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第19話、必ず、守って見せる
しおりを挟む「『氷の防御よ』
「……相変わらず、冷たい防御魔法ですね」
「氷なんだから当たり前でしょう」
森に入る前に色々と準備をしておくことがある。その一つとしてアリシアはレンディスに防御魔法をかけた。しかし、アリシアが最も得意とする魔術は氷を中心とした魔術であり、今回も氷系の防御魔法をかけた事もあってが、レンディスの身体が微かに震えている。
確かに寒いのは間違いないのだが、それでもケガをされるよりかはマシだ。再度、防御魔法がかかっている事を確認するため、いつものようにアリシアはレンディスに申し出る。
「レンディス様、腕を拝借」
「ん」
必ず防御魔法を使った後、行う事はかけた本人の身体を指先で触る事。
冷たい事、魔術にかかっている事の二つの確認を行う為である。レンディスは討伐任務の時に一緒になる時は必ず防御魔法をかけてもらうので、この言葉を聞いた瞬間、簡単に腕を差し出してしまう。
アリシアはレンディスの腕が冷たい事、そして魔力の流れがある事を確認すると、静かに頷いた。
「ん、大丈夫ですね。これなら長くて一時間、二時間程度かかっている事が出来ますね。しかし、レンディス様だけですよね。私の防御魔法をかけてほしいと言うのは。他の人たちは嫌々と言って来るのに、主に寒いときは……ああ、ファルマ殿下も時々かけてましたね。寒い寒いと涙を流しながら」
「ああ、自分からかけろって言っていたのに……」
「寒いと思いますよって言ったのですが、それでもかけてほしいと言ってかけたら案の定……寒がりなんだから。その点、レンディス様は寒さに強いのですね?」
「幼い頃は寒い地域に居たので、寒さにはなれております」
アリシアの防御魔法の弱点は、寒さだ。寒いのが苦手な人間にそれをかけてしまったら、多分地獄と化すであろう。ファルマも実の所寒いのは苦手だったらしく、過去の光景を思い出しながら、確認を終えた。
「『氷の防御よ」
軽い詠唱を唱えた後、アリシアも自分自身に防御魔法をかける。例えレンディスが居たところで、自分自身に危害が及ぶ可能性だってある。多少自分で守らなければいけない、相手に頼ってはいけないと言うのがアリシアの戦闘スタイルだ。
自分に魔術がかかった事を軽く確認しながら、ふと思い出す。
(……この魔術は防御魔法が苦手のを克服するために作ったんだよなぁ……)
あの時の光景が今でも思い出される。
アリシアがレンディスに庇ってもらい、同時に自分自身の弱さを実感した時。レンディスが、頼っていいと言ってくれた時。
『氷の防御よはアリシアのオリジナル魔術だ。元々防御魔術と回復魔術があまり得意ではなかったアリシアがどうにかして少しでも自分の身や相手を守る為の力をつけたいと思って半年かけて何とか出す事が出来た防御魔法。
元々氷魔術が得意と言うのもあってどうにか形にはなかったのだが――正直一部ではブーイングが来てしまったぐらいだ。
(寒さを我慢すれば、一応守ってくれるしね)
手首の骨を鳴らしながら考えているアリシアと、息を静かに吐くレンディスの二人の前に、声をかけてきた。
「お兄様、アリシア様」
「お姉様、レンディス様」
アリシアとレンディスの妹の二人――カトリーヌとエリザベートが不安そうな顔をしながら屋敷の外に出てきたので、アリシアはいつものように笑みを見せながら二人に近づき、カトリーヌには頭を優しく撫でるように触れながら答える。
「これから魔獣討伐に行ってまいります。エリザベート様、妹をよろしくお願いいたしますね。カトリーヌ、仕事を終えたらすぐに帰ってきますからね」
「しょ、承知しましたわアリシア様!」
「……無理はしてこないでくださいね、お姉様」
「ええ、そのつもりです」
悲しそうな瞳を見せてくるカトリーヌにこれ以上の言葉をかけるつもりはなかった。そう、いつものように魔獣討伐をしてくるだけ。
相手はあのグレートウルフの群れ。すぐに倒せる相手ではないが、レンディスの剣の腕も信じている。
アリシアはレンディスに視線を向けると、レンディスがこちらに目を向けている。一瞬驚いてしまい、反応してしまったアリシアだったが、レンディスは何も答えず、いつも通りの無表情の姿を見せながら、討伐に行く準備を始めている。
「……はぁ、相変わらずのお兄様、ですわね」
エリザベートがそのように呟くと、頭を抑えるようにため息を吐いている姿を、アリシアとカトリーヌが見る。
「申し訳ございませんアリシア様、お兄様は相変わらずで……」
「あ、ああ、気にしないで下さいエリザベート様。レンディス様は以前からあのような感じなので……数年ぐらいの付き合いですが、わかっているつもりです」
「本当に申し訳ございません。もう一人の兄のようが余程喜怒哀楽なのですが、もう一人の方に感情をすべて奪われたのか……あまり表現がうまくなくて、不器用と言うか……」
「そう言えばエリーにはもう一人、お兄様が居たんですよね?」
「ええ、兄は北にある騎士団に副団長として勤めております。とてもやさしい、一番上のお兄様ですわ……本来ならば卒業式の時はその兄が来る予定だったのですが、急用が入ってしまいまして……」
「それで、レンディス様だったのですね」
「ええ」
レンディスから聞いたことがあるのだが、彼の上には兄が居るらしく、その兄は北にある騎士団の副団長らしい。喜怒哀楽がはっきりしており、レンディスとは正反対の人物、らしい。
しかし、腕はレンディス以上の腕らしく、アリシアはまだ会った事がないのだが、いつかは手合わせのようなものをしていただきたいものだと思いながら、フフっと笑う。
そんなアリシアを見たカトリーヌは同じように笑う。
「……良かった」
「え?」
「お姉様の顔は余裕に満ちているので……きっと大丈夫でしょう。気を付けてくださいね」
「……ありがとう、カトリーヌ。カトリーヌも伯母上の言う事をきちんと聞くんですよ」
「はい」
安心した顔を見せているカトリーヌに安堵しながら、再度カトリーヌの頭を撫でた後、静かに手放す。
ふと、背後からレンディスの気配を感じたので振り向くと、いつの間に背後に立っていたのか、正直驚いてしまう。
そして、カトリーヌは今度はアリシアからレンディスに視線を向ける。
「え、えっと……レンディス様!」
「ん……何でしょう、カトリーヌ様?」
「――お姉様の事、必ず守ってください。守らないと、私、お姉様との結婚は認めませんから!」
はっきりと、しっかりと、そのように発言したカトリーヌに驚いたアリシアは何も反応できず、同時にレンディスもその言葉を聞いた瞬間、固まってしまった。
突然この娘は何を言い出すのだろうかと思いながら、アリシアは顔を真っ赤にしながらカトリーヌに声をかけようとしたのだが、それをレンディスが許さなかった。アリシアの肩を持った後、いつもの表情でカトリーヌに目を向ける。
「約束しよう。必ず、あなたの姉上は守って見せる」
「ちょ、れ、レンディス様!?」
「よく言いましたわ!流石は私のお兄様!!」
濁りのない、まっすぐな瞳を見せながらカトリーヌにそのような発言をするレンディス、親指を立てながら笑って答える妹のエリザベートに対し、アリシアはもうどうにでもなれと願うのだった。
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