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見習い天使
023・その命を無駄にしてはならない
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~魔王城・食堂~
魔王城の食堂で、マリー、ジャス、ノーサがくつろいでいる。
すると、そこにテンペスト火山に行っていたメンバーが帰ってきた。
マリーは、傷だらけのベッチたちを見て、驚いて声をかける。
「ベッチ、いったいどうしたの!?」
ベッチは、ハンの方をみて答えた。
「いや、どうもしてないぜ。」
「どうもしてない訳ないじゃない!
なんで傷だらけなの!?」
納得のいかないマリーに、ハンが一歩前に出て声をかける。
「まあ、どうもしなかったわけじゃないッス。
テンペスト火山に瘴気だまりができていて、そこに超魔獣が生まれてたッス。
でも安心してほしいッス。みんなで協力して退治してきたッス。」
「ほんとに超魔獣なの?
どう考えてみても、ベッチたちの実力だと敗北確定だと思うの。
ノーサでも、ギリギリ勝てるかどうか 怪しいところなのに・・・。」
「それは・・・、えっと、友達ッス。
友達に助けてもらったッス。」
「友達?
使い魔が集まっても誤差の範囲だと思うの。
何か隠し事してるんじゃない?」
ノーサの意見に、マリーも同意している。
ハンが言い訳に困っていると、ネロが代わりに話し始めた。
「確かに、俺らだけでは勝てなかったニャン。
でも、ハンの友達のゴリアテが来てくれてゴリアテ無双だったニャン。」
「ヒソヒソ・・・。」
(無双って程でもなかったニャン。)
(結構、死にそうな顔してたぜ。)
(絶対に俺の方が活躍したニャン。)
(ハンとネロは、囮としては優秀だったニャン。)
「それなら納得なの。」
ノーサは納得した様子だが、マリーは納得がいかない様子だ。
「ちょっとまってよ。
ゴリアテは、いまどこにいるの?
ハンもハンよ!
ゴリアテを知ってるなら、お父様の居場所を聞いたりしなかったの?」
「そ、それは・・・。」
「もう聞いてたみたいニャン。
でも、知らないって言ってたニャン。」
「ふーん。
まあ、いいわ。
で、瘴気だまりの原因とか分かったの?」
「それは・・・。」
ハンが答えようとしたところ、ベッチが悲しそうな顔でハンの服を引く。ハンは、ベッチの方を向き軽く頷く。
「瘴気だまりの原因は、悪魔の死体が置かれてたッス。」
「悪魔同士の復讐とかかしら・・・。」
「いや、違うッス。
・
・
・
魔法学院に通う子供たちの死体だったッス。
魔法学院の通園バックを持ってたから間違いないッス。
いま手分けして遺体を家族に引き渡してるところッス。」
「誰が、そんなひどいことを!」
「そ・・・それは、分からなかったッス。
いま調査中ッス。また結果が分かれば報告するッス。」
マリーの怒りの気に いっきに食堂の空気が重くなる。
そんなマリーに ジャスが声をかける。
「でも、子供だったんなら、天界で使い魔になるんじゃないですか?
100年も待てば、また魔界に転生して戻ってこれるんじゃ・・・。」
「ジャス、それは無理な話なの。
ノーサでも知ってる。」
不思議そうな顔のジャスに、マリーが説明する。
「ノーサの言う通りだよ。
確かに子供は親から殺された場合以外は、天界の使い魔として転生できる。
だけど、天界の使い魔に転生することが問題なの。」
「どうしてですか、私 魔界に来る前は、子供の使い魔を保護して回る仕事をしてましたよ。
そして、子供の使い魔は、神の家っていう施設で保護されてたんです。」
「・・・ジャスちゃんは、神の家に入ったことはあるの?」
「いえ、それはないですけど。」
ジャスの返事に、ノーサが納得したようにマリーたちに声をかける。
「やっぱりなの、ジャスは知らないの。」
「どういう意味ですか?」
理解できていないジャスにマリーが話をし内容を詰める。
「ジャスちゃん、保護して回るときに、子供の使い魔に何を聞いてた?」
「えっと、名前と、迷子なのか転生してきたのか、あとは両親の種族ですね。」
「なぜ、両親の種族を聞くの?」
「だって、悪魔の子だったら、親も転生して迎えに来ることができないじゃないですか。
だから そういった子には、いっぱい お手伝いをして、早く お父さん お母さんのところに帰ろうねって・・・。」
やはり理解できていないジャスにベッチが話を始めた。
「アネゴは知らなかったし、罪もないと思うぜ。
でも、俺の話を聞いてほしいんだぜ。
あれは、俺がまだ幼かったころの話だったぜ。
俺には、3人の弟や妹がいたんだ、でも、その兄弟も死んでしまった・・・。」
ベッチの話では、3人が死んでしまった時、両親は天界に使い魔として転生し数百年で魔界に戻ってくるという話をしたそうだ。
そのころ、ベッチたち用心棒の集団は、使い魔と同様に使われるもので、いつ死んでも おかしくない状況だった。
そんな厳しい暮らしを送っていたベッチは、両親の言葉を信じ、幼いうちに戦いで死ぬことを期待する。
ある時、反乱を抑えるために用心棒として派遣された先で ベッチは瀕死の重傷をおってしまった。もう少しで天界の使い魔として転生できる、もう少しの辛抱で用心棒以外の悪魔に転生できる・・・。
ベッチは 目を閉じ、最期の時を待った・・・。
「ベッチ!目を覚まして!ベッチ!」
母のベッチを呼ぶ声が聞こえた。ベッチが目を覚ますと、傷は手当てを受けており、死を回避していた。
「母ちゃん、なぜ・・・。」
ベッチの母親は大粒の涙を流していた。
・
・
・
その後、弟たちは魔界に転生することはなかったそうだ・・・。
「まあ、もう兄弟たちも消滅してるだろうから、俺の場合はどうしようもないんだが・・・。」
ジャスは、やっと理解ができたようで、目に涙をためていた。
そんなジャスにマリーが優しく声をかけた。
「大丈夫だよ。
ジャスちゃんは知らなかったんだから。」
「でも、私・・・。」
「・・・ねえ、いまから子供の使い魔たちを解放しに行かない?
