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魔界姫
002・討伐戦
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~数日後、魔王城地下の錬金室~
マリーが討伐戦の号令をかけてから数日後、使い魔のハンたちがマリーとジャスの元にやってきた。
「2人とも何をやってるんスか?」
「見れば分かるでしょ。」
「・・・すみません、ちょっと分かんないッスね。」
マリーとジャス、使い魔のエイトは、大きな鍋で何かを煮込んでいる様子なのだが、どうも料理ではないようだ。
なぜなら、煮込んでいる鍋の中身が異様な匂いを放っているからだ。
使い魔のハンと魔界姫マリーのやり取りを見ていた天使見習いのジャスが使い魔たちに説明する。
「少しでも天界の通貨を稼げるように、特産物の開発をしているんですよ。
いま開発しているのは、魔界で採れた食材を混ぜ合わせて作る、魔界姫ブランドの健康食品の開発です!」
「・・・健康」
「・・・食品」
「・・・いやいや、それは無理がある匂いッスよ!」
「そうですか?
ちょっと匂いは強めだけど、たぶん栄養バツグンでクセになる味だと思いますよ。
・・・たぶん。」
仕事だからだろうか、せっせと鍋をかき混ぜるエイトを見ていたマリーがエイトを止める。
そしてジャスに相談するように声をかけた。
「ねぇ、だいぶトロミもついてきたし、そろそろ誰かに試食させようよ。」
マリーは部屋に入ってきた使い魔たちを見渡す。
使い魔たちは次々と言い訳を始めた。
まず最初に口を開いたのは、使い魔のハンだった。
「あ、あ、ああ俺は風邪気味で味が分かんないッス!」
「い、いま鼻が詰まってて感想とか言えないニャン!」
「う、ううう。虫歯が疼いて痛みで味どころじゃないニャン!」
「え、えっと満腹でコレ以上食べれないニャン!」
「お、俺は膝、いや肘が痛いニャン!」
「・・・マリーさん。試食の使い魔さんが決まりましたね。」
「「「お、俺じゃないニャンよね!」」」
マリーとジャスは、最後に答えた使い魔を見ていた。
「お、俺ニャンか!?」
「うん。分かってんじゃんネロ。」
マリーは、最後に答えた使い魔の肩を叩いた後、背後に回り体を押さえつける。
「い、いやニャン!
絶対に食べたくないニャン!」
「大丈夫ですよ使い魔さん。
味の保証は出来ないですけど、栄養の保証は たぶん出来ますから。」
「いやニャン!
栄養は気にしないけど、味は気になるニャン。
それに、この匂い・・・。
猛毒の可能性もあるニャン!」
「それは大丈夫ですよね、マリーさん。」
「・
・
・
・
・
・たぶん。」
「何なんニャンか!
いまの間が危険な証ニャン!」
「大丈夫!
もし体に悪いものでも使い魔だったら死なないから。
ちょっとばかり悪徳が上乗せになって復活するだけだよ。」
「それが大問題ニャンよ!」
「まぁまぁ、マリーさん、使い魔さん。
話は それくらいにして、はやく味見をしてもらいましょうよ。」
「お、俺は食いたくないニャン!
たすけてーーーー!」
マリーとジャスは、全力で拒否する使い魔を押さえつけ、魔界姫ブランドの健康食品を試食させる。
(・・・ぶくぶくぶく。)
「ジャスちゃん、やっぱり あのキノコは、死霊茸だったんだよ。
魔界に天界の翼なんてキノコ自生してるわけないと思ったんだよね。」
「おかしいな。私が天界にいたころに採取していたのと まったく同じだったんですけどね。
何が違うのかな・・・。」
「まあ、魔界だからね。
天界の土壌で育ったキノコと魔界の土壌で育ったキノコだと同じキノコでも違いが出たんじゃない?」
「なるほど!
それは ありえますね!!」
2人は、納得した様子で今回の結果をメモに残している。
そんな2人に、使い魔のハンがそっと声をかける。
「あの・・・。マリー様。
この前の討伐戦の対象が3件ほど見つかったッスけど・・・。」
「おっ!
やっと見つかったのね!
で、相手はドコの誰なの?」
「では、調べてきた それぞれが直接報告するッス!
ちなみに1件目は、魔界商人ウィンター、使い魔から異例の悪魔への転生を果たした奴ッス。
今回、天使を出し抜いたのは、奴の功績とも言われている悪魔ッス!」
「次は俺が報告するニャン!
2件目は、魔王城の財政管理官も兼任していた、リッチモンドで、奴は、いま稼いだ金で、未来を見通す魔王として名を挙げてきてるニャン。」
「最後は俺が報告するニャン!
3件目は、新参の悪魔で、バベルという悪魔ニャン!。
しかし、3件目の悪魔は、造幣局との関係が無いかもしれないニャン。」
「なるほど、新参の悪魔は気になるけど、今回のターゲットは慎重に決めないとね。
だって天使のお墨付きだからね!」
「マリーさん!
お墨付きなんて言い方やめてください!」
「・・・。
じゃあ、なんて?
天使の指示?
天使の密命?
天使の陰謀?」
「・
・
・
・
・マリーさんに お任せします。」
「では、言い方は後々考えるとして、討伐戦の対象は リッチモンドにしましょうか。」
「ヤッタニャン!
俺の調べてきた悪魔が指名されたニャン!
ちなみに決め手は何だったニャンか?」
「そんなの簡単よ。
私を裏切ったからよ!
・・・未来を見通す魔王!?
