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第2話 魔法の"まがいもの"
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「きょう…そ?聞いたことないなあ…」
レイゼが指差したページを読みながら、ミロウは杖を出して自分の魔法と比べていた。
思うところがあるのか彼はその様子に顔を顰めたが、一呼吸置いて話を続ける。
「ほとんど公にされてないものだから、知らないのも当然だよ」
「魔法みたいだね!けど、これって何をするためのものなの?」
そう訊かれ、レイゼは答えに些か躊躇う。
「……そう、だなぁ…これは……」
というのも、ミロウは一端の魔法使いといえど、実際は現代における魔法機構を定めた魔法界の重鎮なのだ。幼いながらにそのようなことを成し遂げたのは、まさに天才と言えよう。
"響素"を説明するには、どうしても魔法と比べなければならない。
魔法を批判的に言ってしまうと、魔法の親のような存在であるミロウは深く傷ついてしまうかもしれないと思い、躊躇心が勝ってしまう。
「使う目的は決まってないの?」
そんなことはないとレイゼは否定するが、未だミロウを傷つけないよう選ぶ言葉は見つからず、うまく説明出来ずにいた。
──"響素"は、『魔法の代替』として作られたものだ。
起こす現象の性質は魔法と酷似しているが、運用方法は全く異なる。
魔法は魔法陣や詠唱を使うことに対して、響素はあらゆる要素をコーディングし、それを図形に立式して扱うものである。
手帳を見る限り、それが魔法の代替であることはすぐに察することが出来るだろう。魔法の定義の曖昧さと不完全さを是正するために作られたものだ。
魔法で経済を回しているこの国──王政国家のアイノウンで、ましてやその中心だった人物が目の前に。響素のためとはいえ、魔法を否定してしまえば、きっとミロウは落ち込んでしまうだろう──あるいは、知識不足だと笑われてしまうだろうかと、暫しレイゼは考え込んだ。
「…レイゼ?どうしたの?」
その声にはっとしてレイゼは顔を上げると、ミロウが至近の眼前に見えた。
ふと手に何か金属のような硬いものを持っていることに気付く。
いつの間にか彼女の杖を強く握っていたようだ。それがどうしてかを考える間もなく、焦ってしまいミロウの方へ身体が傾いた。
「あ、あれ、何で…ごめん、変なことして」
ぱっと杖を離し距離を取ると、彼女はどこか安心したような、けれど悲しむような顔をする。
「わたしは大丈夫だけど…レイゼは?さっきから表情が硬いよ?」
「寝不足だからかな。心配しなくていいよ」
不安げな顔をするミロウにホットミルクを渡し、気を取り直してレイゼは彼女の方を向く。
魔法との比較に免れることは出来ない。戦々恐々としながら、彼は口を開いた。
「…これは、魔法を改良するために作られた物質なんだ」
そう言うと、やはりミロウは反応した。動揺したように杖を握り直すと、目線は本の方へと下がる。
彼女は再び置かれた手帳を読み始め、そして何を思ったのか、疲れたように微笑んだ。
「やっぱりそうなんだ…うん、こんな魔法じゃ不満も出るよね…」
その横顔がどうしようもなく切なく思えてしまい、レイゼは申し訳なさそうに言葉を続ける。
「けど、これはすごく扱いが難しくて…この機械が無いと、響素を捉えるのもほとんど不可能なぐらい。だから、結局は魔法が…一番、だと、思う…」
魔法を肯定することは、響素を否定すること──逆も然り。響素に対して絶大な信頼を置いているレイゼにとって、それはかなりの苦痛だった。しかしミロウを傷つけないためには、ある程度の軋轢は避けたほうが良いだろう。
冬の乾いた空気はミロウの銀髪を一層滑らかにし、日差しは部屋に反射光を生んでいた。
ちらりと彼女の方を見ると、腕を組んで何かを考えているようだった。
「…いーや、これを取り入れられればきっと魔法も進化するはず!だから、これのことをもっと教えてくれない?」
「いいの?ミロウにとって、天敵みたいなものなのに…」
「さっきレイゼが見せてくれたあの現象、とっても綺麗だったから、あれを魔法でも出来たらなって!」
「そっか…うん、ありがとう。ただ、僕もこの手帳を読んだだけで、あまり詳しいことは知らないんだ。少ししか教えることは出来ないかも」