この前の指標玉が天界にあるから、天界に移動したら神の家を目指そうよ!
天界の案内は、元見習い天使のジャスちゃんに頼もうかな。
・
・
・
任されてくれるかな?」
「はい!
私、みんなを解放してあげます!」
「よーし!
そうと決まれば総力戦よ!
私の戦闘力にノーサの誘惑魔法、ジャスちゃんの道案内があれば、速攻で襲撃できるわ!
神の家を襲撃して、子供たちを解放するわよ!」
「「「オオォォー!」」」
「あ、あれ、ノーサも参加する方向なの?」
こうして、マリー率いる魔王城の悪魔たちは、地下の転送の魔へと移動する。
ノーサは魔王城の地下が珍しかったのか、ベッチたちと率先して階段を駆け下りていった。
マリーの寝室に寄り、少し遅れたマリーとジャスとゴーム。
階段を下りながら、ジャスがマリーに質問する。
「マリーさん、天尊光輪の対策ってあるんですか?」
「ああ、そっか、ジャスちゃんは知らなかったよね。
もうアレは問題ないよ。
ゴームで実験したんだけど、ゴームには効かなかったのよ。」
「それで、ゴームちゃんを連れていくんですね。」
「アレではない!
我が名は、漆黒の闇に生まれし混沌の光であり、時を超越し全てを破滅へと誘う者。ゴームなり。」
「いやいや、ゴームの事をいったんじゃないんだけど・・・。」
「うふふっ、
ノーサさんに聞かれたら大変でしょうね。」
「しまった!
今からゴームを部屋に戻そうかな・・・。」
そんな会話をしながら、マリーたちも転送の間へと階段を下りていく。
マリーたちが転送の間につくと、準備を終えていたベッチたちが声をかけてきた。
「マリー様、いつでも大丈夫だぜ!」
「マリー様の号令で出発できるッス!」
マリーは頷くと、仲間たちに号令をかける。
「いまから天界に乗り込んで、使い魔に転生した子供たちを解放するわ。
子供を消滅させてるくせに 神の家を名乗るなんて いい度胸じゃない!
真実を暴いて、私たちの正義を執行するわよ!」
「「「オオォォー!」」」
「悪事を働く天使どもに恐怖を与え、悪の魂を断ち切るわよ!
さあ、本能のままに叫べ、本能のままに征伐せよ!」
「「「ウオォォォーー!」」」
「「「ウオォォォーー!」」」
「「「ウオォォォーー!」」」
「「「ウオォォォーー!」」」
「「「ウオォォォーー!」」」
マリーの号令で、居残り組の使い魔たちが転送装置を起動させる。
マリーたち魔王城の戦士たちを光が包み込んだ次の瞬間、戦士たちの姿は転送の間から消えてしまっていた。
~天界・審判の門~
審判の門付近には 花畑が広がり、家族連れの天使たちがくつろいだりしていた。
そんな場所に、突如として 魔王城の戦士たちが現れたのだ。
魔王城の戦士たちは、審判の門に投げ込まれた指標玉へと転送されていたのだが、天使たちの目には 悪魔の軍勢が審判の門を通り抜け攻撃をしてきたように写ったのだろう、周囲の天使たちは恐怖し 叫び逃げ惑っている。
「きゃぁーーー!」
「悪魔の襲撃だ、早く天使兵に連絡を!」
「た、たすけてー!」
そんな天使たちに目をくれることもなく、ジャスの道案内の元、神の家へと一直線に魔王城の戦士たちは駆け抜けていく。
「あ、あれ?」
「悪魔が襲ってきたと思ったんだけどな・・・。」
「いったい何だったのかしら・・・。」
「何があったのかニャン?」
「いや、悪魔が攻めてきたと思ったんだけど、一目散に走っていってしまったのよ。」
「その悪魔の中に、黒髪の女の子はいなかったかニャン?」
「女の子・・・。そういえばいたような・・・。」
「わかったニャン。俺らも早く追うニャン。」
「そうですな。置いていかれないうちに、マリー様と合流するのですゾイ!」
~神の家~
神の家にたどり着いた魔王城の戦士たちは、堅牢な扉をこじ開けようとするが、なかなか扉が開かない。
「マリー様、裏から押さえられているみたいだぜ、まったく動かないぜ!」
マリーは ベッチたちに下がるように伝えると、ゴームに指示を出す。
「ゴーム、目の前の扉をこじ開けなさい!」
「ゴーーーム!」
堅牢な扉は、ゴームの怪力で一気に解放された。
その扉の先には、2mを超す筋骨隆々の大柄で屈強な天使が仁王立ちで待ち構えていた。
ジャスは その天使をみてマリーに助言する。
「マリーさん、あの天使は力の天使、オニニギノミコトです。
オニニギノミコトは天界無双の怪力の持ち主って言われてます。」
「問題ないわ。
ゴーム、おにぎりの煮物に力の差を見せつけなさい!」
「ゴーム!」
マリーの指示でゴームがオニニギノミコトに襲い掛かる。
「おのれ、悪魔め!
