【CHANGEL】魔界姫マリーと純粋な見習い天使ジャスの不思議な魔界記

黒山羊

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魔界姫

011・英雄の条件

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~魔王城・食堂~

マリーが夕食をとっていると、ネロや配下の悪魔たちが 疲れ果てた表情で訓練から戻ってきた。

「ネロ、疲れてるところ悪いんだけど、
 迷いの森の探索訓練の成果を聞こうかしら。
 私も早朝から エン横に行ってて疲れてるのよ。」

「あ、そうッスね。
 迷いの森を探索した結果、白い人食い巨人の痕跡は見当たらなかったッス。
 でも、別のものをルドルフが発見したッス。」

「別のもの?
 何を見つけたの?」

「それは、天使の羽ッス。」

「ジャスちゃんの羽が落ちてたとかじゃないの?
 たまに魔王城にも落ちてることがあるよ。」

「違うッス。ジャスさんの純白の羽と違って、少しだけど黄ばんでるッス。
 それに、ちょっと匂うッス。」

そういって、ハンは少し黄ばんだ羽を鞄から取り出して、マリーに手渡そうとしたのだが、マリーは不快な表情を見せ、少し黄ばんだ羽の受け取りを拒否した。

「うぇ、見た目から不潔感がするね。
 食事中に取り出さないでよ。」

「すまないッス。
 それと拾った時の状況をルドルフから詳しく説明させるッス。
 俺じゃ、お手上げな事件ッス。」

「ハンが お手上げ?
 ええ、気になるわね。直接きいてみようかな。」


ハンに呼ばれて、配下の獣人種の悪魔がマリーの元にやってきた。


「ルドルフ、この羽を拾った経緯を聞きたいんだけど。」

「分かりましたぜ!
 この羽は、森の中で拾ったんだぜ!」

「・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・え?
 あ、うん。
 えっと、どんな場所に落ちてたの?」

