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第24話 魔力汚染というもの
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そうして王宮の出入り口に出ると、先程まで騒がしかったことが嘘のように静寂が訪れていた。
「…あれ?さっきまでガヤガヤしてたのは何だったんだろう」
「中で何かあったのかな。早く行こう」
レイゼがミロウの手を引くと、彼女の手がかなり荒れていることに気づく。
「ミロウ、手が…」
「手ー?…ほんとだ、何か荒れてる」
「これって…」
呟きかけた途端、玄関ががちゃりと開く音が聞こえる。
「!」
しかし、それは見慣れた姿だった。
「…レイゼ…目を覚ましたのかい。ドクター・アスターが治療したんだね、流石」
「リタヤータさん…」
リタヤータは非難する瞳も、捕えようとする気概も感じ取れなかった。
ただレイゼが目を覚ましたことに安堵しているのだろう。
「逃げちまったものはしょうがない。…ゲホッ…」
ただ淡々と話すリタヤータは、ふいに咳き込んで地面に膝をつく。
その顔はひどく青い。
「だ、大丈夫ですか?!」
ミロウが駆け寄ると、近づくなと手で制した。
「あ、ぁ…持病の発作が…ね。見逃してやるから、早く逃げな…」
胸を抑えて震える体は、幼気な少年たちの目にひどく辛く映る。曲りなりにも事を荒げないようサポートしてくれた人だ。見殺しにすることは、彼らには到底出来なかった。
「…"魔力汚染"、だ」
冷静に彼女を観察していたレイゼは口を開く。
その言葉に、リタヤータは意識が明滅する感覚を覚えた。
というのも、魔力汚染は魔法を使う者の中で知らない者はいないほどの病であるからだ。
罹ってしまえば不治の病。アイノウン人のみが罹る病で、体が魔力に喰われ、徐々に衰弱していくしかないものだ。
「…そうだね。よく分かったね。治療する術もないから、最近は王女さまと一緒に居たくてよく王宮を訊ねてたのさ…って、関係ない話だ。ほら…早く逃げなさい」
リタヤータは苦しいのか、更に体を縮こまらせて蹲ってしまう。
「……いや、手立てはあるよ」
ミロウはそう言ってカバンの中を漁る。
取り出した手には翡翠のリンゴが。
「このリンゴが最後だけど…一気に齧って、リタヤータさん」
「これは…?」
「大丈夫、毒リンゴじゃないよ!…ね、どうぞ」
強引にミロウがリタヤータの手に握らすと、彼女は困ったように微笑んで一口齧る。
全身に星のような粒子が迸ったかと思うと、リタヤータの体の震えは徐々に収まっていく。
「発作が…辛くない…何なんだい、このリンゴは?」
「計5年の歳月を経て完成させた、万能リンゴだよ!」
びしっと二本指を立てるミロウは得意げだ。
魔力汚染の原因は、魔法を使う事によって体内に蓄積する魔力の塵──残骸と化してしまう原因が増えることで引き起こされる。
それを取り除くことは、どんな物質でも困難だ。しかしミロウはリンゴに響素の要素を入れたようで、原因を打ち消すことが出来る効果を有す魔力汚染特効薬のようなものを作ることが出来た。
「レイゼの響素のお陰で完成することが出来たの。だからお礼はレイゼに言って!」
「え、いつの間に…?全然知らなかった…っていうかどうやって響素を使ったの?」
「魔法で真空空間を作って、その中に圧縮して…」
「うんもういいです」
リタヤータは未だに愕然としていた。
「体に重みが無い…魔力汚染が治ったってことかい?」
「完全ではないかもしれないけど、治ったってこと!」
「す、凄い…アイノウン人が響素を使えないのが欠点だけれど…ログフラクタの人達と協力出来れば…」
リンゴをじっと見まわしていた彼女は、どんどん自分の世界に入っていく。
そしてはっと顔を上げ、何かを思いつくとまた王宮の扉に手を掛ける。
「本当にありがとう、二人とも。命の恩人だ。どうにか王女さまに掛け合って、君たちを目的地まで送って頂くよ」
「失敗したらまた捕まえられるんじゃ…」
「…それもそうだね…どうにか模索してみるよ。君たちはとりあえず、国境まで行きな!」
そう言って足早にリタヤータは扉を閉めてしまう。
「…びっくりしたけど、治って良かったね」
「そうだね…だけど、ミロウ……」
レイゼはそう言って彼女の手を見る。
その手の荒れは、短い時間であるにも関わらず酷くなっていた。
「ん?どうしたの?」
人を助けられた高揚感か、ミロウは満面の笑みをしている。
それに水を差すことは出来ず、レイゼは口を噤んでしまった。
「………ううん。何でもない。行こうか」
