私の療養中に、婚約者と幼馴染が駆け落ちしました──。

Nao*

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「……ジュリアス様は、前から二人の間を疑っていらしたのですね?だからエライザの事を冷たい目で見て、カイゼル様に監視して居るなどと言われ──。」

「そうだ。カイゼルが急用だと言って君の見舞い来なかった時も、エライザと共に楽し気に家を出て行く姿を俺は見て居て……。でも浮気だと言う確かな証拠が無く、その状態で療養中の君に本当の事を言うのは酷だと思って──。だからせめて医者として君を支え守ろうと思い、その裏で色々と手を尽くす事にしたんだ。」



 ジュリアス様が私を初めて診察した時……私が飲んで居る薬に、今はもう処方が禁止された物が混じって居る事に気付いた。

 そしてその薬は服用すると異常に不安感を増してしまう、強い倦怠感が起きるなどの副作用があったらしい。
 
 また他の薬との飲み合わせがとても悪く、それらを一緒に服用する事でその副作用が余計に強くなるそうだ。



「普通だったらそんな処方はしないが……エライザが紹介した医師と聞いて、成程と納得した。俺は君の容体が落ち着くとすぐその医師に会いに行き、そんな俺に詰め寄られた彼は薬の処方はエライザの命によるものだとハッキリ証言したよ。エライザは昔から医学に興味があったらしく、中々の知識を持って居て……故に、君にあの花を贈り続けて居たのだろう。」

「先程の花瓶の花ですよね?とても綺麗な花でしたが……。」

「あの花の花粉に、善くない反応を起こす者が一定数居て……君もその一人だ。息苦しくなったり、眩暈が酷くなったり……大量に花粉を吸えば、そのまま意識を失ってしまう事もある。先程の君は、まさにそう言う状態だった。君は昔……俺と初めて会った際にもあの花で苦しんで居たんだが、覚えて居ないかい?」



 昔、初めて会った時──?

 そう言えば子供の頃、エライザと野原で遊んで居て……彼女が作ってくれた花の首飾りを身に付けたら、急に息が苦しくなった覚えが──。

 そしたら、近くを歩いて居た子が駆けつけて来て……フードを深く被りまともに顔も見えないその子は、その首飾りを私から外すと甘い飲み物を飲ませてくれたんだ。

 その後、もう苦しく無くなったけれど……せっかく作った首飾りを壊されたエライザが激怒して、その子を追い払ってしまったのよね。

 だから、まともにお礼も言えずそれっきりで──。



「まさか、あの時の男の子がジュリアス様!?」

「あぁ。初めて外に出る事を許された日に、俺は君と偶然出会ったんだ。そして苦しむ君が健康に害がある花を使った首飾りをして居るのに気付いて、咄嗟にそれを外したんだ。その後は、持って居た母特製のある花の蜜といくつかの薬草を合わせた薬湯を君に飲ませた。そしたら、君は無事回復して──。そしてこの事がきっかけで、俺は医者を目指そうと思ったんだ。」

「私がきっかけだったのですね……。なのに私ったらお礼も言わず、挙句今まで忘れて居てごめんなさい。」

「良いんだ、君をまた助けられて良かった。エライザは、君が余程邪魔だったのだろう……。医学の知識を得た彼女は、医師に危険な薬を飲ませるよう命じただけでなく……君がかつてあの花の花粉で苦しんだ事を思い出し、その花でまた君を苦しめようとした。今回、君はストレスや薬の副作用で既に身体が弱って居た状態だったから……本当に危なかったよ。」


 
 ジュリアス様の言葉に、私は思わず身震いしてしまった。

 カイゼル様の手紙に書かれて居た、私の事はエライザが何とかすると言うのはこれらの事だったのね。



「……許せない。私を心配する振りして、裏ではそんな酷い事をして居た何て──。でも今頃二人は何処かの地で……誰かの庇護の元、何の苦労も無く新しい生活を始めようとして居るのですよね?私の心も身体も苦しめた二人が、何の罰も受けず幸せになる何てそんなの酷い話だわ!」

 二人の事を思うと、私はまたしても目に涙が滲んで来たが……ジュリアス様はその涙を指で掬うと、決してそんな事にはならないと言って微笑んだ。
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