「落ち葉の上だぜ!」


会話にならない。そう感じたマリーは、ハンの方を見る。
ハンもヤレヤレといった様子で肩をすくめ、会話に参加する。


「ルドルフ、どうして落ち葉の上にあった羽に気づいたんスか?」

「下を見ながら歩いてたからだぜ。」

「なんで下を見ながら歩いてたの?」

「空から何かが降ってきたからだぜ。」

「空に何かあったんスか?」

「空に亀裂があったぜ。」

「空に亀裂?
 その亀裂から他に何か出てこなかった?」

「出てきたぜ!」


「・・・ダメだ!
 こんな調子でやりとりしてたら、朝になっちゃう!
 ハン!誰か通訳を連れてきてよ!」

「別に言葉が不自由とかじゃないから通訳とか意味ないッス。
 根気よく聞くしかないッス。」

「じゃあ、ハンが聞いてまとめた結果を報告してよ!」

「俺もキツイッス。
 マリー様、一緒に拷問を受けるッス!」

「ううぅぅぅ!」

マリーが頭を抱えていると、そこに傷がいえたドン・キホーテがやってきた。

「わしが話を聞きますゾイ!」

「本当ッスか!?
 凄く助かるッス!」

「ゾイゾイが居てくれて助かったよ!」

「わしもマリー様に恩返しがしたいんだゾイ!
 では、ルドルフ殿。
 空の亀裂から出てきた者の正体について、ルドルフ殿の考えを教えて下され。」

「空の亀裂から出てきた者の正体・・・。
 あれは天使の姿をした悪魔だぜ!」

「空を見ながら歩いていたと言っておったが、ルドルフ殿は過去に、何度も空の亀裂を見たことがありますかな?」

「あるぜ!
 3日、11:00頃
 6日、11:00頃
 9日、11:00頃」

「わしが来たのが、6日前の昼頃ですから、6日の11:00頃の亀裂と関係がありそうですな。
 何か事件の香りがするゾイ!」


「「「おおぉぉぉ!」」」


少ないターンで、ルドルフから詳しく聞き出したドン・キホーテに、マリーやハン、他の悪魔たちも驚きを隠せないようだ。

「凄いッス!
 何が起こったッスか?」

「ゾイゾイ、やるね!」

「それほどでもないですゾイ!
 やはり亀の甲より歳の甲!
 経験の差とでもいうものですゾイ!」

ドン・キホーテが自信満々に答えていると、ジャスが食堂に遅れて入ってきた。

「みなさん、おかえりなさい。
 いったい何の騒ぎですか?」

「ああ、この獣人、ルドルフっていうんだけどね。
 彼が面白くないものを拾ってきたんだよ。」

マリーは、ジャスに事情を説明する為に、黄ばんだ羽を見せる。
ジャスは、黄ばんだ羽を見たとたん、ルドルフの腕にしがみつき、質問をした。

「ルドルフさん!
 この羽、どこで・・・。」

「ダメッスよ。そんな質問の仕方じゃ。」


「あ、あの、そそそ、そ、それは・・・。
 きょ、今日の訓練で森の中を探索していた時に、ひ、ひ、ひ、拾ったんです。
 い、い、いつものように空に亀裂を見つけて近くにいたのですぐに現場に駆けつけることが出来ました。
 そ、そのおかげで黄色く変色した羽を見つけることが出来たんです。
 ま、ま、前から森の上空に亀裂が生じることを見ていたので意を決して近くまで行った結果です。
 あ、あの、あの、それ以外にも、亀裂の中に見たこともないほど沢山の花が見えました。
 花畑っていうんですかね。黄色や薄紅色の花が 沢山咲いてました。」


「黄色や薄紅色の花・・・。
 花の形とかまで見えませんでしたか?
 せめて、上向きとか、下向きとか。」

「み、み、見えました。上向きの花で、花の形状から花弁は約8枚。花の大きさは、天使との比較になるのですが、マリー様の拳くらいの小ささです。」

ルドルフから情報を聞くと、ジャスは何か考え事をしているようだった。


「・・・何が起こったの?
 ジャスちゃんが魅了でもしちゃった?」

「分からないッス。
 こんなに饒舌に話せるなら最初から話してほしかったッス。」

「マリー様、ルドルフは、若い女性に触られてると人間性が強まるんだぜ!」

「ベッチ、そういった情報は早く言いなさいよ!」


ベッチと呼ばれた城の悪魔(元用心棒の悪魔)のリーダーは、軽く会釈し話を続ける。


「俺も、空の亀裂なら 何百年も前から見てるぜ!
 でも、ここ数日は多発してましたぜ。
 何かを探してるような感じがするぜ!」

「いったい何を探してるんスかね?」

「さあ?
 でも調べてみる価値はありそうね。
 ルドルフの話だと、次の出現は3日後の11:00頃になりそうね。
 それまでに転送装置の整備と、指標玉の準備を終わらせなくちゃね!」
【※転送装置と指標玉
 転送装置は指標玉のある時空に人や物を転送できる装置。
 指標玉は転送装置の指標となる、拳程度の大きさの玉で、指標玉を操作すると転送の間に逆戻りすることも可能。】

「そうッスね。
 すぐ準備に取り掛かるッス!」

「マリーさん、私もその調査に同行させてください!」

「ジャスちゃん、何か心当たりでもあるの?」

「それは、しんぱ・・・。
 あの、すみません。」

何か言えないことなのだろうか、ジャスは、言葉を詰まらせる。
 
「分かった。無理に聞かないわ。
 もし話せるようなことなら、気が向いたら教えてよ。」

「は、はい!」




~魔王城・マリーの寝室~

コンコン。

「マリーさん、少しだけいいですか?」

ガチャ。

マリーは扉を開けジャスを部屋に招き入れる。

「ジャスちゃん、先の件?」

「はい。さっきの羽の件ですけど・・・。」

「ああ、黄ばんで汚い羽だね。」

「えっと、その、一応あの羽は黄貴色って言われてるいろで最高位の天使の羽って言われてるんですけどね。」

「ジャスちゃんの純白の羽の方が素敵だけどね。」

「あ、ありがとうございます。
 あの、話が逸れてしまいましたけど、あの羽の持ち主は、天界で最高権力者のベルゼブイ長官のもので間違いないです。
 それから、空の亀裂の正体は、たぶん審判の門だと思います。」

「ベルゼブイ長官に審判の門。
 なぜ天界は征服した魔界に手を出すのかしら・・・。」

「分かりません。
 でも、審判の門なら逆に此方から侵入することも可能だから、そのときに全てが分かると思います。」

「じゃあ、謎が解けるのは3日後ね。
 それまで休暇を満喫しましょ!
 明日こそ、エン横でショッピングよ!」

「はい!
 マリーさん!」


翌日、エンジェル横丁をブラブラとショッピングしたのだが、ジャスの首からかける財布には、52ヘストと 金色のコインが1枚しか入っておらず、マリーに奢ってもらうショッピングだったそうだ。