ふうん、とミロウは空返事をする。そしてふと何か思いついたかのように、急にレイゼに杖を突き出してきた。
「だけど──」
レイゼが指差したページを読みながら、ミロウは杖を出して自分の魔法と比べていた。
思うところがあるのか彼はその様子に顔を顰めたが、一呼吸置いて話を続ける。
「ほとんど公にされてないものだから、知らないのも当然だよ」
「魔法みたいだね!けど、これって何をするためのものなの?」
そう訊かれ、レイゼは答えに些か躊躇う。
「……そう、だなぁ…これは……」
というのも、ミロウは一端の魔法使いといえど、実際は現代における魔法機構を定めた魔法界の重鎮なのだ。幼いながらにそのようなことを成し遂げたのは、まさに天才と言えよう。
"響素"を説明するには、どうしても魔法と比べなければならない。
魔法を批判的に言ってしまうと、魔法の親のような存在であるミロウは深く傷ついてしまうかもしれないと思い、躊躇心が勝ってしまう。
「使う目的は決まってないの?」
そんなことはないとレイゼは否定するが、未だミロウを傷つけないよう選ぶ言葉は見つからず、うまく説明出来ずにいた。
──"響素"は、『魔法の代替』として作られたものだ。
起こす現象の性質は魔法と酷似しているが、運用方法は全く異なる。
魔法は魔法陣や詠唱を使うことに対して、響素はあらゆる要素をコーディングし、それを図形に立式して扱うものである。
手帳を見る限り、それが魔法の代替であることはすぐに察することが出来るだろう。魔法の定義の曖昧さと不完全さを是正するために作られたものだ。
魔法で経済を回しているこの国──王政国家のアイノウンで、ましてやその中心だった人物が目の前に。響素のためとはいえ、魔法を否定してしまえば、きっとミロウは落ち込んでしまうだろう──あるいは、知識不足だと笑われてしまうだろうかと、暫しレイゼは考え込んだ。
「…レイゼ?どうしたの?」
その声にはっとしてレイゼは顔を上げると、ミロウが至近の眼前に見えた。
ふと手に何か金属のような硬いものを持っていることに気付く。
いつの間にか彼女の杖を強く握っていたようだ。それがどうしてかを考える間もなく、焦ってしまいミロウの方へ身体が傾いた。
「あ、あれ、何で…ごめん、変なことして」
ぱっと杖を離し距離を取ると、彼女はどこか安心したような、けれど悲しむような顔をする。
「わたしは大丈夫だけど…レイゼは?さっきから表情が硬いよ?」
「寝不足だからかな。心配しなくていいよ」
不安げな顔をするミロウにホットミルクを渡し、気を取り直してレイゼは彼女の方を向く。
魔法との比較に免れることは出来ない。戦々恐々としながら、彼は口を開いた。
「…これは、魔法を改良するために作られた物質なんだ」
そう言うと、やはりミロウは反応した。動揺したように杖を握り直すと、目線は本の方へと下がる。
彼女は再び置かれた手帳を読み始め、そして何を思ったのか、疲れたように微笑んだ。
「やっぱりそうなんだ…うん、こんな魔法じゃ不満も出るよね…」
その横顔がどうしようもなく切なく思えてしまい、レイゼは申し訳なさそうに言葉を続ける。
「けど、これはすごく扱いが難しくて…この機械が無いと、響素を捉えるのもほとんど不可能なぐらい。だから、結局は魔法が…一番、だと、思う…」
魔法を肯定することは、響素を否定すること──逆も然り。響素に対して絶大な信頼を置いているレイゼにとって、それはかなりの苦痛だった。しかしミロウを傷つけないためには、ある程度の軋轢は避けたほうが良いだろう。
冬の乾いた空気はミロウの銀髪を一層滑らかにし、日差しは部屋に反射光を生んでいた。
ちらりと彼女の方を見ると、腕を組んで何かを考えているようだった。
「…いーや、これを取り入れられればきっと魔法も進化するはず!だから、これのことをもっと教えてくれない?」
「いいの?ミロウにとって、天敵みたいなものなのに…」
「さっきレイゼが見せてくれたあの現象、とっても綺麗だったから、あれを魔法でも出来たらなって!」
「そっか…うん、ありがとう。ただ、僕もこの手帳を読んだだけで、あまり詳しいことは知らないんだ。少ししか教えることは出来ないかも」
ふうん、とミロウは空返事をする。そしてふと何か思いついたかのように、急にレイゼに杖を突き出してきた。
「だけど──」
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