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銀河系地球人
027・エリーゼのために
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~魔王城・バルコニー~
ズドーン!
ズドーン!
ドドドドーン!
魔王城のバルコニーでは、先に到着していた暗黒のリッチが 宇宙戦艦や戦闘機からの攻撃を防いでいたのだが、マリーの唱える規模の防御障壁を展開することができないようで、魔王城にも被害が出始めていた。
すると、そこに法衣に身を包んだマリーとノーサが現れた。
「リッチ お疲れさま。
あとは、私とノーサで宇宙戦艦を仕留めるわ。」
「おそろいの法衣ということは、合体魔法を使うのですか?
しかし・・・。」
「暗黒のリッチ先生、ノーサたちなら問題ないと思うの。
性格も魔法の相性も最悪だけど、成功する自信があるの。」
合体魔法とは、お互いの魔法を合わせることで、威力が何倍にもなったり、魔法の性質が変化したりすることである。
例えば、
火の魔法+火の魔法で、炎の威力が激増。
水の魔法+風の魔法で、嵐の魔法を召喚。
土の魔法+火の魔法で、燃え盛る炎の壁。
しかし、暗黒のリッチが心配しているところは、2人の魔法の相性が最悪だという点だった。
マリーの召喚する火の魔法と、ノーサの召喚する水の魔法は、お互いを打ち消しあう性質がある為、寸分の狂いなく同じ場所に同じ力で魔法を召喚しなければならない。
もし成功することができれば、理論上は 驚異的な力の魔法に変化するのだが、これまでの魔法の歴史において、実際の戦闘で成功した例は まったくと言っていいほどない。
暗黒のリッチの心配を横目に、マリーとノーサは並んで立ち、息を合わせるために手をつなぎ指を絡めあう。
「ノーサ、足を引っ張らないでよ!」
「マリーこそ、ノーサの邪魔しないでよ!」
お互いが罵り合いながらも、見つめあい、魔法の詠唱を始める。
「竜神の父にして竜神の王よ、」
「不変なる流水を司る竜神よ、」
「その力の一片を、只一時、我に貸し与えたまえ。」
「さあ、オティエク。我らに力を貸し与えたまえ。」
「全てを生みだし無に帰す破壊の炎、いま一度、我の手に。燃えよ小宇宙。」
「天地神明の理にのっとり、その清き力、正しき道を進むためにのみ使う。」
「「「解放!」」」
2人の放った魔法が宇宙戦艦の目の前で合わさり、炎のない爆発を引き起こす。
その爆発の衝撃はすさまじく、その衝撃波で、大気の振動が目に見えて分かるほどの威力である。
直撃した宇宙戦艦は、一撃で大破し、粉々になり吹き飛ばされる。
周囲の宇宙戦艦も 爆発の衝撃からバランスを崩し、攻撃を一時中断せざるをえないほどの破壊力だ。
小型の戦闘機にいたっては、衝撃波の威力から航行不能に陥り、墜落していく。
その威力は従来の魔法とはかけ離れた威力であった。
「な、なんて威力なんだ・・・。
マリー様、ノーサ様、さすがですな。」
体勢を立て直した宇宙戦艦が再び攻撃を再開する。
「ノーサ、もう一度放てる?
大丈夫?」
「バカにしないで!