「ジャスちゃん、今日の分は貸しだから、必ず返してね!」

「はい、マリーさん。
 次のショッピングは、私が奢りますからね!」









~3日後・迷いの森~

「マリー様、いよいよッスね。
 もうすぐ、11:00ッス。」

迷いの森には、マリー、ジャス、ドン・キホーテ、ハンたち使い魔、魔王城の悪魔たちが勢ぞろいしていた。
マリーは、澄んだ声で仲間たちに声をかける。

「いいみんな!
 空の亀裂がでてきたら、それぞれに持った指標玉を投げ入れるのよ!
 もし戦闘になっても、無理をせずに私に任せてちょうだい!」


「「「おおぉぉー!」」」


それぞれが広大な迷いの森に散らばり、空に亀裂が入るのを待つ。
しばらく待っていると、空に黒い筋が入り、亀裂が入り始めた。

「マリーさん、あそこ!
 亀裂が入ってます!」

「ジャスちゃん、亀裂の下まで急ぐわよ!」

「ハイ!」



マリーたちが亀裂の下にたどり着くと、すでに到着していた悪魔や使い魔たちが亀裂の中に指標玉を投げ入れていた。


「マリー様、指標玉を投げ入れることには成功しましたぜ!」

「よくやったわ!
 亀裂から何か出てきたりはない?」

「はい、今日は何も出てこない日みたいですぜ!」


マリーとジャスは、空の亀裂を真下から見上げていた。
すると、空の亀裂から、一人の天使が舞い降りてきた。
その天使は、黄ばんだ羽と、恰幅の良い体格に、レ点のような鼻ひげを伸ばした変わった髭の天使だ。

「ジャスちゃん、あの変なオジサンが長官のベルゼブイ?」

青ざめた表情でジャスは頷く。
天使の長官ベルゼブイは、ゆっくりと地面に舞い降りると、ジャスに話しかけてきた。


「おい、そこの下級天使!
 なぜ、野蛮で邪悪な生きる価値のない悪魔どもと行動を共にしているのだ。
 
「あ、あの、そんなことは・・・。」


「ぐふっ、ぐふふっ!
 これだから下級天使は屑以下なんだ。
 まったく教育がなってないな。
 悪魔どもや使い魔と同じで、生きる価値もない無能者だな!」


ベルゼブイの威圧的な態度に、ジャスは下を向き黙ってしまった。
そんなジャスに変わり、マリーが一歩前に出て文句を言い放つ。


「ちょっと!
 さっきから聞いてれば、何様のつもり?
 あんたのように人を傷つける言葉しか使えない天使の方が、よっぽど無能よ!
 ここにいるジャスちゃんは、もっとも天使らしい天使よ!」

「そうだぜ!マリー様の言う通りだぜ!
 天使の長官様かなんだか知らないけど、偉そうにすんじゃねーよ!」


「「「そうだそうだニャン!」」」


「下等な悪魔風情が。
 ・・・少し黙っておれ!」

ベルゼブイは 腰のベルトに着けた袋から、複数の小さな輪を取り出す。


「あれは!
 ・・・天尊光輪!?
 マリーさん、逃げてください!」

「え、なに?」


ベルゼブイ長官が左手に持っていた輪をマリーに向かって投げつける。
その輪は、光の環となって、マリーの体に巻き付き マリーの力を奪う。


「きゃあぁぁぁ!」
「マリーさん!」


「ぐふふふふっ!
 その輪は天尊光輪。最近できた悪魔退治の武器だ。
 悪魔よ、お前の体力を奪いきるか、わしが解放を命じるまでその輪を外すことは出来んぞ。」

「あわわわわ、やばいニャン!
 マリー様がピンチニャン!」


「時に、下級天使よ。
 貴様は なぜ邪悪なる者に助言をしたのだ。
 悪魔に助言する天使は死罪と決まっているのだぞ。」

「私は・・・。
 私は、私の正義を信じて行動しました。
 マリーさんは悪魔ですが、決して邪悪なる者ではありません。」

「ぐふふふふっ!
 笑止、邪悪な考えに染まった下級天使よ。
 神に最も近き我が名において、貴様にも死を与える。」


ベルゼブイ長官は腰の短剣を引き抜くと、ジャスめがけて投げつけた。


カーン!