笑わせてくれるわね。いまから搾取される未来も見通しているのかしら。
私を裏切った裏切り者には、死んだ方がましと思えるような拷問の末、完全なる死を・・・。」
「・・・。
聞かなければよかったニャン。」
「「「俺らは絶対に裏切らないニャン。」」」
使い魔たちは、息をそろえてマリーに絶対服従を誓う。
その様子を ヤレヤレといった表情で見つめながらマリーは口を開いた。
「まあ、それに魔界商人ウィンターは苦手なんだよね。
使い魔から過去最速で徳を貯め、悪魔に転生を選ぶなんて正気の沙汰じゃないわよ。」
「・・・確かにヤバイ奴ニャンね。
俺だったら、何も考えずに人間に転生する道を選ぶニャン。」
「そんな稀有な使い魔もいるなんて、魔界って変わってますね。」
「ジャスちゃん、ウィンターは特別よ。
ジャスちゃんは純粋だから、なるべく関わらない方がいいわね。」
「マリーさん、純粋だなんて。
私だけが特別じゃなくって、天使は皆、純粋ですよ。」
「・・・ジャスさん、マリー様はバカにしてるニャンよ。
純粋っていうか、単純だから騙されやすいっていうか。
・
・
・まあ、バカって事ニャン。」
「・・・そうなんですか?
マリーさん?」
マリーは、余計な事を言った使い魔のネロを一瞬 睨みつけると、話を誤魔化しながら命令を出す。
「ほら、そんなことどうでもいいから、戦闘準備よ!
討伐戦の相手は、自分の未来さえ見えていない裏切り者のリッチモンドよ!
私を裏切って去っていった他の悪魔たちにも釘を打っておかないとね!」
「「「了解ニャン!」」」
「マリーさん!
そんなことより、答えてくださいよ!
・
・
・マリーさーん!!!」
ジャスの話を聞こえない素振りをして準備のために部屋を後にするマリー。
それを追いかけるように、ジャスや使い魔たちも部屋を去っていった。
~リッチモンド城~
魔王城と比べると、規模は小さく、城というより館と呼んだ方が似合うサイズだ。
ただ、完成してまだ新しいからか、美しい彫刻など魔王城より遥かに豪勢に見える。
そんなリッチモンド城の門の前に、魔界姫マリーと見習い天使ジャス、使い魔たちが集結していた。
「マリー様、本当に この面子でリッチモンド城を落とすんスか?」
「俺ら使い魔なんて、最初から戦力外ニャン!」
「俺ら使い魔が数に入らないなら、マリー様とジャスさんの2人だけニャンよ。」
「あの、私も頭数に入ってるみたいなんですけど・・・。
私は戦力外ですよね?」
「ジャスちゃん、気にしちゃ負けよ!
それに大丈夫!私を誰だと思ってるの!?
魔界の麗しき姫君にして、炎を司る悪魔。
火のマリーと言われるSSURの悪魔よ!」
「SSURの悪魔?」
「・・・。
ほら、ハン。説明してよ。」
「あ、はいッス!
悪魔のランキングっすよ。
ちなみに、ランキングは下から順に並べると、
C、UC、R、SR、SSR、UR、SURって順番なんス。」
「何かの頭文字ですか?」
「さすがジャスさんッス!
さっきの記号は、
コモン、アンコモン、スーパーレア、スペシャルスーパーレア、
ウルトラレア、スペシャルウルトラレアとなっているッス!
ちなみに、マリー様のSSURは、
スペシャルスーパーウルトラレアと呼ぶッス!」
(ボソ・・・自称ッスけど。)
「はぁ、ちなみにSSURの悪魔って因みに魔界で何人くらい存在するんですか?」
「SSURの悪魔は、もちろん マリー様だけッス!」
(ボソ・・・だって自称ッスから。)
「・
・
・
・
・マリーさん!凄いじゃないですか!!
この数日間、マリーさんと一緒に行動してて、ダラダラした生活してる姿しか見てなかったし、偉そうに使い魔さんたちに命令するだけだったし、まったく凄い悪魔だなんて思えなかったんですけど、いまやっと実感が沸きました!」
「ジャスちゃん、いまサラっとディスってくれたね。」
「「「あわわわわ、俺ら関係ないニャン!」」」
そんな平和なやり取りをしていると、リッチモンド城の無駄に豪華絢爛な入り口の扉が開く。
扉の中から、重厚なマントを引きずりながら、死神のような風貌の骨と皮だけの悪魔が配下の悪魔たちを従えて現れた。
死神のような悪魔を見つけると、使い魔たちは身構えた。
どうやら、この悪魔は未来を見通す悪魔を名乗る リッチモンド本人なのだろう。
リッチモンドは、落ち着いた様子で門の前に集まるマリーたちに声をかけてきた。
「おやおや、我が城の前で、はしゃいでいる声が聞こえたので出てきてみれば、裏切り者エイルシッドの娘、魔界姫マリー様ではないですか。
いまさらノコノコと現れて、謝罪に来たのですか?」
「まさか、裏切り者を駆逐するために やってきた。
もちろん エイルシッドも見つけ次第、駆逐する予定だ。」
「ふぁおっ、ふぁおっ、ふぁおっっ!
威勢だけは、相変わらずですね。」
「お前の気持ち悪い笑い方も相変わらずね。
まだ、クッキングモンスターのトレカを集めているの?
最初のターンで強いカードを出したら終わりの運任せのつまらないカードゲームなのに。」
※クッキングモンスター
(想像上の料理アイドルたちのトレーディングカードゲーム。
ゲーム性は微妙でマリーの話した通り、強いカードを出せば詰み。
ゲーム性も何もなく、純粋に料理アイドルを愛でるというもの。
ちなみに最強のカードは、強すぎる為に発行中止となった美少女戦士5人組のカードで、300年前の相場だが、11億9千万ゼランの値がついている。)
「!!!!!
小娘、いい気になるなよ!
お前が失踪している300年の間に、魔界の権力者が変わったことを理解していないようだな!
エイルシッドの後ろ盾がない小娘に何ができる!!!
せいぜい泣いて命乞いでもするんだな!」
マリーの安い挑発に怒りの表情をみせるリッチモンド。
その怒りの表情に怯え、震えあがる見習い天使ジャスと使い魔たち。
「マリー様、挑発するのは止めるッス!」
「そうニャン!勝てる算段もなしに、挑発しても良いことないニャン!」
「リッチモンドのクッキングモンスター愛は、魔界屈指って噂ニャン!」
「マリーさん、そろそろ謝って魔王城に帰りましょうよ。」
完全に逃げ腰のジャスや使い魔たちを無視するように、マリーは更に挑発する。
「泣いて命乞い?