俺をバカにしおって!
力の差を見せつけてくれるわ!」
オニニギノミコトとゴームが激しく組み合う。
どうやら力の差は互角で組み合ったまま、動きを止めてしまった。
「ゴーム、おにぎりの煮物は任せたわ!」
「ゴーム!」
「くっ、くそっ!
おにぎりの煮物ではないわ!
ふんっ、ふんっ、ふんっ!」
オニニギノミコトは、激しい鼻息をゴームに吹きかけながら力を込めている。
互角の力で長引きそうだと感じたノーサが手助けにはいる。
ノーサは オニニギノミコトに、残念そうな顔をしながらいう。
「なんだか 暑苦しいの。
本当にジャスと同じ天使なの?
ノーサ、暑苦しい男は嫌いなの。」
「な、なんだと!
貴様・・・・・。
あ、いえ、あなた様に文句を言った訳ではないです。」
ノーサの瞳が妖しく光を放っている。
どうやら誘惑の魔法を使っているようだ。
マリーは、ノーサの魔法が成功したのを確認すると、ゴームに指示してオニニギノミコトを解放する。
オニニギノミコトは、ノーサの命令を待っていた。
「ノーサたちを 悪魔の子供だった使い魔が居る部屋に案内してほしいの。
ちゃんとできたら、ご褒美として、とってもイイことしてあげるんだけどな・・・。」
「はい、ノーサ様・・・。
こちらになります・・・。」
オニニギノミコトに案内されるまま、神の家を奥へと進んでいく。
途中に配置されていた天使兵を オニニギノミコトや魔王城の戦士たちは駆逐しながら進む。
「ノーサさんの誘惑の魔法って凄いんですね。」
「そうかな。
たしか、誘惑の魔法は低能な魔獣にしか効かないって聞いたことあるけど・・・。」
マリーとジャスが会話をしていると、ノーサが会話に参加する。
「そうなの。
低能そうな筋肉バカだったから試してみたら普通に成功してて、ノーサも驚いたわ。
マリーの使い魔には効かなかったのに・・・。」
「でも、低能の基準って何だろうね。
ノーサよりも低能ってことかな?
ノーサもバカなのにね。」
「・・・!?
ノーサは バカバカしいだけ!
バカなのはマリーなの!」
「じゃあ、私に試してみる?
絶対に効かないわよ!」
喧嘩を始めた2人を ジャスが制止する。
「ほらほら、2人とも!
もうすぐ着くみたいですよ!」
ジャスの話した通り、神の家の奥にある鉄格子を抜けると、牢屋のような場所に、使い魔の子供たちが押し込まれていた。
マリーは オニニギノミコトから牢屋の鍵を奪うと、ベッチたちに命じて牢屋の鍵を開けて回らせた。
牢屋の鍵を開けてしまい、すべての子供の使い魔を保護する。
「みんな、大丈夫よ!
いまから魔界に帰りましょう!」
マリーが指標玉を起動しようとしたとき、牢屋の入り口にある鉄格子の方から、気味の悪い笑い声が聞こえてきた。
「ぐふっ、ぐふふっ!」
気味の悪い笑い声の正体は、ベルゼブイだろう。
マリーは背後を振り返ると、ベルゼブイの左腕には 逃げ遅れた子供の使い魔が捕らえられていた。
「ぐふっ、ぐふふっ!
わしに復讐するためにノコノコとやってきおったな!
薄汚い悪魔どもめ!」
「・・・あんたなんかに興味はないわよ。」
「マリーの知り合い?
なんだか臭そうなの。
ノーサ、アレには誘惑の魔法を使いたくないの。」
「アレではない!
我が名は、漆黒の闇に生まれし混沌の光であり、時を超越し全てを破滅へと誘う者。ゴームなり。」
「・・・ねえ、いまゴームが何か言ってたの。」
「気にしたら負けよ!
・
・
・
とにかく、ベルゼブイ!
その子を話なさい!」
「ぐふふっ!
お前たちの目的は分かっているぞ!
野蛮な悪魔の使い魔を教育して 神に最も近い わしを狙わせる気だな!」
「はぁ?
そんな無駄なことするわけないじゃん!
もし離さないっていうんなら、力ずくで奪い返すわよ!」
「ぐふっぐふっぐふ。
わしの天尊光輪を受けても同じ事を言えるのかな。」
「もうソレは効かないわよ!
