フラクタル・エバーノーツ

ログリオ

文字の大きさ
20 / 33

第20話 転ずるエポックの刻

しおりを挟む
 天井が盛大に割れ、落ちてきたのは銀髪の魔女ミロウ
 身軽な動作で綺麗に着地し、アネモネと男を見た。

「やっと見つけた!」

 もはやお決まりといった仕草で杖を突き出すミロウ。
 相当な体力を使ったのか、肩を激しく上下させていた。
 驚いたアネモネは、浮かせていたレイゼを落としてしまう。
 ぐえ、と気の抜けた声が聞こえる。

「アスターさん?何故ここへ来たの?」
「レイゼを返して!旅を続けるの!」

 ふと目線を逸らすと、ミロウはあの時の男がいることに気が付いた。

「…あなた、ここにいたんだ」
「ラディアス…」



──数刻前。

 ミロウはレイゼを探すために窓から離れ、長く続く廊下に目をやった。

「王室のそばって言ってたよね、王女…」

 すると廊下の奥から、何人もの従者が玄関へ向かって走っている姿が見える。
 その中にはリタヤータもおり、ミロウに気付くと気まずそうに近寄ってきた。

「ドクター・アスター、話はもう終わったのかい?」
「あー…うん!終わったよ!ところで、レイゼのいる場所って分かる?」

 強制的に話を終えたことに引け目を感じているのか、歯切れの悪い返答をするミロウ。
 リタヤータも眉を曲げ、言いづらそうに答える。

「………うーん、分からない…ねぇ。すまないね、忙しいから先に行くよ。帰るなら西から出なよ」
「そっか…」

 さて困ったと騒がしい玄関の方を見ると、扉を叩いていた男が何やら荒ぶっている様子だった。
 何人もの執事に抑えられ、何とか拮抗きっこうしている状態だ。

「…もしかして、あの人って…」

 男は特徴的な黒く輝く大きな山羊の角とミロウに負けず劣らずの鏡のような銀髪、そして若干緑がかった白の瞳を持つ青年だ。

「アーゼ…じゃん?!先輩だからってわたしの魔法をずっと貶してきた…!」

 ミロウの近所に住んでいた彼──アーゼワルドは、彼女のライバルとも言える。
 幼少期からミロウは魔法に精通しており、常に魔法を操っているほどだった。そこにアーゼワルドが乱入し、いつもちょっかいを掛けていた時もあった。

 ミロウの驚いた声に気付いたのか、アーゼワルドは彼女の方を向き、バトラーに抑えつけられながらもミロウと同じように驚愕する。

「ラディアス?!何でここに…って、あぁ、王女の側近になるのを選んだんだな?」
「そんな訳ないでしょ!アーゼの方が何でここにいるの!?」
「オレは王女が検体を提供してくれるって聞いて来たんだよ、邪魔しないでくれ」
「検体ぃ…?マッドサイエンティストにでもなったの?まぁいいや…レイゼを探しに行こう…」

 ミロウがレイゼの名前を出すと、アーゼワルドはピクリと耳を動かす。

「レイゼ?検体の名前と同じだな…」
「…は?…連れてって」

 言い合っていた時とは打って変わり、ミロウの圧を含む声は心まで凍てつくようだ。冬の夜のように乾燥したその雰囲気に、アーゼワルドは少したじろいてしまう。

「…っテメーが言っても不敬を買うだけだろうが。退け」

 従者の拘束を振り切り、しかし嫣然と優美な姿勢になったアーゼワルドにミロウは白けた目をする。
 じゃあ、と言って去っていく姿は、一端の学者であるにもかかわらずまるで貴族さながらだった。

「…あぁもう、変に時間取られちゃった…レイゼ、無事でいて…!」

 召使いがバタバタとする中、ミロウも再度歩き──走り出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...