19 / 33
第19話 百年河清を待つ小衣
しおりを挟む
「…あんたを見てると、弟子を思い出すよ」
必死に包帯を巻くレイゼを見ながら、リタヤータは話す。
彼を手当てすることは王女の意思に反することになるのだと思っているから、彼女は手を差し出すことはしない。
「弟子?」
「そう。昔、弟子がいてね。あの子もあんたと同じような特異なものを研究してたんだ」
徐ろにリタヤータは、彼女の瞳と同じような山吹色の帽子を被る。
「特異と言えど…ドクター・アスターが確立させた、現代魔法なんだがね」
その言葉に、レイゼはミロウに初めて響素を見せた時を思い出す。
“やっぱり、こんな魔法じゃ”と彼女が言っていたのは、過去に起因することだったのだろう。
「現代魔法も、このような逼塞した時代があったんですね」
「そりゃもう凄かった。よくここまでアイノウンに定着したよ」
そうしてしばらく話していると、またコンコンと小気味良く扉が叩かれた。
「リタ、もういいわよ。彼の処置が決まったわ」
アネモネの声だ。
「……そうですか。それでは、失礼します」
惜しげにレイゼを見つめる橙の瞳の中に、僅かな水面が揺れていた。
代わるがわる入ってきたのは、アネモネと大きな山羊の角を持った銀髪の男。
「彼がマウスとして協力して下さる方ですか」
「えぇ」
男はレイゼの前に立ち、不器用に巻かれた包帯を見る。
その瞳に、光はほとんど映っていなかった。
「即刻処刑してしまうのも惜しいもの」
冷ややかに告げるアネモネは、最早レイゼすら見ていない。
「…マウス?」
「"素体"はアイノウン人、しかし響素を使うことが出来る。解剖、そして解析すれば…技術を齎せます」
「解剖…?!どうして急にそんなこと…」
男は反発するレイゼに蹴りを入れ、彼の握っていた応急薬が地面に散らばる。
疲弊とその衝撃のせいか、レイゼの意識は飛んでしまった。
「大人しくして下さい。瀕死とおっしゃられていた筈ですが…」
「誰かが手当をしたのでしょうね。逃さないよう、持っていって頂戴」
アネモネは手を払う動作をし、レイゼを魔法で空中に浮かせた。
それと同時に、こつんとなにかが罅割れる音が聞こえてくる。
「…何かしら、この音」
「この地下牢は老朽化が進んでいるのでしょう。恐らく何かが欠けた音だと──」
絶えず響く音は、彼らに苛立ちを与えた。
「──軽い修理を致します。王室に近いですし、このままでも大変でしょう」
音のする天井へ目を向けると、どんどんその罅が大きくなっていっていることが分かる。
「また天井が…もう王宮の地下は駄目ね」
「いえ、これは…」
きらりとその間から、何か深い青の水晶のようなものが見える。
「…人為的なものですね」
その瞬間、レイゼが起こした爆発と同じような衝撃が地下室を襲う。
必死に包帯を巻くレイゼを見ながら、リタヤータは話す。
彼を手当てすることは王女の意思に反することになるのだと思っているから、彼女は手を差し出すことはしない。
「弟子?」
「そう。昔、弟子がいてね。あの子もあんたと同じような特異なものを研究してたんだ」
徐ろにリタヤータは、彼女の瞳と同じような山吹色の帽子を被る。
「特異と言えど…ドクター・アスターが確立させた、現代魔法なんだがね」
その言葉に、レイゼはミロウに初めて響素を見せた時を思い出す。
“やっぱり、こんな魔法じゃ”と彼女が言っていたのは、過去に起因することだったのだろう。
「現代魔法も、このような逼塞した時代があったんですね」
「そりゃもう凄かった。よくここまでアイノウンに定着したよ」
そうしてしばらく話していると、またコンコンと小気味良く扉が叩かれた。
「リタ、もういいわよ。彼の処置が決まったわ」
アネモネの声だ。
「……そうですか。それでは、失礼します」
惜しげにレイゼを見つめる橙の瞳の中に、僅かな水面が揺れていた。
代わるがわる入ってきたのは、アネモネと大きな山羊の角を持った銀髪の男。
「彼がマウスとして協力して下さる方ですか」
「えぇ」
男はレイゼの前に立ち、不器用に巻かれた包帯を見る。
その瞳に、光はほとんど映っていなかった。
「即刻処刑してしまうのも惜しいもの」
冷ややかに告げるアネモネは、最早レイゼすら見ていない。
「…マウス?」
「"素体"はアイノウン人、しかし響素を使うことが出来る。解剖、そして解析すれば…技術を齎せます」
「解剖…?!どうして急にそんなこと…」
男は反発するレイゼに蹴りを入れ、彼の握っていた応急薬が地面に散らばる。
疲弊とその衝撃のせいか、レイゼの意識は飛んでしまった。
「大人しくして下さい。瀕死とおっしゃられていた筈ですが…」
「誰かが手当をしたのでしょうね。逃さないよう、持っていって頂戴」
アネモネは手を払う動作をし、レイゼを魔法で空中に浮かせた。
それと同時に、こつんとなにかが罅割れる音が聞こえてくる。
「…何かしら、この音」
「この地下牢は老朽化が進んでいるのでしょう。恐らく何かが欠けた音だと──」
絶えず響く音は、彼らに苛立ちを与えた。
「──軽い修理を致します。王室に近いですし、このままでも大変でしょう」
音のする天井へ目を向けると、どんどんその罅が大きくなっていっていることが分かる。
「また天井が…もう王宮の地下は駄目ね」
「いえ、これは…」
きらりとその間から、何か深い青の水晶のようなものが見える。
「…人為的なものですね」
その瞬間、レイゼが起こした爆発と同じような衝撃が地下室を襲う。
0
あなたにおすすめの小説
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
冴えない経理オッサン、異世界で帳簿を握れば最強だった~俺はただの経理なんだけどな~
中岡 始
ファンタジー
「俺はただの経理なんだけどな」
ブラック企業の経理マンだった葛城隆司(45歳・独身)。
社内の不正会計を見抜きながらも誰にも評価されず、今日も淡々と帳簿を整理する日々。
そんな彼がある日、突然異世界に転生した。
――しかし、そこは剣も魔法もない、金と権力がすべての世界だった。
目覚めた先は、王都のスラム街。
財布なし、金なし、スキルなし。
詰んだかと思った矢先、喋る黒猫・モルディと出会う。
「オッサン、ここの経済はめちゃくちゃだぞ?」
試しに商店の帳簿を整理したところ、たった数日で利益が倍増。
経理の力がこの世界では「未知の技術」であることに気づいた葛城は、財務管理サービスを売りに商会を設立し、王都の商人や貴族たちの経済を掌握していく。
しかし、貴族たちの不正を暴き、金の流れを制したことで、
王国を揺るがす大きな陰謀に巻き込まれていく。
「お前がいなきゃ、この国はもたねえぞ?」
国王に乞われ、王国財務顧問に就任。
貴族派との経済戦争、宰相マクシミリアンとの頭脳戦、
そして戦争すら経済で終結させる驚異の手腕。
――剣も魔法もいらない。この世を支配するのは、数字だ。
異世界でただ一人、"経理"を武器にのし上がる男の物語が、今始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる