルフ様は国民全員の憧れである。みんながその寵愛を受けたくて躍起になっているのに。僕の目の前でその王子様が今、互いの唾液で唇を濡らしながら、とてつもなく淫靡な微笑みを浮かべているのだ。その信じられないくらい幸福な現実にゾクゾクと背筋に快感が走る。
「それは……アドルフ様のキス、だからです……♡」
「ああ、私の可愛いユーリ……。早くお前を私だけのモノだと国民全員に知らしめたい。そのすべてを奪ってしまいたいよ」
そう、僕たちは毎日のようにこの部屋で濃厚なキスを繰り返しているというのに、いまだプラトニックな関係を保っていた。アドルフ様に幼少期に決められた許嫁のご令嬢がいるというのも大きな理由の一つだが、所謂初夜に並々ならぬ理想をお持ちの殿下は、こんな所では僕を抱けないと仰るのだ。充分豪華なお部屋だと思うんだけどなぁ。
「僕も……。アドルフ様、あのね。僕は別に、初めてがこのお部屋でも構わないですよ……?」
そろそろ我慢の限界である僕は、ついそんなお誘いを口にしてしまう。するとアドルフ様は少しだけ困ったように眉を下げると、ちゅっと小さな音を立てて僕のピンクの唇を啄んだ。
「ふふ。ユーリ、私の天使。そんなことを言って困らせないで? 君を初めて抱くのは、全ての障害を取り除いた後、最高の場所でなくては。それに、ここにはブラッドもいるからね」
そう言ってアドルフ様がちらりと視線を向けたのは、部屋の隅で腕を組み、目を瞑ったまま椅子に腰掛けている彼の侍従兼護衛役のブラッド様だった。先ほど入室の際に扉を開けてくれた黒髪眼鏡のイケメンは、生まれた時からアドルフ様に付き従われており、こうしてどんな時も共にいることを義務付けられているのだという。
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