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第22話 水面下での争いの種
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気まずい雰囲気を払拭するため、リタヤータは先程起こった出来事に呆けながら口を開いた。
「アーゼワルド・ライグレイク殿、お越し頂きありがとう。最初に聞けなかったけれど、扉を叩いて荒ぶっていたのはどうしてだい?」
「…急がなかればいけない。ログフラクタの上が、戦争準備を本格的に始めているんだ。それで、戦争には主兵器として響素が使われるっつー計画がある…」
アーゼワルドは話していくにつれ、焦りが段々と明らかになっていく。
そのせいか、取り繕っていた丁寧な口調が少しずつ崩れてしまう。
「響素は危険だ。一握りで大国をも滅ぼせるほどのエネルギーがある。だから危険性を詳らかにして、上に響素の使用を断念して貰わなければいけない」
「…そういえば、ライグレイク殿は響素学者だったね。敵国の王宮関係者に、そんなことを話してしまって良いのかい?」
「どうせアイノウン人は響素を使えないだろ。特段言っても意味はない」
「そうかい。それで…危険性を知らせるために、検体──犠牲者が必要だったと」
リタヤータが自己結論を出すと、アーゼワルドはその通りだと相槌を打つ。
彼らは研究仲間であり、レイゼとミロウのような友人的な関係だ。腹を割って話せるほどの信頼はあるのだろう。
やがて静かになった空間で、彼は徐ろに吐露する。
「……お前の弟子がお前を裏切ったように──ボクも"あいつ"を裏切る」
「…アイノウン側に付くということかい?」
「そうだ。だからあいつに関わりがある奴は全員排除する…あの赤髪の男も、銀髪の女も」
そのように言うアーゼワルドに、リタヤータはただ何とも似つかない視線を送るのみ。
ゲートを潜り抜けると、そこはミロウが先程まで居た応接間だった。
「クハーネさんはいない…ね。椅子を並べて…」
ミロウは応接間にある椅子を並べ、レイゼを横にするための寝台を作る。
彼のシアンの瞳は伏されたままだ。それに彼女は寂しそうな顔をした。
「治癒…響素が体内にある中で、レイゼに魔法を使って良いのかな?」
一旦の騒動が終わり、応接間にはただ静寂が響いていた。
「…手のひらだけ、治癒を掛けてみよう。爆発したら怖いけど…」
そしてミロウはいつもの大きな杖ではなく、小さいサイズのペンのような杖を出す。
先端には彼女の紫紺の瞳と同じような宝石が嵌まっている。それに少量魔力を纏わせ、上位魔法を短く詠唱した。
『彼の者を癒やせ──銀の束花』
指先に魔力の雫をぽとりと落としてみる。
するとレイゼの指は、青色に光りだした。
「え?!な、なにこれ!」
その指は細い糸に分裂し、雫を跡形もなく分解してしまう。
魔力によって怪我をした訳ではないと分かると、ミロウは胸を撫で下ろした。
しかし傷は治っていない。
「…何これ…レイゼ、どうしちゃったの…?」
以前の彼はいつも怪我をしていたこともあり、ミロウによく治してもらっていた。
しかし今の彼の体は不可解だ。"転生者"としての人格が宿ったからか、体も異質なものへと変化していた。
ミロウはそのことを伝えられておらず、ただ不気味という感情を抑えるため、彼女は他の治癒方法を考えることにする。
「軟膏…は持ってないし…どうしよう」
ふと鞄を探ると、あの時のリンゴがこつんと手に当たる。
劣化せず未だにトルマリンの輝きを放つそれを見て、ミロウはこれを使えば良かったのだと思いつく。
魔法ですり潰し、彼女はレイゼの傍に寄る。
「レイゼ、起きて」
ゆさゆさと揺らすも、腕の傷が開いてしまった。
「あ…」
出血多量でレイゼの体はもはや冷たいほどだった。生きていることすら奇跡だろう。
元は自傷によるものだが、ここまで酷くなるとは彼女は想像しなかった。
「…うーん…?」
