49 / 63
会いたかった人
しおりを挟む
「翔也さん、どうしてここに……」
朝倉先生は、私の顔を見るなり、安心したように、はーっと息を吐き出した。
「昨晩、担当から電話を貰いました。事故に遭ったと聞いて居て立ってもいられず、病院名だけ教えてもらって来てしまいました」
「心配掛けて、ごめんなさい。それに連絡も出来なくて、ごめんなさい」
本当は、朝倉先生に連絡をしたかった。声を聞きたかった。それなのに電話一つ満足に掛けられない自分の状態をもどかしく思っていた。
今、慌てて駆けつけて来てくれた朝倉先生の声を聞き、添えられた手の温かみを感じ、朝倉先生の優しい瞳に出会えた。
それだけで、鼻の奥がツンとして涙がこぼれそう。
「驚いたよ。大変だったね。美優ちゃんは?」
「不幸中の幸いで、美優は無事で元気にしています。今は、園原が見てくれています」
「そう……」
朝倉先生は、私のケガの状態や入院期間の事を聞き、その後、私のことを見つめながら少し考え込むような仕草を見せた。
そして、意を決したように真剣な表情を私に向けた。
「出来れば、家の近くの病院に転院して、美優ちゃんの世話を任せてくれないか?」
「えっ?」
「昨日からずっと考えていたんだ。ウチなら姉貴たちや真由美に美優ちゃんの子守りを頼めるから、夏希さんも安心かと思う。退院後もウチに来たらいい」
家から離れた土地で事故に遭い、美優のことが一番の心配だった。
将嗣もいつまでも仕事を休めないだろうし、将嗣のお母さんもお父さんのお世話がある。このままだと役所に相談して児童施設に一時預かりになりかねない。
もし、朝倉先生に見てもらえるなら安心だと思う。
しかし、美優のことは、認知届を出した事で将嗣にも父親としての責任がある。そして、そのことで私が一人で決められないという側面もある。
私が返事に詰まっていると朝倉先生は、心配そうに私の顔をジッと見つめた。
本当は、朝倉先生の申し出をこの場で受けてしまいたい。でも……。
「翔也さんの提案は嬉しいのですが、入院期間や今後の予定は、午後にある検査の結果次第のお返事になります。あと、美優のことは園原と相談しないと……」
心苦しいが、自分一人で決められない。
私が視線を泳がせると、朝倉先生は私の右手にそっと手を重ねた。
その手が、少し緊張しているような気がした。
「いや、無理を言って悪かった。つい、心配で……気持ちが先走ってしまったようだ。それに少し寂しかったんだよ」
「えっ?」
「夏希さんが、大変な事故にあったのに私はそれを知らなかった。担当編集が、連絡をくれなかったらずっと知らないままだった。夏希さんの一番近くにいたはずなのに……急に遠い存在になってしまったように感じた」
ああ、そうだった。
朝倉先生は、事故で奥様とお腹のお子さんを亡くされていた。なのに私は自分の事ばかりで、朝倉先生がこの知らせを聞いてどんな思いをしたかまで、考えが及んでいなかった。
事故の知らせを聞いて、慌てて駆けつけてくれた朝倉先生。
病室に着くまでどんなに不安だったのだろうか。
私は、周りの事など気にせずに、一番最初に朝倉先生へ電話をすれば良かった。
「翔也さん、連絡できずにいて、心配かけてごめんなさい」
「夏希さんを責めたり、困らせたいわけではなくて、夏希さんのために何も出来ない自分が歯痒かったんだ」
少しこわばった手を重ねられたまま、真剣な瞳でそんなことを言われたら胸が、ギュッと掴まれたようになって視線を逸らせない。
「翔也さんが来てくれて、顔が見れて安心しました。忙しいのに駆けつけてくれて、とても嬉しいです」
「私も夏希さんの声を聞く事が出来て、顔を見る事が出来てとても嬉しいよ。生きていてくれて良かった」
朝倉先生が重ねた手に力が籠った。
「夏希さん……」
朝倉先生が、何かを言い掛けた時、コンコンとノック音が聞こえた。
重なる手が離れて、朝倉先生がため息をつく。
私は、「はい」とノックをしたドアの向こうの人に返事をする。
ドアが開くと美優を抱いた将嗣が入って来た。
朝倉先生は、私の顔を見るなり、安心したように、はーっと息を吐き出した。
「昨晩、担当から電話を貰いました。事故に遭ったと聞いて居て立ってもいられず、病院名だけ教えてもらって来てしまいました」
「心配掛けて、ごめんなさい。それに連絡も出来なくて、ごめんなさい」
本当は、朝倉先生に連絡をしたかった。声を聞きたかった。それなのに電話一つ満足に掛けられない自分の状態をもどかしく思っていた。
今、慌てて駆けつけて来てくれた朝倉先生の声を聞き、添えられた手の温かみを感じ、朝倉先生の優しい瞳に出会えた。
それだけで、鼻の奥がツンとして涙がこぼれそう。
「驚いたよ。大変だったね。美優ちゃんは?」
