フラクタル・エバーノーツ

ログリオ

文字の大きさ
22 / 33

第22話 水面下での争いの種

しおりを挟む
 気まずい雰囲気を払拭ふっしょくするため、リタヤータは先程起こった出来事にほうけながら口を開いた。

「アーゼワルド・ライグレイク殿、お越し頂きありがとう。最初に聞けなかったけれど、扉を叩いて荒ぶっていたのはどうしてだい?」
「…急がなかればいけない。ログフラクタの上が、戦争準備を本格的に始めているんだ。それで、戦争には主兵器として響素が使われるっつー計画がある…」

 アーゼワルドは話していくにつれ、焦りが段々と明らかになっていく。
 そのせいか、取りつくろっていた丁寧な口調が少しずつ崩れてしまう。

「響素は危険だ。一握りで大国をも滅ぼせるほどのエネルギーがある。だから危険性をつまびらかにして、上に響素の使用を断念して貰わなければいけない」
「…そういえば、ライグレイク殿は響素学者だったね。敵国の王宮関係者に、そんなことを話してしまって良いのかい?」
「どうせアイノウン人は響素を使えないだろ。特段言っても意味はない」
「そうかい。それで…危険性を知らせるために、検体──犠牲者が必要だったと」

 リタヤータが自己結論を出すと、アーゼワルドはその通りだと相槌を打つ。
 彼らは研究仲間であり、レイゼとミロウのような友人的な関係だ。腹を割って話せるほどの信頼はあるのだろう。
 やがて静かになった空間で、彼はおもむろに吐露とろする。

「……お前の弟子がお前を裏切ったように──ボクも"あいつ"を裏切る」
「…アイノウン側に付くということかい?」
「そうだ。だからあいつに関わりがある奴は全員排除する…あの赤髪の男も、銀髪の女も」

 そのように言うアーゼワルドに、リタヤータはただ何とも似つかない視線を送るのみ。



 ゲートを潜り抜けると、そこはミロウが先程まで居た応接間だった。

「クハーネさんはいない…ね。椅子を並べて…」

 ミロウは応接間にある椅子を並べ、レイゼを横にするための寝台を作る。
 彼のシアンの瞳は伏されたままだ。それに彼女は寂しそうな顔をした。

「治癒…響素が体内にある中で、レイゼに魔法を使って良いのかな?」

 一旦の騒動が終わり、応接間にはただ静寂が響いていた。

「…手のひらだけ、治癒を掛けてみよう。爆発したら怖いけど…」

 そしてミロウはいつもの大きな杖ではなく、小さいサイズのペンのような杖を出す。
 先端には彼女の紫紺の瞳と同じような宝石が嵌まっている。それに少量魔力を纏わせ、上位魔法を短く詠唱した。

『彼の者を癒やせ──銀の束花シルバー・リジェネ

 指先に魔力の雫をぽとりと落としてみる。
 するとレイゼの指は、青色に光りだした。

「え?!な、なにこれ!」

 その指は細い糸に分裂し、雫を跡形もなく分解してしまう。
 魔力によって怪我をした訳ではないと分かると、ミロウは胸を撫で下ろした。
 しかし傷は治っていない。

「…何これ…レイゼ、どうしちゃったの…?」

 以前の彼はいつも怪我をしていたこともあり、ミロウによく治してもらっていた。
 しかし今の彼の体は不可解だ。"転生者"としての人格が宿ったからか、体も異質なものへと変化していた。
 ミロウはそのことを伝えられておらず、ただ不気味という感情を抑えるため、彼女は他の治癒方法を考えることにする。

「軟膏…は持ってないし…どうしよう」

 ふと鞄を探ると、あの時のリンゴがこつんと手に当たる。
 劣化せず未だにトルマリンの輝きを放つそれを見て、ミロウはこれを使えば良かったのだと思いつく。
 魔法ですり潰し、彼女はレイゼの傍に寄る。

「レイゼ、起きて」

 ゆさゆさと揺らすも、腕の傷が開いてしまった。

「あ…」

 出血多量でレイゼの体はもはや冷たいほどだった。生きていることすら奇跡だろう。
 元は自傷によるものだが、ここまで酷くなるとは彼女は想像しなかった。

「…うーん…?」

 開いた傷に包帯を巻いていると、レイゼは小さく呻きながら、しかし目を覚ました。

「ミロウ…?あれ、僕…出られたの?」
「レイゼ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

【完結】うだつが上がらない底辺冒険者だったオッサンは命を燃やして強くなる

邪代夜叉(ヤシロヤシャ)
ファンタジー
まだ遅くない。 オッサンにだって、未来がある。 底辺から這い上がる冒険譚?! 辺鄙の小さな村に生まれた少年トーマは、幼い頃にゴブリン退治で村に訪れていた冒険者に憧れ、いつか自らも偉大な冒険者となることを誓い、十五歳で村を飛び出した。 しかし現実は厳しかった。 十数年の時は流れてオッサンとなり、その間、大きな成果を残せず“とんまのトーマ”と不名誉なあだ名を陰で囁かれ、やがて採取や配達といった雑用依頼ばかりこなす、うだつの上がらない底辺冒険者生活を続けていた。 そんなある日、荷車の護衛の依頼を受けたトーマは――

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...