マリーが放てるなら、ノーサにも放てるに決まってる!」
お互いが見つめあい、絡める指に力を入れる。
「「「解放!」」」
「「「解放!!」」」
「「「解放ゥ!!!」」」
「「「はぁ、はぁ、はぁ、」」」
2人の放つ魔法で宇宙艦隊は、ことごとく大破していく。
直撃した戦艦は、粉々に消し飛び、直撃を免れた周囲の戦艦も連続で唱えられる合体魔法の衝撃波に揺さぶられ、舵を取れなくなり、墜落していく。
マリーとノーサも強大な魔法を連続で唱えたからだろうか、かなり疲労がたまっているようだ。
2人は崩れるように座り込んだ。
「はぁ、はぁ、マ、マリー。
飛んでる分は、はぁ、はぁ、墜ちたから少し。休みたいの・・・。」
「はぁ、はぁ、はぁ、そ、そうよね。
もう十分、よね。」
疲れ果てた ノーサは、マリーに もたれるようにして、そのまま眠りについた。
暗黒のリッチは、その場に座り込む2人の介抱を使い魔に任せ、墜落した宇宙艦隊の処理に向かう。
そんな暗黒のリッチに、マリーが声をかける。
「リッチ、・・・お願い。」
「・・・畏まりました。
乗組員の救護に向かいます。」
マリーも、優しい微笑みをみせて眠りについた。
~死人の荒野~
死人の荒野に残された、大怪我をした乗組員や非戦闘要員の保護をしていた悪魔たちにも、魔王城上空で戦闘にはいっていた宇宙戦艦の大敗を確認することができた。
しかし、魔王城の戦士たちは素直に喜べないようだ。
なぜなら、保護する乗組員や その家族から、反旗を翻すに至った経緯を聞いていたからだ。
それは、上層部からの命令で、死を覚悟させられた若者たちが魔王城への捨て身の攻撃を行うという命令だった。
家族たちの命を盾にとられ、愛する者の命の火を消さない為にも、涙を流し捨て駒になる。
その捨て駒になった者の中には、マリーたちもよく知る、エリーゼの母親。ミネルヴァもいた。
エリーゼは、独りで泣いていたところをジャスに保護されていた。
ミネルヴァの乗った宇宙戦艦が運悪く粉々になる様子を、ジャスの腕の中で震えながら涙を流し見ていた。
そんなエリーゼを想い、ジャスも自然と涙があふれてきた。
「う、う、うぇーん。
なんで、なんで平和を壊してまで 犠牲にならなくっちゃいけないんですか。
せっかく、私たちと地球人種の人間と仲良くなれたのに。
なんで、なんでなんですか・・・。
人間は欲望のままに争いを続けるんですか。
なんで、なんでなんですか・・・。
マリーさーん。ミネルヴァさーん。どうして・・・。」
「お姉ちゃん・・・。」
ジャスの腕の中で震えていたはずのエリーゼも、ジャスに抱き着く。
「お姉ちゃんは、敵なのに どうして泣いているの。
お母さんたちの為に泣いているの。
お姉ちゃんたちは、味方なの。」
「エリーゼちゃん、だって、だって・・・。」
エリーゼとジャスは、抱きしめあい、お互いの温もりを感じていた。
「お姉ちゃん、私・・・。」
空のかなた、遥か上空の厚い雲をかき分けるように、巨大な宇宙戦艦が姿を現した。
どうやら、地球人種の司令艦のようだ。
出撃した艦隊からの連絡が途絶えた為、目視による確認をしに降りてきたのだろう。
その司令艦を真っすぐに見上げるエリーゼ。
すると・・・。
「お姉ちゃん、私、用済みみたい。
お姉ちゃんみたいな天使に出会えてよかった。」
「エリーゼちゃん・・・?
いったいどうしたの?」
「私・・・。
お姉ちゃんのおかげで、最後までエリーゼでいられた。
大好きなミネルヴァお母さんの子供のままでいられた。」
「な、なに?
ミネルヴァさんを探しに行ってみようよ。
もしかすれば・・・。
・
・
・
もし、見つからなかったら、私と一緒に暮らさない?
わたし、エリーゼちゃんの お母さんになるよ。」
「うん。ありがとう。
でも、私の中の 全ての人々が それを許さない。
私の中の 全ての人々は、あいつらに殺される前に殺せって囁いてくるの。」
「全ての人々・・・?」
「うん。私は・・・。
異魔神と呼ばれていた私は、
・
・
・
D細胞を移植され、完全に適合した戦闘兵器なの。」
エリーゼが、ジャスを引き離し、上空に浮かぶ司令艦を見上げる。
その眼は、横長の瞳へと変わり、全身の皮膚は鱗のような装甲に変わっていき、エリーゼの小さな背中には 漆黒の竜の翼が生え、額には1本の角が現れた。
「お姉ちゃん、ありがとう。」
「待って!