ゴーム・・・。」
「おっと、わしは 天界の使い魔への生殺与奪の権利を持っているのだぞ。
魔神を動かせば、この子供を消滅させることになるぞ。」
ベルゼブイがマリーたちを脅すように、右手を捕らえた 子供の使い魔の頭に近づける。
「待て待てまてーい!
・
・
・
我は魔界の若き英雄!
ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ!
いざ参る!」
「それと、ナオアキだニャン!」
ベルゼブイの背後から、人間の姿のままのドン・キホーテが颯爽と現れ、ベルゼブイに体当たりを喰らわせる。
ベルゼブイがよろけた隙に、使い魔のナオアキが子供の使い魔を救出した。
「ゾイゾイ!
ナオアキ!」
「マリー様、わしらも連れて行って下され!」
「もちろん!
みんなで魔界に帰ろう!」
ベルゼブイから離れたドン・キホーテがベッチの手を掴んだとき、マリーたち魔王城の戦士や子供の使い魔たちを光が包み込む。
光が消えた瞬間、マリーたちは消え、牢獄に ベルゼブイとオニニギノミコトだけが残されていた。
「お、おのれ!
下賤な悪魔め!
またしても、わしを出し抜きおって!」
正気に戻ったオニニギノミコトがベルゼブイに声をかける。
「ベルゼブイ長官、あの悪魔の少女の側に 死んだはずの見習い天使の姿があったようですが・・・。」
「あの下級天使が?
・
・
・
そうか!
わしの涙を回収したときから、なんに使うのか疑問だったのだ。
・・・なるほど、そういうことか!
くそっ、もっと早くに気づいておれば・・・。」
「ベルゼブイ長官?」
「ぐふふふっ。
仕方がない、わしの秘策を出すとするかの・・・。」
~魔王城・転送の間~
無事に魔王城に戻ってきたマリーたちは、子供の使い魔たちを両親の元に送り届けるように手配する。
子供の使い魔は 天界の使い魔になるので、悪さをしなければ徳が自動で溜まる仕様の為、両親の元に返してあげるのが一番だと結論にいたった。
子供の使い魔を送り届けるために準備をしていたベッチがマリーたちに声をかける。
「マリー様、俺らは やっぱりマリー様の配下になって正解だったぜ。」
「わたしも ベッチたちのような 勇敢で優しい心をもった配下ができて幸せよ。」
マリーの言葉に、照れてしまい恥ずかしそうな仕草を見せたベッチが、笑顔で子供たちを送り届ける準備に戻る。
その様子を見ていたドン・キホーテとナオアキもマリーに声をかけてきた。
「俺とドンさんも、ずっとずっとマリー様のことを考えてたニャン!」
「魔王城の仲間たちの事を 忘れたことは、ありませんゾイ!
わしらも戻ってこれて幸せですゾイ!」
「もう2人は、人間に転生したと思ってたのに・・・。
2人とも おかえりなさい!
・
・
・
ところで、なんでゾイゾイは、人間の姿のままなの?」
「それは魔王を退治した功績で、人間の姿を与えられたのですゾイ。
魔王城に帰るときに 使い魔の姿だと不便だろうからと言って、ディーテ様が大神様に直談判してくれたのですゾイ。」
「そうなんだ。(やっぱり、お母様はきっと立派な天使だったんだ。)
・
・
・
竜殺しの勇 暗黒騎士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ、忠臣ナオアキ、これからも宜しくね。」
「名誉ある称号ありがとうございます。
ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ、必ずマリー様の役に立ってみせますゾイ!」
ドン・キホーテは 感動したのだろうか、しわだらけの顔を くしゃくしゃにしながら涙を流している。
マリーは、2人にも再び部屋が割り与えた。2人はハンに案内され部屋へと引き上げていく。
ノーサも疲れたのだろうか、大きく背伸びをすると、ハンたちの後を追って、自分の部屋へと引き上げていった。
最後に残ったマリーとジャスは、ゴームを連れて部屋に戻るため階段を上り始める。
長い長い らせん階段の中ほどで 落ち込んでいるジャスが立ち止まりマリーを見つめる。
「ドン・キホーテさんは、ディーテ様が助けてくれたんですよね。
マリーさん。ディーテ様の事・・・。」
「ディーテ様って、天使の間で有名なの?
すっごく素敵な天使様だったよ!」
「天使様?」
「急に どうしたの?
驚いた顔しちゃって。」
「あ、いえ、何でもないです。
・
・
・
マリーさん、私が犯してきた罪、少しは償えたんでしょうか・・・。」
「知らなかったことだから。
ほら、ジャスちゃんが よく言ってるじゃない。
罪を償う意思が大事なんでしょ。もう自分を許してあげなよ。」
「マリーさん・・・。」
「ジャスちゃんは、責任感が強すぎるよ。
ノーサだって言ってるじゃん。バカバカしくなれ!って。
それに、もう見習い天使は卒業して 魔界天使になったんだから、ここから魔界のディーテ様を目指しちゃいなよ。」
「・・・。」
「はい。
そうですね!
