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49話
しおりを挟むサッシャが攫われてから、ピンク色の髪と赤紫色の瞳の人物を見た、という情報が入り、ルーファスはすぐさま城下に向かった。なぜか近衛の騎士団までつけられていたが、ルーファスは気にすることなく騎乗して急ぐ。サッシャが攫われた日から、ルーファスは城に泊まり込み、情報を集めていた。
この首都にも貧民街はある。今回の情報はそこからだ。
「ルーファス様、ほどほどにと侯爵様よりご伝言が……」
貧民街に到着し、案内人の後を着いていく。どこかすえた臭いのする街は、歪に歪んで見えた。けれどこの街のどこかにサッシャがいるというなら、草の根をわけても探し出す。
「ルーファス様、聞いてらっしゃいますか?」
「なんだ」
「ああっ聞いてらっしゃらない! お父上からのご伝言……」
キンケイド家から来た侍従は、口煩くルーファスの世話を焼き、休めと言うのが邪魔で仕方ない。
その時、白装束の男達がいきなり襲いかかってきた。
「……ヒィ!」
侍従は首を竦めて逃げる素振りを見せたが、腕を振って短剣を投げつける。キンケイド家に雇われた人間は料理人見習いさえ戦える。そうでなければ、雇わないし、生きていけないからだ。
「ルーファス様、危険ですから下がって……ああ……」
「エッケザックス」
侍従が嘆いたのは、ルーファスが宿主になっている宝剣を抜き、敵である白装束をなぎ倒すように斬っているからだ。
「宝剣をそんな風に使ったの、きっとルーファス様だけですよ……」
一欠片の慈悲もなく襲いかかってくる相手を切り伏せ、次々と倒していく。けれどその相手から血が流れるわけでもなく、切り捨てられた途端破けた紙片になって地面に落ちていった。
「これはなんだ?」
本当はこの欠片さえ滅してしまいたいが、後ろに控えていた王城の魔術師たちに突きつける。
「魔術が書かれたものですね」
王城の魔術師たちはそれを見て青ざめていたが、それ以上何も言わなかった。
「……今死ぬか、話すか選べ」
「え?」
「ちょ、ちょっと待て!」
「ルーファス、落ち着いて。これが魔術ってだけで、この人たち全然悪くないから、それどころか魔術を教えてくれる貴重な人材だから!」
「サッシャ君がいなくなって焦っているのはわかるがルーファス、心を落ち着かせて話を聞こう」
四人が慌ててそう言うので、ルーファスはジロリと魔術師たちを睨みつけるだけにとどめた。
あの日、サッシャの部屋を訪れたルーファスは、荒れた様子はないが誰もいない部屋を見て嫌な予感がした。見張らせていた影に聞いても、部屋に入った後は出てきていないという。けれど鍵は開いているし、妙な気配が部屋に充満しているような気がした。その時に、王城からローラントの使いが来て、サッシャの安全を確認するように伝えられたのだ。
サッシャの行方がわからなくなってから、ルーファスは王城に乗り込み魔術師たちを連れて寮のサッシャの部屋を調べさせた。そして魔術が使われた形跡があることを知ったのだ。けれど隣国の魔術大国で魔術師としての契約があり、それ以上は言えないとの一点張りだった。だからこそルーファスはサッシャの情報があれば、魔術師たちも連れ回している。
なぜか国王陛下の許可も降りて、今日も下町でサッシャに似た容姿の少年がいると聞き、引きずるように連れてきた。
「まずいよ。これ、関わり合いにならない方が良い」
「関わり合いにもうなってる……。でも侯爵令息が孤児の子どもになんの用があるだ?」
「絶対やばいことになる。あの方、まじ迷惑」
魔術師たちは三人いて、こそこそ話している。
「あの方?」
気になるフレーズにルーファスは、手に持っていたエッケザックスを突きつけてやれば、悲鳴を上げられた。
「ば、バカっ!」
「イタタタ……っ」
口を滑らせた魔術師の一人に、他の二人が肘鉄を当てていた。
「な、なんでもない、です。本当に私たち何も知らなくて!」
「……ルーファス、無理強いは出来ないよ。魔術師たちの契約には、いろいろ制限がある」
「そうなんです。すみません、制限があって、その……あなたが探している孤児の少年をとても大切になさっていることはわかるんですが、私たちに出来ることって少なくて……」
「二度目だな。孤児と言ったか?」
大切な相手を安っぽい名称で呼ばれ、ルーファスの元から高くなかった機嫌がますます下がっていく。
「あの、す、すみませんっ。私たち、それくらいしか情報をいただいてなくて」
「ほら、お前も謝れ!」
肘鉄された魔術師の頭を押さえて、他の二人も頭を下げる。ルーファスの怒りはそんなことでは押さえられず、地面に散っている白い紙にエッケザックスを突き刺す。
「滅せよ」
ボッと青い炎が立ち上り、その紙はチリ一つ残さず消え失せた。
「こえー……」
矜持などかなぐり捨てて、今のルーファスはサッシャを探していた。貴族家の次男などという力のない自分が歯がゆい。ただのクラスメートを探すだけでは、キンケイド家の全てを使うわけにはいかなかった。父と長兄を消してキンケイド家を乗っ取ろうかと考えたが、すでにその考えを読まれていた。
けれど次男の嫁(候補)がいなくなったと知り、普通なら考えられないほど譲歩され、方々に影たちを放っていたが、サッシャの行方は杳として知れない。