エリーゼちゃん、何をするつもりなの!?」
エリーゼは ジャスと目を合わせることもなく、そのまま漆黒の竜の翼を力強く動かし、司令艦をめがけて 一直線に飛び上がった。
司令艦は、異魔神と名乗ったエリーゼの襲撃を受け、徐々に高度を落としていく。
ある程度の高度まで墜ちてきたとき、突如 大きな爆発音がして、一気に地面へと落下し激しく残骸が飛び散った。
中に乗っていた人間は、その衝撃に耐えられずに即死だろう。
少し離れた落下場所に、ジャスたち魔王城の戦士は駆けつける。
しばらく様子をみていると、残骸の中から異魔神へと変身したボロボロのエリーゼが姿を現した。
エリーゼは、左胸から腕にかけて失っており、足を引きずりながらジャスの元にゆっくりと歩いてくる。
異魔神の特性からなのか、体から流れる血は すでに固まっているようだが、瀕死の状態に変わりない。
ジャスは、エリーゼに駆け寄り強く抱きしめる。
「エリーゼちゃん、いまからマリーさんの所にいって治療してもらうからね。
まだ死んだらダメだよ。」
「お姉ちゃん、もう限界だよ。
全ての人々の魂が抜けて行ってる。
死んでしまったら どうなるのかな。
異魔神の私も、使い魔さんみたいに生まれ変われるのかな?」
「うん。大丈夫だよ。
使い魔に生まれ変わったら、ミネルヴァさんと、私と、エリーゼちゃんで暮らさない?
魔王城には おいしいものも沢山あるんだよ。
庭も広いから、いっぱい花を植えたりできるよ。」
「いいな。庭には、イチゴとマリーゴールドを植えたいな。
イチゴの実ができたら、一緒に食・・・。」
「うん。
一緒に・・・食べよ・・・。
絶対だよ。約束だからね。」
エリーゼの亡骸は、光の粒となって空に舞い上がり始めた。
「え、なぜ、どうしたの!?」
その様子を近くでみていた使い魔が、ジャスに声をかけてきた。
「竜化人の魂は死者の国に捕らわれないニャン。
竜王種と同じで、死滅する際に光の粒となり、大気に広がるニャン。
その魂はすぐには消滅せず、次の生命を育む助けとなるニャン。
ある人が言ってた話なんだニャン。」
君の言葉に ジャスは涙を流す。
「だったら、使い魔に転生しないんですか。
死んでしまったら、おしまいなんですか。」
「そうだニャン。
でも意味のないことではないニャン。
全ての事象には、意味があるニャン。
僕らには、祈ることしかできないんだニャン。」
「そ、そんな・・・。」
「ジャスさん、エリーゼのために、一緒に祈りをささげるニャン。
祈りをささげること・・・。
それは太古の時代から人間が行ってきた唯一不変の行為なんだニャン。」
ジャスと使い魔は、空に舞い上がっていく、エリーゼのために 祈りをささげた・・・。
→028へ
ズドーン!
ズドーン!
ドドドドーン!
魔王城のバルコニーでは、先に到着していた暗黒のリッチが 宇宙戦艦や戦闘機からの攻撃を防いでいたのだが、マリーの唱える規模の防御障壁を展開することができないようで、魔王城にも被害が出始めていた。
すると、そこに法衣に身を包んだマリーとノーサが現れた。
「リッチ お疲れさま。
あとは、私とノーサで宇宙戦艦を仕留めるわ。」
「おそろいの法衣ということは、合体魔法を使うのですか?
しかし・・・。」
「暗黒のリッチ先生、ノーサたちなら問題ないと思うの。
性格も魔法の相性も最悪だけど、成功する自信があるの。」
合体魔法とは、お互いの魔法を合わせることで、威力が何倍にもなったり、魔法の性質が変化したりすることである。
例えば、
火の魔法+火の魔法で、炎の威力が激増。
水の魔法+風の魔法で、嵐の魔法を召喚。
土の魔法+火の魔法で、燃え盛る炎の壁。
しかし、暗黒のリッチが心配しているところは、2人の魔法の相性が最悪だという点だった。
マリーの召喚する火の魔法と、ノーサの召喚する水の魔法は、お互いを打ち消しあう性質がある為、寸分の狂いなく同じ場所に同じ力で魔法を召喚しなければならない。
もし成功することができれば、理論上は 驚異的な力の魔法に変化するのだが、これまでの魔法の歴史において、実際の戦闘で成功した例は まったくと言っていいほどない。
暗黒のリッチの心配を横目に、マリーとノーサは並んで立ち、息を合わせるために手をつなぎ指を絡めあう。
「ノーサ、足を引っ張らないでよ!」
「マリーこそ、ノーサの邪魔しないでよ!」
お互いが罵り合いながらも、見つめあい、魔法の詠唱を始める。
「竜神の父にして竜神の王よ、」
「不変なる流水を司る竜神よ、」
「その力の一片を、只一時、我に貸し与えたまえ。」
「さあ、オティエク。我らに力を貸し与えたまえ。」
「全てを生みだし無に帰す破壊の炎、いま一度、我の手に。燃えよ小宇宙。」
「天地神明の理にのっとり、その清き力、正しき道を進むためにのみ使う。」
「「「解放!」」」
2人の放った魔法が宇宙戦艦の目の前で合わさり、炎のない爆発を引き起こす。
その爆発の衝撃はすさまじく、その衝撃波で、大気の振動が目に見えて分かるほどの威力である。
直撃した宇宙戦艦は、一撃で大破し、粉々になり吹き飛ばされる。
周囲の宇宙戦艦も 爆発の衝撃からバランスを崩し、攻撃を一時中断せざるをえないほどの破壊力だ。
小型の戦闘機にいたっては、衝撃波の威力から航行不能に陥り、墜落していく。
その威力は従来の魔法とはかけ離れた威力であった。
「な、なんて威力なんだ・・・。
マリー様、ノーサ様、さすがですな。」
体勢を立て直した宇宙戦艦が再び攻撃を再開する。
「ノーサ、もう一度放てる?