ベルゼブイ長官によって投げられた短剣は、ドン・キホーテの槍によって叩き落された。

「天使様、大丈夫ですかな?」

「ぐぬぬぬ!
 人間は神を崇拝し支配されるだけの生き物!
 そこの人間、貴様は神に最も近き我に歯向かうつもりか!」

「下賤な悪魔め!
 わしに脅しは通用せんゾイ!
 ナオアキ殿、わしが戦闘に入ったらマリー様たちを連れて逃げて下され。
 あの光の環は、どうやら脅威になりそうですからな。」

「分かったニャン。
 ドンさん、気を付けて下さいニャン。」



「我は魔界の若き英雄!
 ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ!
 いざ参る!」


ドン・キホーテは、持っていた槍を投げつけ、けん制を図り、腰の剣を引き抜き、ベルゼブイ長官に切りかかる!

「ぐぬ!」

ベルゼブイ長官は、攻撃を防ぐ為に瞬時に防御魔法を展開するが、ドン・キホーテの投げつけた槍と剣の連携攻撃が決まり、右肩に軽い傷を負ってしまう。


「ぐぬぬぬぬ!
 我は神になるべき男、人間を殺してしまっては!!!
 ええい、誰か!
 審判の門を起動し、この人間を元の世界に戻してしまえ!」


ベルゼブイ長官は空の亀裂に向かって大声で怒鳴った。
すると、空の亀裂から光が差し込み、ドン・キホーテを包み込む。

「ドンさん!
 危ないニャン!」

ドン・キホーテを助けようと、とっさにナオアキがドン・キホーテにしがみつく。
次の瞬間、ドン・キホーテと使い魔のナオアキは、光の中へと消えてしまった。

「2人とも、どうなったニャン?」

「ぐふふふっ!
 あの使い魔の未来が想像できて笑ってしまうわ。
 ぐふ、ぐふ、ぐふふふふっ!」


ベルゼブイ長官が気持ち悪い笑い声をあげているところに、ハンやネロたちも駆けつけた。


「マリー様!
 ジャスさん、いまの状況はどうなってるッスか!」

「ごめんなさい。
 ごめんなさい。
 ごめんなさい・・・。」

ジャスは気がふれてしまったのか、泣きながら謝り続けている。
ジャスに変わり、暗黒のリッチが状況を説明した。
暗黒のリッチから状況を聞いたハンたちは、ベルゼブイ長官を睨み付け、くってかかる。


「おい、お前、何が可笑しいんスか!」


「ぐふふふ、
 あの使い魔は、徳も貯めずに人間界へ渡ったのだよ。
 今頃、人間以外の動物に変化しているころだろう。
 しかも、この魔界で生きた年月分、年老いた姿で変化するのだ。
 変化したとたん、寿命で老衰。
 その後は、徳が溜まるまで、さまざまな動物を転々とし、いずれ自分が誰かも分からなくなる。
 想像しただけで笑いがこみ上げてくるわ!
 ぐふ、ぐふふふ。」

「ぶっ飛んだ下衆野郎ニャン!」

「生かしとく価値もないッスね。」


「ぐふふ、魔界の使い魔様は特別使用かな?
 これ程まで無知だったとは、使い魔ごときが、神にもっとも近い我にかなうはずもない。
何も考えない悪魔どもは野蛮で邪悪な生きる価値のない屑だ。」

ハンは、ベルゼブイを睨んだまま、ジャスに話しかける。

「ジャスさん、俺らが戦い始めたら、マリー様を連れて逃げてほしいッス。」

「そんな、ダメです。
 私が死ねばいいんです。
 そうすれば、ベルゼブイ長官も皆さんのことを見逃してくれます。
 私が死ねば・・・。」


ジャスが死を覚悟する言葉を口にしたことに、弱っているマリーが口を出す。

「は、はぁ、はぁ、ジャスちゃ、ん。
 バカなこと、い、言わないで!
 はぁ、はぁ・・・。」


「ぐぬぬぬぬ!
 小娘め、まだ生きておったのか。
 さっさとくたばれば楽になるものを!」


ベルゼブイ長官の一言に悪魔たちが一斉にベルゼブイ長官を睨みつける。
マリーは、気を失ったようで、苦しみからもがく声が聞こえなくなった。

「なんだ?
 屑どもが、まだ力の差が分からんのか!」


「おい!
 お前、いい加減にしろッス。
 マリー様が許すって言ったとしても、もう俺らは我慢の限界ッス。
 ・
 ・
 ・お前、死ぬぞ。」


ハンの殺気に、他の悪魔たちも震え上がる。
そんなハンに、ネロが声を掛ける。

「ハン、殺るのかニャン?」

「ああ、殺る。」

「仕方ないニャン。
 ポチ、ケーン、エンマ、俺らも手を貸すニャン。
 ノブナガ、マリー様を頼むニャン。」

「任されるニャン。」


5匹の使い魔の周りに集まった魔界の風が闇を運んでくる。
その闇に包まれた5匹の使い魔、ハン、ネロ、ポチ、ケーン、エンマは、闇が晴れる頃には姿を消していた。
5匹の使い魔が居た場所には、大きな青い狼、2m程の黒い巨人、白狛犬の獣人、炎を纏った鳥、赤い顔の夜叉が居た。