「…あれ?さっきまでガヤガヤしてたのは何だったんだろう」
「中で何かあったのかな。早く行こう」
レイゼがミロウの手を引くと、彼女の手がかなり荒れていることに気づく。
「ミロウ、手が…」
「手ー?…ほんとだ、何か荒れてる」
「これって…」
呟きかけた途端、玄関ががちゃりと開く音が聞こえる。
「!」
しかし、それは見慣れた姿だった。
「…レイゼ…目を覚ましたのかい。ドクター・アスターが治療したんだね、流石」
「リタヤータさん…」
リタヤータは非難する瞳も、捕えようとする気概も感じ取れなかった。
ただレイゼが目を覚ましたことに安堵しているのだろう。
「逃げちまったものはしょうがない。…ゲホッ…」
ただ淡々と話すリタヤータは、ふいに咳き込んで地面に膝をつく。
その顔はひどく青い。
「だ、大丈夫ですか?!」
ミロウが駆け寄ると、近づくなと手で制した。
「あ、ぁ…持病の発作が…ね。見逃してやるから、早く逃げな…」
胸を抑えて震える体は、幼気な少年たちの目にひどく辛く映る。曲りなりにも事を荒げないようサポートしてくれた人だ。見殺しにすることは、彼らには到底出来なかった。
「…"魔力汚染"、だ」
冷静に彼女を観察していたレイゼは口を開く。
その言葉に、リタヤータは意識が明滅する感覚を覚えた。
というのも、魔力汚染は魔法を使う者の中で知らない者はいないほどの病であるからだ。
罹ってしまえば不治の病。アイノウン人のみが罹る病で、体が魔力に喰われ、徐々に衰弱していくしかないものだ。
「…そうだね。よく分かったね。治療する術もないから、最近は王女さまと一緒に居たくてよく王宮を訊ねてたのさ…って、関係ない話だ。ほら…早く逃げなさい」
リタヤータは苦しいのか、更に体を縮こまらせて蹲ってしまう。
「……いや、手立てはあるよ」
ミロウはそう言ってカバンの中を漁る。
取り出した手には翡翠のリンゴが。
「このリンゴが最後だけど…一気に齧って、リタヤータさん」
「これは…?」
「大丈夫、毒リンゴじゃないよ!…ね、どうぞ」
強引にミロウがリタヤータの手に握らすと、彼女は困ったように微笑んで一口齧る。
全身に星のような粒子が迸ったかと思うと、リタヤータの体の震えは徐々に収まっていく。
「発作が…辛くない…何なんだい、このリンゴは?」
「計5年の歳月を経て完成させた、万能リンゴだよ!」
びしっと二本指を立てるミロウは得意げだ。
魔力汚染の原因は、魔法を使う事によって体内に蓄積する魔力の塵──残骸と化してしまう原因が増えることで引き起こされる。
それを取り除くことは、どんな物質でも困難だ。しかしミロウはリンゴに響素の要素を入れたようで、原因を打ち消すことが出来る効果を有す魔力汚染特効薬のようなものを作ることが出来た。
「レイゼの響素のお陰で完成することが出来たの。だからお礼はレイゼに言って!」
「え、いつの間に…?全然知らなかった…っていうかどうやって響素を使ったの?」
「魔法で真空空間を作って、その中に圧縮して…」
「うんもういいです」
リタヤータは未だに愕然としていた。
「体に重みが無い…魔力汚染が治ったってことかい?」
「完全ではないかもしれないけど、治ったってこと!」
「す、凄い…アイノウン人が響素を使えないのが欠点だけれど…ログフラクタの人達と協力出来れば…」
リンゴをじっと見まわしていた彼女は、どんどん自分の世界に入っていく。
そしてはっと顔を上げ、何かを思いつくとまた王宮の扉に手を掛ける。
「本当にありがとう、二人とも。命の恩人だ。どうにか王女さまに掛け合って、君たちを目的地まで送って頂くよ」
「失敗したらまた捕まえられるんじゃ…」
「…それもそうだね…どうにか模索してみるよ。君たちはとりあえず、国境まで行きな!」
そう言って足早にリタヤータは扉を閉めてしまう。
「…びっくりしたけど、治って良かったね」
「そうだね…だけど、ミロウ……」
レイゼはそう言って彼女の手を見る。
その手の荒れは、短い時間であるにも関わらず酷くなっていた。
「ん?どうしたの?」
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「………ううん。何でもない。行こうか」
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※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
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