愛しのクッキングモンスターのカードが、お前の代わりに戦うとでもいうの?
それとも金で雇った用心棒にお願いするの?
そんな寄せ集めの用心棒に私の最強の仲間たちが負けるはずがないわ!
なんたって、私たちには最強の天使ジャスや勇敢な8匹の使い魔がいるんですからね!」
「「「えええええっ!!!」」」
「マリーさん、私も頭数に入ってるじゃないですか!
私、絶対に戦えませんよ!」
「お、俺らも無理ッス!」
「悪魔相手に戦えば、数秒も持たないニャン!」
「弾幕除けに使おうにも、貫通してしまって意味がないくらい紙装甲ニャン!」
マリーたちの様子を見て、リッチモンドは少し冷静を取り戻したようだ。
「ふぁおっ、ふぁおっ、ふぁおっっ!
マリー様の作戦は、お見通しですよ。
私を怒らせて一騎打ちをするつもりだったんでしょうが、そうはいきませんよ。
なんたって未来を見通せる魔王、リッチモンド王ですからね。
私を怒らせた罪、死んで償いなさい。
お前たち、一匹残らず始末してこい!」
「「「うおぉぉぉぉ!」」」
リッチモンドの命令で、用心棒の悪魔たちが襲い掛かってくる。
リッチモンド本人は命令を終えると、城の中に引き返していった。
扉が閉まりきる頃には、用心棒たちとの戦闘が始まろうとしていた。
用心棒の数は、20~30体の悪魔たちだ。
マリーは、持っていた槍を地面に突き立て、見習い天使ジャスと使い魔たちを守るように魔法障壁を張り、用心棒の悪魔たちと戦闘に入る。
ドゴ!
バキ!
ボキッ!
「マリー様、右!右ッス!」
「マリー様、上ニャン!」
「マリーさん、足元ー!」
「・・・。」
バキ!
ドゴ!
バキ!!
「右!あっ左ッス!」
「そうじゃないニャン!上ニャン!」
「危ない!避けてください!」
「ちょっと!
外野うるさいわよ!」
「申し訳ないッス。」
「すみません・・・。」
そうこうしているうちに、マリーが素手で用心棒の悪魔たちを悶絶させていく。
戦闘が始まって数分で用心棒の悪魔たちを戦闘不能にした。
「さすがマリー様ッス!」
「まさに烈火の如し戦闘力。マリー様、素晴らしいニャン!」
「言うことないニャンね!」
「私も驚きました!
マリーさんが こんなに強いなんて!」
「そ、そうかな?」
仲間たちの褒め称える言葉に恥ずかしそうに笑顔を見せるマリー。
悶絶している敵の用心棒の悪魔たちは、何とか逃げ出そうと隙を見ているようだ。
なぜなら魔界では、敗北した者の魂は勝利した者の力の源となるために喰われる運命にある。
死ななければ敗北とは言わない魔界では、まだ敗北が決まったわけではないのだが、マリーとの力の差は天地ほどの差があり、いまの用心棒たちではどうすることもできない。
なので用心棒の悪魔たちは、逃げ隠れるという最期のあがきをしようとしているのだ。
そんな用心棒たちに、マリーは声をかける。
「ねぇ、私の配下にならない?
いくつかの条件はあるけど、いまの仲間たちと対等に扱うよ。」
「・・・。」
用心棒として生きている悪魔は、たいてい嫌われ者たちで、おおよそ対等な扱いなど受けたことはない。
なぜなら、悪魔にも階級があり、支配する者と支配される者、使い魔と同様に使われる者の3つの階級がある。
その3つの階級の中で用心棒は、使い魔と同様に使われる者であり、通常であれば 発言もできない階級である。
また、使い魔と同様と聞けば自由なイメージがあるかもしれないが、それは違う。
他の悪魔たちに仕える使い魔は、ハンたちのような扱いは受けていない。
天界の使い魔同様 名前で呼ばれることもなく、遊び半分で殺され復活し、また殺され。
いずれ増えすぎた悪徳により魂が耐え切れなくなり、自然消滅していく運命なのだ。
そんな悪魔らしからぬマリーの提案に、悪魔たちが顔を上げ質問してくる。
「マリー様、俺らもマリー様の仲間として生きていいんですかい?」
「もちろん。
死ぬためだけに生まれてくる命なんてないんだよ。
私の配下になれば、ここにいる使い魔のハンたちと同じように扱ってあげるからね。」
用心棒たちは、口々に相談しあっている。
しかし、用心棒たちの答えは最初から決まっていたようだ。
「「「俺らは マリー様に永久の服従を誓い、配下になることを契約するぜ。」」」
用心棒たちが契約すると言った瞬間、周囲に まばゆい光が走る。
用心棒たちの体にマリーの城にあった紋章と同じ紋章が光り輝き刻まれていく。
「マリーさん、いったい何が起きたんですか?」
「契約が完了したのよ。
悪魔の契約は絶対で、決して破ることは出来ないわ。
悪魔が契約を破ることは、死を意味するの。」
「それで悪魔は約束を破らないんですね。」
「まあ、約束は契約ではないんだけど、約束を破る癖がつくと、間違って契約を破ってしまったときのリスクが高まるからね。」
「なるほど。」
契約の様子を感心して見つめているジャス。
マリーは、用心棒たちの体に紋章が刻み終わったのを確認すると、再び声をあげて命令を下す。
「準備はいい?」
「「「オオオオォォ!!!」」」
「「「オオォーニャン!!」」」
「よし!
裏切り者で極悪非道のリッチモンドの討伐戦を続けるわよ!
リッチモンドを最初に捕らえた者には、魔王城に伝わる名刀キル・グラムを与えるわ!
褒美を手に入れて名をあげなさい!
