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第5話 旅の宣告と青の共鳴
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「それで、伝えたいことって?」
家に戻った二人は、ミロウの焼いたアップルパイを食べながら話していた。
リンゴとは思えないほど毒々しい色の果実を見た時、レイゼは果たして食べ物なのだろうかと数刻迷った。味はリンゴと遜色ないものであったため、僅かながらに胸を撫で下ろしたが。
ミロウの何故か期待するような眼差しに申し訳無さそうな顔をしながら、レイゼは一旦食べる手を止める。
「ここアイノウンから、旅立とうと思ってるんだ」
それを聞いた途端、ミロウの動きが完全に停止した。
「え?!引っ越すってこと?!いなくなっちゃうの…?」
次第に涙目になっていく彼女に胸の痛みを覚え、思わずミロウの手を握った。
その手は外から帰ったばかりで冷たい。けれど少し温かかった。
「いずれ戻っては来るつもりだよ。だけど…いつ帰るかは分からないな」
「ど、どこへ行くの?」
必死に手を握り返すミロウの目には、明らかな焦燥がある。
どうしてだろうかと考える間もなく、彼女の逼迫した問いが飛んできた。
「隣国の…ログフラクタに行こうと思ってる。響素研究のためにね。この記録もそれのために書いてたんだ。…3日後にはもうここを出なきゃいけない」
「そんなぁ…もっとレイゼと話したいよ!今日だってやっと会えたのに!何でもっと早く言ってくれなかったの?!」
「伝える時間も無かったからね。こんなギリギリに伝えることになっちゃったけど…じきに帰ってくるから、大丈夫。待ってて」
「…」
ミロウは掴んでいた腕を離し、一歩後ずさる。
そして眉間に皺を寄せ、何かを必死に考え始めた。
「……み、ミロウ…?そんなに引き留めてくれるとは思わなかったよ」
キッとレイゼの方を向いたかと思うと、その瞳には決意が揺れていた。
「なら、わたしも連れてって!」
「……え?」
暫し周りの時が止まり、やっと動いたレイゼはまた疑問符を出す。
「え…っと、ミロウも忙しいんじゃないの?」
「しばらく依頼も何も無いし、着いてって手伝いぐらいはしたいの!」
「でも…響素のための旅だし…ミロウにとって苦痛かもしれない」
レイゼがそう言うと、ミロウは大きく首を横に振り、再度彼に近寄る。
「ううん。わたしも響素についてもっと知りたいから…どうかな、駄目かな?」
瞳に大粒の涙を湛えながら懇願する彼女に断り切れず、レイゼはやっと観念した。
「いや、ミロウがいてくれたら百人力だよ。なら…うん。一緒に行こう」
「ほんとっ!?レイゼと旅行!楽しみー!」
「あはは…観光ってわけじゃないから、そこまで楽しくないかもしれないけどね…」
くるくると小躍りするミロウを微笑ましく見ていると、ふと彼女はレイゼの方を振り向いた。
魔女帽をレイゼに被せ、ずいっと顔を近づける。
「あわよくば、ログフラクタに行くまでに魔法に心変わりするようにってね」
レイゼよりも一層深いミロウの青い瞳を見て、彼は捉えきれないほど多くの謀りがあるような錯覚を覚えた。
「……そっか」
家に戻った二人は、ミロウの焼いたアップルパイを食べながら話していた。
リンゴとは思えないほど毒々しい色の果実を見た時、レイゼは果たして食べ物なのだろうかと数刻迷った。味はリンゴと遜色ないものであったため、僅かながらに胸を撫で下ろしたが。
ミロウの何故か期待するような眼差しに申し訳無さそうな顔をしながら、レイゼは一旦食べる手を止める。
「ここアイノウンから、旅立とうと思ってるんだ」
それを聞いた途端、ミロウの動きが完全に停止した。
「え?!引っ越すってこと?!いなくなっちゃうの…?」
次第に涙目になっていく彼女に胸の痛みを覚え、思わずミロウの手を握った。
その手は外から帰ったばかりで冷たい。けれど少し温かかった。
「いずれ戻っては来るつもりだよ。だけど…いつ帰るかは分からないな」
「ど、どこへ行くの?」
必死に手を握り返すミロウの目には、明らかな焦燥がある。
どうしてだろうかと考える間もなく、彼女の逼迫した問いが飛んできた。
「隣国の…ログフラクタに行こうと思ってる。響素研究のためにね。この記録もそれのために書いてたんだ。…3日後にはもうここを出なきゃいけない」
「そんなぁ…もっとレイゼと話したいよ!今日だってやっと会えたのに!何でもっと早く言ってくれなかったの?!」
「伝える時間も無かったからね。こんなギリギリに伝えることになっちゃったけど…じきに帰ってくるから、大丈夫。待ってて」
「…」
ミロウは掴んでいた腕を離し、一歩後ずさる。
そして眉間に皺を寄せ、何かを必死に考え始めた。
「……み、ミロウ…?そんなに引き留めてくれるとは思わなかったよ」
キッとレイゼの方を向いたかと思うと、その瞳には決意が揺れていた。
「なら、わたしも連れてって!」
「……え?」
暫し周りの時が止まり、やっと動いたレイゼはまた疑問符を出す。
「え…っと、ミロウも忙しいんじゃないの?」
「しばらく依頼も何も無いし、着いてって手伝いぐらいはしたいの!」
「でも…響素のための旅だし…ミロウにとって苦痛かもしれない」
レイゼがそう言うと、ミロウは大きく首を横に振り、再度彼に近寄る。
「ううん。わたしも響素についてもっと知りたいから…どうかな、駄目かな?」
瞳に大粒の涙を湛えながら懇願する彼女に断り切れず、レイゼはやっと観念した。
「いや、ミロウがいてくれたら百人力だよ。なら…うん。一緒に行こう」
「ほんとっ!?レイゼと旅行!楽しみー!」
「あはは…観光ってわけじゃないから、そこまで楽しくないかもしれないけどね…」
くるくると小躍りするミロウを微笑ましく見ていると、ふと彼女はレイゼの方を振り向いた。
魔女帽をレイゼに被せ、ずいっと顔を近づける。
「あわよくば、ログフラクタに行くまでに魔法に心変わりするようにってね」
レイゼよりも一層深いミロウの青い瞳を見て、彼は捉えきれないほど多くの謀りがあるような錯覚を覚えた。
「……そっか」
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