「不幸中の幸いで、美優は無事で元気にしています。今は、園原が見てくれています」
「そう……」
朝倉先生は、私のケガの状態や入院期間の事を聞き、その後、私のことを見つめながら少し考え込むような仕草を見せた。
そして、意を決したように真剣な表情を私に向けた。
「出来れば、家の近くの病院に転院して、美優ちゃんの世話を任せてくれないか?」
「えっ?」
「昨日からずっと考えていたんだ。ウチなら姉貴たちや真由美に美優ちゃんの子守りを頼めるから、夏希さんも安心かと思う。退院後もウチに来たらいい」
家から離れた土地で事故に遭い、美優のことが一番の心配だった。
将嗣もいつまでも仕事を休めないだろうし、将嗣のお母さんもお父さんのお世話がある。このままだと役所に相談して児童施設に一時預かりになりかねない。
もし、朝倉先生に見てもらえるなら安心だと思う。
しかし、美優のことは、認知届を出した事で将嗣にも父親としての責任がある。そして、そのことで私が一人で決められないという側面もある。
私が返事に詰まっていると朝倉先生は、心配そうに私の顔をジッと見つめた。
本当は、朝倉先生の申し出をこの場で受けてしまいたい。でも……。
「翔也さんの提案は嬉しいのですが、入院期間や今後の予定は、午後にある検査の結果次第のお返事になります。あと、美優のことは園原と相談しないと……」
心苦しいが、自分一人で決められない。
私が視線を泳がせると、朝倉先生は私の右手にそっと手を重ねた。
その手が、少し緊張しているような気がした。
「いや、無理を言って悪かった。つい、心配で……気持ちが先走ってしまったようだ。それに少し寂しかったんだよ」
「えっ?」
「夏希さんが、大変な事故にあったのに私はそれを知らなかった。担当編集が、連絡をくれなかったらずっと知らないままだった。夏希さんの一番近くにいたはずなのに……急に遠い存在になってしまったように感じた」
ああ、そうだった。
朝倉先生は、事故で奥様とお腹のお子さんを亡くされていた。なのに私は自分の事ばかりで、朝倉先生がこの知らせを聞いてどんな思いをしたかまで、考えが及んでいなかった。
事故の知らせを聞いて、慌てて駆けつけてくれた朝倉先生。
病室に着くまでどんなに不安だったのだろうか。
私は、周りの事など気にせずに、一番最初に朝倉先生へ電話をすれば良かった。
「翔也さん、連絡できずにいて、心配かけてごめんなさい」
「夏希さんを責めたり、困らせたいわけではなくて、夏希さんのために何も出来ない自分が歯痒かったんだ」
少しこわばった手を重ねられたまま、真剣な瞳でそんなことを言われたら胸が、ギュッと掴まれたようになって視線を逸らせない。
「翔也さんが来てくれて、顔が見れて安心しました。忙しいのに駆けつけてくれて、とても嬉しいです」
「私も夏希さんの声を聞く事が出来て、顔を見る事が出来てとても嬉しいよ。生きていてくれて良かった」
朝倉先生が重ねた手に力が籠った。
「夏希さん……」
朝倉先生が、何かを言い掛けた時、コンコンとノック音が聞こえた。
重なる手が離れて、朝倉先生がため息をつく。
私は、「はい」とノックをしたドアの向こうの人に返事をする。
ドアが開くと美優を抱いた将嗣が入って来た。
2
あなたにおすすめの小説
君と出逢って
美珠
恋愛
一流企業を退職し、のんびり充電中の元OL純奈。だけど、二十七歳を過ぎて無職独身彼氏ナシだと、もれなく親から結婚の話題を振られてしまう。男は想像の中だけで十分、現実の恋はお断り。純奈は、一生結婚なんてしないと思っていた。そんな矢先、偶然何度も顔を合わせていたイケメン外交官と、交際期間をすっ飛ばしていきなり結婚することに!? ハグもキスもその先もまったく未経験の純奈は、問答無用で大人のカンケイを求められて――。恋愛初心者の元OLとイケメン過ぎる旦那様との一から始める恋の行方は!?
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
ハイスペミュージシャンは女神(ミューズ)を手放さない!
汐瀬うに
恋愛
雫は失恋し、単身オーストリア旅行へ。そこで素性を隠した男:隆介と出会う。意気投合したふたりは数日を共にしたが、最終日、隆介は雫を残してひと足先にった。スマホのない雫に番号を書いたメモを残したが、それを別れの言葉だと思った雫は連絡せずに日本へ帰国。日本で再会したふたりの恋はすぐに再燃するが、そこには様々な障害が…
互いに惹かれ合う大人の溺愛×運命のラブストーリーです。
※ムーンライトノベルス・アルファポリス・Nola・Berry'scafeで同時掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる