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そして運命の結婚式、当日。
王国は、雲一つない完璧な快晴に恵まれた。
王都の中央広場は、この歴史的な瞬間を一目見ようと集まった国民たちで埋め尽くされている。
誰もが空を見上げ、今か今かと主役たちの登場を待ちわびていた。
その、遥か上空。
ラテの夢であった『空飛ぶスイーツ店』、その名も『グラン・パティスリー号』が、巨大な気球に吊るされ青空に優雅に浮かんでいた。
ゴンドラは、まるでお菓子の家のように色とりどりの花とリボンで飾り付けられている。
ゴンドラの先端には、花婿であるアフォガートが純白に金の刺繍が施された騎士団の最高礼装に身を包んで立っていた。
その表情は、いつもの鉄仮面。
しかし、その奥に隠された誇らしさと緊張とそしてどうしようもないほどの幸福感を見抜けない者はいなかった。
その時、王宮の最も高い塔から高らかなファンファーレが鳴り響いた。
次の瞬間、数頭の勇壮なグリフォンが太陽の光を浴びて大空へと一斉に飛び立った。
地上の国民から、どよめきと割れんばかりの大歓声が上がる。
その中心。
一頭の、ひときわ美しい白銀のグリフォンの背に純白のウェディングドレスを纏った花嫁、ラテ・メランジュが凛として跨っていたのだ。
風を受けて、長く美しいベールが空にたなびく。
その姿は、悪役令嬢などではない。
天から舞い降りた、気高き女神そのものだった。
ラテを乗せたグリフォンは、気球船の隣に音もなく舞い降りる。
アフォガートは、手を差し伸べその小さな体を軽々とゴンドラへと迎え入れた。
「……息を呑むほど、美しい。俺にはもったいないくらいだ」
アフォガートが、掠れた声で本音を漏らす。
「まあ。あなたこそ世界で一番、格好良いですわよ。わたくしだけの、花婿様」
ラテは、いたずらっぽく微笑んでそう囁いた。
やがて、気球船は広場の真上に静止する。
ラテとアフォガートは、手を取り合ってゴンドラの先端に進み出ると、魔法で拡声されたマイクを通して地上の国民たちにその声を届けた。
最初に、口を開いたのはアフォガートだった。
彼の、力強く誠実な声が王都の空に響き渡る。
「国民の皆様! 俺は、アフォガート・フォン・シュヴァルツは、ここにいるラテ・メランジュを、生涯、妻とし、この国を守るのと同じ覚悟で、彼女の喜びも悲しみも、その全てを守り抜くことをここに固く誓う!」
割れんばかりの拍手。
次に、ラテがマイクを手に取った。
彼女の、凛とした美しい声が響く。
「皆様、ごきげんよう!わたくしは、ラテ・メランジュはここにいるアフォガート・フォン・シュヴァルツを、生涯、夫とし彼が作るであろう、堅苦しくて真面目すぎる毎日を、世界で一番、甘く、刺激的で、そして最高に楽しいものにすることをここに高らかに誓いますわ!」
その、あまりにも二人らしい誓いの言葉に国民たちは、祝福の笑い声とさらに大きな歓声で応えた。
アフォガートは、ゆっくりとラテの顔を覆うベールを上げる。
そして、その唇に深く優しく、永遠の愛を誓う口づけを交わした。
その瞬間だった。
気球船の底が、ぱかと開いたかと思うと、そこから色とりどりの花びらと共に、ラテが国民のために夜を徹して作った小さな焼き菓子が、まるで祝福の雨のように広場へと降り注いだ。
「うわあ!」
「お菓子が降ってくるぞ!」
人々は、空から降ってくる「幸せのおすそ分け」に歓声を上げ子供のように手を伸ばした。
その日の夜、王宮の庭園で開かれた披露宴は、身分に関係なく、全ての国民が参加する笑顔と、美味しいスイーツで満たされた夢のようなパーティーとなった。
その祝福の輪の中心で、ラテは夫となったアフォガートの腕にそっと寄り添っていた。
「ねえ、アフォガート様」
「なんだ?」
「わたくしとあなたの結婚は、ある意味一つの『契約』ですわ」
「契約、だと?」
ラテは、悪戯っぽくくすりと笑う。
「ええ。わたくしが、これから一生涯作り続ける、甘くて時に奇妙な新作スイーツを、あなたが一生涯、その命をかけて、毒見……いえ、『味見』し続けるという世界で一番、甘くてそして絶対に破ることのできない契約よ」
その言葉に、アフォガートはあの湖畔で見せたような穏やかで優しい笑みを浮かべた。
「ああ。喜んで、その契約に俺の魂ごとサインしよう。俺の生涯をかけて」
数年後。
ラテの『空飛ぶスイーツ店』は、世界中から客が訪れる伝説の店となった。
彼女は、公爵令嬢でも悪役令嬢でもなく王国一の女性実業家としてその名を馳せている。
アフォガートは、変わらず騎士団長として国の平和を守り続けている。
人々は、彼を『鉄仮面の英雄』と呼ぶが、家に帰れば、妻であるラテとその間に生まれたラテそっくりの勝ち気な娘に完全に尻に敷かれている優しい夫であり、父であった。
食卓には、今日もラテが作った新作の、少し変わった名前のスイーツが並んでいる。
それを、家族三人で笑顔で頬張る。
悪役令嬢と呼ばれた少女は、最高のパートナーと、最高の幸せをその手で掴み取った。
そして、彼女の甘くて、刺激的でそして最高に幸せな物語はこれからも永遠に続いていく。