さあ、本能のままに叫べ、本能のままに殺戮せよ!」
「「「オオオオォォ!!!」」」
「「「オオォーニャン!!」」」
「オーーー」
なぜか周囲の熱気に感化され、見習い天使のジャスまで雄たけびを上げている。
どうやら雰囲気にのまれやすい性格のようだ。
元用心棒の悪魔や使い魔、見習い天使のジャスは、無駄に豪華絢爛な扉を壊し、城内へと流れ込む。
城内の使い魔や戦闘に向かない悪魔たちは、慌てふためき逃げ惑う。
そこにマリーが再度、号令をかける。
「今回の手柄は、リッチモンドの確保よ!
それ以外の戦闘は評価に値しないわ!
逃げる悪魔や使い魔との無用な争いは避けなさい!」
マリーの命令で無用な戦闘は回避された。
しかし、城内を守る兵士は、元用心棒の悪魔たちに駆逐されていく。
元用心棒の悪魔たちは、マリーの配下となることで、その魔力の一部を与えられ、いままでとは比べ物にならないほどの力を得ていた。
~1時間後・
リッチモンドの執務室~
少し広めの執務室は、四方を天井まで届く本棚いっぱいに本で埋め尽くされた部屋で、それ以外には 中央に机と椅子があるだけのシンプルな部屋だ。
「マリー様、リッチモンドの姿が見えないッスね。」
「もう逃げ出したんじゃないニャンか?」
「リッチモンドは 秘密の通路とか持ってそうニャン。」
「確かに、俺らが用心棒として出入りしていた時も、執務室に入ったはずのリッチモンドが急に姿を消してしまうこともあったぜ。」
「マリーさん、これだけ探して見つからないってことは、やっぱり。」
「そうね・・・。
これだけ探して見つからないからね。
それにコレクションも失くなってるみたいだし、逃げ出したのかもね。」
そういって、マリーが指さす方には、ガラスが割られた額縁があった。
「マリー様、コレからどうするッスか?」
「とりあえず、金目の物を全て魔王城に移動させましょう。」
「エッ!全てニャンか!!」
「あの重そうな彫刻とかもッスよね・・・。」
「もしかして、宝物庫の豪華な宝石箱なんかもニャンか?」
「ええ、もちろん。それとも 何か問題でも?」
「いえ、やるッス。
いや、やらせてもらいたいッス。」
「安心しなさい。配下の悪魔たちも同様に働く契約だから。
皆で一緒にすれば、今日中には終わるわよ。」
「りょ、了解ッス。
用心棒さん、宜しくッス!」
「おう!
力仕事は任せな!!」
用心棒や使い魔たちが、せっせと作業に取り掛かる中、ジャスは執務室の壁に据え付けてある振子時計を見つめていた。
「マリーさん、この振子時計・・・。」
「どうしたの、ジャスちゃん?」
「振子が振れてないのに時を刻んでますよ。」
「!!?」
ジャスの指摘にマリーも何かに気づき、振子時計を調べ始めた。
「これ、カラクリ時計みたいね。」
マリーが振子のゼンマイを巻き始めると、ゆっくりと振子時計が上へと持ち上がり、そこに隠し通路と螺旋階段が現れた。
「まさか、こんな仕掛けがあったとはね。
ジャスちゃん、お手柄じゃない!」
「えへへっ!」
マリーとジャス、近くにいた数匹の使い魔たちは、隠し通路に入り、螺旋階段を下りていく。
螺旋階段を下りてしまうと、頑丈な扉が目の前に現れた。
マリーが力いっぱい扉をこじ開けると、中にはコレクションに囲まれながら、怯えるようにリッチモンドが隠れていた。
「ひ、ひぃぃぃぃ!」
リッチモンドは、マリーの姿を見つけると怯えた表情を見せ、小さく縮こまっているようだ。
「こんなところに隠れてやり過ごそうだなんて、裏切り者のお前らしい考え方よね。」
「マリー様、どうか、どうか命だけは・・・。
お願いします。見逃して下さい。
ほんの出来心だったんです。」
「・・・。」
マリーは リッチモンドへの刑を考えているのか、無言でリッチモンドを見下ろしている。
後ろを付いてきたジャスは、マリーの間違った判断を止めようとしているのだろう。
しかし、マリーの禍々しいオーラを感じ、声をかけられずにいた。
「マリーさん・・・。」
そんな禍々しいオーラを感じとった リッチモンドも悪魔としてのプライドがあるのだろう。
マリーのオーラから何かを感じ取り、決心した様子だ。
「マリー様、私の命と引き換えになるか分かりませんが、2つだけ願いを聞き入れてもらえないでしょうか。」
「一応、聞くだけ聞いておこう。」
「ありがとうございます。
私の死後、出来ればコレクションは、このまま部屋に残しておいてもらえないでしょうか。
いまは亡き 娘が憧れていた、クッキングモンスターのアイドルたちなんです。
それと、私の貯めた財産の一部で構いません。
メルディエゴにある養成所に寄付してもらえないでしょうか。」
「メルディエゴの養成所?」
「マリー様、200年ほど前にリッチモンドが設立した、親に捨てられた悪魔を一人前の悪魔に育て上げる施設ッス。」
「そう、なんだ・・・。
・
・
・
・分かった。その願い、聞き受けよう。」
「マリー様、ありがとうございます。」
「・・・命を奪う相手に礼は不要よ。」
マリーは、持っていた槍を構える。
そんなマリーの目の前に、ジャスが立ちはだかる。
「ダメです!
絶対に殺しはさせません!」
「ジャス、そこをどきなさい!」
「嫌です!」
「どきなさい!」
「絶対に嫌です!
リッチモンドさんを殺すのであれば、私も一緒に殺してください。
マリーさんだって殺したくないはずですよ。
だって、マリーさんは・・・。」
マリーとジャスの間に、使い魔のエイトも割って入り、ジャスを庇うように立ちふさがる。
「・・・2人とも、一緒に死ぬつもり?