大丈夫?」
「バカにしないで!
マリーが放てるなら、ノーサにも放てるに決まってる!」
お互いが見つめあい、絡める指に力を入れる。
「「「解放!」」」
「「「解放!!」」」
「「「解放ゥ!!!」」」
「「「はぁ、はぁ、はぁ、」」」
2人の放つ魔法で宇宙艦隊は、ことごとく大破していく。
直撃した戦艦は、粉々に消し飛び、直撃を免れた周囲の戦艦も連続で唱えられる合体魔法の衝撃波に揺さぶられ、舵を取れなくなり、墜落していく。
マリーとノーサも強大な魔法を連続で唱えたからだろうか、かなり疲労がたまっているようだ。
2人は崩れるように座り込んだ。
「はぁ、はぁ、マ、マリー。
飛んでる分は、はぁ、はぁ、墜ちたから少し。休みたいの・・・。」
「はぁ、はぁ、はぁ、そ、そうよね。
もう十分、よね。」
疲れ果てた ノーサは、マリーに もたれるようにして、そのまま眠りについた。
暗黒のリッチは、その場に座り込む2人の介抱を使い魔に任せ、墜落した宇宙艦隊の処理に向かう。
そんな暗黒のリッチに、マリーが声をかける。
「リッチ、・・・お願い。」
「・・・畏まりました。
乗組員の救護に向かいます。」
マリーも、優しい微笑みをみせて眠りについた。
~死人の荒野~
死人の荒野に残された、大怪我をした乗組員や非戦闘要員の保護をしていた悪魔たちにも、魔王城上空で戦闘にはいっていた宇宙戦艦の大敗を確認することができた。
しかし、魔王城の戦士たちは素直に喜べないようだ。
なぜなら、保護する乗組員や その家族から、反旗を翻すに至った経緯を聞いていたからだ。
それは、上層部からの命令で、死を覚悟させられた若者たちが魔王城への捨て身の攻撃を行うという命令だった。
家族たちの命を盾にとられ、愛する者の命の火を消さない為にも、涙を流し捨て駒になる。
その捨て駒になった者の中には、マリーたちもよく知る、エリーゼの母親。ミネルヴァもいた。
エリーゼは、独りで泣いていたところをジャスに保護されていた。
ミネルヴァの乗った宇宙戦艦が運悪く粉々になる様子を、ジャスの腕の中で震えながら涙を流し見ていた。
そんなエリーゼを想い、ジャスも自然と涙があふれてきた。
「う、う、うぇーん。
なんで、なんで平和を壊してまで 犠牲にならなくっちゃいけないんですか。
せっかく、私たちと地球人種の人間と仲良くなれたのに。
なんで、なんでなんですか・・・。
人間は欲望のままに争いを続けるんですか。
なんで、なんでなんですか・・・。
マリーさーん。ミネルヴァさーん。どうして・・・。」
「お姉ちゃん・・・。」
ジャスの腕の中で震えていたはずのエリーゼも、ジャスに抱き着く。
「お姉ちゃんは、敵なのに どうして泣いているの。
お母さんたちの為に泣いているの。
お姉ちゃんたちは、味方なの。」
「エリーゼちゃん、だって、だって・・・。」
エリーゼとジャスは、抱きしめあい、お互いの温もりを感じていた。
「お姉ちゃん、私・・・。」
空のかなた、遥か上空の厚い雲をかき分けるように、巨大な宇宙戦艦が姿を現した。
どうやら、地球人種の司令艦のようだ。
出撃した艦隊からの連絡が途絶えた為、目視による確認をしに降りてきたのだろう。
その司令艦を真っすぐに見上げるエリーゼ。
すると・・・。
「お姉ちゃん、私、用済みみたい。
お姉ちゃんみたいな天使に出会えてよかった。」
「エリーゼちゃん・・・?
