フラクタル・エバーノーツ

ログリオ

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第23話 快復のきざしと逃亡

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 レイゼが目を覚ましたことへの嬉しさのせいか気分が高揚し、思わずミロウは彼へ飛び込んだ。

「うっぐ…?!み、ミロウ!?傷がいたた痛いちょっと待っ」
「ほら、これ食べて!」

 レイゼに馬乗りになってミロウが差し出すそのスプーンには、すり潰したトルマリンのリンゴが載せられていた。

「は、はぁ…」

 弱々しく開いたレイゼの口に、ゆっくりとリンゴを運ぶ。
 即効性の薬でもあるため、食べていくうちにみるみる彼の顔色は良くなっていった。

「凄い、傷が一瞬で塞がってる…」
「でしょ!…良かった…レイゼが目を覚まして」
「ごめんね、いつの間にか気絶してたみたい…」

 レイゼは不安定な椅子の寝台から起き上がろうとするも、治ったばかりでうまく体が動かせなかった。
 それゆえに体が落ちかけたが、すんでのところでミロウが支える。

「まだ起きたばっかりなんだから無理しないの!…って」

 すると、何やら応接間の外が騒がしくなり始めている。
 崩壊した地下のせいだろうか。

「そんなこと言ってる場合じゃ無いかも…」
「…もしかして、ミロウが強制的に僕を連れてきたの?」
「当たり!」

 びしっと指を立てて得意げにするミロウの顔には、途方もない疲労がにじみ出ていた。
 レイゼは助けてくれたことに感謝しながら、どうにか起き上がろうと体を捻る。

「レイゼ?!もし誰かに捕まえられそうでも、わたしが何とかするから…無理しないで」
「い…や、大丈夫。あのリンゴのお陰で一瞬で体調が良くなったんだ。変な色だって敬遠してちゃ駄目だね…」

 ミロウに寄り、頭を撫でる。爛れていた手は跡すら残らず綺麗になっていた。
 彼女はひどく嬉しそうな顔をしてはにかんだ。

「助けてくれたし、僕も頑張らなきゃな」
「魔物討伐でだいぶ頑張ってたと思うけど…」

 呆れるミロウを余所目に、レイゼは響素を編み始める。

「ねぇ、リンゴを過信しない方が良いよ?」
「大丈夫。さ、この中に入って」

 レイゼの目の前には、三本程の糸が連なる輪のようなものが出来ていた。

「早くしよう。それにしても、首都を隣国の国境沿いにするなんて無防備だね」
「この輪っかは?」
「簡易転移式だよ。空間に含まれる響素が一定以上無いと組めないんだ。幸い、ここには何故か響素が多いからすぐに組めたよ」
「よく分かんないけど凄い!ログフラクタまで行けるの?」
「王宮の出口までだけどね。そこからすぐ出て逃げよう」

 爛々らんらんと話すシアンの瞳は、完全に快復していないのか若干濁っている。
 ミロウはそんなレイゼを心配そうにするが、ついに応接間の扉が叩かれたことで焦りが生まれる。

「分かった。行こ!」
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