王国は、雲一つない完璧な快晴に恵まれた。
王都の中央広場は、この歴史的な瞬間を一目見ようと集まった国民たちで埋め尽くされている。
誰もが空を見上げ、今か今かと主役たちの登場を待ちわびていた。
その、遥か上空。
ラテの夢であった『空飛ぶスイーツ店』、その名も『グラン・パティスリー号』が、巨大な気球に吊るされ青空に優雅に浮かんでいた。
ゴンドラは、まるでお菓子の家のように色とりどりの花とリボンで飾り付けられている。
ゴンドラの先端には、花婿であるアフォガートが純白に金の刺繍が施された騎士団の最高礼装に身を包んで立っていた。
その表情は、いつもの鉄仮面。
しかし、その奥に隠された誇らしさと緊張とそしてどうしようもないほどの幸福感を見抜けない者はいなかった。
その時、王宮の最も高い塔から高らかなファンファーレが鳴り響いた。
次の瞬間、数頭の勇壮なグリフォンが太陽の光を浴びて大空へと一斉に飛び立った。
地上の国民から、どよめきと割れんばかりの大歓声が上がる。
その中心。
一頭の、ひときわ美しい白銀のグリフォンの背に純白のウェディングドレスを纏った花嫁、ラテ・メランジュが凛として跨っていたのだ。
風を受けて、長く美しいベールが空にたなびく。
その姿は、悪役令嬢などではない。
天から舞い降りた、気高き女神そのものだった。
ラテを乗せたグリフォンは、気球船の隣に音もなく舞い降りる。
アフォガートは、手を差し伸べその小さな体を軽々とゴンドラへと迎え入れた。
「……息を呑むほど、美しい。俺にはもったいないくらいだ」
アフォガートが、掠れた声で本音を漏らす。
「まあ。あなたこそ世界で一番、格好良いですわよ。わたくしだけの、花婿様」
ラテは、いたずらっぽく微笑んでそう囁いた。
やがて、気球船は広場の真上に静止する。
ラテとアフォガートは、手を取り合ってゴンドラの先端に進み出ると、魔法で拡声されたマイクを通して地上の国民たちにその声を届けた。
最初に、口を開いたのはアフォガートだった。
彼の、力強く誠実な声が王都の空に響き渡る。
「国民の皆様! 俺は、アフォガート・フォン・シュヴァルツは、ここにいるラテ・メランジュを、生涯、妻とし、この国を守るのと同じ覚悟で、彼女の喜びも悲しみも、その全てを守り抜くことをここに固く誓う!」
割れんばかりの拍手。
次に、ラテがマイクを手に取った。
彼女の、凛とした美しい声が響く。
「皆様、ごきげんよう!わたくしは、ラテ・メランジュはここにいるアフォガート・フォン・シュヴァルツを、生涯、夫とし彼が作るであろう、堅苦しくて真面目すぎる毎日を、世界で一番、甘く、刺激的で、そして最高に楽しいものにすることをここに高らかに誓いますわ!」
その、あまりにも二人らしい誓いの言葉に国民たちは、祝福の笑い声とさらに大きな歓声で応えた。
アフォガートは、ゆっくりとラテの顔を覆うベールを上げる。
そして、その唇に深く優しく、永遠の愛を誓う口づけを交わした。
その瞬間だった。
気球船の底が、ぱかと開いたかと思うと、そこから色とりどりの花びらと共に、ラテが国民のために夜を徹して作った小さな焼き菓子が、まるで祝福の雨のように広場へと降り注いだ。
「うわあ!」
「お菓子が降ってくるぞ!」
人々は、空から降ってくる「幸せのおすそ分け」に歓声を上げ子供のように手を伸ばした。
その日の夜、王宮の庭園で開かれた披露宴は、身分に関係なく、全ての国民が参加する笑顔と、美味しいスイーツで満たされた夢のようなパーティーとなった。
その祝福の輪の中心で、ラテは夫となったアフォガートの腕にそっと寄り添っていた。
「ねえ、アフォガート様」
「なんだ?」
「わたくしとあなたの結婚は、ある意味一つの『契約』ですわ」
「契約、だと?」
ラテは、悪戯っぽくくすりと笑う。
「ええ。わたくしが、これから一生涯作り続ける、甘くて時に奇妙な新作スイーツを、あなたが一生涯、その命をかけて、毒見……いえ、『味見』し続けるという世界で一番、甘くてそして絶対に破ることのできない契約よ」
その言葉に、アフォガートはあの湖畔で見せたような穏やかで優しい笑みを浮かべた。
「ああ。喜んで、その契約に俺の魂ごとサインしよう。俺の生涯をかけて」
数年後。
ラテの『空飛ぶスイーツ店』は、世界中から客が訪れる伝説の店となった。
彼女は、公爵令嬢でも悪役令嬢でもなく王国一の女性実業家としてその名を馳せている。
アフォガートは、変わらず騎士団長として国の平和を守り続けている。
人々は、彼を『鉄仮面の英雄』と呼ぶが、家に帰れば、妻であるラテとその間に生まれたラテそっくりの勝ち気な娘に完全に尻に敷かれている優しい夫であり、父であった。
食卓には、今日もラテが作った新作の、少し変わった名前のスイーツが並んでいる。
それを、家族三人で笑顔で頬張る。
悪役令嬢と呼ばれた少女は、最高のパートナーと、最高の幸せをその手で掴み取った。
そして、彼女の甘くて、刺激的でそして最高に幸せな物語はこれからも永遠に続いていく。
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