いったいどうしたの?」
「私・・・。
お姉ちゃんのおかげで、最後までエリーゼでいられた。
大好きなミネルヴァお母さんの子供のままでいられた。」
「な、なに?
ミネルヴァさんを探しに行ってみようよ。
もしかすれば・・・。
・
・
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もし、見つからなかったら、私と一緒に暮らさない?
わたし、エリーゼちゃんの お母さんになるよ。」
「うん。ありがとう。
でも、私の中の 全ての人々が それを許さない。
私の中の 全ての人々は、あいつらに殺される前に殺せって囁いてくるの。」
「全ての人々・・・?」
「うん。私は・・・。
異魔神と呼ばれていた私は、
・
・
・
D細胞を移植され、完全に適合した戦闘兵器なの。」
エリーゼが、ジャスを引き離し、上空に浮かぶ司令艦を見上げる。
その眼は、横長の瞳へと変わり、全身の皮膚は鱗のような装甲に変わっていき、エリーゼの小さな背中には 漆黒の竜の翼が生え、額には1本の角が現れた。
「お姉ちゃん、ありがとう。」
「待って!
エリーゼちゃん、何をするつもりなの!?」
エリーゼは ジャスと目を合わせることもなく、そのまま漆黒の竜の翼を力強く動かし、司令艦をめがけて 一直線に飛び上がった。
司令艦は、異魔神と名乗ったエリーゼの襲撃を受け、徐々に高度を落としていく。
ある程度の高度まで墜ちてきたとき、突如 大きな爆発音がして、一気に地面へと落下し激しく残骸が飛び散った。
中に乗っていた人間は、その衝撃に耐えられずに即死だろう。
少し離れた落下場所に、ジャスたち魔王城の戦士は駆けつける。
しばらく様子をみていると、残骸の中から異魔神へと変身したボロボロのエリーゼが姿を現した。
エリーゼは、左胸から腕にかけて失っており、足を引きずりながらジャスの元にゆっくりと歩いてくる。
異魔神の特性からなのか、体から流れる血は すでに固まっているようだが、瀕死の状態に変わりない。
ジャスは、エリーゼに駆け寄り強く抱きしめる。
「エリーゼちゃん、いまからマリーさんの所にいって治療してもらうからね。
まだ死んだらダメだよ。」
「お姉ちゃん、もう限界だよ。
全ての人々の魂が抜けて行ってる。
死んでしまったら どうなるのかな。
異魔神の私も、使い魔さんみたいに生まれ変われるのかな?」
「うん。大丈夫だよ。
使い魔に生まれ変わったら、ミネルヴァさんと、私と、エリーゼちゃんで暮らさない?
魔王城には おいしいものも沢山あるんだよ。
庭も広いから、いっぱい花を植えたりできるよ。」
「いいな。庭には、イチゴとマリーゴールドを植えたいな。
イチゴの実ができたら、一緒に食・・・。」
「うん。
一緒に・・・食べよ・・・。
絶対だよ。約束だからね。」
エリーゼの亡骸は、光の粒となって空に舞い上がり始めた。
「え、なぜ、どうしたの!?」
その様子を近くでみていた使い魔が、ジャスに声をかけてきた。
「竜化人の魂は死者の国に捕らわれないニャン。
竜王種と同じで、死滅する際に光の粒となり、大気に広がるニャン。
その魂はすぐには消滅せず、次の生命を育む助けとなるニャン。
ある人が言ってた話なんだニャン。」
君の言葉に ジャスは涙を流す。
「だったら、使い魔に転生しないんですか。
死んでしまったら、おしまいなんですか。」
「そうだニャン。
でも意味のないことではないニャン。
全ての事象には、意味があるニャン。
僕らには、祈ることしかできないんだニャン。」
「そ、そんな・・・。」
「ジャスさん、エリーゼのために、一緒に祈りをささげるニャン。
祈りをささげること・・・。
それは太古の時代から人間が行ってきた唯一不変の行為なんだニャン。」
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