・
・
・
私 マリーさんみたいな天使を目指します!」
「えっ?」
見習い天使(完)
魔王城の食堂で、マリー、ジャス、ノーサがくつろいでいる。
すると、そこにテンペスト火山に行っていたメンバーが帰ってきた。
マリーは、傷だらけのベッチたちを見て、驚いて声をかける。
「ベッチ、いったいどうしたの!?」
ベッチは、ハンの方をみて答えた。
「いや、どうもしてないぜ。」
「どうもしてない訳ないじゃない!
なんで傷だらけなの!?」
納得のいかないマリーに、ハンが一歩前に出て声をかける。
「まあ、どうもしなかったわけじゃないッス。
テンペスト火山に瘴気だまりができていて、そこに超魔獣が生まれてたッス。
でも安心してほしいッス。みんなで協力して退治してきたッス。」
「ほんとに超魔獣なの?
どう考えてみても、ベッチたちの実力だと敗北確定だと思うの。
ノーサでも、ギリギリ勝てるかどうか 怪しいところなのに・・・。」
「それは・・・、えっと、友達ッス。
友達に助けてもらったッス。」
「友達?
使い魔が集まっても誤差の範囲だと思うの。
何か隠し事してるんじゃない?」
ノーサの意見に、マリーも同意している。
ハンが言い訳に困っていると、ネロが代わりに話し始めた。
「確かに、俺らだけでは勝てなかったニャン。
でも、ハンの友達のゴリアテが来てくれてゴリアテ無双だったニャン。」
「ヒソヒソ・・・。」
(無双って程でもなかったニャン。)
(結構、死にそうな顔してたぜ。)
(絶対に俺の方が活躍したニャン。)
(ハンとネロは、囮としては優秀だったニャン。)
「それなら納得なの。」
ノーサは納得した様子だが、マリーは納得がいかない様子だ。
「ちょっとまってよ。
ゴリアテは、いまどこにいるの?
ハンもハンよ!
ゴリアテを知ってるなら、お父様の居場所を聞いたりしなかったの?」
「そ、それは・・・。」
「もう聞いてたみたいニャン。
でも、知らないって言ってたニャン。」
「ふーん。
まあ、いいわ。
で、瘴気だまりの原因とか分かったの?」
「それは・・・。」
ハンが答えようとしたところ、ベッチが悲しそうな顔でハンの服を引く。ハンは、ベッチの方を向き軽く頷く。
「瘴気だまりの原因は、悪魔の死体が置かれてたッス。」
「悪魔同士の復讐とかかしら・・・。」
「いや、違うッス。
・
・
・
魔法学院に通う子供たちの死体だったッス。
魔法学院の通園バックを持ってたから間違いないッス。
いま手分けして遺体を家族に引き渡してるところッス。」
「誰が、そんなひどいことを!」
「そ・・・それは、分からなかったッス。
いま調査中ッス。また結果が分かれば報告するッス。」
マリーの怒りの気に いっきに食堂の空気が重くなる。
そんなマリーに ジャスが声をかける。
「でも、子供だったんなら、天界で使い魔になるんじゃないですか?
100年も待てば、また魔界に転生して戻ってこれるんじゃ・・・。」
「ジャス、それは無理な話なの。
ノーサでも知ってる。」
不思議そうな顔のジャスに、マリーが説明する。
「ノーサの言う通りだよ。
確かに子供は親から殺された場合以外は、天界の使い魔として転生できる。
だけど、天界の使い魔に転生することが問題なの。」
「どうしてですか、私 魔界に来る前は、子供の使い魔を保護して回る仕事をしてましたよ。
そして、子供の使い魔は、神の家っていう施設で保護されてたんです。」
「・・・ジャスちゃんは、神の家に入ったことはあるの?」
「いえ、それはないですけど。」
ジャスの返事に、ノーサが納得したようにマリーたちに声をかける。
「やっぱりなの、ジャスは知らないの。」
「どういう意味ですか?」
理解できていないジャスにマリーが話をし内容を詰める。
「ジャスちゃん、保護して回るときに、子供の使い魔に何を聞いてた?」
「えっと、名前と、迷子なのか転生してきたのか、あとは両親の種族ですね。」
「なぜ、両親の種族を聞くの?」
「だって、悪魔の子だったら、親も転生して迎えに来ることができないじゃないですか。
だから そういった子には、いっぱい お手伝いをして、早く お父さん お母さんのところに帰ろうねって・・・。」
やはり理解できていないジャスにベッチが話を始めた。
「アネゴは知らなかったし、罪もないと思うぜ。
でも、俺の話を聞いてほしいんだぜ。
あれは、俺がまだ幼かったころの話だったぜ。
俺には、3人の弟や妹がいたんだ、でも、その兄弟も死んでしまった・・・。」
ベッチの話では、3人が死んでしまった時、両親は天界に使い魔として転生し数百年で魔界に戻ってくるという話をしたそうだ。
そのころ、ベッチたち用心棒の集団は、使い魔と同様に使われるもので、いつ死んでも おかしくない状況だった。
そんな厳しい暮らしを送っていたベッチは、両親の言葉を信じ、幼いうちに戦いで死ぬことを期待する。
ある時、反乱を抑えるために用心棒として派遣された先で ベッチは瀕死の重傷をおってしまった。もう少しで天界の使い魔として転生できる、もう少しの辛抱で用心棒以外の悪魔に転生できる・・・。
ベッチは 目を閉じ、最期の時を待った・・・。
「ベッチ!目を覚まして!ベッチ!」
母のベッチを呼ぶ声が聞こえた。ベッチが目を覚ますと、傷は手当てを受けており、死を回避していた。
「母ちゃん、なぜ・・・。」
ベッチの母親は大粒の涙を流していた。
・
・
・
その後、弟たちは魔界に転生することはなかったそうだ・・・。
「まあ、もう兄弟たちも消滅してるだろうから、俺の場合はどうしようもないんだが・・・。」
ジャスは、やっと理解ができたようで、目に涙をためていた。
そんなジャスにマリーが優しく声をかけた。
「大丈夫だよ。
ジャスちゃんは知らなかったんだから。」
「でも、私・・・。」
「・・・ねえ、いまから子供の使い魔たちを解放しに行かない?
