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2話
しおりを挟む「王子~~! 今日も会えて嬉し、げっ!」
広い学園内には、中庭がいくつもある。大小様々な東屋が設置されており、そのひとつは暗黙の了解で王族とその側近のみが利用する場所となっていた。
その隔離された特別な場所は、ゲームで何度も訪れていたので知っている。誰もが遠慮して近づかないその場所に、僕があえて近づいているのはわけがある。
僕はニーラサ国の第三王子のローラントに向かって手を振りながら、馴れ馴れしく走り寄る。遠慮なんてしていたら、恋なんて出来ないのだ。
そして王子まで後少しの場所まで来た時、何かにつまづいたのか体が傾いて地面に倒れそうになる。
自分で言うのもなんだか、僕はよく転ぶ。体か運命がそんな仕様なのだろう。
王子は目の前で転びそうになった僕を助けようとして腕を伸ばすが、その前に側近であり婚約者でもあるルーファス・キンケイドが出てきた。
僕の体勢を崩した細い体を、その逞しい腕で支えると、怪我はないか? と艶のある声をかけ、立たせてくれる。
「チッ……えーと、あの……ありがとうございまぁす」
思わず舌打ちしたのを誤魔化すように微笑んだが、なんでお前が助けるんだ! と思いっきり不満です、という表情を浮かべルーファスの腕に掴まりつつ体勢を整える。そしてその後ろに立っている王子に向かって首を伸ばした。
「王子! あの、今日はクッキーを焼いてきたんです。良かったら一緒に……」
白いハンカチに包んで、リボンを結んだそれは昨日寮の厨房を借りて作った渾身の手作りクッキーが入っている。
「クッキー?」
王子はクッキーと聞き、興味を示したように繰り返す。けれど差し出したそれは王子ではなく、ルーファスの手に渡った。
「俺が預かる」
「えー、でもぉ」
邪魔すんな、とばかりに睨めば、納得出来る理由を告げられた。
「ローラントが口にするものは全て毒味が入る。それが終われば、渡すことが出来るからそれまで待て」
渡さないと意地悪で言っている訳ではなく、正規の手続きを踏めば食べて貰えると説明されれば、引くしかない。
「わっかりましたぁ」
残念だと言うようにぷるぷるピンクの唇を尖らせ王子を見れば、仕方ないねと目配せされた。
ローラント・エル・ニーラサはこの国の第三王子だ。金髪碧眼、フォーク以上の重たいものは持ったことがないと言われても納得しそうなたおやかさがある。
桜貝みたいに艶やかな爪から足先まで手入れの行き届いた肢体、陽の光を浴びて輝く豪奢な金髪、肌に影を落とす豊かなまつ毛の下には、紺碧の海と呼ばれる瞳が見える。
緩く微笑み目を細めた姿は、どこの宗教画だ? と悶えるほど神々しい。
正統派王子様が目の前にいるのを実感し、僕はもうひとつの目的を口にする。
わからない問題は、わかっている人物に質問するのだ。人に教えるのが好きなタイプは、真面目な質問をして理解しようと努力する人間を好ましく思うものだ。勉強も進み、好感度も進み一石二鳥だと僕は考えている。
「王子、今日の授業で先生が言っていた、階級間での考え方の相違につい……あっ」
ここは外で、風通しの良い東屋だ。周囲には植木や花壇があり、当然虫もいる。王子の近くに肌を刺して血を吸う小さな虫を見つけ、思わず手を振って払ってしまう。その拍子に王子の服に触れそうになる。
(これは好機、では?)
偶然を装ってボディータッチするのは、ゲームでもよくある好感度を上げる行為だ。手で虫を払った後、傍にあった王子の服の端に触れようとしたがその直前に手首を掴まれて服から離された。
「……あの、ごめんなさい」
僕の手を掴んだのはルーファスだった。言葉では謝りながも、邪魔すんな! と視線に込めて睨んでやる。
「王子、触っちゃダメでした?」
ルーファスから視線を外し、王子に向かって可愛く見えるように上目遣いで見上げれば、困ったように微笑まれた。その理由はすぐにわかることになる。
「ローラントの服には登録者以外が触れると攻撃する防御の魔術が掛かっている。攻撃しなければなんともないはずだが、不用意に触れるのは危険だ」
「そ、そーなんだ……」
危なかった。先程転んで王子に触れそうになっていた僕を、王子を押しのけでまで支えてくれたのは、それがあったからなのだと気づく。
不用意に触れてあやうく吹っ飛ばされるところだったと思っていると、ルーファスが王子を見つめて、王子は仕方ないと言うように頷く。
なんだろうと思っていれば、とんでもないことを告げられる。
「明日には俺たちと同じように、ローラントの防御魔術への承認を登録しておく」
「は?」
何を言われたか一瞬理解出来なかった。目の前の男は、側近と同じように自分を扱うと、……婚約者の座を狙って虎視眈々としている自分に、婚約者に触れる許可を出すと言っているのだ。
(僕に嫉妬もせずになにやってんだよ、こいつはっ!)
初めて会った時から、ルーファスの行動は全く悪役令息のそれではない。評判通り誰に対しても平等で公平に接する。優しいとさえ言える。こんな優秀な婚約者がいる王子が、顔も頭も普通で内面は性悪の自分に惚れるなんて思えない。
悪役令息がもっと僕に対して嫉妬して、意地悪して、虐めてくれないと、ゲームのように恋が進まないではないか。
今日まで我慢に我慢を重ねていた所為で、今にも爆発しそうだ。まるで自分なんて相手にならないと言われているようだった。
「王子、ちょっと、キンケイド侯爵令息様を、借りても、良いですかぁ?」
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