開いた傷に包帯を巻いていると、レイゼは小さく呻きながら、しかし目を覚ました。
「ミロウ…?あれ、僕…出られたの?」
「レイゼ!」
「アーゼワルド・ライグレイク殿、お越し頂きありがとう。最初に聞けなかったけれど、扉を叩いて荒ぶっていたのはどうしてだい?」
「…急がなかればいけない。ログフラクタの上が、戦争準備を本格的に始めているんだ。それで、戦争には主兵器として響素が使われるっつー計画がある…」
アーゼワルドは話していくにつれ、焦りが段々と明らかになっていく。
そのせいか、取り繕っていた丁寧な口調が少しずつ崩れてしまう。
「響素は危険だ。一握りで大国をも滅ぼせるほどのエネルギーがある。だから危険性を詳らかにして、上に響素の使用を断念して貰わなければいけない」
「…そういえば、ライグレイク殿は響素学者だったね。敵国の王宮関係者に、そんなことを話してしまって良いのかい?」
「どうせアイノウン人は響素を使えないだろ。特段言っても意味はない」
「そうかい。それで…危険性を知らせるために、検体──犠牲者が必要だったと」
リタヤータが自己結論を出すと、アーゼワルドはその通りだと相槌を打つ。
彼らは研究仲間であり、レイゼとミロウのような友人的な関係だ。腹を割って話せるほどの信頼はあるのだろう。
やがて静かになった空間で、彼は徐ろに吐露する。
「……お前の弟子がお前を裏切ったように──ボクも"あいつ"を裏切る」
「…アイノウン側に付くということかい?」
「そうだ。だからあいつに関わりがある奴は全員排除する…あの赤髪の男も、銀髪の女も」
そのように言うアーゼワルドに、リタヤータはただ何とも似つかない視線を送るのみ。
ゲートを潜り抜けると、そこはミロウが先程まで居た応接間だった。
「クハーネさんはいない…ね。椅子を並べて…」
ミロウは応接間にある椅子を並べ、レイゼを横にするための寝台を作る。
彼のシアンの瞳は伏されたままだ。それに彼女は寂しそうな顔をした。
「治癒…響素が体内にある中で、レイゼに魔法を使って良いのかな?」
一旦の騒動が終わり、応接間にはただ静寂が響いていた。
「…手のひらだけ、治癒を掛けてみよう。爆発したら怖いけど…」
そしてミロウはいつもの大きな杖ではなく、小さいサイズのペンのような杖を出す。
先端には彼女の紫紺の瞳と同じような宝石が嵌まっている。それに少量魔力を纏わせ、上位魔法を短く詠唱した。
『彼の者を癒やせ──銀の束花』
指先に魔力の雫をぽとりと落としてみる。
するとレイゼの指は、青色に光りだした。
「え?!な、なにこれ!」
その指は細い糸に分裂し、雫を跡形もなく分解してしまう。
魔力によって怪我をした訳ではないと分かると、ミロウは胸を撫で下ろした。
しかし傷は治っていない。
「…何これ…レイゼ、どうしちゃったの…?」
以前の彼はいつも怪我をしていたこともあり、ミロウによく治してもらっていた。
しかし今の彼の体は不可解だ。"転生者"としての人格が宿ったからか、体も異質なものへと変化していた。
ミロウはそのことを伝えられておらず、ただ不気味という感情を抑えるため、彼女は他の治癒方法を考えることにする。
「軟膏…は持ってないし…どうしよう」
ふと鞄を探ると、あの時のリンゴがこつんと手に当たる。
劣化せず未だにトルマリンの輝きを放つそれを見て、ミロウはこれを使えば良かったのだと思いつく。
魔法ですり潰し、彼女はレイゼの傍に寄る。
「レイゼ、起きて」
ゆさゆさと揺らすも、腕の傷が開いてしまった。
「あ…」
出血多量でレイゼの体はもはや冷たいほどだった。生きていることすら奇跡だろう。
元は自傷によるものだが、ここまで酷くなるとは彼女は想像しなかった。
「…うーん…?」
開いた傷に包帯を巻いていると、レイゼは小さく呻きながら、しかし目を覚ました。
「ミロウ…?あれ、僕…出られたの?」
「レイゼ!」
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