この前の指標玉が天界にあるから、天界に移動したら神の家を目指そうよ!
天界の案内は、元見習い天使のジャスちゃんに頼もうかな。
・
・
・
任されてくれるかな?」
「はい!
私、みんなを解放してあげます!」
「よーし!
そうと決まれば総力戦よ!
私の戦闘力にノーサの誘惑魔法、ジャスちゃんの道案内があれば、速攻で襲撃できるわ!
神の家を襲撃して、子供たちを解放するわよ!」
「「「オオォォー!」」」
「あ、あれ、ノーサも参加する方向なの?」
こうして、マリー率いる魔王城の悪魔たちは、地下の転送の魔へと移動する。
ノーサは魔王城の地下が珍しかったのか、ベッチたちと率先して階段を駆け下りていった。
マリーの寝室に寄り、少し遅れたマリーとジャスとゴーム。
階段を下りながら、ジャスがマリーに質問する。
「マリーさん、天尊光輪の対策ってあるんですか?」
「ああ、そっか、ジャスちゃんは知らなかったよね。
もうアレは問題ないよ。
ゴームで実験したんだけど、ゴームには効かなかったのよ。」
「それで、ゴームちゃんを連れていくんですね。」
「アレではない!
我が名は、漆黒の闇に生まれし混沌の光であり、時を超越し全てを破滅へと誘う者。ゴームなり。」
「いやいや、ゴームの事をいったんじゃないんだけど・・・。」
「うふふっ、
ノーサさんに聞かれたら大変でしょうね。」
「しまった!
今からゴームを部屋に戻そうかな・・・。」
そんな会話をしながら、マリーたちも転送の間へと階段を下りていく。
マリーたちが転送の間につくと、準備を終えていたベッチたちが声をかけてきた。
「マリー様、いつでも大丈夫だぜ!」
「マリー様の号令で出発できるッス!」
マリーは頷くと、仲間たちに号令をかける。
「いまから天界に乗り込んで、使い魔に転生した子供たちを解放するわ。
子供を消滅させてるくせに 神の家を名乗るなんて いい度胸じゃない!
真実を暴いて、私たちの正義を執行するわよ!」
「「「オオォォー!」」」
「悪事を働く天使どもに恐怖を与え、悪の魂を断ち切るわよ!
さあ、本能のままに叫べ、本能のままに征伐せよ!」
「「「ウオォォォーー!」」」
「「「ウオォォォーー!」」」
「「「ウオォォォーー!」」」
「「「ウオォォォーー!」」」
「「「ウオォォォーー!」」」
マリーの号令で、居残り組の使い魔たちが転送装置を起動させる。
マリーたち魔王城の戦士たちを光が包み込んだ次の瞬間、戦士たちの姿は転送の間から消えてしまっていた。
~天界・審判の門~
審判の門付近には 花畑が広がり、家族連れの天使たちがくつろいだりしていた。
そんな場所に、突如として 魔王城の戦士たちが現れたのだ。
魔王城の戦士たちは、審判の門に投げ込まれた指標玉へと転送されていたのだが、天使たちの目には 悪魔の軍勢が審判の門を通り抜け攻撃をしてきたように写ったのだろう、周囲の天使たちは恐怖し 叫び逃げ惑っている。
「きゃぁーーー!」
「悪魔の襲撃だ、早く天使兵に連絡を!」
「た、たすけてー!」
そんな天使たちに目をくれることもなく、ジャスの道案内の元、神の家へと一直線に魔王城の戦士たちは駆け抜けていく。
「あ、あれ?」
「悪魔が襲ってきたと思ったんだけどな・・・。」
「いったい何だったのかしら・・・。」
「何があったのかニャン?」
「いや、悪魔が攻めてきたと思ったんだけど、一目散に走っていってしまったのよ。」
「その悪魔の中に、黒髪の女の子はいなかったかニャン?」
「女の子・・・。そういえばいたような・・・。」
「わかったニャン。俺らも早く追うニャン。」
「そうですな。置いていかれないうちに、マリー様と合流するのですゾイ!」
~神の家~
神の家にたどり着いた魔王城の戦士たちは、堅牢な扉をこじ開けようとするが、なかなか扉が開かない。
「マリー様、裏から押さえられているみたいだぜ、まったく動かないぜ!」
マリーは ベッチたちに下がるように伝えると、ゴームに指示を出す。
「ゴーム、目の前の扉をこじ開けなさい!」
「ゴーーーム!」
堅牢な扉は、ゴームの怪力で一気に解放された。
その扉の先には、2mを超す筋骨隆々の大柄で屈強な天使が仁王立ちで待ち構えていた。
ジャスは その天使をみてマリーに助言する。
「マリーさん、あの天使は力の天使、オニニギノミコトです。
オニニギノミコトは天界無双の怪力の持ち主って言われてます。」
「問題ないわ。
ゴーム、おにぎりの煮物に力の差を見せつけなさい!」
「ゴーム!」
マリーの指示でゴームがオニニギノミコトに襲い掛かる。
「おのれ、悪魔め!
