10 / 33
第10話 反転ホメオスタシス
しおりを挟む
街へと一歩踏み入れると、精巧な石造りの建物が規則正しく並んでいる景色が飛び込んでくる。
行商人や仕事人が忙しなく走り回っている光景を見ながら、リタヤータ含む三人は街の中を歩いていた。
「それで、その魔物って今はどこへいるんですか?」
「今は王宮の地下へ閉じ込めているよ。王女さまが直々に魔物を弱めてくれてね」
「王女様本人が!すごいなあ」
「…アイノウン王女、響素が使えるんだ…どうして…」
得意げにリタヤータが話す姿を横目に、レイゼは心に掛かる一言を考えていた。
一方、ミロウは王宮と聞いた途端、身を乗り出してリタヤータと話を続ける。
「王宮っ?!ってことは、今からお城に行くの?」
「そうさね。畏まらないで良いさ、こっちから既に伝えてあるから」
「王女様も大変だねぇ。魔物に騒乱に…」
そうして歩くこと十数分、街の門より一際大きい城門が見えてきた。
大理石一色で作られたその門は、実用性というよりもデザイン性を重視しているようだ。
「わぁ…大きいなあ」
「君たちはブーレに来たことが無いのかい?箱入りっ子なもんだねー。ブーレ中のどこへ行くにもこの門は通り過ぎるもんなのに」
ケラケラと笑いながら、平然と城の門に手を掛けたリタヤータ。
そんな軽はずみな行動だが、兵士も咎めず黙認している様子に、かなり逼迫している状況が見受けられる。
「さ、行くよ。王女さまは形式やらなんやらは気にしないお方なんだ。大それた敬語はいらないよ」
「よくご存知なんですね」
「元々側近だったからね。持病が悪化しちまって、今は事実上辞退して門の検閲をやってるのさ」
次第に緊張が増していくレイゼとミロウに対して、リタヤータはやけに楽観的だ。慣れにしてもかなりの手練れなのだろう。
城の見た目はありきたりな形をしているが、しかし壁から屋根、終いには窓のガラスまで、すべてが真っ白に塗られていた。王女は白が好きなのだろうかと、あまりの白さに二人は笑ってしまうほどに。
「お城凄い…文通はしてたけど、どんなお姿なんだろ?」
「そうだね。まさかこんな機会に謁見出来るとは思わなかったよ……」
城の通路を進んで行き、縁が豪華に彩られた扉の前で彼らは停止する。
これまで視界に入ってくる色はほとんどが白であったが、この扉だけは、アレキサンドライトの宝石のように黒を基調とし、角度を変えれば色が変わる細工がされていた。
「わ、びっくりしたあ…この扉もすごいね」
「はは、異質感半端ないだろ?大丈夫さ、王女さまは案外てきとうなんだ…っと、忘れておくれ」
リタヤータが何か言いかけると同時に独りでに扉が開いたかと思うと、その先には王女──アネモネ・デリート・アイノウン王女が玉座に鎮座していた。
彼女は紫と青が混じったような、けれど淡いような何とも言えない色の髪と、ビビッドカラーのピンクの瞳を持っている。典型的な王冠を被った姿は、威厳というよりは儚げな風貌を携えていた。
「失礼…お久しぶりでございます、アネモネ王女」
リタヤータは半直角のお辞儀をし、最大限の誠意を示した。残る二人も慌てて首を下げ、ちらりとアネモネの様子を窺う。
「…リタヤータ本人がここへ来るなんて、珍しいわね」
どうしてか目を丸くしていたアネモネは言葉を漏らす。
「そうでございましょうか」
「これまで何かと言って来なかったではないの。…さて、こちらへいらっしゃい」
王女が手招き、三人は一歩王の間に入る。すると強く扉が閉められ、そこには逃げ場は無いと言わんばかりの圧が漂っていた。
行商人や仕事人が忙しなく走り回っている光景を見ながら、リタヤータ含む三人は街の中を歩いていた。
「それで、その魔物って今はどこへいるんですか?」
「今は王宮の地下へ閉じ込めているよ。王女さまが直々に魔物を弱めてくれてね」
「王女様本人が!すごいなあ」
「…アイノウン王女、響素が使えるんだ…どうして…」
得意げにリタヤータが話す姿を横目に、レイゼは心に掛かる一言を考えていた。
一方、ミロウは王宮と聞いた途端、身を乗り出してリタヤータと話を続ける。
「王宮っ?!ってことは、今からお城に行くの?」
「そうさね。畏まらないで良いさ、こっちから既に伝えてあるから」
「王女様も大変だねぇ。魔物に騒乱に…」
そうして歩くこと十数分、街の門より一際大きい城門が見えてきた。
大理石一色で作られたその門は、実用性というよりもデザイン性を重視しているようだ。
「わぁ…大きいなあ」
「君たちはブーレに来たことが無いのかい?箱入りっ子なもんだねー。ブーレ中のどこへ行くにもこの門は通り過ぎるもんなのに」
ケラケラと笑いながら、平然と城の門に手を掛けたリタヤータ。
そんな軽はずみな行動だが、兵士も咎めず黙認している様子に、かなり逼迫している状況が見受けられる。
「さ、行くよ。王女さまは形式やらなんやらは気にしないお方なんだ。大それた敬語はいらないよ」
「よくご存知なんですね」
「元々側近だったからね。持病が悪化しちまって、今は事実上辞退して門の検閲をやってるのさ」
次第に緊張が増していくレイゼとミロウに対して、リタヤータはやけに楽観的だ。慣れにしてもかなりの手練れなのだろう。
城の見た目はありきたりな形をしているが、しかし壁から屋根、終いには窓のガラスまで、すべてが真っ白に塗られていた。王女は白が好きなのだろうかと、あまりの白さに二人は笑ってしまうほどに。
「お城凄い…文通はしてたけど、どんなお姿なんだろ?」
「そうだね。まさかこんな機会に謁見出来るとは思わなかったよ……」
城の通路を進んで行き、縁が豪華に彩られた扉の前で彼らは停止する。
これまで視界に入ってくる色はほとんどが白であったが、この扉だけは、アレキサンドライトの宝石のように黒を基調とし、角度を変えれば色が変わる細工がされていた。
「わ、びっくりしたあ…この扉もすごいね」
「はは、異質感半端ないだろ?大丈夫さ、王女さまは案外てきとうなんだ…っと、忘れておくれ」
リタヤータが何か言いかけると同時に独りでに扉が開いたかと思うと、その先には王女──アネモネ・デリート・アイノウン王女が玉座に鎮座していた。
彼女は紫と青が混じったような、けれど淡いような何とも言えない色の髪と、ビビッドカラーのピンクの瞳を持っている。典型的な王冠を被った姿は、威厳というよりは儚げな風貌を携えていた。
「失礼…お久しぶりでございます、アネモネ王女」
リタヤータは半直角のお辞儀をし、最大限の誠意を示した。残る二人も慌てて首を下げ、ちらりとアネモネの様子を窺う。
「…リタヤータ本人がここへ来るなんて、珍しいわね」
どうしてか目を丸くしていたアネモネは言葉を漏らす。
「そうでございましょうか」
「これまで何かと言って来なかったではないの。…さて、こちらへいらっしゃい」
王女が手招き、三人は一歩王の間に入る。すると強く扉が閉められ、そこには逃げ場は無いと言わんばかりの圧が漂っていた。
0
あなたにおすすめの小説
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ
一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。
百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。
平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。
そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。
『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる