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第17話 羊皮紙の燃える合図
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クハーネの灰白の瞳は、淡々とミロウを捉えているのみ。
ミロウは契約書を前に、ただ目をぎゅっと瞑っていた。
「…所詮友情、いずれ消えてしまうもの。躊躇う必要は無いんだ」
葛藤するミロウに、クハーネは言葉を掛ける。
僅かに開けられた窓からは、いやに生温い風が吹き込んできていた。それにクハーネは眉を顰め、ふるりと体を震わせたミロウの方を向く。
「何で強制されなきゃいけないんだろ」
ぽつりと呟いたミロウは、契約書を握ってクハーネを見る。
くしゃくしゃになった紙は、彼女の気持ちを僅かに乱した。
「…?契約だからだよ。不可抗力になりえるものだ」
そんなクハーネの声は既にミロウには届いていないようで、少女は杖を出し、その先端に炎を出現させる。
「わたしは魔女なのに」
ぼうっと契約書を燃やし、声を張り上げる。
紫紺の瞳は強くクハーネを見据えていた。
「何のつもりだい?これで契約決裂、彼を処刑せざるを得なくなった。君は逃すに惜しい人材だったのだが──」
つらつらと言い分を述べるクハーネの目の前に、銀の刃が突き出されていた。
圧倒的な高密度の魔力。凌げる者はそうそう居ないだろう。
「あなたが伝えなければ、わたしとの契約も無かったことになるでしょ?」
「…国の魔導士代表ともあろう崩石の魔女が、人殺しをするのかい?」
「そんなまさか。流石のわたしでも、そんな度胸無いよ」
「なら、何を…」
威嚇として置いていた銀刃は霧散し、細い幾つもの銀糸に再度形成された。
まるでレイゼが扱う響素のような、自我を持つような糸だ。
『僅かな熱を持つ風よ、彼の者の心理を暴け。その形象を檻と象れ──』
詠唱。ミロウほどの実力であれば、ある程度の魔法は無詠唱で発動出来る。しかし最高位の魔法を扱う為には、どうしても魔法の詠唱が必要なのだ。
『模する青嵐』
これは精神に干渉する魔法。それは最高位に分類されているものだ。
直前に感じた感情を引き出し、その感情を増幅させる。
そしてそれにちなんだ思い出の中に意識を閉じ込めるという、複雑な魔法だ。
「っな…」
クハーネは何かを言い掛ける前に、机に突っ伏してしまう。
それを確認したミロウは、深い息を吐き成功したと拳を握る。
「レイゼを迎えに行かなきゃ」
僅かにずれた魔女帽を整え、応接間の扉を開ける。
城の玄関と応接間の距離は近いため、ミロウはふと外の違和感に気付いた。
「…外に誰かいる?」
誰に言うでもなく呟いたミロウは、外を確認するために窓の傍に寄る。
そこには銀糸の髪と大きな山羊の角を持った男がおり、ドンドンと扉を叩いていた。
「…鉢合わせたらめんどくさそう。早くレイゼを探しに行こう…!」
ミロウは契約書を前に、ただ目をぎゅっと瞑っていた。
「…所詮友情、いずれ消えてしまうもの。躊躇う必要は無いんだ」
葛藤するミロウに、クハーネは言葉を掛ける。
僅かに開けられた窓からは、いやに生温い風が吹き込んできていた。それにクハーネは眉を顰め、ふるりと体を震わせたミロウの方を向く。
「何で強制されなきゃいけないんだろ」
ぽつりと呟いたミロウは、契約書を握ってクハーネを見る。
くしゃくしゃになった紙は、彼女の気持ちを僅かに乱した。
「…?契約だからだよ。不可抗力になりえるものだ」
そんなクハーネの声は既にミロウには届いていないようで、少女は杖を出し、その先端に炎を出現させる。
「わたしは魔女なのに」
ぼうっと契約書を燃やし、声を張り上げる。
紫紺の瞳は強くクハーネを見据えていた。
「何のつもりだい?これで契約決裂、彼を処刑せざるを得なくなった。君は逃すに惜しい人材だったのだが──」
つらつらと言い分を述べるクハーネの目の前に、銀の刃が突き出されていた。
圧倒的な高密度の魔力。凌げる者はそうそう居ないだろう。
「あなたが伝えなければ、わたしとの契約も無かったことになるでしょ?」
「…国の魔導士代表ともあろう崩石の魔女が、人殺しをするのかい?」
「そんなまさか。流石のわたしでも、そんな度胸無いよ」
「なら、何を…」
威嚇として置いていた銀刃は霧散し、細い幾つもの銀糸に再度形成された。
まるでレイゼが扱う響素のような、自我を持つような糸だ。
『僅かな熱を持つ風よ、彼の者の心理を暴け。その形象を檻と象れ──』
詠唱。ミロウほどの実力であれば、ある程度の魔法は無詠唱で発動出来る。しかし最高位の魔法を扱う為には、どうしても魔法の詠唱が必要なのだ。
『模する青嵐』
これは精神に干渉する魔法。それは最高位に分類されているものだ。
直前に感じた感情を引き出し、その感情を増幅させる。
そしてそれにちなんだ思い出の中に意識を閉じ込めるという、複雑な魔法だ。
「っな…」
クハーネは何かを言い掛ける前に、机に突っ伏してしまう。
それを確認したミロウは、深い息を吐き成功したと拳を握る。
「レイゼを迎えに行かなきゃ」
僅かにずれた魔女帽を整え、応接間の扉を開ける。
城の玄関と応接間の距離は近いため、ミロウはふと外の違和感に気付いた。
「…外に誰かいる?」
誰に言うでもなく呟いたミロウは、外を確認するために窓の傍に寄る。
そこには銀糸の髪と大きな山羊の角を持った男がおり、ドンドンと扉を叩いていた。
「…鉢合わせたらめんどくさそう。早くレイゼを探しに行こう…!」
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