たとえジャスでも裏切り者には、容赦しないよ。」
「私は、マリーさんを信じてます。」
マリーの後ろからハンが声をかける。
「マリー様、ジャスさんたちも本当に殺してしまうんスか?」
→YES ・・・003へ
→NO ・・・004へ
マリーが討伐戦の号令をかけてから数日後、使い魔のハンたちがマリーとジャスの元にやってきた。
「2人とも何をやってるんスか?」
「見れば分かるでしょ。」
「・・・すみません、ちょっと分かんないッスね。」
マリーとジャス、使い魔のエイトは、大きな鍋で何かを煮込んでいる様子なのだが、どうも料理ではないようだ。
なぜなら、煮込んでいる鍋の中身が異様な匂いを放っているからだ。
使い魔のハンと魔界姫マリーのやり取りを見ていた天使見習いのジャスが使い魔たちに説明する。
「少しでも天界の通貨を稼げるように、特産物の開発をしているんですよ。
いま開発しているのは、魔界で採れた食材を混ぜ合わせて作る、魔界姫ブランドの健康食品の開発です!」
「・・・健康」
「・・・食品」
「・・・いやいや、それは無理がある匂いッスよ!」
「そうですか?
ちょっと匂いは強めだけど、たぶん栄養バツグンでクセになる味だと思いますよ。
・・・たぶん。」
仕事だからだろうか、せっせと鍋をかき混ぜるエイトを見ていたマリーがエイトを止める。
そしてジャスに相談するように声をかけた。
「ねぇ、だいぶトロミもついてきたし、そろそろ誰かに試食させようよ。」
マリーは部屋に入ってきた使い魔たちを見渡す。
使い魔たちは次々と言い訳を始めた。
まず最初に口を開いたのは、使い魔のハンだった。
「あ、あ、ああ俺は風邪気味で味が分かんないッス!」
「い、いま鼻が詰まってて感想とか言えないニャン!」
「う、ううう。虫歯が疼いて痛みで味どころじゃないニャン!」
「え、えっと満腹でコレ以上食べれないニャン!」
「お、俺は膝、いや肘が痛いニャン!」
「・・・マリーさん。試食の使い魔さんが決まりましたね。」
「「「お、俺じゃないニャンよね!」」」
マリーとジャスは、最後に答えた使い魔を見ていた。
「お、俺ニャンか!?」
「うん。分かってんじゃんネロ。」
マリーは、最後に答えた使い魔の肩を叩いた後、背後に回り体を押さえつける。
「い、いやニャン!
絶対に食べたくないニャン!」
「大丈夫ですよ使い魔さん。
味の保証は出来ないですけど、栄養の保証は たぶん出来ますから。」
「いやニャン!
栄養は気にしないけど、味は気になるニャン。
それに、この匂い・・・。
猛毒の可能性もあるニャン!」
「それは大丈夫ですよね、マリーさん。」
「・
・
・
・
・
・たぶん。」
「何なんニャンか!
いまの間が危険な証ニャン!」
「大丈夫!
もし体に悪いものでも使い魔だったら死なないから。
ちょっとばかり悪徳が上乗せになって復活するだけだよ。」
「それが大問題ニャンよ!」
「まぁまぁ、マリーさん、使い魔さん。
話は それくらいにして、はやく味見をしてもらいましょうよ。」
「お、俺は食いたくないニャン!
たすけてーーーー!」
マリーとジャスは、全力で拒否する使い魔を押さえつけ、魔界姫ブランドの健康食品を試食させる。
(・・・ぶくぶくぶく。)
「ジャスちゃん、やっぱり あのキノコは、死霊茸だったんだよ。
魔界に天界の翼なんてキノコ自生してるわけないと思ったんだよね。」
「おかしいな。私が天界にいたころに採取していたのと まったく同じだったんですけどね。
何が違うのかな・・・。」
「まあ、魔界だからね。
天界の土壌で育ったキノコと魔界の土壌で育ったキノコだと同じキノコでも違いが出たんじゃない?」
「なるほど!
それは ありえますね!!」
2人は、納得した様子で今回の結果をメモに残している。
そんな2人に、使い魔のハンがそっと声をかける。
「あの・・・。マリー様。
この前の討伐戦の対象が3件ほど見つかったッスけど・・・。」
「おっ!
やっと見つかったのね!
で、相手はドコの誰なの?」
「では、調べてきた それぞれが直接報告するッス!
ちなみに1件目は、魔界商人ウィンター、使い魔から異例の悪魔への転生を果たした奴ッス。
今回、天使を出し抜いたのは、奴の功績とも言われている悪魔ッス!」
「次は俺が報告するニャン!
2件目は、魔王城の財政管理官も兼任していた、リッチモンドで、奴は、いま稼いだ金で、未来を見通す魔王として名を挙げてきてるニャン。」
「最後は俺が報告するニャン!
3件目は、新参の悪魔で、バベルという悪魔ニャン!。
しかし、3件目の悪魔は、造幣局との関係が無いかもしれないニャン。」
「なるほど、新参の悪魔は気になるけど、今回のターゲットは慎重に決めないとね。
だって天使のお墨付きだからね!」
「マリーさん!
お墨付きなんて言い方やめてください!」
「・・・。
じゃあ、なんて?
天使の指示?
天使の密命?
天使の陰謀?」
「・
・
・
・
・マリーさんに お任せします。」
「では、言い方は後々考えるとして、討伐戦の対象は リッチモンドにしましょうか。」
「ヤッタニャン!
俺の調べてきた悪魔が指名されたニャン!
ちなみに決め手は何だったニャンか?」
「そんなの簡単よ。
私を裏切ったからよ!
・・・未来を見通す魔王!?