魔術師たちにサッシャの行方を探させてもわからないと言う。自分たちよりも大きな力が邪魔しているようだと震えていた。
「キンケイド侯爵令息様、そろそろ戻りましょう」
「来る」
ハッとした魔術師たちは魔術を展開して、ルーファスと自分たちの周りを防御する。けれどそれはガラスを割るように破られた。
シュルッと伸びる白いものがルーファスに巻き付く。
「エッケザックス」
名前を呼ぶとエッケザックスは光り輝き、巻きついたものがその光によってボロボロと崩れ落ちていく。
「出てこい。サッシャを返せ」
ここへ導いた者がきっとサッシャを攫っていったのだ。もし出てきたら決して許さない。エッケザックスで消すなんて簡単は方法は取らない。もっとも苦しみを長引かせ、殺してくれと言っても笑って続けてやるくらいの痛みを与えてやる。
「怖い。これが侯爵令息かよ」
「舞台で見た悪役令嬢の令息版みたい」
「あーわかる。あれ面白かった」
口に出ていたのか、魔術師たちが震えながら話しているのをギロっと睨みつけると押し黙った。
「ルーファス、城下にサッシャ君がいるという情報は嘘だったのかもしれないな。孤児院の方も探したが見つからなかった」
「ローラント」
ローラントと幼なじみたちは日々憔悴していくルーファスを心配しながらも、助けてくれている。あれだけサッシャに怒っていたアンドリューさえ、もー、仕方ないなーと言いながら、自白剤を量産して片っ端から使用している。それでも学園に通う身である五人にはやらなければならないことがあった。
明日に迫ったダンスパーティーに、隣国の王族が参加すると言ってきたのだ。
延期することも出来ず、準備に追われていた。五人だけでは手が足りず、侍従にいろいろ丸投げしていた。ルーファスはそんなものに出ている場合ではないと思って欠席しようとしたが、その場で婚約破棄の茶番を演じなければならない。
サッシャが無事戻ってくるなら、それでも良かった。けれど相手は有無を言わさず人を攫うような者だ。無事にサッシャが帰ってくる保証はない。
「ルーファス、今日は帰ろう。大丈夫、あのサッシャ君ならきっと、ルーファスが助けに行くまで頑張ってくれる。もしかしたら、捕まっているところから逃げ出してくるかもしれない」
「そうそう。あの子、図太そうだったし、今頃大声でここから出せーとか言ってるんじゃない?」
「そうだよ。サッシャ君ならきっと無事だ。だから、ルーファスは少し休んで。そんなボロボロな姿でいたら、サッシャ君心配しちゃうよ」
「そうですよ。アンドリュー自慢の美容液でパックしないと、お肌がボロボロでサッシャ君が幻滅してしまうかもしれません。さあ、帰って食事をしてゆっくり休みましょう」
ローラントと幼なじみたちの言葉はとても嬉しい。けれど今もなお行方の知れないサッシャがどんなふうに過ごしているかと考えただけで、胸が掻きむしられた。
「……エッケザックス。もしお前に光の妖精が宿っているなら、サッシャの元へ行ってくれ。そして守って欲しい。俺の全てを渡すから……」
握った宝剣に縋るように囁けば、エッケザックスは淡い光を放ちながら消えていった。
「……消えた」
「え? ルーファスの中に戻ったんだよね?」
「いや、エッケザックスの存在を感じない」
いつだって胸の奥深くに存在していた感覚が消えて、まるで「またな」と言われたように思えた。
「え、ええっちょ、国宝っ!」
「わ、ルーファス!」
慌てる幼なじみたちの前で、ルーファスの体が力無く崩れていく。リースとタルベットが両方から支えて地面に転ぶのは防げたが、完全に意識を失っていた。
「あー、あの宝剣って光の妖精がついているっていう幻の……」
「そんなこと言ってる場合か。キンケイド侯爵令息様、しっかり!」
過労のあまり倒れたルーファスは、王城へ運ばれアンドリュー特製の睡眠薬と栄養剤を飲まされてベッドに括り付けられた。
眠るルーファスを見つめながら四人はこそこそと話し合いを始めた。
「エッケザックス無くしたら、ルーファス罪になるのか?」
「あれは王家の宝剣とはいえ、光の妖精の意志がある。まあ、貴族議会で何か言われるかも知れないが、しばらくはバレないさ」
光の妖精に気に入られない限り、手に取ることはおろか、近寄ることも難しい宝剣だ。他に気に入った相手が出来たら、ルーファスから離れることだってあるだろう。
ルーファスが宝剣に気に入られて宝剣の持ち主になった時も、結局は光の妖精の意志に従うことしか出来なかった。下賜された訳でもないのに、王家から宝剣が失われることが対外的にまずいので、第三王子とルーファスの婚約がなったのだ。
「でも、どこ行っちゃったんだろうね」
「ルーファスが願ったから、サッシャ君のところ、とか?」
「まっさかー」
「いやでも、有り得るかもしれない。元々あの宝剣は三百年前に起こった厄災の時に剣を手にした勇者が願ったことを叶えてくれた。今回もルーファスの願いを叶えてくれているのかもしれない」
「それなら、ダンスパーティーに現れる犯人を捕まえるために、今から準備しなきゃね」
「ああ、ルーファスの断罪式の準備を始めよう」
眠るルーファスを見つめながら、四人は力強く頷くのだった。
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