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第4話 秩序以上、魔法未満
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複雑な波長を描くように飛来しながら軌道を変えるその魔法は、まるで捉えるのが困難だ。
ましてや戦いとは全くの無縁であったレイゼからすると、それは一層難題なことだろう。
余裕そうな、煽るような笑みを浮かべるミロウに怒りを抱き、がむしゃらに片手に機械を持つ。
慣れた動作で基盤を操作し、常に稼働出来るよう電源を入れた。
「…そんな融通が利かなかったっけ!?」
「わたしに響素を認めさせてみてよ!」
右から後ろから、迫りくる魔法の刃を全て受け止めるのは難しい。
しかしレイゼは基盤を投げると、それは彼を囲んで円盤状の半透明なホログラムになった。
コンピュータを思わせるタイピングで円盤を叩くと、どこからかレイゼを取り巻く青い糸が出現する。
『コマンド』
ぐるっと片手を魔法のある場所へ翳すと、糸は刃を消さんと一つ一つが追従していった。
『クラス──相反』
それは魔力にぶつかると、軽い破裂を起こしながら相殺する。
圧倒的な質量の魔力であるはずだが、微弱な響素は軽々と刃を消していく。
「わっ…さっきと全然違う!何その輪っか!」
驚愕するミロウに対して、レイゼは肩で息をしていた。
さほど動いていないにも関わらずそうなっているのは、手のひらの火傷の痛みのせいか、それとも重なる代償のせいか。
向かってくる魔法を消したことを全て確認し、そして目を眇めたレイゼは、冷淡にミロウを見据える。
「…この部屋は狭い、外に出よう。僕の庭は広いから」
薪が燃え尽きた部屋には、白と青の光の残滓だけが残っていた。
「やっと戦う気になったんだね、レイゼ!」
「どうしても逃れられないじゃないか、会わない内に強引になったね」
小さく彼を囲んでいた円盤はレイゼの手の動きに合わせて拡大する。
冷ややかな風を纏う円を見ると、ミロウは微かに口角を下げた。
「そっちこそ、会わない内に強くなったね!…前と、全然違うもん」
「そうかな。取り敢えず、君に伝えたいこともあるから、早く再開しよう」
『コード──独占』
レイゼが円をミロウの方へ向けたかと思うと、いつの間にか彼女の握っていた杖が家の壁へ叩きつけられていた。
円は点滅しながらミロウを取り巻き、魔力を吸収せんと回転している。
「…え?」
しっかりとミロウは彼を見据えていた。しかし1秒にも満たない時間で、ミロウの杖は奪われていた。
──否、意識を奪われた。と言ったほうが正しいか。
「いつの間にっ…!?ねぇ、レイゼ…その力、一体何なの…?やっぱり、魔法と全然似てない…短い動作で、意識に干渉するなんてこと…魔法は出来ない」
強大な存在を目にしたかのように、彼女はひどく怯えていた。
「これが響素だよ。…魔法の代替、僕はこれに相応しいと思う」
床に落ちた杖を拾ってくると、レイゼは言葉を続ける。
「それで…持ってることすら気づかないぐらい小さい意識を借りて、君を一瞬気絶させたんだ。攻撃までとはいかないけれど、行動を阻害することはできる。それが響素が出来る、唯一の対人的な攻撃方法だと思ってる」
「そうなんだ。けど…怖い…やっぱり止めよ、力比べなんて」
「泥沼になるだけだしね。分かってくれて嬉しいよ」
杖を渡すも、ミロウの顔は未だ未知に塗れて青くなっていた。
先ほどまでとは違い、彼女のレイゼを見る目は酷く遠いもののようだ。
「…色々しちゃった。何かごめんね」
「大丈夫だよ。ミロウに怪我はない?」
「うん、へっちゃらだよ!」
並んで歩く二人の距離は、いつもよりも少し離れていた。
ましてや戦いとは全くの無縁であったレイゼからすると、それは一層難題なことだろう。
余裕そうな、煽るような笑みを浮かべるミロウに怒りを抱き、がむしゃらに片手に機械を持つ。
慣れた動作で基盤を操作し、常に稼働出来るよう電源を入れた。
「…そんな融通が利かなかったっけ!?」
「わたしに響素を認めさせてみてよ!」
右から後ろから、迫りくる魔法の刃を全て受け止めるのは難しい。
しかしレイゼは基盤を投げると、それは彼を囲んで円盤状の半透明なホログラムになった。
コンピュータを思わせるタイピングで円盤を叩くと、どこからかレイゼを取り巻く青い糸が出現する。
『コマンド』
ぐるっと片手を魔法のある場所へ翳すと、糸は刃を消さんと一つ一つが追従していった。
『クラス──相反』
それは魔力にぶつかると、軽い破裂を起こしながら相殺する。
圧倒的な質量の魔力であるはずだが、微弱な響素は軽々と刃を消していく。
「わっ…さっきと全然違う!何その輪っか!」
驚愕するミロウに対して、レイゼは肩で息をしていた。
さほど動いていないにも関わらずそうなっているのは、手のひらの火傷の痛みのせいか、それとも重なる代償のせいか。
向かってくる魔法を消したことを全て確認し、そして目を眇めたレイゼは、冷淡にミロウを見据える。
「…この部屋は狭い、外に出よう。僕の庭は広いから」
薪が燃え尽きた部屋には、白と青の光の残滓だけが残っていた。
「やっと戦う気になったんだね、レイゼ!」
「どうしても逃れられないじゃないか、会わない内に強引になったね」
小さく彼を囲んでいた円盤はレイゼの手の動きに合わせて拡大する。
冷ややかな風を纏う円を見ると、ミロウは微かに口角を下げた。
「そっちこそ、会わない内に強くなったね!…前と、全然違うもん」
「そうかな。取り敢えず、君に伝えたいこともあるから、早く再開しよう」
『コード──独占』
レイゼが円をミロウの方へ向けたかと思うと、いつの間にか彼女の握っていた杖が家の壁へ叩きつけられていた。
円は点滅しながらミロウを取り巻き、魔力を吸収せんと回転している。
「…え?」
しっかりとミロウは彼を見据えていた。しかし1秒にも満たない時間で、ミロウの杖は奪われていた。
──否、意識を奪われた。と言ったほうが正しいか。
「いつの間にっ…!?ねぇ、レイゼ…その力、一体何なの…?やっぱり、魔法と全然似てない…短い動作で、意識に干渉するなんてこと…魔法は出来ない」
強大な存在を目にしたかのように、彼女はひどく怯えていた。
「これが響素だよ。…魔法の代替、僕はこれに相応しいと思う」
床に落ちた杖を拾ってくると、レイゼは言葉を続ける。
「それで…持ってることすら気づかないぐらい小さい意識を借りて、君を一瞬気絶させたんだ。攻撃までとはいかないけれど、行動を阻害することはできる。それが響素が出来る、唯一の対人的な攻撃方法だと思ってる」
「そうなんだ。けど…怖い…やっぱり止めよ、力比べなんて」
「泥沼になるだけだしね。分かってくれて嬉しいよ」
杖を渡すも、ミロウの顔は未だ未知に塗れて青くなっていた。
先ほどまでとは違い、彼女のレイゼを見る目は酷く遠いもののようだ。
「…色々しちゃった。何かごめんね」
「大丈夫だよ。ミロウに怪我はない?」
「うん、へっちゃらだよ!」
並んで歩く二人の距離は、いつもよりも少し離れていた。
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