フラクタル・エバーノーツ

ログリオ

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第6話 ライカリライクの駅

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 3日後。荷物をまとめたレイゼは、集合場所であるミロウの家へと訪れていた。
 レイゼが旅の当事者であるはずだが、どうして彼女の家にいるのだろうか。

「ミロウ、いる?おはよう」

 チャイムを鳴らすも返事が無い──かと思ったが、次の瞬間、家の後ろからミロウは大急ぎで顔を出してきた。

「あ、レイゼ!ちょっと待っててね」

 そう言ったきりまた顔を引っ込めたミロウ。
 数分待っていると、彼女はアップルパイに使われていたあの毒々しい色のリンゴを4つほど、手に携えて裏から出てきた。

「これを持っていこう!魔法栽培で作ったリンゴでね、回復薬的な効果があるんだよ!」
「へえ、こんな感じなんだ。宝石みたいで綺麗だね。食べるのにはちょっとためらうけど…」

 色だけ見れば、そのリンゴはミント色ゆえ毒々しいかもしれない。
 しかし見た目はトルマリンの宝石のようなテクスチャを持っており、インテリアとしては良いのではないかとレイゼは思う。
 大きめの鞄を用意していたミロウは軽々とリンゴを入れていたが、案外その果実は大きく、半分ほどまで容量が埋まってしまっていた。

「このカバンに入れてっと…よしっ、おまたせ!」
「じ、直で入れて大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!ふっふっふ、魔法を舐めるでないぞ!」
「そ、そう…じゃ、駅に行こうか。ここはバス停まで近いから便利だね」
「えっ、バスで行くの?」

 何を言っているのかと言わんばかりに、ミロウはレイゼの発言に驚愕する。
 魔法でひとっ走りだと徐ろに箒を出し、それに手を掛けてはっと気付く。

「あ…そっか、レイゼは魔法使えないもんね…」
「うん?箒で行くんだね。響素でも同じようなことが出来るから、ミロウのアイデアにしよう」
「…響素でも出来るんだ?」
「出来るよ。見てて」

『───』

 レイゼは言葉にならない声を呟くと、両手を空にかざしてエスカレーター状の道を作った。
 青い四角形が連なる道は、彼らの目的地へと続いている。

「わぁ…バランス崩すとすぐ落ちそう」
「この四角形が足に吸着するから、落ちることは無い…と…思う。初めて長距離移動するからどうなるか分かんないけど…」
「そんなリスキーな…」




 出発するも、自動で動く道かつ術者本人が速度調整できるため、箒の速度に遅れることなく並んで走ることが出来た。
 そうして30分ほど経ち、一旦の目的地であるこの街──ライカリライクの駅に到着した。

「む、ログフラクタまで電車使うの?」
「そうだね…もうあの道はなるべく使いたくないし…」

 というのも、この30分間響素の維持にレイゼは全ての精神を使わなければならず、少し気が逸れるとすぐ道が途切れかけてしまったのだ。
 度々ミロウが補助したが、それでも高所から落ちかけるというのはレイゼのトラウマになってしまったようだ。

「しょうがないとは思うけど、変なことするからだよっ!」
「あはは…」

 そして駅のラウンジまで歩いて行くも、道中に全く人がいないことに二人は違和感を感じていた。
 改札口に辿り着くと窓口に一人だけ、赤みがかった茶髪の駅員の姿が見えた。

「お客さん、全然いないね?」
「何でだろう。この時間帯は結構混んでそうだったのに」

 さて切符を買おうとわたわたしていると、駅員が彼らに近づいてきた。

「坊ちゃんら、何でここにいんだ?」

 心底不思議そうな顔をする駅員に、二人は顔を見合わせる。
 電車に乗るためだと主張するが、彼はどうにも浮かない顔だ。

「今は電車動いてねぇぞ?来ても意味無いと思うんだが」
「えっ?」
「あ、ほんとだ!全線運転見合わせだって!」

 ニュースを見てこなかったのかと、レイゼとミロウの様子に駅員は僅かに噴き出す。

「事前調査は大事だぜ。…ま、運転再開の目処も立ってねぇから、今日は一旦帰りな」
「う、嘘ぉ…僕の苦労は何だったんだ…」
「何か事故があったんですか?」

 レイゼが頭を抱えるかたわらで、ミロウは駅員に見合わせの原因を訊ねた。
 彼は言いにくそうな顔をしながら、二人に顔を近寄せて小声で話す。

「…事故っつーか…アイノウン、全国で今大規模な騒乱が起こってることは知ってるだろ?」
「え、そうなんですか?」

 純粋に首を傾げるミロウに、駅員は疲れたような溜め息を吐く。

「嬢ちゃん、ニュースは見ような。んでまあそうだ。王女に対する、な…」

 アイノウンは王政国家だ。そして現在、アネモネ・デリート王女が国を治めている。
 エルフの長命種である彼女は建国当初からの王で、一定の期間ごとに政治体制を変えているという噂がある。
 目まぐるしく変わる社会制度に痺れを切らした国民が、王女に対する騒乱を起こしているそうだ。

「騒乱のせいで街が一つ一つ封鎖されて、電車も動かせねぇ状態なんだよ」
「ぜ、全然知らなかった…」

 であれば箒で移動することも難しいだろうと、ミロウはレイゼを引っ張って帰ろうとする。

「うぅ…時期を見送っても"フロウリーグラム博士"から忘れられるかもしれないし…」

 うつむきぼそりと呟くレイゼはひどく落ち込んでいた。
 そんな様子の彼に駅員は苦笑いをし、手を振って帰れと合図する──が、地に響く鈍い音が3人の意識をさらった。
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