俺をバカにしおって!
力の差を見せつけてくれるわ!」
オニニギノミコトとゴームが激しく組み合う。
どうやら力の差は互角で組み合ったまま、動きを止めてしまった。
「ゴーム、おにぎりの煮物は任せたわ!」
「ゴーム!」
「くっ、くそっ!
おにぎりの煮物ではないわ!
ふんっ、ふんっ、ふんっ!」
オニニギノミコトは、激しい鼻息をゴームに吹きかけながら力を込めている。
互角の力で長引きそうだと感じたノーサが手助けにはいる。
ノーサは オニニギノミコトに、残念そうな顔をしながらいう。
「なんだか 暑苦しいの。
本当にジャスと同じ天使なの?
ノーサ、暑苦しい男は嫌いなの。」
「な、なんだと!
貴様・・・・・。
あ、いえ、あなた様に文句を言った訳ではないです。」
ノーサの瞳が妖しく光を放っている。
どうやら誘惑の魔法を使っているようだ。
マリーは、ノーサの魔法が成功したのを確認すると、ゴームに指示してオニニギノミコトを解放する。
オニニギノミコトは、ノーサの命令を待っていた。
「ノーサたちを 悪魔の子供だった使い魔が居る部屋に案内してほしいの。
ちゃんとできたら、ご褒美として、とってもイイことしてあげるんだけどな・・・。」
「はい、ノーサ様・・・。
こちらになります・・・。」
オニニギノミコトに案内されるまま、神の家を奥へと進んでいく。
途中に配置されていた天使兵を オニニギノミコトや魔王城の戦士たちは駆逐しながら進む。
「ノーサさんの誘惑の魔法って凄いんですね。」
「そうかな。
たしか、誘惑の魔法は低能な魔獣にしか効かないって聞いたことあるけど・・・。」
マリーとジャスが会話をしていると、ノーサが会話に参加する。
「そうなの。
低能そうな筋肉バカだったから試してみたら普通に成功してて、ノーサも驚いたわ。
マリーの使い魔には効かなかったのに・・・。」
「でも、低能の基準って何だろうね。
ノーサよりも低能ってことかな?
ノーサもバカなのにね。」
「・・・!?
ノーサは バカバカしいだけ!
バカなのはマリーなの!」
「じゃあ、私に試してみる?
絶対に効かないわよ!」
喧嘩を始めた2人を ジャスが制止する。
「ほらほら、2人とも!
もうすぐ着くみたいですよ!」
ジャスの話した通り、神の家の奥にある鉄格子を抜けると、牢屋のような場所に、使い魔の子供たちが押し込まれていた。
マリーは オニニギノミコトから牢屋の鍵を奪うと、ベッチたちに命じて牢屋の鍵を開けて回らせた。
牢屋の鍵を開けてしまい、すべての子供の使い魔を保護する。
「みんな、大丈夫よ!
いまから魔界に帰りましょう!」
マリーが指標玉を起動しようとしたとき、牢屋の入り口にある鉄格子の方から、気味の悪い笑い声が聞こえてきた。
「ぐふっ、ぐふふっ!」
気味の悪い笑い声の正体は、ベルゼブイだろう。
マリーは背後を振り返ると、ベルゼブイの左腕には 逃げ遅れた子供の使い魔が捕らえられていた。
「ぐふっ、ぐふふっ!
わしに復讐するためにノコノコとやってきおったな!
薄汚い悪魔どもめ!」
「・・・あんたなんかに興味はないわよ。」
「マリーの知り合い?
なんだか臭そうなの。
ノーサ、アレには誘惑の魔法を使いたくないの。」
「アレではない!
我が名は、漆黒の闇に生まれし混沌の光であり、時を超越し全てを破滅へと誘う者。ゴームなり。」
「・・・ねえ、いまゴームが何か言ってたの。」
「気にしたら負けよ!
・
・
・
とにかく、ベルゼブイ!
その子を話なさい!」
「ぐふふっ!
お前たちの目的は分かっているぞ!
野蛮な悪魔の使い魔を教育して 神に最も近い わしを狙わせる気だな!」
「はぁ?
そんな無駄なことするわけないじゃん!
もし離さないっていうんなら、力ずくで奪い返すわよ!」
「ぐふっぐふっぐふ。
わしの天尊光輪を受けても同じ事を言えるのかな。」
「もうソレは効かないわよ!
