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第21話 タキサイキアの回避
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「…レイゼに何もしてないでしょうね」
アーゼやアネモネのような成人にとっては小さい姿だが、凄む紫紺の瞳には無機物すらも圧倒するような光を湛えていた。
「あぁ、抵抗出来ないようにしただけですよ」
「…!」
アネモネがいる前で野蛮な言葉は使えない。アーゼは至極冷静を保ち、丁寧に言葉を紡ぐ。
ミロウは彼らの後ろで倒れているレイゼを見るも、少年は未だに血を流していた。
「退いて。レイゼは何もしてない!ただ人の役に立ちたいだけなのに…」
「アスターさん、帰って頂戴。彼はもう行先が決まっているの」
──このまま話していても平行線だ。
うまく言葉が出てこないせいもあるが、話し合いでこの場を打開出来る力は、ミロウには今無かった。
「なら、力ずくで…!」
杖を再度構えた瞬間、ミロウは後ろから何かに縛られる感覚を覚える。
振り向くと、そこには橙の瞳──リタヤータがミロウに向かって魔法の鎖を放っていた。
「…リタヤータ、さん?」
彼女にすら裏切られてしまうのか──リタヤータはミロウとの距離を縮めるため、手前に魔法の鎖を引く。
そして魔力を翳されたかと思うと、何かミロウに耳打ちする。
「(とりあえずここは丸く収めよう。王女さまを傷付けることは、あたしが許さないからね)」
「(どうやって…?そうやってまたレイゼと引き離すの?)」
「(眠らせるぐらいなら良いかねぇ…ネメラルに使ったあの魔法、彼らにも出来る?)」
「(ば、バレてたんだ…ううん。魔力消費量が多すぎて連発は出来ないの…)」
ミロウとリタヤータがこそこそと話す中、アーゼワルドはレイゼを担ぐ。
それに気づいたミロウは、思わず魔力の塊を放った。
「触らないで!」
その衝撃にアーゼワルドはまたレイゼを取り落としてしまう。
何回落とされたのか、地面に何回も叩きつけられたレイゼの体はもはやボロ雑巾だった。
「ラディアス、何巫山戯た真似を…!」
隙を突いて鎖を解いたミロウはレイゼのところへ滑り込む。
『天体の歪み!』
そして魔法でゲートを展開し、素早く去って行った。
一瞬であったが、嵐のような出来事だった。
アネモネはもはや諦観した表情で溜め息を吐く。
「…魔物討伐に利用出来たことだけは、得と言うべきなのかしら」
「アイノウン王女、ご提案有り難う存じました。彼らは如何しましょうか」
アーゼワルドは未だ追跡したいのだろう。王に媚を売りたいという思案が透けて見えている。
「いいわ、放っておいて。…部屋に戻るわ」
更に疲労が溜まっているように見えるのは気の所為だろうか。
さっさと一階へ戻ってしまうと、地下にはアーゼワルドとリタヤータだけが取り残された。
アーゼやアネモネのような成人にとっては小さい姿だが、凄む紫紺の瞳には無機物すらも圧倒するような光を湛えていた。
「あぁ、抵抗出来ないようにしただけですよ」
「…!」
アネモネがいる前で野蛮な言葉は使えない。アーゼは至極冷静を保ち、丁寧に言葉を紡ぐ。
ミロウは彼らの後ろで倒れているレイゼを見るも、少年は未だに血を流していた。
「退いて。レイゼは何もしてない!ただ人の役に立ちたいだけなのに…」
「アスターさん、帰って頂戴。彼はもう行先が決まっているの」
──このまま話していても平行線だ。
うまく言葉が出てこないせいもあるが、話し合いでこの場を打開出来る力は、ミロウには今無かった。
「なら、力ずくで…!」
杖を再度構えた瞬間、ミロウは後ろから何かに縛られる感覚を覚える。
振り向くと、そこには橙の瞳──リタヤータがミロウに向かって魔法の鎖を放っていた。
「…リタヤータ、さん?」
彼女にすら裏切られてしまうのか──リタヤータはミロウとの距離を縮めるため、手前に魔法の鎖を引く。
そして魔力を翳されたかと思うと、何かミロウに耳打ちする。
「(とりあえずここは丸く収めよう。王女さまを傷付けることは、あたしが許さないからね)」
「(どうやって…?そうやってまたレイゼと引き離すの?)」
「(眠らせるぐらいなら良いかねぇ…ネメラルに使ったあの魔法、彼らにも出来る?)」
「(ば、バレてたんだ…ううん。魔力消費量が多すぎて連発は出来ないの…)」
ミロウとリタヤータがこそこそと話す中、アーゼワルドはレイゼを担ぐ。
それに気づいたミロウは、思わず魔力の塊を放った。
「触らないで!」
その衝撃にアーゼワルドはまたレイゼを取り落としてしまう。
何回落とされたのか、地面に何回も叩きつけられたレイゼの体はもはやボロ雑巾だった。
「ラディアス、何巫山戯た真似を…!」
隙を突いて鎖を解いたミロウはレイゼのところへ滑り込む。
『天体の歪み!』
そして魔法でゲートを展開し、素早く去って行った。
一瞬であったが、嵐のような出来事だった。
アネモネはもはや諦観した表情で溜め息を吐く。
「…魔物討伐に利用出来たことだけは、得と言うべきなのかしら」
「アイノウン王女、ご提案有り難う存じました。彼らは如何しましょうか」
アーゼワルドは未だ追跡したいのだろう。王に媚を売りたいという思案が透けて見えている。
「いいわ、放っておいて。…部屋に戻るわ」
更に疲労が溜まっているように見えるのは気の所為だろうか。
さっさと一階へ戻ってしまうと、地下にはアーゼワルドとリタヤータだけが取り残された。
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