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ラテ・メランジュとアフォガート・フォン・シュヴァルツ騎士団長の婚約は、国王陛下の絶大な祝福と共に、正式に発表された。
飢饉の危機から国を救った英雄二人の婚約に、王国中が歓喜と祝福のムードに包まれた。
ラテの『空飛ぶスイーツ店』計画も、国の全面的バックアップを受け、いよいよ最終段階に入っていた。
メランジュ公爵家の広大な庭の一角には、巨大な気球の製作工場が建てられ、活気に満ちている。
そんなある日の午後。
アフォガートが、騎士団の公務の合間を縫って、ラテの元を訪れていた。
それは、今やすっかり日常となった光景だった。
「まあ、アフォガート様。またいらしたのですか」
新作スイーツのレシピを考えていたラテは、わざとらしく、ため息をついて見せる。
「そんなに、わたくしの新作ケーキの味見がしたいのかしら? まるで、お腹を空かせた忠犬のようですわね」
その、可愛げのない言葉に、アフォガートは表情一つ変えずに答えた。
「……ああ、そうだ。君の作るケーキと、そして、君の顔を見にきた。何か、問題でも?」
鉄仮面のまま、あまりにも真っ直ぐな、甘いセリフを言い放つ。
その破壊力に、ラテはもはや、全く慣れることができない。
「なっ……! ば、馬鹿なことをおっしゃらないでくださいまし!」
ラテは、顔を真っ赤にして、ぷいとそっぽを向く。
そんな彼女の姿を、アフォガートが、心の底から愛おしそうに見つめている。
二人の間には、穏やかで、甘く、そして、少しだけユーモラスな空気が、いつも流れていた。
その頃、遥か北。
雪に閉ざされた、寂しい離宮の一室で、一人の男が、静かに窓の外を眺めていた。
エスプレッソ(元)王子。
王位継承権を凍結され、事実上の廃嫡となった彼は、ここで一人、自らの犯した過ちと向き合う日々を送っていた。
先日、数少ない側近から、ラテとアフォガートの婚約と、彼らが国を救った話を聞かされた。
(……そうか)
彼の心に、もはや、嫉妬の炎は燃え上がらなかった。
あるのは、ただ、深い、深い後悔と、そして、不思議なほどの諦念だけだった。
(彼女は、彼女にふさわしい、最高の男を見つけたのだな)
ラテの才能、知性、そして、本当の優しさ。
その全てを、自分は踏みにじった。
そして、アフォガートは、その全てを正しく理解し、守り抜いた。
結果は、当然のことだった。
(それでいい。それが、この国にとっても、そして、何より、彼女にとっても、一番良いことなのだから)
エスプレッソは、静かに目を閉じる。
彼にとって、この終わりのない冬は、自らの愚かさを償うための、永遠に続く罰なのかもしれなかった。
一方、さらに別の場所。
王都から遠く離れた、寂れた田舎の男爵領。
実家での無期限の謹慎を命じられたモカ・マキアートは、自室のベッドの上で、泣き暮らしていた。
爵位を降格させられた父からは、もはや、いない者として扱われ、屋敷の使用人たちも、彼女を憐れみ、そして、軽蔑の目で遠巻きに見ている。
しかし、彼女は、まだ、自分がなぜこのような惨めな状況に陥ったのかを、全く理解できていなかった。
「どうして……? どうして、こうなったの……?」
彼女は、枕を濡らしながら、何度も何度も、同じ言葉を繰り返す。
「わたくしは、ただ、王子様のためを思って、一生懸命やっただけなのに……! 悪いのは、全部、わたくしを陥れた、あの悪女、ラテ様なのに……!」
自分の過ちから目をそらし、全ての責任を他人に押し付ける。
その、あまりにも未熟な精神は、最後まで、少しも成長することはなかった。
侍女が、同情とも、嘲笑ともつかぬ声で、彼女に告げる。
「お嬢様、お聞きになりましたか? ラテ様と、あのシュヴァルツ騎士団長様が、近々ご結婚なさるそうですよ。国中が、お祝いムードだとか」
「いやあああああーーーっ!」
モカは、甲高い悲鳴を上げると、枕に顔をうずめて、子供のように泣きじゃくった。
彼女の物語に、もはや、ハッピーエンドは訪れない。
自らが蒔いた、嫉妬と、愚かさという名の種。
その実りを、彼女は、これから、一人で、永遠に、刈り取り続けていくのだ。
そして、再び、メランジュ公爵家。
ラテとアフォガートは、夕日に染まる庭で、完成間近となった、巨大な気球を見上げていた。
そのゴンドラは、まるでお菓子の家のように、可愛らしく装飾されている。
「……本当に、これを空に飛ばすのだな」
アフォガートが、感心したように、それでいて、少しだけ呆れたように、呟いた。
「ええ、もちろんですわ!」
ラテは、彼の腕に自らの腕をぎゅっと絡めた。
「わたくしたちの未来と同じ。どこまでも高く、甘く、そして幸せを乗せて飛んでいきますのよ!」