笑わせてくれるわね。いまから搾取される未来も見通しているのかしら。
私を裏切った裏切り者には、死んだ方がましと思えるような拷問の末、完全なる死を・・・。」
「・・・。
聞かなければよかったニャン。」
「「「俺らは絶対に裏切らないニャン。」」」
使い魔たちは、息をそろえてマリーに絶対服従を誓う。
その様子を ヤレヤレといった表情で見つめながらマリーは口を開いた。
「まあ、それに魔界商人ウィンターは苦手なんだよね。
使い魔から過去最速で徳を貯め、悪魔に転生を選ぶなんて正気の沙汰じゃないわよ。」
「・・・確かにヤバイ奴ニャンね。
俺だったら、何も考えずに人間に転生する道を選ぶニャン。」
「そんな稀有な使い魔もいるなんて、魔界って変わってますね。」
「ジャスちゃん、ウィンターは特別よ。
ジャスちゃんは純粋だから、なるべく関わらない方がいいわね。」
「マリーさん、純粋だなんて。
私だけが特別じゃなくって、天使は皆、純粋ですよ。」
「・・・ジャスさん、マリー様はバカにしてるニャンよ。
純粋っていうか、単純だから騙されやすいっていうか。
・
・
・まあ、バカって事ニャン。」
「・・・そうなんですか?
マリーさん?」
マリーは、余計な事を言った使い魔のネロを一瞬 睨みつけると、話を誤魔化しながら命令を出す。
「ほら、そんなことどうでもいいから、戦闘準備よ!
討伐戦の相手は、自分の未来さえ見えていない裏切り者のリッチモンドよ!
私を裏切って去っていった他の悪魔たちにも釘を打っておかないとね!」
「「「了解ニャン!」」」
「マリーさん!
そんなことより、答えてくださいよ!
・
・
・マリーさーん!!!」
ジャスの話を聞こえない素振りをして準備のために部屋を後にするマリー。
それを追いかけるように、ジャスや使い魔たちも部屋を去っていった。
~リッチモンド城~
魔王城と比べると、規模は小さく、城というより館と呼んだ方が似合うサイズだ。
ただ、完成してまだ新しいからか、美しい彫刻など魔王城より遥かに豪勢に見える。
そんなリッチモンド城の門の前に、魔界姫マリーと見習い天使ジャス、使い魔たちが集結していた。
「マリー様、本当に この面子でリッチモンド城を落とすんスか?」
「俺ら使い魔なんて、最初から戦力外ニャン!」
「俺ら使い魔が数に入らないなら、マリー様とジャスさんの2人だけニャンよ。」
「あの、私も頭数に入ってるみたいなんですけど・・・。
私は戦力外ですよね?」
「ジャスちゃん、気にしちゃ負けよ!
それに大丈夫!私を誰だと思ってるの!?
魔界の麗しき姫君にして、炎を司る悪魔。
火のマリーと言われるSSURの悪魔よ!」
「SSURの悪魔?」
「・・・。
ほら、ハン。説明してよ。」
「あ、はいッス!
悪魔のランキングっすよ。
ちなみに、ランキングは下から順に並べると、
C、UC、R、SR、SSR、UR、SURって順番なんス。」
「何かの頭文字ですか?」
「さすがジャスさんッス!
さっきの記号は、
コモン、アンコモン、スーパーレア、スペシャルスーパーレア、
ウルトラレア、スペシャルウルトラレアとなっているッス!
ちなみに、マリー様のSSURは、
スペシャルスーパーウルトラレアと呼ぶッス!」
(ボソ・・・自称ッスけど。)
「はぁ、ちなみにSSURの悪魔って因みに魔界で何人くらい存在するんですか?」
「SSURの悪魔は、もちろん マリー様だけッス!」
(ボソ・・・だって自称ッスから。)
「・
・
・
・
・マリーさん!凄いじゃないですか!!
この数日間、マリーさんと一緒に行動してて、ダラダラした生活してる姿しか見てなかったし、偉そうに使い魔さんたちに命令するだけだったし、まったく凄い悪魔だなんて思えなかったんですけど、いまやっと実感が沸きました!」
「ジャスちゃん、いまサラっとディスってくれたね。」
「「「あわわわわ、俺ら関係ないニャン!」」」
そんな平和なやり取りをしていると、リッチモンド城の無駄に豪華絢爛な入り口の扉が開く。
扉の中から、重厚なマントを引きずりながら、死神のような風貌の骨と皮だけの悪魔が配下の悪魔たちを従えて現れた。
死神のような悪魔を見つけると、使い魔たちは身構えた。
どうやら、この悪魔は未来を見通す悪魔を名乗る リッチモンド本人なのだろう。
リッチモンドは、落ち着いた様子で門の前に集まるマリーたちに声をかけてきた。
「おやおや、我が城の前で、はしゃいでいる声が聞こえたので出てきてみれば、裏切り者エイルシッドの娘、魔界姫マリー様ではないですか。
いまさらノコノコと現れて、謝罪に来たのですか?」
「まさか、裏切り者を駆逐するために やってきた。
もちろん エイルシッドも見つけ次第、駆逐する予定だ。」
「ふぁおっ、ふぁおっ、ふぁおっっ!
威勢だけは、相変わらずですね。」
「お前の気持ち悪い笑い方も相変わらずね。
まだ、クッキングモンスターのトレカを集めているの?
最初のターンで強いカードを出したら終わりの運任せのつまらないカードゲームなのに。」
※クッキングモンスター
(想像上の料理アイドルたちのトレーディングカードゲーム。
ゲーム性は微妙でマリーの話した通り、強いカードを出せば詰み。
ゲーム性も何もなく、純粋に料理アイドルを愛でるというもの。
ちなみに最強のカードは、強すぎる為に発行中止となった美少女戦士5人組のカードで、300年前の相場だが、11億9千万ゼランの値がついている。)
「!!!!!
小娘、いい気になるなよ!
お前が失踪している300年の間に、魔界の権力者が変わったことを理解していないようだな!
エイルシッドの後ろ盾がない小娘に何ができる!!!
せいぜい泣いて命乞いでもするんだな!」
マリーの安い挑発に怒りの表情をみせるリッチモンド。
その怒りの表情に怯え、震えあがる見習い天使ジャスと使い魔たち。
「マリー様、挑発するのは止めるッス!」
「そうニャン!勝てる算段もなしに、挑発しても良いことないニャン!」
「リッチモンドのクッキングモンスター愛は、魔界屈指って噂ニャン!」
「マリーさん、そろそろ謝って魔王城に帰りましょうよ。」
完全に逃げ腰のジャスや使い魔たちを無視するように、マリーは更に挑発する。
「泣いて命乞い?
