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第3話 認められない青い糸
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「──だけど、やっぱり納得行かない!前まで一緒に魔法を研究してたのに、急にそんな怪しげなものに手を出すなんて!」
態度の一変したミロウの纏う雰囲気は、辺りまで凍るかと思うほどに冷たかった。
一時は響素を認めてくれたのだとレイゼは思ってしまったが、果然多少の反感は持っていたようだ。
「あはは…確かに怪しいね。けど、そんなに悪いものじゃないよ」
「怪しいことには変わりないでしょ!…だから」
突き出した杖を更にレイゼの前へと押し出し、ミロウは威圧を放つように見据える。
その杖の素体は銀で出来ていて、彼女の銀糸の髪とよく似合っている。先端には大きな青い水晶がはまっており、吸い込まれそうなほどの輝きを放っていた。
「だから、力比べをしよう。わたしの魔法と、レイゼの響素で」
「力比べ…」
「そう。これなら、一番分かりやすい比べ方でしょ?…模擬戦闘、って言ったほうが良いかな」
「…!」
"戦闘"という言葉を聞いた次の瞬間、レイゼは目を見開いてミロウの肩を強く掴んだ。
「っ?!レイゼ?!」
しかし、込められた力は限りなく弱いものだった。ミロウは驚きながらもレイゼを肩から剥がすと、彼の身体は異様に震えていることに気付く。
「レイゼ…?さっきからおかし…」
「…響素は……戦いのためのものじゃ、ない」
泣きそうなほど弱々しい声でそう言うレイゼの姿は、いつもの毅然とした様子とかけ離れていた。
ミロウは困惑しながらも、その背中を優しく擦った。
突然錯乱してしまったことに申し訳なく思ったのか、レイゼは一旦深呼吸をする。依然として下を向いたままだが、衝動的な感情は落ち着いたようだ。
「そう、約束させられたんだ」
「…ふーん」
めそめそとするレイゼに少しは同情したが、そんなことはどうでも良いとばかりに、ミロウは再び彼に杖を掲げる。青い水晶に魔力を込め、眼前には一触即発の魔法が完成していた。
顔を上げると飛び込んできたその光景に、レイゼは大きくたじろく。
「それで、僕はそんなことに響素を使えな…って、ミロウ?!ごめんって!そ、その杖で何をするつも…」
言い終わる直前、ミロウはその魔法を彼にめがけて思いきり飛ばしてきた。
「あぶっ…!」
間一髪で彼は避けるが、ミロウの目線は未だレイゼを向いたまま。
「でもそれって、ただのエゴでしょ!」
くだらないと嘆かんばかりに、彼女は次々と魔力の塊を生成する。無数にあるそれをただ避けることは不可能だ。
かと言って魔力で魔力を相殺するのは、同等の魔法技能を必要とする。天才的な魔女であるミロウと、ただの平凡な少年のレイゼ。実力は明確である。ゆえに、魔法をぶつけ合う防御も不可能だろう。
唯一つ、無事にレイゼが攻撃を防げる方法──それは、響素を用いることだが…
「ねぇ、魔法を使っても良いんだよ?…使おうよ。響素なんてものじゃなくてさ!レイゼにはわたしぐらいの実力があるでしょ!」
膨大な魔力の塊を取り巻きながら、ミロウは彼を試すようにそう言う。
楽しげな彼女に反して、レイゼの顔は相当に暗い。
そして
「…ごめん。僕はもう…魔法を使えない」
と。
「…え」
──その言葉を聞いた瞬間、ミロウは思わず杖を取り落とす。
魔法の制御が効かなくなり、それらは無差別に地に落ちてきた。
「あっ…」
「ミロウ、危ない!」
いくつかの塊がミロウたちを襲う寸前、レイゼは両手を突き出してその魔法に触れる。
大きく蒸発するような音がして、魔力は跡形も無く消し飛んだ。
「危なかっ、た…怖かった…ミロウ、大丈夫?」
「あ、え?うん、大丈夫…だけど、どうして魔法が…?」
響素を使うための機械を用いず、レイゼは己の身のまま響素を使ってしまった。
生身で響素を使ってしまうと、身体や精神のどこかに弊害が出てしまうという欠点がある。
今回レイゼは素のまま使ってしまったため、響素は彼の手の甲に大きな火傷をもたらした。
──この欠点を、手帳の記述含むレイゼは"代償"と呼んでいる。
「響素で防いだんだ。響素は魔力を打ち消す性質がある。だからどれだけ強大な魔法であっても、響素は微量で魔力を消すことが出来るんだよ」
「…早く言ってよ、レイゼが怪我したらどうしようって…」
「そうだね、言ってなくてごめんよ」
「響素云々は分かったけど…でも、何で魔法が使えないの?」
「…響素を使うためには、体内にある魔力を全て響素にしなくちゃいけなかった。けれど生命線でもある魔力を無くすことは出来ない。だから代わりに響素で活力を補ったんだ。それで、少しも身体に魔力が残ってないから、もう魔法は使えない…」
そうなんだ。と、ミロウは深く溜息を吐くと、落とした杖を持ってレイゼの方を向く。
「納得は出来ない!けど、もっと知りたくなってきた。響素に対する魔法の抜け道がきっとあるはず!」
そしてどこからか魔女帽を出現させ、ゆっくりと被る。
「規則に縛られなくて良いから、一戦しよう。そんな約束なんて忘れてさ」
ミロウの目つきが変わると同時に、杖の青みが一層深まる。
『銀の弾劾』