悪役令嬢と呼ばれた少女は、今、最高のパートナーの隣で心の底から幸せそうに笑っていた。
彼女たちの甘くて刺激的で、そして少しだけおかしな物語はまだ始まったばかりだ。
飢饉の危機から国を救った英雄二人の婚約に、王国中が歓喜と祝福のムードに包まれた。
ラテの『空飛ぶスイーツ店』計画も、国の全面的バックアップを受け、いよいよ最終段階に入っていた。
メランジュ公爵家の広大な庭の一角には、巨大な気球の製作工場が建てられ、活気に満ちている。
そんなある日の午後。
アフォガートが、騎士団の公務の合間を縫って、ラテの元を訪れていた。
それは、今やすっかり日常となった光景だった。
「まあ、アフォガート様。またいらしたのですか」
新作スイーツのレシピを考えていたラテは、わざとらしく、ため息をついて見せる。
「そんなに、わたくしの新作ケーキの味見がしたいのかしら? まるで、お腹を空かせた忠犬のようですわね」
その、可愛げのない言葉に、アフォガートは表情一つ変えずに答えた。
「……ああ、そうだ。君の作るケーキと、そして、君の顔を見にきた。何か、問題でも?」
鉄仮面のまま、あまりにも真っ直ぐな、甘いセリフを言い放つ。
その破壊力に、ラテはもはや、全く慣れることができない。
「なっ……! ば、馬鹿なことをおっしゃらないでくださいまし!」
ラテは、顔を真っ赤にして、ぷいとそっぽを向く。
そんな彼女の姿を、アフォガートが、心の底から愛おしそうに見つめている。
二人の間には、穏やかで、甘く、そして、少しだけユーモラスな空気が、いつも流れていた。
その頃、遥か北。
雪に閉ざされた、寂しい離宮の一室で、一人の男が、静かに窓の外を眺めていた。
エスプレッソ(元)王子。
王位継承権を凍結され、事実上の廃嫡となった彼は、ここで一人、自らの犯した過ちと向き合う日々を送っていた。
先日、数少ない側近から、ラテとアフォガートの婚約と、彼らが国を救った話を聞かされた。
(……そうか)
彼の心に、もはや、嫉妬の炎は燃え上がらなかった。
あるのは、ただ、深い、深い後悔と、そして、不思議なほどの諦念だけだった。
(彼女は、彼女にふさわしい、最高の男を見つけたのだな)
ラテの才能、知性、そして、本当の優しさ。
その全てを、自分は踏みにじった。
そして、アフォガートは、その全てを正しく理解し、守り抜いた。
結果は、当然のことだった。
(それでいい。それが、この国にとっても、そして、何より、彼女にとっても、一番良いことなのだから)
エスプレッソは、静かに目を閉じる。
彼にとって、この終わりのない冬は、自らの愚かさを償うための、永遠に続く罰なのかもしれなかった。
一方、さらに別の場所。
王都から遠く離れた、寂れた田舎の男爵領。
実家での無期限の謹慎を命じられたモカ・マキアートは、自室のベッドの上で、泣き暮らしていた。
爵位を降格させられた父からは、もはや、いない者として扱われ、屋敷の使用人たちも、彼女を憐れみ、そして、軽蔑の目で遠巻きに見ている。
しかし、彼女は、まだ、自分がなぜこのような惨めな状況に陥ったのかを、全く理解できていなかった。
「どうして……? どうして、こうなったの……?」
彼女は、枕を濡らしながら、何度も何度も、同じ言葉を繰り返す。
「わたくしは、ただ、王子様のためを思って、一生懸命やっただけなのに……! 悪いのは、全部、わたくしを陥れた、あの悪女、ラテ様なのに……!」
自分の過ちから目をそらし、全ての責任を他人に押し付ける。
その、あまりにも未熟な精神は、最後まで、少しも成長することはなかった。
侍女が、同情とも、嘲笑ともつかぬ声で、彼女に告げる。
「お嬢様、お聞きになりましたか? ラテ様と、あのシュヴァルツ騎士団長様が、近々ご結婚なさるそうですよ。国中が、お祝いムードだとか」
「いやあああああーーーっ!」
モカは、甲高い悲鳴を上げると、枕に顔をうずめて、子供のように泣きじゃくった。
彼女の物語に、もはや、ハッピーエンドは訪れない。
自らが蒔いた、嫉妬と、愚かさという名の種。
その実りを、彼女は、これから、一人で、永遠に、刈り取り続けていくのだ。
そして、再び、メランジュ公爵家。
ラテとアフォガートは、夕日に染まる庭で、完成間近となった、巨大な気球を見上げていた。
そのゴンドラは、まるでお菓子の家のように、可愛らしく装飾されている。
「……本当に、これを空に飛ばすのだな」
アフォガートが、感心したように、それでいて、少しだけ呆れたように、呟いた。
「ええ、もちろんですわ!」
ラテは、彼の腕に自らの腕をぎゅっと絡めた。
「わたくしたちの未来と同じ。どこまでも高く、甘く、そして幸せを乗せて飛んでいきますのよ!」
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