26 / 33
第26話 切っ先を偽りに注ぐ
しおりを挟む
──レイゼ視点。
"貴方は誰"──…どうして彼女は、僕がレイゼでないことに気付いたのだろうか。
答えは明白。その約束を覚えていなかったからだ。
しかし誰かに乗っ取られていると考えられるのは何故なのか。
彼女にだけはバレたく無かった。
レイゼとして成った時、何一つ分からなかった時、変わらず笑んでくれたひとだったからだ。
「…ミロウ、それってどういうこと?」
「わたしの名前を呼ばないで」
僕に翳していた魔力を、ミロウは至近距離で放つ。
しかしそれに衝撃は無く、ただ牽制として構えていたものだった。
「っ…」
うまく言葉が出てこず、声は喉に突っかかってしまう。
言ってしまえば、彼女はどのような反応をするのだろうか。突き放されるのだろうか…
「躊躇うのは肯定の証。本当に、貴方はレイゼじゃないんだね」
木々の隙間から雨粒が垂れる。一滴、頭に強く堕ちる。
それはぼくの思考を一層濁した。
「私は霊も神も信じてない。可能性として考えうるのは、貴方は転生者ということ」
流石国随一の魔女だ。勘が鋭い。
見破られたことで、ぼくの呼吸はわずかに弱くなる。
「現地人に転生者が宿るなんて、聞いたことが無い」
「…」
「王女との筆談で、私は転生者の概念について知ったの。…会った時から違和感を感じて、これまでの貴方の動向からそう考えた」
話すにつれて、彼女の語尾は冷淡になっていく。
そして再び彼女はぼくの喉元に魔力を翳す。
それはただの魔力の塊では無く、銀と青に揺らぐ刃だった。
「どう?合ってる?」
王女に言う時よりも苦しい。当たり前だ、レイゼにとって大切なひとなのだから。
ぼくがソレであることを言ってしまって見放され、もしレイゼの人格が戻って来た時──一生隣に立つことは出来ないのだろう。
「貴方が私に"レイゼ"のフリをし続けたことが許せないの」
「レイゼのフリ…」
「"彼"は魔法が大好きだった。貴方が使う響素の存在は知っていたけれど、魔法が使えなくなるからって随分と忌避してた」
喉元の刃の圧が大きくなる。
「待ってたら、"レイゼ"が帰ってくると思って。ここまで我慢してたの」
青銀の刃は喉の薄皮を裂いた。
「けど帰ってこなかった。"レイゼ"をどこへやったの?…貴方は誰?」
どこへ。それはぼくにも分からない。
もう取り返しのつかないところまで来てしまった。
「もしもぼくがレイゼじゃなかったとしたら、君はどうする?」
まずはそう尋ねる。
「この刃で──ぼくの喉を掻っ切るの?」
"貴方は誰"──…どうして彼女は、僕がレイゼでないことに気付いたのだろうか。
答えは明白。その約束を覚えていなかったからだ。
しかし誰かに乗っ取られていると考えられるのは何故なのか。
彼女にだけはバレたく無かった。
レイゼとして成った時、何一つ分からなかった時、変わらず笑んでくれたひとだったからだ。
「…ミロウ、それってどういうこと?」
「わたしの名前を呼ばないで」
僕に翳していた魔力を、ミロウは至近距離で放つ。
しかしそれに衝撃は無く、ただ牽制として構えていたものだった。
「っ…」
うまく言葉が出てこず、声は喉に突っかかってしまう。
言ってしまえば、彼女はどのような反応をするのだろうか。突き放されるのだろうか…
「躊躇うのは肯定の証。本当に、貴方はレイゼじゃないんだね」
木々の隙間から雨粒が垂れる。一滴、頭に強く堕ちる。
それはぼくの思考を一層濁した。
「私は霊も神も信じてない。可能性として考えうるのは、貴方は転生者ということ」
流石国随一の魔女だ。勘が鋭い。
見破られたことで、ぼくの呼吸はわずかに弱くなる。
「現地人に転生者が宿るなんて、聞いたことが無い」
「…」
「王女との筆談で、私は転生者の概念について知ったの。…会った時から違和感を感じて、これまでの貴方の動向からそう考えた」
話すにつれて、彼女の語尾は冷淡になっていく。
そして再び彼女はぼくの喉元に魔力を翳す。
それはただの魔力の塊では無く、銀と青に揺らぐ刃だった。
「どう?合ってる?」
王女に言う時よりも苦しい。当たり前だ、レイゼにとって大切なひとなのだから。
ぼくがソレであることを言ってしまって見放され、もしレイゼの人格が戻って来た時──一生隣に立つことは出来ないのだろう。
「貴方が私に"レイゼ"のフリをし続けたことが許せないの」
「レイゼのフリ…」
「"彼"は魔法が大好きだった。貴方が使う響素の存在は知っていたけれど、魔法が使えなくなるからって随分と忌避してた」
喉元の刃の圧が大きくなる。
「待ってたら、"レイゼ"が帰ってくると思って。ここまで我慢してたの」
青銀の刃は喉の薄皮を裂いた。
「けど帰ってこなかった。"レイゼ"をどこへやったの?…貴方は誰?」
どこへ。それはぼくにも分からない。
もう取り返しのつかないところまで来てしまった。
「もしもぼくがレイゼじゃなかったとしたら、君はどうする?」
まずはそう尋ねる。
「この刃で──ぼくの喉を掻っ切るの?」
0
あなたにおすすめの小説
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる