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第12話 腐敗は自由を求めた
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ここが地下だとアネモネが指した扉は、玉座の間と同じような意匠だった。
しかしその間とは真逆の昏いオーラが見えるほど、どうしてか緊張感がある。
「…死臭がここまで…どれだけの数の残骸が…」
微かに感じる腐敗臭に、思わず二人は眉を顰めた。
「さて」
アネモネが扉を開けると、その眼下には途方もなく続く螺旋階段が架けられていた。
──下るにつれ気味の悪い臭いが強まっていく。
「王女様、ざん…魔物はいつからここへ?」
レイゼが戦々恐々としながら聞くと、アネモネは頭に手を添えいつだったかと考え始める。
「三日前だったかしら。律儀に正門…西の門から侵入してきて、無惨に番兵を殺したのよ」
「西ってことは…ログフラクタから?」
「そうね…どうも分からないの。ログフラクタの牽制なのか、それとも不慮の事なのか…」
そうしてやっと地下に着くと、鼻を取ってしまいたいほどの死臭が三人を襲う。
「うっ…何この臭い…」
ミロウはどうしても耐えられなかったのか、泡でヘルメットを作り、顔を覆っていた。
檻に入れられた化け物達は激しく暴れるでもなく、ただ茫然と佇んでいるだけだった。
「これ…」
「御前達も見た事があるのよね?…ブーレにはこれだけの数の化け物が入って来たわ」
「王女様はどうやってこんな数…抑えたんですか?」
他の人よりも数歩後ろに下がったミロウは、驚愕してアネモネに尋ねる。
「…レイゼさんは分かる筈よ。響素というものを使ったの」
「アイノウン国民は響素を使えないと、王女様は言っていましたよね?であれば、何故貴方は使えるのですか?」
牽制するように言うレイゼの顔には、猜疑と不安が渦巻いていた。
アネモネはそれを感じたのか、控えめな仕草をして答える。
「ほんの少しの間使えるだけなのだけれど…そうね…体質かしら。ネイティブアイノウン民ではあるのよね」
「……そう、ですか…失礼しました」
くるりと化け物の入る檻の方へ向き、アネモネはその鉄の棒を触る。
怪物たちはただ怯えるだけで、襲ってくることは無い。
「量は結構多いけれど、お願いするわ」
「分かりました。ミロウ…」
よろめきながら歩いてくるミロウに、レイゼは肩を貸す。
「大丈夫?無理しなくても…」
「わたしも役に立ちたいもん!それで、何をすればいいの?」
「そうだね…一旦、準備が必要かな」
「準備?」
そう言った彼は、三方面に設置されている檻の鉄を一本ずつ触っていく。
『クラス──見』
ミロウとアネモネに下がれと言い、彼女らとレイゼを隔てるように青い糸のようなもので織られた壁を形成する。
そして両手を広げ、一層青い糸を掌から放出したかと思うと、檻を跡形も無く消した。
「レイゼ?!」
「ミロウ、君の目の前に小さい穴がある。そこから魔力をこっちに送ってほしい」
「でも、残骸が!」
解放された檻からは、無数の化け物──残骸が次々と飛び出してくる。
アネモネに怯えていた時とは考えられないほど、死臭を纏っているとは考えられないほどに生き生きとした姿でレイゼの方向に突っ込んでくる。
「…思ったより狂暴…っ!」
余裕そうだったレイゼの顔も次第に崩れていく。ミロウが送る魔力はだんだんと濃くなり、霧のようにレイゼのいる空間を覆った。
やがて完全に彼の姿が見えなくなる。その光景にさらにミロウは不安になり、魔力を送る手を止め思わず叫ぶ。
「レイゼ、こんなことして何をするつもりなの?!」
「…一体何を…」
アネモネも予想がつかないのか、心配そうに壁を見詰めていた。
しかしその間とは真逆の昏いオーラが見えるほど、どうしてか緊張感がある。
「…死臭がここまで…どれだけの数の残骸が…」
微かに感じる腐敗臭に、思わず二人は眉を顰めた。
「さて」
アネモネが扉を開けると、その眼下には途方もなく続く螺旋階段が架けられていた。
──下るにつれ気味の悪い臭いが強まっていく。
「王女様、ざん…魔物はいつからここへ?」
レイゼが戦々恐々としながら聞くと、アネモネは頭に手を添えいつだったかと考え始める。
「三日前だったかしら。律儀に正門…西の門から侵入してきて、無惨に番兵を殺したのよ」
「西ってことは…ログフラクタから?」
「そうね…どうも分からないの。ログフラクタの牽制なのか、それとも不慮の事なのか…」
そうしてやっと地下に着くと、鼻を取ってしまいたいほどの死臭が三人を襲う。
「うっ…何この臭い…」
ミロウはどうしても耐えられなかったのか、泡でヘルメットを作り、顔を覆っていた。
檻に入れられた化け物達は激しく暴れるでもなく、ただ茫然と佇んでいるだけだった。
「これ…」
「御前達も見た事があるのよね?…ブーレにはこれだけの数の化け物が入って来たわ」
「王女様はどうやってこんな数…抑えたんですか?」
他の人よりも数歩後ろに下がったミロウは、驚愕してアネモネに尋ねる。
「…レイゼさんは分かる筈よ。響素というものを使ったの」
「アイノウン国民は響素を使えないと、王女様は言っていましたよね?であれば、何故貴方は使えるのですか?」
牽制するように言うレイゼの顔には、猜疑と不安が渦巻いていた。
アネモネはそれを感じたのか、控えめな仕草をして答える。
「ほんの少しの間使えるだけなのだけれど…そうね…体質かしら。ネイティブアイノウン民ではあるのよね」
「……そう、ですか…失礼しました」
くるりと化け物の入る檻の方へ向き、アネモネはその鉄の棒を触る。
怪物たちはただ怯えるだけで、襲ってくることは無い。
「量は結構多いけれど、お願いするわ」
「分かりました。ミロウ…」
よろめきながら歩いてくるミロウに、レイゼは肩を貸す。
「大丈夫?無理しなくても…」
「わたしも役に立ちたいもん!それで、何をすればいいの?」
「そうだね…一旦、準備が必要かな」
「準備?」
そう言った彼は、三方面に設置されている檻の鉄を一本ずつ触っていく。
『クラス──見』
ミロウとアネモネに下がれと言い、彼女らとレイゼを隔てるように青い糸のようなもので織られた壁を形成する。
そして両手を広げ、一層青い糸を掌から放出したかと思うと、檻を跡形も無く消した。
「レイゼ?!」
「ミロウ、君の目の前に小さい穴がある。そこから魔力をこっちに送ってほしい」
「でも、残骸が!」
解放された檻からは、無数の化け物──残骸が次々と飛び出してくる。
アネモネに怯えていた時とは考えられないほど、死臭を纏っているとは考えられないほどに生き生きとした姿でレイゼの方向に突っ込んでくる。
「…思ったより狂暴…っ!」
余裕そうだったレイゼの顔も次第に崩れていく。ミロウが送る魔力はだんだんと濃くなり、霧のようにレイゼのいる空間を覆った。
やがて完全に彼の姿が見えなくなる。その光景にさらにミロウは不安になり、魔力を送る手を止め思わず叫ぶ。
「レイゼ、こんなことして何をするつもりなの?!」
「…一体何を…」
アネモネも予想がつかないのか、心配そうに壁を見詰めていた。
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