真っ白な魔力は刃物状となり、切っ先全てがレイゼを捉える。
「防がないと死んじゃうよ」
高く掲げていた杖の先を、再び彼がいる方向へ振り下ろした。
態度の一変したミロウの纏う雰囲気は、辺りまで凍るかと思うほどに冷たかった。
一時は響素を認めてくれたのだとレイゼは思ってしまったが、果然多少の反感は持っていたようだ。
「あはは…確かに怪しいね。けど、そんなに悪いものじゃないよ」
「怪しいことには変わりないでしょ!…だから」
突き出した杖を更にレイゼの前へと押し出し、ミロウは威圧を放つように見据える。
その杖の素体は銀で出来ていて、彼女の銀糸の髪とよく似合っている。先端には大きな青い水晶がはまっており、吸い込まれそうなほどの輝きを放っていた。
「だから、力比べをしよう。わたしの魔法と、レイゼの響素で」
「力比べ…」
「そう。これなら、一番分かりやすい比べ方でしょ?…模擬戦闘、って言ったほうが良いかな」
「…!」
"戦闘"という言葉を聞いた次の瞬間、レイゼは目を見開いてミロウの肩を強く掴んだ。
「っ?!レイゼ?!」
しかし、込められた力は限りなく弱いものだった。ミロウは驚きながらもレイゼを肩から剥がすと、彼の身体は異様に震えていることに気付く。
「レイゼ…?さっきからおかし…」
「…響素は……戦いのためのものじゃ、ない」
泣きそうなほど弱々しい声でそう言うレイゼの姿は、いつもの毅然とした様子とかけ離れていた。
ミロウは困惑しながらも、その背中を優しく擦った。
突然錯乱してしまったことに申し訳なく思ったのか、レイゼは一旦深呼吸をする。依然として下を向いたままだが、衝動的な感情は落ち着いたようだ。
「そう、約束させられたんだ」
「…ふーん」
めそめそとするレイゼに少しは同情したが、そんなことはどうでも良いとばかりに、ミロウは再び彼に杖を掲げる。青い水晶に魔力を込め、眼前には一触即発の魔法が完成していた。
顔を上げると飛び込んできたその光景に、レイゼは大きくたじろく。
「それで、僕はそんなことに響素を使えな…って、ミロウ?!ごめんって!そ、その杖で何をするつも…」
言い終わる直前、ミロウはその魔法を彼にめがけて思いきり飛ばしてきた。
「あぶっ…!」
間一髪で彼は避けるが、ミロウの目線は未だレイゼを向いたまま。
「でもそれって、ただのエゴでしょ!」
くだらないと嘆かんばかりに、彼女は次々と魔力の塊を生成する。無数にあるそれをただ避けることは不可能だ。
かと言って魔力で魔力を相殺するのは、同等の魔法技能を必要とする。天才的な魔女であるミロウと、ただの平凡な少年のレイゼ。実力は明確である。ゆえに、魔法をぶつけ合う防御も不可能だろう。
唯一つ、無事にレイゼが攻撃を防げる方法──それは、響素を用いることだが…
「ねぇ、魔法を使っても良いんだよ?…使おうよ。響素なんてものじゃなくてさ!レイゼにはわたしぐらいの実力があるでしょ!」
膨大な魔力の塊を取り巻きながら、ミロウは彼を試すようにそう言う。
楽しげな彼女に反して、レイゼの顔は相当に暗い。
そして
「…ごめん。僕はもう…魔法を使えない」
と。
「…え」
──その言葉を聞いた瞬間、ミロウは思わず杖を取り落とす。
魔法の制御が効かなくなり、それらは無差別に地に落ちてきた。
「あっ…」
「ミロウ、危ない!」
いくつかの塊がミロウたちを襲う寸前、レイゼは両手を突き出してその魔法に触れる。
大きく蒸発するような音がして、魔力は跡形も無く消し飛んだ。
「危なかっ、た…怖かった…ミロウ、大丈夫?」
「あ、え?うん、大丈夫…だけど、どうして魔法が…?」
響素を使うための機械を用いず、レイゼは己の身のまま響素を使ってしまった。
生身で響素を使ってしまうと、身体や精神のどこかに弊害が出てしまうという欠点がある。
今回レイゼは素のまま使ってしまったため、響素は彼の手の甲に大きな火傷をもたらした。
──この欠点を、手帳の記述含むレイゼは"代償"と呼んでいる。
「響素で防いだんだ。響素は魔力を打ち消す性質がある。だからどれだけ強大な魔法であっても、響素は微量で魔力を消すことが出来るんだよ」
「…早く言ってよ、レイゼが怪我したらどうしようって…」
「そうだね、言ってなくてごめんよ」
「響素云々は分かったけど…でも、何で魔法が使えないの?」
「…響素を使うためには、体内にある魔力を全て響素にしなくちゃいけなかった。けれど生命線でもある魔力を無くすことは出来ない。だから代わりに響素で活力を補ったんだ。それで、少しも身体に魔力が残ってないから、もう魔法は使えない…」
そうなんだ。と、ミロウは深く溜息を吐くと、落とした杖を持ってレイゼの方を向く。
「納得は出来ない!けど、もっと知りたくなってきた。響素に対する魔法の抜け道がきっとあるはず!」
そしてどこからか魔女帽を出現させ、ゆっくりと被る。
「規則に縛られなくて良いから、一戦しよう。そんな約束なんて忘れてさ」
ミロウの目つきが変わると同時に、杖の青みが一層深まる。
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高く掲げていた杖の先を、再び彼がいる方向へ振り下ろした。
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