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第20話 転ずるエポックの刻
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天井が盛大に割れ、落ちてきたのは銀髪の魔女。
身軽な動作で綺麗に着地し、アネモネと男を見た。
「やっと見つけた!」
もはやお決まりといった仕草で杖を突き出すミロウ。
相当な体力を使ったのか、肩を激しく上下させていた。
驚いたアネモネは、浮かせていたレイゼを落としてしまう。
ぐえ、と気の抜けた声が聞こえる。
「アスターさん?何故ここへ来たの?」
「レイゼを返して!旅を続けるの!」
ふと目線を逸らすと、ミロウはあの時の男がいることに気が付いた。
「…あなた、ここにいたんだ」
「ラディアス…」
──数刻前。
ミロウはレイゼを探すために窓から離れ、長く続く廊下に目をやった。
「王室のそばって言ってたよね、王女…」
すると廊下の奥から、何人もの従者が玄関へ向かって走っている姿が見える。
その中にはリタヤータもおり、ミロウに気付くと気まずそうに近寄ってきた。
「ドクター・アスター、話はもう終わったのかい?」
「あー…うん!終わったよ!ところで、レイゼのいる場所って分かる?」
強制的に話を終えたことに引け目を感じているのか、歯切れの悪い返答をするミロウ。
リタヤータも眉を曲げ、言いづらそうに答える。
「………うーん、分からない…ねぇ。すまないね、忙しいから先に行くよ。帰るなら西から出なよ」
「そっか…」
さて困ったと騒がしい玄関の方を見ると、扉を叩いていた男が何やら荒ぶっている様子だった。
何人もの執事に抑えられ、何とか拮抗している状態だ。
「…もしかして、あの人って…」
男は特徴的な黒く輝く大きな山羊の角とミロウに負けず劣らずの鏡のような銀髪、そして若干緑がかった白の瞳を持つ青年だ。
「アーゼ…じゃん?!先輩だからってわたしの魔法をずっと貶してきた…!」
ミロウの近所に住んでいた彼──アーゼワルドは、彼女のライバルとも言える。
幼少期からミロウは魔法に精通しており、常に魔法を操っているほどだった。そこにアーゼワルドが乱入し、いつもちょっかいを掛けていた時もあった。
ミロウの驚いた声に気付いたのか、アーゼワルドは彼女の方を向き、バトラーに抑えつけられながらもミロウと同じように驚愕する。
「ラディアス?!何でここに…って、あぁ、王女の側近になるのを選んだんだな?」
「そんな訳ないでしょ!アーゼの方が何でここにいるの!?」
「オレは王女が検体を提供してくれるって聞いて来たんだよ、邪魔しないでくれ」
「検体ぃ…?マッドサイエンティストにでもなったの?まぁいいや…レイゼを探しに行こう…」
ミロウがレイゼの名前を出すと、アーゼワルドはピクリと耳を動かす。
「レイゼ?検体の名前と同じだな…」
「…は?…連れてって」
言い合っていた時とは打って変わり、ミロウの圧を含む声は心まで凍てつくようだ。冬の夜のように乾燥したその雰囲気に、アーゼワルドは少したじろいてしまう。
「…っテメーが言っても不敬を買うだけだろうが。退け」
従者の拘束を振り切り、しかし嫣然と優美な姿勢になったアーゼワルドにミロウは白けた目をする。
じゃあ、と言って去っていく姿は、一端の学者であるにもかかわらずまるで貴族さながらだった。
「…あぁもう、変に時間取られちゃった…レイゼ、無事でいて…!」
召使いがバタバタとする中、ミロウも再度歩き──走り出した。
身軽な動作で綺麗に着地し、アネモネと男を見た。
「やっと見つけた!」
もはやお決まりといった仕草で杖を突き出すミロウ。
相当な体力を使ったのか、肩を激しく上下させていた。
驚いたアネモネは、浮かせていたレイゼを落としてしまう。
ぐえ、と気の抜けた声が聞こえる。
「アスターさん?何故ここへ来たの?」
「レイゼを返して!旅を続けるの!」
ふと目線を逸らすと、ミロウはあの時の男がいることに気が付いた。
「…あなた、ここにいたんだ」
「ラディアス…」
──数刻前。
ミロウはレイゼを探すために窓から離れ、長く続く廊下に目をやった。
「王室のそばって言ってたよね、王女…」
すると廊下の奥から、何人もの従者が玄関へ向かって走っている姿が見える。
その中にはリタヤータもおり、ミロウに気付くと気まずそうに近寄ってきた。
「ドクター・アスター、話はもう終わったのかい?」
「あー…うん!終わったよ!ところで、レイゼのいる場所って分かる?」
強制的に話を終えたことに引け目を感じているのか、歯切れの悪い返答をするミロウ。
リタヤータも眉を曲げ、言いづらそうに答える。
「………うーん、分からない…ねぇ。すまないね、忙しいから先に行くよ。帰るなら西から出なよ」
「そっか…」
さて困ったと騒がしい玄関の方を見ると、扉を叩いていた男が何やら荒ぶっている様子だった。
何人もの執事に抑えられ、何とか拮抗している状態だ。
「…もしかして、あの人って…」
男は特徴的な黒く輝く大きな山羊の角とミロウに負けず劣らずの鏡のような銀髪、そして若干緑がかった白の瞳を持つ青年だ。
「アーゼ…じゃん?!先輩だからってわたしの魔法をずっと貶してきた…!」
ミロウの近所に住んでいた彼──アーゼワルドは、彼女のライバルとも言える。
幼少期からミロウは魔法に精通しており、常に魔法を操っているほどだった。そこにアーゼワルドが乱入し、いつもちょっかいを掛けていた時もあった。
ミロウの驚いた声に気付いたのか、アーゼワルドは彼女の方を向き、バトラーに抑えつけられながらもミロウと同じように驚愕する。
「ラディアス?!何でここに…って、あぁ、王女の側近になるのを選んだんだな?」
「そんな訳ないでしょ!アーゼの方が何でここにいるの!?」
「オレは王女が検体を提供してくれるって聞いて来たんだよ、邪魔しないでくれ」
「検体ぃ…?マッドサイエンティストにでもなったの?まぁいいや…レイゼを探しに行こう…」
ミロウがレイゼの名前を出すと、アーゼワルドはピクリと耳を動かす。
「レイゼ?検体の名前と同じだな…」
「…は?…連れてって」
言い合っていた時とは打って変わり、ミロウの圧を含む声は心まで凍てつくようだ。冬の夜のように乾燥したその雰囲気に、アーゼワルドは少したじろいてしまう。
「…っテメーが言っても不敬を買うだけだろうが。退け」
従者の拘束を振り切り、しかし嫣然と優美な姿勢になったアーゼワルドにミロウは白けた目をする。
じゃあ、と言って去っていく姿は、一端の学者であるにもかかわらずまるで貴族さながらだった。
「…あぁもう、変に時間取られちゃった…レイゼ、無事でいて…!」
召使いがバタバタとする中、ミロウも再度歩き──走り出した。
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