フラクタル・エバーノーツ

ログリオ

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第26話 切っ先を偽りに注ぐ

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──レイゼ視点。

 "貴方は誰"──…どうして彼女は、僕がレイゼでないことに気付いたのだろうか。
 答えは明白。その約束を覚えていなかったからだ。
 しかし誰かに乗っ取られていると考えられるのは何故なのか。

 彼女にだけはバレたく無かった。
 レイゼとして成った時、何一つ分からなかった時、変わらず笑んでくれたひとだったからだ。

「…ミロウ、それってどういうこと?」
「わたしの名前を呼ばないで」

 僕に翳していた魔力を、ミロウは至近距離で放つ。
 しかしそれに衝撃は無く、ただ牽制として構えていたものだった。

「っ…」

 うまく言葉が出てこず、声は喉に突っかかってしまう。
 言ってしまえば、彼女はどのような反応をするのだろうか。突き放されるのだろうか…

「躊躇うのは肯定の証。本当に、貴方はレイゼじゃないんだね」

 木々の隙間から雨粒が垂れる。一滴、頭に強く堕ちる。
 それはぼくの思考を一層濁した。

「私は霊も神も信じてない。可能性として考えうるのは、貴方は転生者ということ」

 流石国随一の魔女だ。勘が鋭い。
 見破られたことで、ぼくの呼吸はわずかに弱くなる。

「現地人に転生者が宿るなんて、聞いたことが無い」
「…」
「王女との筆談で、私は転生者の概念について知ったの。…会った時から違和感を感じて、これまでの貴方の動向からそう考えた」

 話すにつれて、彼女の語尾は冷淡になっていく。
 そして再び彼女はぼくの喉元に魔力を翳す。
 それはただの魔力の塊では無く、銀と青に揺らぐ刃だった。

「どう?合ってる?」

 王女に言う時よりも苦しい。当たり前だ、レイゼにとって大切なひとなのだから。
 ぼくがソレであることを言ってしまって見放され、もしレイゼの人格が戻って来た時──一生隣に立つことは出来ないのだろう。

「貴方が私に"レイゼ"のフリをし続けたことが許せないの」
「レイゼのフリ…」
「"彼"は魔法が大好きだった。貴方が使う響素の存在は知っていたけれど、魔法が使えなくなるからって随分と忌避してた」

 喉元の刃の圧が大きくなる。

「待ってたら、"レイゼ"が帰ってくると思って。ここまで我慢してたの」

 青銀の刃は喉の薄皮を裂いた。

「けど帰ってこなかった。"レイゼ"をどこへやったの?…貴方は誰?」

 どこへ。それはぼくにも分からない。
 もう取り返しのつかないところまで来てしまった。

「もしもぼくがレイゼじゃなかったとしたら、君はどうする?」

 まずはそう尋ねる。

「この刃で──ぼくの喉を掻っ切るの?」
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