フラクタル・エバーノーツ

ログリオ

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第31話 魔法をかけてあげる

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「おいクソガキ!この糸を外せ…っ!」

 アーゼワルドは息が困難なのか、しゃがれた声でレイゼに罵声を浴びせる。

「ぐ…だから魔法は嫌いなんだ…」

 クハーネも苦しさからか銃を取り落とし、それは地面に落下した。
 しかしそんな言葉すら、今は彼の耳には入っていなかった。

「ミロウ!…ミロウ…?」

 口を閉じたミロウの姿に、生気は微塵も感じ取れなかった。
 打ちぬかれた胸の傷は広がっていく。
 体を揺さぶってみても、反応は無い。

 そして完全にレイゼの式は解けてしまった。
 それと同時に、クハーネとアーゼワルドはレイゼを一斉に襲い掛かる。

「どこまで邪魔すんだ、こいつらは!」
「アーゼワルド殿、これはワタシが命じられたことだ。割り込まないで欲しい」
「あとはこのクソガキを殺すだけじゃねぇか!命令なんてどうでも良いんだよ!」
「何だって?!」

 いつの間にか彼ら二人の間でくだらない喧嘩が始まっていた。
 すんでのところでレイゼはミロウを抱えて、身を潜められるところへ隠れる。

「…ミロウ、すぐ治療してあげるから…」

 レイゼはそう言うものの、響素はただするだけの性質しか有していない。
 それゆえ、治療方法は思いつかなかった。

「…うぅ…」

 微かにミロウは呻きながら目を開ける。

「ミロウ…!柔らかいところに降ろすね──」

 ふと、ミロウの体に強い力が籠るのを感じた。

 レイゼの肩に、ミロウの両腕が巻かれる。
 確かに強い力だ。

「──レイゼ

 大きく開いた瞳は、いつもの見慣れた紫紺の瞳ではない。
 ただ純銀よりも艶やかな、全てを鮮明に反射するかのような銀だった。

「私のために逃げなさい」

 強い力でレイゼの顔はミロウに近づいていく。
 異質も異質なミロウの纏いに、ただレイゼは息を呑んでいた。

「魔女は御伽噺の様に強欲なのよ──」

 辺りの温度が2℃も下がる錯覚を覚える。
 ふと、レイゼは自身の口元に何か柔らかいものが当たるのを感じた。

「魔法をかけてあげる」

 そして、レイゼの視界は──紫紺一色になった。
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