「ま、まさか・・・。
 魔界の6鬼神ニャン。」
【魔界の6鬼神。
 天魔大戦の激しい戦いの中、魔王エイルシッドに仕えた異形の悪魔。
 大きな青い狼 ジョチ
 2m程の黒い巨人 ゴリアテ
 九つの尻尾を持つ女狐 ザンギ
 白狛犬の獣人 イヌ
 炎を纏った鳥 キジ
 赤い顔の夜叉 サル】

「皆、行くぞ・・・ッス。」


5匹の異形な悪魔は、天使の長官ベルゼブイに戦いを挑んだ。
しかし、ベルゼブイの持つ 天尊光輪の前に、周囲にいた全ての悪魔が捕縛されていく。
天尊光輪に捕らえられた弱い悪魔や使い魔は次々に消滅していく。


「ベルゼブイ長官!
 私、死罪を受け入れます。
 だから・・・。
 だから、これ以上、彼女たちを傷つけないで下さい!
 これは、神々の定めた法の中に記された、徳を積んで死にゆく天使に許された最期の願いです。
 どうか、どうか、お願いします。」

「くっ!
 仕方がない。
 下級天使よ。
 その腰に差す剣で自身の胸を貫き、死を受け入れよ!
 さすれば、神に最も近き存在である 我が慈悲により下賤な悪魔どもを見逃すとしよう。」


「わかりました。
 ベルゼブイ長官、友達に最後の別れだけ言わせてください。」

「下賤な悪魔が友とは。
 ・・・仕方がない。最後の別れは天使の特権だからな。
 3分だ。3分だけ待とう。」




ジャスは、倒れて気を失うマリーに駆け寄る。
マリーは、気を取り戻すはずもなく、目を閉じたままだった。



「マリーさん、聞こえてますか?
 私です。ジャスです。
 ごめんなさい。次のショッピング、行けそうにありません。
 だって、天使は死ねば花に生まれ変わるんです。
 私は、花に生まれ変わって、この魔界に沢山の花畑を作りますから、絶対に見にきて下さいね!
 私と約束ですよ。悪魔は約束を破らないんですよね。」

ジャスの目から流れる涙が、マリーの頬を伝う。


「でも、もし生まれ変わることが出来たなら、次は悪魔になりたかったな。
 そして、マリーさんや他の悪魔の皆さんと、もっともっと魔界を住みやすい世界にしていきたかった。
 悪魔だって マリーさんや魔王城の皆さんみたいに、仲間を信じ、愛を与え、弱きものを守り幸せにできるって分かったから。」


「おい、下級天使、時間だ。
 ぐふ、ぐふ、ぐふっ!」


「マリーさん。
 ・・・お世話になりました。」











・・・グサッ! 


マリーの近くに倒れこむジャスの遺体を光が包み込み、その場所に一輪の可憐な花が咲いた。


「こんな下賤の者の為に命を落とすなど信じられん。
 下級天使には再教育が必要だな。
 おい!
 世界樹の存在は確認できたか!?」

ベルゼブイ長官は、空の亀裂に向かって怒鳴る。
空の亀裂から、別の声が聞こえる。

「すみません。
 残留反応はあるのですが、世界樹は見当たりません。
 しかし、この時間が一番 残留反応が高いのは事実です。」

「仕方がない。
 また日を改めるとするか。」

ベルゼブイ長官は、空の亀裂の中から指す光に導かれ、空へと舞い上がり消えていった。


ベルゼブイ長官が消えると、悪魔たちの天尊光輪が消え、悪魔たちは解き放たれる。
悪魔たちの多くは、気を失ったままのようだ。

マリーは、まだ気を失っているのだろうか。
しかし、マリーの目から自然と流れた涙が、濡れた頬を通り魔界の土に還っていく。



魔界姫(完)

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