愛しのクッキングモンスターのカードが、お前の代わりに戦うとでもいうの?
それとも金で雇った用心棒にお願いするの?
そんな寄せ集めの用心棒に私の最強の仲間たちが負けるはずがないわ!
なんたって、私たちには最強の天使ジャスや勇敢な8匹の使い魔がいるんですからね!」
「「「えええええっ!!!」」」
「マリーさん、私も頭数に入ってるじゃないですか!
私、絶対に戦えませんよ!」
「お、俺らも無理ッス!」
「悪魔相手に戦えば、数秒も持たないニャン!」
「弾幕除けに使おうにも、貫通してしまって意味がないくらい紙装甲ニャン!」
マリーたちの様子を見て、リッチモンドは少し冷静を取り戻したようだ。
「ふぁおっ、ふぁおっ、ふぁおっっ!
マリー様の作戦は、お見通しですよ。
私を怒らせて一騎打ちをするつもりだったんでしょうが、そうはいきませんよ。
なんたって未来を見通せる魔王、リッチモンド王ですからね。
私を怒らせた罪、死んで償いなさい。
お前たち、一匹残らず始末してこい!」
「「「うおぉぉぉぉ!」」」
リッチモンドの命令で、用心棒の悪魔たちが襲い掛かってくる。
リッチモンド本人は命令を終えると、城の中に引き返していった。
扉が閉まりきる頃には、用心棒たちとの戦闘が始まろうとしていた。
用心棒の数は、20~30体の悪魔たちだ。
マリーは、持っていた槍を地面に突き立て、見習い天使ジャスと使い魔たちを守るように魔法障壁を張り、用心棒の悪魔たちと戦闘に入る。
ドゴ!
バキ!
ボキッ!
「マリー様、右!右ッス!」
「マリー様、上ニャン!」
「マリーさん、足元ー!」
「・・・。」
バキ!
ドゴ!
バキ!!
「右!あっ左ッス!」
「そうじゃないニャン!上ニャン!」
「危ない!避けてください!」
「ちょっと!
外野うるさいわよ!」
「申し訳ないッス。」
「すみません・・・。」
そうこうしているうちに、マリーが素手で用心棒の悪魔たちを悶絶させていく。
戦闘が始まって数分で用心棒の悪魔たちを戦闘不能にした。
「さすがマリー様ッス!」
「まさに烈火の如し戦闘力。マリー様、素晴らしいニャン!」
「言うことないニャンね!」
「私も驚きました!
マリーさんが こんなに強いなんて!」
「そ、そうかな?」
仲間たちの褒め称える言葉に恥ずかしそうに笑顔を見せるマリー。
悶絶している敵の用心棒の悪魔たちは、何とか逃げ出そうと隙を見ているようだ。
なぜなら魔界では、敗北した者の魂は勝利した者の力の源となるために喰われる運命にある。
死ななければ敗北とは言わない魔界では、まだ敗北が決まったわけではないのだが、マリーとの力の差は天地ほどの差があり、いまの用心棒たちではどうすることもできない。
なので用心棒の悪魔たちは、逃げ隠れるという最期のあがきをしようとしているのだ。
そんな用心棒たちに、マリーは声をかける。
「ねぇ、私の配下にならない?
いくつかの条件はあるけど、いまの仲間たちと対等に扱うよ。」
「・・・。」
用心棒として生きている悪魔は、たいてい嫌われ者たちで、おおよそ対等な扱いなど受けたことはない。
なぜなら、悪魔にも階級があり、支配する者と支配される者、使い魔と同様に使われる者の3つの階級がある。
その3つの階級の中で用心棒は、使い魔と同様に使われる者であり、通常であれば 発言もできない階級である。
また、使い魔と同様と聞けば自由なイメージがあるかもしれないが、それは違う。
他の悪魔たちに仕える使い魔は、ハンたちのような扱いは受けていない。
天界の使い魔同様 名前で呼ばれることもなく、遊び半分で殺され復活し、また殺され。
いずれ増えすぎた悪徳により魂が耐え切れなくなり、自然消滅していく運命なのだ。
そんな悪魔らしからぬマリーの提案に、悪魔たちが顔を上げ質問してくる。
「マリー様、俺らもマリー様の仲間として生きていいんですかい?」
「もちろん。
死ぬためだけに生まれてくる命なんてないんだよ。
私の配下になれば、ここにいる使い魔のハンたちと同じように扱ってあげるからね。」
用心棒たちは、口々に相談しあっている。
しかし、用心棒たちの答えは最初から決まっていたようだ。
「「「俺らは マリー様に永久の服従を誓い、配下になることを契約するぜ。」」」
用心棒たちが契約すると言った瞬間、周囲に まばゆい光が走る。
用心棒たちの体にマリーの城にあった紋章と同じ紋章が光り輝き刻まれていく。
「マリーさん、いったい何が起きたんですか?」
「契約が完了したのよ。
悪魔の契約は絶対で、決して破ることは出来ないわ。
悪魔が契約を破ることは、死を意味するの。」
「それで悪魔は約束を破らないんですね。」
「まあ、約束は契約ではないんだけど、約束を破る癖がつくと、間違って契約を破ってしまったときのリスクが高まるからね。」
「なるほど。」
契約の様子を感心して見つめているジャス。
マリーは、用心棒たちの体に紋章が刻み終わったのを確認すると、再び声をあげて命令を下す。
「準備はいい?」
「「「オオオオォォ!!!」」」
「「「オオォーニャン!!」」」
「よし!
裏切り者で極悪非道のリッチモンドの討伐戦を続けるわよ!
リッチモンドを最初に捕らえた者には、魔王城に伝わる名刀キル・グラムを与えるわ!
褒美を手に入れて名をあげなさい!
