フラクタル・エバーノーツ

ログリオ

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第28話 ねがいのインサート

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 ミロウがそう言うと、玲は空に両手を翳す。
 ぱっと碧い光が瞬いたかと思うと、そこは一面の星空になっていた。
 彼女は美しさに瞬間息を呑む。

「ぼくは斑鳩玲。何の特徴も無い、ただの学生だ」
「イカルガ、レイ…」

 彼女の瞳の色にそっくりな、紫紺の空だ。

「ぼくの姿と君への感情は、これで足りる?」

 ミロウの濡れた体もすっかり乾いていた。
 彼はミロウをよく見ている。その証明が、この夜空なのだろう。

「…自分で考えてよ」

 話し終わると、二人は一気に眠気が押し寄せてくる。
 雨上がりの重く澄んだ空気が、それを一層増す。

「ちょっと寝よう。話はまた起きてからにしよう」

 玲はどこからともなく布団を出す──響素で形成すると、それを座り込んだミロウに掛ける。

「…もし受け入れられたら、また僕のことをレイゼって呼んで欲しい」
「む…考えとく」

 眠りにつく直前、玲は不意にミロウの肩を叩く。

「あ、寝る前に…その"約束"だけ、何だったのか教えて欲しい」
「……どうして?」

 昏くなった紫紺の瞳は、玲が展開した星空にオーバーレイを掛けているようだ。

「ただ…"僕"に成って、失ってしまったから…それを知ってから虚しくて」
「自分勝手」
「あはは。そうだね」

 玲が被せた布団を一層抱き込むと、ミロウは玲と距離を取る。

「"二人で一緒に、魔法を創る"って約束」
「魔法を…」
「だけどもう、貴方は魔法を使えない…だから叶えられない…」

 俯くミロウに、玲はどうすることも出来なかった。



 チュンチュンと小気味よい鳥の鳴き声が聞こえる朝。
 眩しい程の朝日でミロウは目を覚ました。

「んー…もう朝…」

 いつの間にかミロウは横たわって寝ていたようだ。
 体が痛くないと下を見ると、レイゼの上着が敷かれていた。

「……あの空、綺麗だったなあ」

 ふと横を見ると、少し離れたところでレイゼも寝ていた。

「…」

 意識がはっきりしてくると、昨晩の出来事が思い起こされる。
 未だミロウは彼に対して葛藤を抱いていた。

「…スープでも作ろっと…」

 杖を鍋の形に変形させ、備蓄していたスープの粉を入れる。
 万能な杖だ。

 ぐつぐつと煮立ってくると、匂いにつられたのかレイゼも目を覚ました。

「いい匂いが…」

 眠気眼を擦るレイゼを、ミロウははたと凝視する。
 しかし急なミロウの視線に、レイゼは一歩後ずさった。

「あ、作ってたんだ。おはよう、m…」

 ふと名前を呼んで良いのかと彼は口を噤む。
 ミロウは鍋を回す手を止め、顔をレイゼに近づける。

 そして微笑んだかと思うと──

「…おはよう、レイゼ!」
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