フラクタル・エバーノーツ

ログリオ

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第8話 特例或いは萎縮震慄

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「ほう、よくわからんが凄いなぁ。坊ちゃんよ」
「本来は物体の代用として足場を配置する式なんですけどね…」

 諸々の説明を聞いた後、謙遜けんそんするレイゼの肩を駅員はバシバシと強く叩く。

「そんで、何でアレは俺らの攻撃が効かなかったんだ?坊ちゃんは何か知ってるようだったが…」
「はい。あれは主にログフラクタでよく発生する"現象"なんです」
「現象?でも生き物だったよ?」

 明らかにあの化け物は生物のように動いていた。
 似合わない表現をするレイゼに、ミロウは思わず疑問を投げる。

「生きてるように見えるけど、あれは本来、動物の死骸なんだ。残骸ざんがいとも言われてる」
「死骸!?だからあんなに臭いが酷かったんだ…」
「それが響素と反応、そして気化して生き物を象る…実体のある蜃気楼みたいなものなんだよ」
「そりゃもう現象じゃねぇだろ…ならほっとけば消えるんじゃねーのか?」

 ぶんぶんと霧を払う動作をする駅員に、レイゼは首を横に振る。
 そんな簡単なものでは無いと言うように、怪物──もとい、残骸がいた場所を見詰める。

「確かに消える場合もありますが、もし放置していれば、駅員さんのように無差別な暴力で人が襲われてしまいます。かなりの割合で自然消滅しません。だから早急に対処しないといけませんが…アイノウンに来たのは初めてです」
「何の対策も意味なさそうだね…どうしてログフラクタから来たんだろう…」

 残骸が消えた後、地面に一本の青い糸が落ちていた。これは危険なものだからと、レイゼば拾ってすぐにどこか仕舞ってしまった。

「うーん…残骸が発生した場所は再発する確率が高いんですよね…」
「うっそだろ、オレはその響素なんてもん使えねぇぞ」

 頭を抱える駅員に、レイゼは一刻思案する。そして何か思いついたのか、徐ろに懐から響素を使うための機械を出した。先ほど拾った糸を機械に挿入し、駅員に差し出す。

「これをこうして…よし。駅員さん、これをどうぞ」
「ん?何だコレ」
「え、それってレイゼの必需品じゃないの?!」

 横で見ていたミロウは、レイゼの行動に困惑する。
 機械は彼も一つしか持っておらず、それを差し出すのはかなりのリスクがあることだ。

「そうだね…だけど、僕一人より色んな人のためになったほうが良いかなって」
サトゥ大陸東の大陸の電化製品っつーもんみたいだな。だが、何でコレをくれたんだ?」
「残骸の発生を抑制するコードを組んだ装置です。もし残骸が発生しそうでも、発生源となる元をすぐに除去する機能もあるので、ある程度は大丈夫かと」
「便利なもんだなぁ。だが、坊ちゃんも必要じゃねぇのか?貴重そうだが、良いのか?」
「響素で貢献出来るならしたいですし、使ってください」

 はにかむレイゼの顔はとても嬉しそうだ。この調子で響素の知名度が上がってくれればと、密かに願っていた。
 それに反してミロウはかなり不安そうな表情をしていた。己の身を削り過ぎだと言わんばかりに。

「いやぁ、守るはずが守られちまったなぁ。ありがとうな、坊ちゃん達。そういえば、名前はなんていうんだ?」
「そっそうだった、自己紹介がまだでした…僕はレイゼです。先ほどのような現象を起こせる響素を研究してます」
「わたしはミロウ!魔法界ではドクター・アスターって呼ばれてたり」
「ほう!嬢ちゃんの名前は聞いたことがあるぞ。まさか有名人が手助けしてくれるなんてなぁ」
「えー…何も出来なかったんですけどー…」

 嘆くミロウに苦笑し、お礼だと言って駅員は何か手帳のようなものを二人に手渡した。

「うん…?これは?」
「オレ特製と言っちゃなんだが、通行許可証だ。ログフラクタまでとはいかんが、今は街同士すら封鎖されてっからな。これがあれば国境までは難なく通れるはずだ」
「わぁ、ありがたい!」

 喜ぶ二人を見ながら満足げに頷き、そして再度彼らの目を見た。

「オレの名前はシオン。この手帳とオレの名前を出せば、多分どこでもすぐに通して貰えると思うぞ」
「あ、あなたは一体何者…?」
「さぁな。今はただのしがない駅員だ。ログフラクタなぁ…旅行か?ま、入れるかどうか…かなり怪しいが、楽しんでこいよ」

 照れくさそうに腕を組み、感謝を述べる二人ににかっと笑う。

「わたしも何かしたいなぁ。あ、そうだ!」



 やがて話も終え、さてどうしようかと二人は駅から出てきた。

「さっき駅員さんとこそこそしてたけど、何してたの?」
「持ってきたリンゴをあげたの。持病とかも聞いてリンゴの効能を書き換えてたから、プライバシーだと思ってレイゼを払ったの」
「そうなんだ。でも、食べ物を渡すと怪しむ人もいるから慎重にね」
「はーい」
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