ゴーム・・・。」
「おっと、わしは 天界の使い魔への生殺与奪の権利を持っているのだぞ。
魔神を動かせば、この子供を消滅させることになるぞ。」
ベルゼブイがマリーたちを脅すように、右手を捕らえた 子供の使い魔の頭に近づける。
「待て待てまてーい!
・
・
・
我は魔界の若き英雄!
ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ!
いざ参る!」
「それと、ナオアキだニャン!」
ベルゼブイの背後から、人間の姿のままのドン・キホーテが颯爽と現れ、ベルゼブイに体当たりを喰らわせる。
ベルゼブイがよろけた隙に、使い魔のナオアキが子供の使い魔を救出した。
「ゾイゾイ!
ナオアキ!」
「マリー様、わしらも連れて行って下され!」
「もちろん!
みんなで魔界に帰ろう!」
ベルゼブイから離れたドン・キホーテがベッチの手を掴んだとき、マリーたち魔王城の戦士や子供の使い魔たちを光が包み込む。
光が消えた瞬間、マリーたちは消え、牢獄に ベルゼブイとオニニギノミコトだけが残されていた。
「お、おのれ!
下賤な悪魔め!
またしても、わしを出し抜きおって!」
正気に戻ったオニニギノミコトがベルゼブイに声をかける。
「ベルゼブイ長官、あの悪魔の少女の側に 死んだはずの見習い天使の姿があったようですが・・・。」
「あの下級天使が?
・
・
・
そうか!
わしの涙を回収したときから、なんに使うのか疑問だったのだ。
・・・なるほど、そういうことか!
くそっ、もっと早くに気づいておれば・・・。」
「ベルゼブイ長官?」
「ぐふふふっ。
仕方がない、わしの秘策を出すとするかの・・・。」
~魔王城・転送の間~
無事に魔王城に戻ってきたマリーたちは、子供の使い魔たちを両親の元に送り届けるように手配する。
子供の使い魔は 天界の使い魔になるので、悪さをしなければ徳が自動で溜まる仕様の為、両親の元に返してあげるのが一番だと結論にいたった。
子供の使い魔を送り届けるために準備をしていたベッチがマリーたちに声をかける。
「マリー様、俺らは やっぱりマリー様の配下になって正解だったぜ。」
「わたしも ベッチたちのような 勇敢で優しい心をもった配下ができて幸せよ。」
マリーの言葉に、照れてしまい恥ずかしそうな仕草を見せたベッチが、笑顔で子供たちを送り届ける準備に戻る。
その様子を見ていたドン・キホーテとナオアキもマリーに声をかけてきた。
「俺とドンさんも、ずっとずっとマリー様のことを考えてたニャン!」
「魔王城の仲間たちの事を 忘れたことは、ありませんゾイ!
わしらも戻ってこれて幸せですゾイ!」
「もう2人は、人間に転生したと思ってたのに・・・。
2人とも おかえりなさい!
・
・
・
ところで、なんでゾイゾイは、人間の姿のままなの?」
「それは魔王を退治した功績で、人間の姿を与えられたのですゾイ。
魔王城に帰るときに 使い魔の姿だと不便だろうからと言って、ディーテ様が大神様に直談判してくれたのですゾイ。」
「そうなんだ。(やっぱり、お母様はきっと立派な天使だったんだ。)
・
・
・
竜殺しの勇 暗黒騎士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ、忠臣ナオアキ、これからも宜しくね。」
「名誉ある称号ありがとうございます。
ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ、必ずマリー様の役に立ってみせますゾイ!」
ドン・キホーテは 感動したのだろうか、しわだらけの顔を くしゃくしゃにしながら涙を流している。
マリーは、2人にも再び部屋が割り与えた。2人はハンに案内され部屋へと引き上げていく。
ノーサも疲れたのだろうか、大きく背伸びをすると、ハンたちの後を追って、自分の部屋へと引き上げていった。
最後に残ったマリーとジャスは、ゴームを連れて部屋に戻るため階段を上り始める。
長い長い らせん階段の中ほどで 落ち込んでいるジャスが立ち止まりマリーを見つめる。
「ドン・キホーテさんは、ディーテ様が助けてくれたんですよね。
マリーさん。ディーテ様の事・・・。」
「ディーテ様って、天使の間で有名なの?
すっごく素敵な天使様だったよ!」
「天使様?」
「急に どうしたの?
驚いた顔しちゃって。」
「あ、いえ、何でもないです。
・
・
・
マリーさん、私が犯してきた罪、少しは償えたんでしょうか・・・。」
「知らなかったことだから。
ほら、ジャスちゃんが よく言ってるじゃない。
罪を償う意思が大事なんでしょ。もう自分を許してあげなよ。」
「マリーさん・・・。」
「ジャスちゃんは、責任感が強すぎるよ。
ノーサだって言ってるじゃん。バカバカしくなれ!って。
それに、もう見習い天使は卒業して 魔界天使になったんだから、ここから魔界のディーテ様を目指しちゃいなよ。」
「・・・。」
「はい。
そうですね!
・
・
・
私 マリーさんみたいな天使を目指します!」
「えっ?」
見習い天使(完)
2
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