さあ、本能のままに叫べ、本能のままに殺戮せよ!」
「「「オオオオォォ!!!」」」
「「「オオォーニャン!!」」」
「オーーー」
なぜか周囲の熱気に感化され、見習い天使のジャスまで雄たけびを上げている。
どうやら雰囲気にのまれやすい性格のようだ。
元用心棒の悪魔や使い魔、見習い天使のジャスは、無駄に豪華絢爛な扉を壊し、城内へと流れ込む。
城内の使い魔や戦闘に向かない悪魔たちは、慌てふためき逃げ惑う。
そこにマリーが再度、号令をかける。
「今回の手柄は、リッチモンドの確保よ!
それ以外の戦闘は評価に値しないわ!
逃げる悪魔や使い魔との無用な争いは避けなさい!」
マリーの命令で無用な戦闘は回避された。
しかし、城内を守る兵士は、元用心棒の悪魔たちに駆逐されていく。
元用心棒の悪魔たちは、マリーの配下となることで、その魔力の一部を与えられ、いままでとは比べ物にならないほどの力を得ていた。
~1時間後・
リッチモンドの執務室~
少し広めの執務室は、四方を天井まで届く本棚いっぱいに本で埋め尽くされた部屋で、それ以外には 中央に机と椅子があるだけのシンプルな部屋だ。
「マリー様、リッチモンドの姿が見えないッスね。」
「もう逃げ出したんじゃないニャンか?」
「リッチモンドは 秘密の通路とか持ってそうニャン。」
「確かに、俺らが用心棒として出入りしていた時も、執務室に入ったはずのリッチモンドが急に姿を消してしまうこともあったぜ。」
「マリーさん、これだけ探して見つからないってことは、やっぱり。」
「そうね・・・。
これだけ探して見つからないからね。
それにコレクションも失くなってるみたいだし、逃げ出したのかもね。」
そういって、マリーが指さす方には、ガラスが割られた額縁があった。
「マリー様、コレからどうするッスか?」
「とりあえず、金目の物を全て魔王城に移動させましょう。」
「エッ!全てニャンか!!」
「あの重そうな彫刻とかもッスよね・・・。」
「もしかして、宝物庫の豪華な宝石箱なんかもニャンか?」
「ええ、もちろん。それとも 何か問題でも?」
「いえ、やるッス。
いや、やらせてもらいたいッス。」
「安心しなさい。配下の悪魔たちも同様に働く契約だから。
皆で一緒にすれば、今日中には終わるわよ。」
「りょ、了解ッス。
用心棒さん、宜しくッス!」
「おう!
力仕事は任せな!!」
用心棒や使い魔たちが、せっせと作業に取り掛かる中、ジャスは執務室の壁に据え付けてある振子時計を見つめていた。
「マリーさん、この振子時計・・・。」
「どうしたの、ジャスちゃん?」
「振子が振れてないのに時を刻んでますよ。」
「!!?」
ジャスの指摘にマリーも何かに気づき、振子時計を調べ始めた。
「これ、カラクリ時計みたいね。」
マリーが振子のゼンマイを巻き始めると、ゆっくりと振子時計が上へと持ち上がり、そこに隠し通路と螺旋階段が現れた。
「まさか、こんな仕掛けがあったとはね。
ジャスちゃん、お手柄じゃない!」
「えへへっ!」
マリーとジャス、近くにいた数匹の使い魔たちは、隠し通路に入り、螺旋階段を下りていく。
螺旋階段を下りてしまうと、頑丈な扉が目の前に現れた。
マリーが力いっぱい扉をこじ開けると、中にはコレクションに囲まれながら、怯えるようにリッチモンドが隠れていた。
「ひ、ひぃぃぃぃ!」
リッチモンドは、マリーの姿を見つけると怯えた表情を見せ、小さく縮こまっているようだ。
「こんなところに隠れてやり過ごそうだなんて、裏切り者のお前らしい考え方よね。」
「マリー様、どうか、どうか命だけは・・・。
お願いします。見逃して下さい。
ほんの出来心だったんです。」
「・・・。」
マリーは リッチモンドへの刑を考えているのか、無言でリッチモンドを見下ろしている。
後ろを付いてきたジャスは、マリーの間違った判断を止めようとしているのだろう。
しかし、マリーの禍々しいオーラを感じ、声をかけられずにいた。
「マリーさん・・・。」
そんな禍々しいオーラを感じとった リッチモンドも悪魔としてのプライドがあるのだろう。
マリーのオーラから何かを感じ取り、決心した様子だ。
「マリー様、私の命と引き換えになるか分かりませんが、2つだけ願いを聞き入れてもらえないでしょうか。」
「一応、聞くだけ聞いておこう。」
「ありがとうございます。
私の死後、出来ればコレクションは、このまま部屋に残しておいてもらえないでしょうか。
いまは亡き 娘が憧れていた、クッキングモンスターのアイドルたちなんです。
それと、私の貯めた財産の一部で構いません。
メルディエゴにある養成所に寄付してもらえないでしょうか。」
「メルディエゴの養成所?」
「マリー様、200年ほど前にリッチモンドが設立した、親に捨てられた悪魔を一人前の悪魔に育て上げる施設ッス。」
「そう、なんだ・・・。
・
・
・
・分かった。その願い、聞き受けよう。」
「マリー様、ありがとうございます。」
「・・・命を奪う相手に礼は不要よ。」
マリーは、持っていた槍を構える。
そんなマリーの目の前に、ジャスが立ちはだかる。
「ダメです!
絶対に殺しはさせません!」
「ジャス、そこをどきなさい!」
「嫌です!」
「どきなさい!」
「絶対に嫌です!
リッチモンドさんを殺すのであれば、私も一緒に殺してください。
マリーさんだって殺したくないはずですよ。
だって、マリーさんは・・・。」
マリーとジャスの間に、使い魔のエイトも割って入り、ジャスを庇うように立ちふさがる。
「・・・2人とも、一緒に死ぬつもり?
たとえジャスでも裏切り者には、容赦しないよ。」
「私は、マリーさんを信じてます。」
マリーの後ろからハンが声をかける。
「マリー様、ジャスさんたちも本当に殺してしまうんスか?」
→YES ・・・003へ
→NO ・・・004へ
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